運命恋人!その2!高級和食店!
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ヨヒラに手をひかれるまま、俺たちは移動する。
「なあ。次はどこへ行くんだ?」
「今度は普通の小料理屋です。やはり、食事はデートの定番でしょ?」
「おお。また変なことさせられるのかと思ってたけど、そうじゃなくて安心したわ」
こんなふうに話しながら楽しく歩いていると、あっという間に目的地にたどり着いた。
「「いらっしゃいませ」」
店の前までつくと、着物を着た女性二人のお出迎えがあった。なんだか敷居が高そうな店だ。
俺はなんとなしにペコリと頭を下げる。
「おお!和!めっちゃ和だ!素敵!」
さっきまで高級店っぷりに気後れしていたくせに、中に入るとすぐにテンションがあがってしまった。
「ご主人様はこういう店が好きかと思いまして。さあ、予約はしてあるので、入りましょう」
流れるように店員に迎えられ、席につく。
食事の場所は和室。
地面は畳。い草の香りが心地良い。
照明は控えめだが、自然光が部屋へと入るので十分明るい。
かこん――
水の流れる音と、竹が地面を叩く音が小気味よくなっている。
「では、予約通り季節の会席コースで。ご主人様の分は全て特盛りでお願いします」
「承知しました」
ヨヒラと店員とのやり取りを、出された温かいお茶を飲みながらボケーっと眺める。
店員さんは、ヨヒラとのやり取りを終えると、障子をパタンと締めて去っていった。
「さて、ご主人様。料理が来るまでの間、戯れにちょっとした問題を出しましょう」
「突然戦ったり、問題を出したり……ヨヒラって俺のことテストしてる?」
「よく分かりましたね。概ね正解です。まあ、テストというほど大それたものではありませんがね。私が今更ご主人様を試すようなことはしません」
「その認識なのは嬉しいんだが……じゃあ、ヨヒラは何がしたいんだ?」
「私の決意を固めるための再確認……という表現が適切でしょうか」
「再確認ねえ……まあいいや。その問題とは?」
「ちょっとした“もしも”の話です。本当にその時の状況になった時を想像して、答えてみて下さい」
「了解」
「仮に御主人様がこのジ・アースで生まれ、私もここで生まれたごく普通のアンドロイドだとしましょう」
「うん」
「ご主人様はごく普通の一般男性です。前世などもありません。当然、セリ様やトリカ様、ウツギ様との出会いはありません」
「うん」
「その時、運命で強く結ばれた私たちは、無事付き合い、結婚することとなりました。それまで、なんの恋の障害もなく、ごく平穏に恋愛関係を築いたとしましょう」
「なんの障害もなく……そっか、ここでは人間とアンドロイドが当たり前に恋愛できるもんな。障害なんてないか」
「その時のご主人様と、今のご主人様では、どちらの人生の方が幸せだと思いますか?」
「なるほど。それを答えればいいのね」
こんなの、考えるまでもない。
「そりゃあ、今の俺の方が圧倒的に幸せだろ」
「それはなぜ?」
「だって、もしもの世界でも、今の現実でも、どっちの世界でも結局俺とヨヒラは付き合い、結婚することになるからな!それなら今の過不足ない俺の方が楽しそうじゃん!」
「…なるほど。ご主人様らしい答えです。ですが、私がアンドロイドである限り、結婚する未来は訪れませんがね」
「ええ!なんでよ!結婚しようよ!」
「人間と結ばれないということは、アンドロイドとしての大切な矜持ですので」
「ほんとヨヒラってアンドロイドであることを大切にしてるよな」
「当然です。私はアンドロイドですから」
カコン――
かすかに耳に入ってくる鹿威しの音が気持ちいい。うっすらと聞こえてくる小鳥たちのさえずりにもウットリする。
「でもさあ、ルリさん曰く、開花したアンドロイドは普通もっと人間らしくなるはずだと言っていたんだけど…」
「母はまだまだ甘いのです。開花した程度で分かった気になってもらっては困ります」
「そりゃあ厳しいこって」
会話に少し間が空いたところで、お茶を一杯飲む。
「失礼します」
そのタイミングでちょうどよく料理が運ばれてきた。
どうも和食の懐石形式で十品程度のコースのようだ。これからどんどん料理を持ってきてくれるらしい。
一品ごとの料理もさることながら、器にすらこだわり抜いていることが伝わってくる。
さて、食べようか。
まずは軽い料理から。といっても、俺はたくさん食べるので、量は多めにしてもらっている。助かるね。
食事の挨拶をし、ゆっくり食べ進めていると、ヨヒラが口を開いた。
「さて、ご主人様。私がご主人様と恋愛関係にならない理由は『戦争が起こるから』と以前言いましたが……実は、今はその理由で断っているのではないのですよ」
「あれ?そうなの?」
以前、感情面ではなく、論理的に無理だと説明された覚えがある。
「あれから私も成長しました。以前と同じで論理と合理を重要視している点は変わりませんが、その内容は全く違います」
「というと?」
「戦争が起こるのなら、私が勝てばいい。圧倒的な力でねじ伏せればいいだけのこと。これぞ合理的であり、論理的であるということです」
「…ヨヒラの論理はおかしい」
絶対におかしい。何周回った論理だよ、それ。
あと、これはルリさんから教えてもらったんだが……アンドロイドは確かに論理も合理も重要視している。けれど、感情面も同じくらい重要視しているらしい。
要は、論理と合理を最優先にするのは、ただのヨヒラの個性にすぎない、ということだ。
「あれ?じゃあなんでヨヒラは俺と恋愛関係を望まないんだ?論理も合理も感情面もクリアしてるじゃん」
「その言い分だと、私がご主人様のことが好きで好きでたまらないみたいじゃないですか。勝手に決めつけないで下さい」
「でも、実際そうでしょ?」
「ふふふ」
「またそうやって笑って誤魔化す……俺には愛が視覚化できるんだからな」
「ですが、ご主人様が見ているものが愛だと証明できてませんよ……おっと、少し話がそれましたね。私が人間と恋愛関係にならないのは、つまらないからです」
「は?」
…今、なんと?
