革命当日!ゲリラライブ二曲目!
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「さあ!どんどん行くわよ!」
俺たちはそれぞれバイクにまたがり、ペットを乗せたまま、とんでもないスピードで爆走する。
「二曲目は走りながら行くわ!愛の惑星に住むみんなに、わたくしたちが本当の愛ってものを教えてあげる!【ReColor you】」
トリカが曲名を言うとともに、ゆっくりとした前奏が流れる。観客がしんと静まり返る。
その張りつめた静寂を裂くように、エンジンがリズムに合わせて唸りを上げる。歌い出しへ向け、前奏はじわじわと盛り上がっていく。
俺とヨヒラはトリカを頂点に三角形を組むように、豪快な運転をするトリカの後ろをバイクで追走する。車体からは鮮やかな色のスモークが噴き出し、ひらひらと花びらが舞った。
地面から見れば、さぞ綺麗なことだろう。
「あなたがいることで世界が熱を帯びた~♪」
豪快な運転とは裏腹に、開幕のトリカの歌声はいつもこの歌を歌う時より艶やかだった。
普通ならこの歌は「等身大に生きる女性の歌」で、いま恋をしている少女の「現在進行形の想い」を綴った曲だ。
ただ、今日のトリカの歌い方はそれとは違う。
トリカはまるで――過去の自分たちの思い出をそっと振り返っているように歌っていた。
会えない日を切なく想い、飛び跳ねるようにウキウキと、笑ったり、泣いたり、怒ったり、落ち込んだり、傷ついたり――昔はそんなこともあったねと、結ばれた男と穏やかに楽しく語り合いながら歌う。
…なるほどなあ。そういうことね。
きっとトリカは、観客に聞かせるのではなく、俺に向けて歌っているのだ。
その方が、この後の俺の出番の時に、俺が感情移入しやすいと思ったのだろう。
そもそもトリカは『この惑星のみんなにもっと濃密な時間を過ごしてほしい』と願っていた。きっと俺にもそういう時間を過ごしてほしいのだろう。
それか、俺が本気の方がきっとみんなの心に届くと思ったのかもしれない。
なんにせよ、今のトリカは地球のみんなのことは視界に入っていない。俺だけを熱い眼差しで捉えている。
…いいだろう。その挑戦、受けて立とう。
今までは観客のことも多少意識していたが、ここからはなんにも気にしない。
一度目を閉じ、頭を空っぽにして……それから目を開け、愛するトリカにだけ意識を集中させる。
今の俺の瞳は、トリカしか捉えていない。
「でも、お願い。そろそろ、わたくしの“本性”も見て」
さあ、ここからだ――
この歌詞がトリガー。本来はこの後から、サビに入り、曲調がダイナミックになり、乙女の本性が現れる。その流れはいつもと変わらない。
ただ、今日の歌は少しアレンジ仕様。サビに入るまで、少しの間間奏が入ることになっている。その間に、俺とトリカのちょっとしたイベントが始まるのだ。
バイクが変形し、黒いスモークが焚かれる。隠していたメスの本能が男に襲いかかる。トリカも俺を見て獰猛に笑う。
「かかってこい!」
俺は余裕の表情で胸を親指でトンと叩いた。俺もバイクを変形させ、スピード特化仕様にチェンジ。
「ふふっ」
トリカの指先一つで、俺にバラのツタのようなものが襲いかかってくる。
「今回は簡単に捕まらないぞ!」
もうここからは二人の時間だ。
――ここから、俺とトリカの二人でバイクチェイスが幕を開けた。
俺が右にハンドルをきれば、ツタが右へ流れ、左にハンドルをきれば、左に滑り込めば、ツタも追いすがってくる。
空を利用し、縦横無尽。ツタの勢いはどんどん増していくが、上へ下へ横へ、時には回転の力も利用し、スレスレで避け続ける。
エンジンの轟音が交差し、ぶつかり合い、スモークで辺り一帯めちゃくちゃ。空中で繰り広げられる、大迫力のバイクチェイス。
…ふふ、こうやって恋人同士じゃれ合うの、楽しい。楽しいなあ。
でも、サビはもう目の前。じゃれ合いの時間はそろそろ終わりだ。
「大人しく“わたくし”にメロメロにされなさい♪」
大量のスモークを切り裂き、稲妻のように現れたトリカ。バイクは乗り捨て、女王が空にたゆたう。
トリカが手招きするように、指をクイッと折る。その合図とともに、俺もバイクを乗り捨て、足元のクスネをヨヒラに預け、トリカの胸の中にダイブする。
…さあ、二回戦の始まりだ。
トリカに頬をそっと撫でられ、頭に真紅のバラをそっとつけられた。俺もお返しにトリカの頬をそっと撫で、胸ポケットから紫のバラを頭につける。
「わたくしの愛のすべてを受け入れて♪」
…ああ、もちろん全て受け入れよう。
