希望勇者!調子に乗る誰かさん!
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ここへ来て数日が経った。重要なことこそ分かっていないが、地球のことがなんとなく分かってきた頃だ。
俺は息抜きにここに来てのんびり朝食を食べているトリカの隣に座る。
「未知の惑星に初めて到達したのに、割と普通に観光ができている件」
「何も起こらない分にはいいじゃない。つかの間の平和を愛しましょう」
「ま、そうだな」
それもこれも全てここの人たちに歓迎されているおかげだろう。未知の惑星にたどり着いてこれだけ歓迎されるのは、流石に想定外だったなあ…
「今日は愛の惑星らしく、恋人たちとイチャイチャを享受したいなー。チラッチラッ」
トリカにあからさまに目配せしてアピール。
俺は愛に生きる男!愛する人と過ごすことのなんと素晴らしいことか!
「あら、それは嬉しい誘いだけど、今回はパス。わたくしはやることがあるの」
「…そっか。なら、セリを誘おうかな」
「セリは昨日夜遅くまでゲームに夢中だったから、今頃はぐっすりよ」
「……なら、またヨヒラとデートするかあ」
「ヨヒラは昨日からずっと修行空間にこもりっぱなしで、一向に出てくる気配がないわね。あと、わたくしもヨヒラに用があるのよ。大事なことだから、譲ってもらうわ」
「……」
他の人で言うと――ウツギは朝早くからどこかに行った。母親ーズは何をしているのか不明。ペットたちは大人気で、今も全力でこのホテルのスタッフたちに可愛がられている。
…寂しいんだけど。
「仕方ない。一人で街をぶらぶらするかあ」
地元の人と交流して、おすすめのデートスポットとか、指輪のこととか、結婚式場のことについてとか調べておくか。どうせ一人でコソコソプロポーズのことについて計画を練る予定だったし、ちょうどいいと思うしかないな。
ってことで、いざお一人様観光に参ろう。
俺はホテルを出て、周辺を散策する。
多目的シューズは持ってきているが、一人だしゆっくり歩けばいいだろう。
ふと、向かって歩いてくる地元のメカメカしいアンドロイド男性と、黒髪の女性のカップルと目があった。
「こんにちはー」
「「こんにちはー」」
地球に住む人は基本みんな物腰が柔らかい。話しかけやすくて助かるわ。
「ここらへんで一人でも過ごしやすくて、人が集まる場所ってありますか?」
あまりそういう事を気にするタイプじゃないとはいえ、どうもこの辺りはカップルが多すぎて、一人だと微妙に居心地がよくない。
「私の兄がやっているカフェなんてどうでしょう。“巡り”って店なんですけど、食べ物が美味しくて、植物が多く、人が多い割に静かで、お一人様も歓迎してますよ。サンドイッチが絶品なので、是非食べてみて下さい」
「じゃあ、今日はそこに行ってみるな。情報ありがとう!」
「どういたしまして。勇者一行様の助けになれて、こちらこそ嬉しいです。では!」
腕のチップを使い、女性に座標を教えてもらったのち、手を振って別れる。
さて、行き先が決まったので巡りって場所に行くか。そこでサンドイッチを食べながら、情報収集に励もう。
道中、目の引いた宝石店にぶらっと立ち寄り、ちょっとした買い物をした後、目的地にたどり着いた。
「えっと……ここのはずなんだが」
花と緑が多く、古民家的な外観が目を引く。開放感もあり、落ち着いた雰囲気だ。ここで読書なんてしたらなかなか気持ちが良さそう。
ただ、今日は少し普段の様子とは違いそうだ。
というのも…
「きゃー、ウツギ様!こっち向いてー!」「可愛い!!!」「これ、よかったら食べて下さい!」「勇者様きちゃああああ!!!」「我々を救って下さい!」「その食いっぷりに惚れた!」
「ふふん!勇者であるうちをもっと崇め奉りなさい!」
「「「キャー!!!」」」
そのカフェには、周りからめちゃくちゃ持ち上げられ、鼻高々となっているウツギが居たのだ。
ねえあのさ、ドア越しにも歓声が漏れ出てるんですけど……はしゃぎ過ぎだよ。
一瞬見ないフリして通り過ぎるか迷ったが、せっかく来たし、中に入ることにする。ウツギにも少し頭を冷やしてもらいたいしね。
少し意気込んで俺は扉を開ける。すると、すぐに落ち着いた雰囲気の男性店員さんが駆け寄ってきてくれた。
