疾走旅行!その2!トリカとのツーリング!
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「ひゃっほう!!!」
「トリカ!もうちょっと抑えて!振り落とされるから!ストップ、ストーープ!」
「ふふふ、さあ!もっとスピードを上げるわよ!バイク専用レーンなんて外れてしまいましょうか!」
聞いてねえし!
「って、バイク専用レーンを外れるって言った!?ダメダメ!許可を取ってからじゃないと犯罪になっちゃうから!」
「大丈夫!さっき休憩中に許可はとっておいたわ!あら?このボタンは何かしら?」
「――あっ!それダメ!」
「なんだか、押せば面白いことが起こりそうだわ!」
なんのためらいもなく、トリカはボタンを押した。
すると、このバイクが変形。
大きな翼が生え、色が変わり、装飾が増え、愉快な音楽が鳴り響きだした。
さらに、俺たちの体に一瞬だけ電流が流れ、トリカと思考が一体化していく。これからは二人で力を合わせて運転する必要がある。運転難易度はかなり高いはずだ。
そのうえ「ラブラブモード」というモードに設定された。これは、二人が愛し合えば愛し合うほどスピードが出て、ラブラブゲージが最高になると、限界を超えて制御不能なスピードが出るようになるというものだ。
ちなみにこのモードになると、バイクからハートを撒き散らすという謎のおまけつきだ。
「って、一瞬でラブラブゲージがマックスになった!やばい」
「いいわね!面白いじゃない!空の旅へ、レッツゴー!」
バイクはドリルのように回転しながら空を突き抜けた。視界の端では、ハートのエフェクトだけが後方に散っていく。
「速い速い速い!」
「さあ!もっとスピード上げてくわよ!」
「ストップ、トリカストープ!」
「わたくしを止められるのは誰も居ないわ!」
聞こえてないし!
「あっ、トリカ!ほら!なんか面白そうなところがあるよ!って、言ってる間に通り過ぎちゃったし!」
そりゃそうだ。銃弾みたいなスピードなんだもん。
…もう、こうなったら仕方ない。
安全面にだけ気をつけながら、俺も積極的に楽しむか!
死の大地を超え、万華鏡の森をぶち抜き、おもちゃの教会エリアを突っ切る。
観光地のオンパレードだったが、俺たちは止まらない。まさに稲妻のように進んでいく。
深くて広大な白霧を切り裂き、ウェーブ上の左岸地帯を突き抜け、絵の具の大竜巻地帯をスルーし、色とりどりの和傘大吊り橋を渡っていく。
「あは、あははははは!」
…なんだか、トリカにつられてだんだん楽しくなってきた。この感情は刺激的だからなのか、それともヤケになっているのかは分からない。でも、最高だ!
その後もしばらくの間、めちゃくちゃな運転で進み続けた。
――かなりの距離を爆走し、トリカがある程度満足した頃。
「空からなら、色んなものが見渡せるわね」
トリカはようやく休憩する気になったようだ。
「はあ…はあ…疲れたあ」
「あら、情けないわよ?」
「なんでそんなに元気なんだよ…」
楽しかったけど、疲れるもんは疲れるんだよ。
「…で、ここはどこだ?」
「さあ?適当にぶっ飛ばしていただけなので、分かりませんわ」
まあ、そうだよな。
見渡す限り、この場所には人っ子一人見当たらない。相当な秘境に来てしまったようだ。
そんな中、トリカが支給されたリングを操作し、周辺情報を集める。
「ええっと……もう少し行けば“黄金色の潮道”という景色が楽しめる海があるみたい。そこで休憩しましょうか」
「いいね」
黄金色の潮道とは、夕日が一本道のように海に映る現象のことらしい。
ただ、はっきりと一本道が見える日はそれほど多くなく、ほとんどはいつもの海と変わらないそうだ。
かなりの秘境で、普通は写真や動画などで楽しむのが一般的らしく、実際に訪れる人はほぼ居ないとのこと。
「ちょうど日も落ちてきたことだし、その黄金の潮道とやらを見ていきますか」
ということで、俺たちはその海に移動した。
バイクを降りた俺たちは、波打ち際に座り、夕日が沈むのをゆっくり待つことにした。
「人っ子一人いないな」
「そうね。でも、その方が都合がいいわ」
「ん?どういうこと?」
「ちょっとこの惑星の原住民には聞かれたくない話があるのよ」
…地球の人たちに聞かれたくない話?一体なんだろうか。
「あ、もしかしてあれか?なんか最近トリカとヨヒラがこっそり悪巧みしてることに関係あるか?」
「正解。よく分かったわね」
「ま、なんとなくな。ほい、コーヒー」
「あら、ありがとう」
俺は水筒に入れてきたコーヒーと、ちょっとしたおやつを食べながら、トリカの話に耳を傾ける。
「この話をする前に、わたくしがこの惑星でなんて呼ばれているのかあなたは知っている?」
「…なんかファイターって役職が当てはめられているくらいしか知らないな」