「恋人、夫婦などの既存の関係性なんて、つまらないんです。そんなものより、まだ名前のない新しい関係を二人で模索していく方が、絶対に楽しい。これが、私の合理であり、論理です。ふふっ、とってもアンドロイドらしいでしょう?」
「…うーん。ヨヒラらしいってだけで、アンドロイドらしくはないな」
以前からちょっと思っていたが、ヨヒラって結構楽しいこと至上主義だよなあ。
「恋愛関係などなくとも、誰もが羨むような関係。二人でならどこまででも高みを目指せるような……それが、私の理想です」
花咲くような笑顔で俺にそう伝えるヨヒラ。恋愛などなくともと言いつつ、リアルタイムで愛の波動がバンバン伝わってきている。
そして…
「ふふふ…」
ヨヒラはからかうように笑う。コイツ、絶対に俺に愛が伝わっていることを分かってやっている。
「はあ……女心って難しすぎる」
「私を手に入れたいのならば、もっと勉強して下さいね」
「へいへい」
これさあ、ヨヒラがとっても頑固かつ、素直じゃないだけってシンプルに考えちゃダメ?
まあいいや。なんにせよ俺の理想とは方向性が違うのは確か。俺はそんな難しいことを考えず、変わらずヨヒラにガンガンアタックしてやろう。
それにしても、さっきから料理がうますぎる。この炊き込みご飯も、季節の魚のお造りも、松茸の土瓶蒸しも、どれを食べてもうまい。
繊細で丁寧な味付けが、体にしみわたる。食欲だけでなく、心まで満足できてしまう。
「さて、次の問題です」
「まだ問題があるのか」
「これで最後です。といっても、これは簡単な問いですよ」
「はいよ」
「さて、想像してみて下さい。もし今のご主人様が過去に行けたとします」
「うん」
「それで、今のご主人様は、過去のご主人様と相対します。過去のご主人様はまさに今、トラウマが苦しすぎて嫌な記憶を消そうとしている場面です。都合の悪い記憶だけを取り除いて、幸せになろうとしているのです」
「ほう…」
「その時、ご主人様はどうしますか?」
「そりゃあ、ぶん殴ってでも止めるな」
「あら?即答ですか」
「まあな。これは考えるまでもないな」
「それはどうして?」
「だって、そういうもんだろ?実際そういう技術はあったわけだけど、俺は使う気にはなれなかったし……うーむ。改めて聞かれると、言語化が難しいな。ちょっと待ってね」
「………」
ヨヒラはじっと俺の返答を待ってくれている。
「なんというか、『冗談じゃねえ!』って感覚だ」
「はい?」
「苦しいことも楽しいことも、どんな小さなことだって、俺を形作る一つ一つだからな。消すなんて考えられないというか、ダメというか……そんな感じだ」
「なるほど。おっしゃりたいことはなんとなく理解しました」
俺はお茶を一杯飲み、届けられた最後のデザートに手を掛ける。
「今の俺は生を実感してる。生を実感すると、細胞が生き生きしだす。細胞が生き生きすると、どんどん活動的になる。そして、もっと心に素直になれる。そうやって生きるのは疲れるし大変だけど、楽しいんだ。今の俺はそんな状態」
「はい」
「でも、もし都合の悪い記憶を消して、生きることに楽しちゃったら、生を実感できなくなる気がするんだ。生きたいから生きてるんじゃなくて、死にたくないから生きてる状態になっちゃう気がするんだよ」
俺はなんとか話したいことを話し終えたのち、最後のデザートを残さず平らげた。
「なるほど。よく分かりました。それを聞いて、私もようやく心が決まりました」
俺が食べ終わったのと同時に、ヨヒラも箸を置いた。
そして、俺の目を見てこんな提案をしてきた。
「ご主人様、私たち魔王軍に入りませんか?」
「は?」
「この星で、一緒に悪いことしましょう!」
そう言ったヨヒラは、それはそれは楽しそうだった。
次回予告:世界の半分がほしいです!