「いらっしゃいませ」
「一人ですが大丈夫ですか?」
「ええ。どの席にしますか?」
「ウツギの隣に座ることにするよ。うちのウツギがうるさくしてすみません」
ほんと、ごめんなさい。あの子、ちょっと調子に乗りやすいんですよ。
「いえいえ!こちらが勝手に騒ぎ立てているだけですから!」
どうも店員さんは本心からそう言っているっぽい。そう言ってくれて何よりだ。
さて、俺がやってきたことにもまったく気づかず、王様のような態度を取っているウツギ。はしゃぐなとは言わないが、もう少し節度のある楽しみ方をしてくれよ。
「あのー、ウツギさん?」
ウツギの背後に回り、声をかけた。
「げ」
「げってなんだよ」
「いいじゃない!たまにはこうやって持ち上げられたって!最近こういうことがなかったから、嬉しかったのよ!」
ウツギは俺が注意する前に言い訳を始めた。
これ、ウツギ自身も調子に乗りすぎたって自覚しているよな。真っ先に言い訳したのがなによりの証拠だ。
「それにしてもちょっとはしゃぎすぎだぞ」
「そうね。少し我を忘れてたわ。失敗失敗」
軽く注意すると、ウツギは普段通りの常識ある態度に戻ってくれた。
俺はウツギの隣に腰を下ろし、こう切り出す。
「なあ、ウツギ?この惑星で流行ってる俺たちの話で、ウツギはどういう扱いなんだ?」
「さあ?具体的なことは知らないわ。意味は分からないけど、褒められているのならそれでいいじゃない。でも、勇者っていうぐらいだから、それはもう素晴らしい評判が轟いているのでしょうね」
細かいことは知らないのかよ。それでよくあそこまではしゃげたなあ。
…まあ、実は俺も人のことは言えないんだけどね。生の映像を様々なアレンジをして楽しんでいるってくらいの、ふわっとしたことしか知らないもん。
だって、あれじゃん。ここでは俺たちの人生が娯楽として楽しまれているんだろ?
自分の出てるエピソードを自分で確認するって、妙に気恥ずかしいじゃん。なんか、自分の出演シーンだけ編集で繰り返し見てる俳優みたいでさ。
なんかそれはそれで俳優気取りでカッコつけてるみたいかな?
「そうだなあ……よし。俺もここでの評判をあんまり知らないから、今日はここで俺たちがどういう扱いを受けているのか聞いてみる日にするか――って、ウツギ?しれっと密着しないで?」
「あら?あなたってうちに手を出す気はないんでしょ?なら、こんなことされたって大丈夫よね。大人しく受け入れなさい」
俺が恋人二人にプロポーズしても、ウツギは強気の姿勢を崩さない。てか、ウツギは俺が二人にプロポーズしてからのほうが、行動にためらいがない。
それでも、俺は結婚を心に決めたことで、以前より遥かに揺らぎにくくなった。隙だらけだったのも少しはマシになり、誘惑にも前ほど引きずられない。
これは、覚悟が決まったことと、異性の色気に対して、自分なりの対処法が分かってきたからだろう。
欲に抗うより、最初から「そういうものだ」と受け入れてしまう。
誘惑すら一種の愛と考え、心の別フォルダに保存しておくのだ。その後はゆっくりエネルギーに変換していけばいい。
それだけで、少なくとも今はどうにかなっている。
――だがウツギは、ことあるごとにこう言っている。
「それで今はしのげても、そのうちヒノキは落ちるわよ。あなたって、限界が来た瞬間に爆発する男なんだから」
その挑発めいた声音がやけに甘く耳に残る。
「それに、満たされてるからって安心しないことね。人間って愚かだから、満たされてるのにまだ求めちゃう生き物なのよ。お腹いっぱいなのに、さらにデザートを食べちゃうみたいにね」
その言葉には、少しだけ思い当たるフシがある。
ウツギの燃えるような愛の波動を受け取ると、まるで高級なデザートを食べたような、酸いも甘いも含んだ複雑な味わいが心に残るのだ。
愛の波動に関して、量こそセリやトリカほどではないが、正直質に関しては二人と引けをとらないんだよなあ…
強く感じる愛の波動によって、思考が現在に引き戻された。
波動の発生箇所に目を向ける。
隣を向くと、ウツギのキリッとした赤い目が光っていた。
その目の奥には強い決意がうかがえる。絶対に俺のことを手に入れるつもりなのだろう。
…ほんと、諦めの悪い、厄介な勇者様だ。
次回予告:負けヒロインは魅力的




