希望勇者!その2!ある意味メインヒロイン?
読んでいて少しでも感情が動いたら、評価・リアクション・ブックマークをお願いします。
「…こほん。すみません。サンドイッチを十人前ほどお願いします。あと、コーヒーも」
「うちも同じのを頂戴」
「かしこまりました」
俺は注文を待つ間に、近くに居たお客さんから勇者関連についての話を聞いてみることにした。
「ねえ?なんでウツギが勇者と呼ばれているんですか?」
「ああ、それはですね。ウツギ様が持っておられる要素が勇者にぴったりだからです」
「というと?」
「闘技場での独自の戦いっぷり、カリスマ性、精神性などでしょうか。誰か一人がそう言いだしてから、爆発的にその呼び名が広まったのです」
「まあ、確かにウツギの戦い方は映えるし、かっこいいもんな」
「ふふっ、ここの人たちはホント見る目があるわね!」
話を聞き、ウツギは満足げだ。
俺が話しかけた一人の客をきっかけに、周囲の視線が一斉にこちらへ集まった。
最初は相槌程度だった声が、やがて我慢できなくなったように重なり始める。
気づけばこの場は、誰もが「自分も語りたい」と口を開く空気になっていた。
「ウツギ様は今までの人生からして、絶対に数奇な運命を背負って生まれてきたよね!それなのに、右肩上がりで未来を築いてきたところ、本当に尊敬してる!」
「そもそも、我々には何故か『現状を打破したい』という潜在意識があります。それはこの星で生まれたからなのか、国民性なのか、星間断絶をしているからなのか……原因は不明です。だからこそ、勇者さまに憧れるのです!」
「我々は星間断絶を受け入れる。それをトップが心から望んでいるから。それに文句はない。でも、だからこそ、ウツギ様みたいな生き方に憧れるのかもしれない」
「ウツギ様がEエネルギーでできたバリアを破壊した時――あの時は本当に感動しました!あの炎を見てから、我々はウツギ様に希望を見出さずにはいられないのです」
「分かる!最初は負けヒロインだったのに、まさかの大逆転ホームラン。ほんと、勇者様は素晴らしいですよね!」
…ん?
地球に関して地味に重要な情報が多いなあ……と感心していたら、突然変な単語が聞こえてきた。
「…負けヒロイン?」
ウツギは色のない声でそう呟く。
そうそう。俺も同じところで引っかかったんだよ。
「おい、それは決して伝えるなと言っただろう!」
大慌てで口を滑らした人に注意するお客さんたち。
「あああああ!!いえいえ!嘘です嘘です!『負けん!ヒロイン』の言い間違いです!信じて下さい!」
なんとか誤魔化そうとしているが、流石に無理がある。
「…ちょっと、どういうこと?」
「いえいえ!本当になんでもありませんので!決してウツギ様がヒノキ様を巡る恋の争いの引き立て役だとは認識しておりません!!決して、決してポンコツ負けヒロインとは思っておりません!………あっ」
「ふぅん……そう、ここでもそういう扱いだったのね」
…なるほどなあ。勇者として称えられているのは本当だが、一方でそんな役回り扱いもされていたのか。
「じゃあさあ。今ここでヒノキと結ばれれば、その不名誉な称号から抜け出せるわよね?」
「ちょっとウツギさん冷静になって?」
ウツギは確実にキレている。そんなときのウツギは短絡的な行動に出がちだ。
「早急にその扱いを変えるわよ!あなたがうちと交わってくれれば万事解決でしょ!さあ!やり合いましょう!うちを勝ちヒロインにして!」
「やっぱりそう来たか!ウツギ、おおお落ち着け!」
「あら?うちは冷静よ?さあ、一緒にベッドへ行きましょう?ね?」
「ウツギ!目が死んでる!正気に戻って!」
「ふふふっ、逃さないわよ!」
「店員さんすみません!ちょっと逃げます!お代は置いておきますね!あと、サンドイッチはホテルに届けて下さい!では!」
――カランコロンカラーン。
「待ちなさい!」
俺はスタコラサッサと店を後にしたのだった。
◆
あの後すぐにウツギに捕まり、なんとか説得した後のこと。俺たち二人ともこの後の予定はなかったので、適当に散歩することになった。
「わあ!勇者様だ!」
公園の前を二人で歩いていると、ある一人の女の子が目をキラキラ光らせ、こちらに一直線にテクテク駆け寄ってきた。
「ねえ、勇者様!ご本読んで!」
その幼い女の子はブオンと電子絵本を表示させ、ウツギの服の裾を引っ張る。
「ふふふ、良いわよ。あなたのお名前は?」
「ゆーちゃん!五才!」
必死に手をパーにして自己紹介するゆーちゃん。
「ゆーちゃんね。じゃあ、あそこで読んであげるわ……って、ヒノキ、いいわよね?」
ウツギが公園の端のベンチを指差す。
「おう!別に予定があるわけじゃないしな。ってか、ウツギって結構子供に優しいのな」
「当たり前じゃない。子供は希望よ。大人としては当たり前ね」
…なんか、初めてウツギの母性的な面を見た気がする。そういうところ、結構好き。
と、俺が密かに好感度アップしているうちに、ウツギとゆーちゃんはベンチに座った。
「昔々あるところに――」
俺も隣に座って一緒に聞く。
「あ、勇者様だ!」
「ゆーちゃんが絵本読んでもらってる!いいな!」