今までその男はやられっぱなしだった。ただ、今は違う。俺だって誰より女をメロメロにしてやりたいのだ。
トリカは俺の手の指先にキスをする。俺も同じく返す。
「あなたが灰になるまで愛するわ♪」
お腹にキス。同じく俺もキス。
「退屈だけはさせないわ♪」
手の甲にキス。同じく返す。
「過去なんて忘れさせてやるわ♪」
おでこにキス。同じく返す。
「あなたのすべてをわたくしで塗り替えてあげる♪」
ほっぺにキス。同じく返す。
二人は愛し合う。湿度すら肌で感じるほど、濃密に。
まるで今この場にはトリカしかいないかのように、トリカだけを見て、トリカだけを愛する。
さあ、曲はクライマックスだ。
「あなたを、生まれ変わらせてあげる」
堂々と唇にキスをするトリカ。唇から血が出そうなほどのトリカの勢いに、俺の上半身は弓なりになって後ろにのけぞる。
でも、負けじと俺は愛の波動を全力でトリカに返しつつ、このままの体制で受け入れ、お互いの愛を深め合う。
お互いを強く求め、喰らい、燃え上がり、征服するように、身勝手に強く。熱く巨大な炎のような愛。痛みすら伴う愛。それでも俺は全てを優しく受け入れ、俺の心から発する愛を倍以上にして返す。
きっとトリカも快楽で頭の中がとろけ、おかしくなっているはずだ。だって、俺もそうだから。それでもお互い一歩も引かない。なぜなら、愛し合っているから。
そう。愛ってこういうものなんだよ。
そう思った瞬間、ふと、昨夜のトリカの言葉がよみがえった――
『ここの人たちの愛には、穏やかばかりで情熱がないの』
ライブ前夜、トリカは俺にそう伝えた。
その事実自体は、俺もなんとなく感じていた。
それでも、地球に住むどのカップルもみんな幸せそうではある。その原因は、運命に従って見つけた恋人が、最高に相性がいいからだろう。
みんな現状に満足している。それに、人の恋愛に口を出すのは野暮だ。そう一人で勝手に納得し、口には出さなかった。
けれど、トリカの想いを聞いて、気が変わった。
『でもね、ジ・アースのみんなは、決して愛が薄い訳ではない。心の奥深く、魂の奥深くに、確かに熱を隠し持っているわ。それが表に出てこないのは、自分たちが人を愛する体ではないと気づいているからでしょうね』
少しだけ悲しそうに、トリカは呟いた。
その後も話は続き、トリカだから見えた視点での地球のみんなの内情を、詳しく教えてもらう。
(積み上げてきた熱。大切なもの。最後のきっかけ。準備はできている。後はそっと背中を押すだけ)
少し難しい話だったので、トリカから聞いたワードを頭の中で反芻して、ゆっくり俺なりに理解していく。
…なるほど。要はここの人たちはちょっとした理由により、恋愛が下手ってことか。
なら、俺ができることは一つ。恋愛の自由さや、人を愛することの素晴らしさを見せつければいい。熱のある愛とはこういうもので、別に難しいことじゃないってのを見せつけてやればいいのだ。
よっしゃ!それなら俺の得意分野だ!あ、トリカ、それならさ、こういうのはどうかな――
いつの間にか、曲は終わっていた。
曲が終わっても、観客は俺たちのいちゃつきっぷりを固唾をのんで見守っていた。
ちらりと地球のみんなを見ると、隣にいる恋人のことなど忘れ、俺たちに夢中なようだ。
俺たちはゆっくり、唇を離していく。
「ふふっ。あの時はわたくしの愛に圧倒されていただけなのに、成長したわね」
「トリカこそ、俺の愛でヘロヘロじゃないか?」
「あら?言うようになったじゃない。でも、わたくしはこの程度じゃ満足しないの。もっともっと愛し合いましょう」
「ははは、流石だな」
――うおおおおおおお!!!!
遅れて、怒号のように歓声が鳴り響いた。
歓声の渦の中で、俺は思う。
ほらな?人を愛するってこうすればいいだけだ。思ったより簡単だろ?
さっきより明らかに空気が熱気に包まれている。盛り上がった結果というだけではない別の熱が渦巻いているように感じる。
それはきっと、みんなが変わったからだ。
俺には見えるのだ。薄い色だった愛の波動が、どんどん色づいていくのが。
少し頬に赤みが増した地球の人たちを見て、きっと俺たちの気持ちは伝わったのだと確信した。
「ふふ、よかったわね」
トリカが俺にしか聞こえないくらいの声で、耳元で囁く。
「それはトリカも同じ気持ちだろ?」
「このことに関しては、あなたの方が熱が入っていたじゃない」
「ま、そうだけどな」
「でも、これでもしダメだったら、この場で公開S◯Xでもしようと思っていたから、残念ね」
「え!冗談だろ!」
「さあ、どうでしょうね。ふふふ」
次回予告:俺のことはいい。先に行け!