「なら、その話からね」
トリカの口ぶりから、どうもその話が前提知識として必要なようだ。
「わたくし、ここでは“不屈のファイター”と呼ばれることが多いのよ。他には、輝き続ける歌姫だとか、轟く稲妻だとか、挑戦の女王だとか、バーニングソウルとか、その辺りかしら」
「へえ。トリカらしくていいじゃん」
「全くよくありませんわ。わたくしの理想は太陽をも超える存在。せめてここでくらい太陽と呼ばれたかったわ」
どうもトリカはこの二つ名に納得がいっていないらしい。
「別に二つ名くらいどうでもよくない?たまたま太陽って呼ばれていないだけだろ」
「いえ、調べたところ、たまたまではないようなのよ」
「どういうこと」
「この惑星には、太陽と呼ばれている人がいるの。実質的なジ・アースのトップがそう呼ばれているらしいわ。みんなその人を尊敬していて、恐れている。だから、わたくしは太陽とは決して呼ばれないってわけ」
「へえ。太陽っていうくらいだから、めっちゃ明るい人なんかねえ」
「それがそうでもなさそうなのよ」
トリカが海に向かって砂を投げた。
「自分たちの未来を照らしてくれるから、太陽と呼ばれているの」
「どういうことだ?」
「なんかねえ。その太陽さんは、運命を見通す力があるらしいわ。そして、一定期間ごとにここに住む人たちそれぞれに運命を見せてあげているらしいの」
「は?」
「…そんな反応になるのも分かるわ。わたくしもそうだったもの」
運命……俺のあまり好きではない言葉だ。
「まあ、運命を見せようが、抵抗するも受け入れるも自由とは言っているらしいんだけどね。それでも、どうやっても運命からは逃れられない。だからここに生きる人って運命を受け入れがちな軟弱者が多いのよ」
…たしかに言われてみれば、俺がこの惑星で関わった人たちみんな、どこかそんな印象があった気がするな。
「だから、わたくしは太陽をぶっ壊すつもりよ」
「え?」
今なんて言った?
「だから、わたくしの力で太陽をぶっ壊すの。楽しそうでしょ?」
トリカは再度、少女のような純粋さで言ってのけた。
ただし、瞳の奥には少女では似つかわしくないような、底しれない闘志が見える。
言葉こそ物騒だが、なんとなくトリカのやりたいことは察することができた。
要は――
「あ、ヒノキ!海を見て!」
「……ッ!」
一瞬言葉を失った。
目の前には黄金色に輝く一本道。果てしなく続く、一本の光。
これが黄金色の潮道か。想像の何十倍も綺麗だ。
「なあ、トリカ!あの道を歩こう!」
「とってもいい提案ね。最高よ!流石はわたくしの夫ね!」
だって、俺にはあの光がバージンロードにしか見えないんだもん。そりゃ、歩きたくなるだろ?
俺はトリカと腕を組み、海の上をゆっくりと歩いていく。
パパパパーン。パパパパーン。
脳内にファンファーレが鳴り響いている。気分は疑似結婚式だ。
「ふふふっ。幸せね」
「俺もおんなじ事思ってたよ」
俺たちは光の道を進み続けた――
楽しいことは一瞬で過ぎていくもので、数分すると光の道は消えてしまった。
ただ、まだ完全には夕日は沈みきってはいない。
海の上で沈みゆく夕日を見ながら、二人で手をぎゅっと繋ぐ。
「わたくしはねえ…」
ポツリとトリカが呟いた。
「…ん?」
「わたくしはみんなを引き上げるのが好き。そのうえでわたくしが一つ上のステージに立つのが好き。自分だけじゃなく、周りも幸せになってもらわなきゃ困るの。歌えば誰かの背中を押すことができる。そんな人が立ち上がる瞬間が、何より好きなの」
それはまるで、独白するように。
「食べ物がなくても、恋人がいなくても、お金がなくても、歌さえあれば生きていけると本気で思ってるわ」
トリカは胸の内をこぼす。
「だからこそ、わたくしは歌うわ。ここのしみったれた奴らを、立ち上がらせるために」
「おう!やってやれ!そして、トリカが本物の太陽になってやれ!」
「そうよ。わたくしは歌姫。全てを照らす太陽。希望を見せずして太陽になんてなれませんわ!」
「ひゅー!」
「生きるってことがどういうことか、わたくしが教えてあげますわ!覚悟していなさい!」
「やれやれー!」
「わたくしの生き様を見せつけてやるわ!」
「見せつけてやれー!」
「わたくしがもう一度死にかけた魂を燃え上がらせて上げますからねー!」
トリカは沈みゆく夕日に向かってそう叫んだのだった。
その後、夕日は完全に沈みきった。
あたりはゆっくりと夜の気配に包まれていく。俺たちの間には、波の音だけがたゆたっていた。
「…冷えてきたし、ラーメンでも食べて帰ろうぜ」
「そうね」
この言葉通り、近くの屋台で一緒にラーメンを食べ、帰り道をツーリングしながらゆっくり帰ったのだった。
次回予告:実は俺って地球で嫌われてる?