「ゆーちゃんだけずるい!僕も!」
少しすると、たくさんの子供がウツギの周りによってきた。
相変わらず勇者様は人気者だ。
「仕方ないわね。みんなここに座りなさい。さあ、最初から読むわよ!」
「「「わーい」」」
ウツギが大人気の保育園の先生みたいになっていて、すごく微笑ましい。
…それにしても、ウツギの読み方が上手い。臨場感のある読み方に引き込まれる。子供はもちろん、俺まで普通に楽しんじゃってるほどだ。
「――そして、愛によって全ては救われましたとさ。めでたしめでたし」
パチパチパチパチ。
俺が率先して拍手すると、子どもたちも俺に倣って全力で手を叩く。
これにはウツギもしたり顔だ。
…よし、気分もいいし、ちょっとだけ子どもたちを煽ってみるか。
「なあ、みんな。みんなは勇者様のこと好きか?」
「「「すきー」」」
それから、子どもたちは口々にウツギのことを褒め称え始めた。
「だってねえ!メインヒロイン?だもん!」
「ママがね、勇者様の話を見ると、元気になるの!だから好き!」
「僕のパパも勇者さまなら運命を変えてくれるって言ってた!かっこいいよなー」
「パパやママたちは、勇者さまのこと、希望って呼んでるよ!だってバリアを壊したんだもん!すごーい!」
「ある意味主人公だってみんな言ってる!」
「運命は絶対に回避できないらしいけど、勇者様の活躍を見てるとどうにかなりそうって思うんだ!」
誰かが言えば、すぐに別の子が続く。
止まらない称賛の波に、さっきまで得意げだったウツギも、流石にたじたじだ。
「「「勇者様、ありがとー」」」
絵本を読み終わると、一人を残してみんな公園の遊具に走っていった。
「勇者様、子どもたちと遊んでくれてありがとう」
一人残った女の子が改めて感謝を伝えてきた。子供にしては落ち着いた話し方だ。
…この子、若いのに猫背だし、目に深いクマがあるな。目に子供独特の輝きもないし、ヘアアクセサリーとしてつけてある大きな花が、なぜかしおれている。
寒がりなのか、過剰なほど防寒具を着ている。総じて変わった女の子だ。
その子をよく見ると、目に母性が溢れている気がした。
これはもしや?
「もしかして、あなたは子供じゃなくて、誰かの親御さん?それとも、子供の面倒を見てくれる責任者みたいな人ですか?」
「…おお。よく気が付いたね。流石は勇者御一行だ。そのとおり。こんなロリっ子の姿をして子供たちと混ざっていたが、私はもう自分の年齢を覚えていないくらい歳を重ねているよ」
「ああ、やっぱり。なんだか疲れはてた社会人みたいな雰囲気でしたので、そうだと思いました」
これは直感だが、この人はおそらく今まで会った人の誰よりも長生きな人な気がする。それも、以前旅行で訪ねた健康都市で出会った齢920歳の長寿おばあちゃんよりも、遥かに。
「ははは、どうも働きすぎてしまう性分でね。今も秘書に言われ、無理やり休憩させられていたんだよ」
この人は仕事の合間に、子どもたちと遊んでリラックスしていたみたいだ。
「さて、勇者様。改めてお礼を。子どもたちに希望を見せてくれて本当にありがとう」
不思議だ。この人の言う「子どもたち」という言葉には、幼い子供以外にも、地球に住む全員という意味が含まれている気がする。
「別にお礼を言われることではないわよ」
「いえいえ。それが子どもたちにとって、とても大きなことだったのです。特に、勇者様が絶対に壊せないはずの無敵のバリアを壊した時――あれは本当に衝撃だった」
彼女は一度言葉を切り、静かに続ける。
「あの日を境に、子どもたちの目に希望が宿った」
そこから彼女は、せきを切ったように語り始めた。
「この星の子どもたちは、運命を受け入れることに慣れすぎている。大半は素直に流され、たとえ反発心を持っていても、どう抗えばいいのか分からないまま」
「そんな時、君は“壊せないはずのバリア”を打ち破った。その姿が、どうしても抗えないはずだった運命を壊す光景と重なったのだろう。あの日から勇者様は、誰の目にも分かる希望になった」
「だからこそ、みんな勇者様に憧れてしまうんだ」
ここまで一気に彼女は語った。
「……ごめんなさい。何が言いたいのか分からなかったわ」
「ああ、すまない。人と話す機会が少なくてね。つい一方的に話してしまった」
彼女は少し照れたように笑う。
「要するに――勇者様は、ここでは確実に誰よりも愛されている。 それだけ伝えたかったんだ。……おっと、そろそろ戻らなければ。話を聞いてくれてありがとう。では」
「ちょっと待ちなさい」
立ち去ろうとしていた彼女を、ウツギが止める。
「なんだろうか?」
穏やかな声音でそう返し、彼女は足を止めた。
「うちは、物語に出てくる勇者様みたいに察しがいいわけじゃないわ」
ここで言葉を切り、ウツギはまっすぐ前を見据える。
「でも、助けてほしいなら、どこにいても助けに行ってあげる。だから、本当に苦しくなったら、全力で声を上げなさい。いいわね!」
そう言って、ウツギは彼女と反対方向に公園を去っていった。
その後ろ姿が、俺には本物の勇者に見えた。
次回予告:全力バカップルタイム!




