未知生物!閣下大量発生!
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ヨヒラが俺の手を引っ張ってガンガン進んでいくので、俺はされるがままについていく。
「あ、見て、ヨヒラ。先頭は俺たちの惑星の閣下があの集団を率いてるよ」
「本当ですね!!セリ様が船長帽を被せておいてくれたおかげで、一目瞭然です!!!可愛い!!!」
「そして……なぜか俺の母と案内人のナギさんまで閣下軍団の後ろに引っ付いてるな」
しかも、ナギさんに肩を回してダル絡みしているように見えるんだが…
母の右手には酒瓶が握られ、ほんのり頬も赤い。
…うちの母がすみませんね。ほんと。
「どうやらご主人様のお母様は、閣下の生態について聞いているようですね。ああ……可愛い」
「…うん、合流させてもらおうか」
母の暴走も止めたいし、ヨヒラも全力であっちに行きたそうにしている。行かない理由がない。
「こんにちはー、ナギさん。うちの母が迷惑をかけてすみません」
「ちょっと?この完璧な母に向かって、その言い草はなに?」
完璧な母……?うん、まあ……そうですね。このことについて、俺からは発言を控えさせてもらおう。
「別に迷惑なんてかけていないでしょ?ね?ナギさん」
「は、はい」
俺は疑わしげな目で母を見る。
すると、ナギさんが慌ててフォローに入った。
「本当に迷惑ではないですよ。ヒイラ様はとても深い知性と教養をお持ちで、さらに聞き上手でもあるので、不思議と嫌ではないのです。なんなら、僕が話してはいけないことまで話してしまいそうで、こっちが迷惑をかけてしまいそうなくらいです!」
「ほんと、ナギさんは女性をおだてるのが上手ねえ。息子も見習いなさい」
「へいへーい」
ま、ナギさんがそう言うならよかったよ。
「ナギさん、今閣下たちについて説明してくれてたんだよね。俺たちもお邪魔して良いか?」
「ええ!もちろんです!」
ってことで、俺たちは閣下の集団の後ろについていくことに。
「ヨヒラー。おーい、ヨヒラさーん」
「……」
ダメだ。さっきからヨヒラは閣下の集団に釘付けで、体を揺すっても反応がない。仕方ないので、俺が手を引っ張っていこう。
と、思った矢先…
「ご主人様!見て下さい!あそこに黄色いお花をつけた閣下が、閣下が!私にファンサしてくれましたよ!可愛い!」
突然ものすごいテンションで俺に感動を共有してきた。びっくりするから急におっきい声出さないでほしい。
それに、ファンサって……少なくとも閣下はアイドルではないと思うぞ?
「…で、ナギさん、この閣下の集団は何をしてるんだ?」
「さあ?結び姫さまの考えることは我々に測りようがありませんので」
ここでは閣下のことを「結び姫」と呼んでいるようだ。縁結びの神として崇められているというのは聞いていたので、初めて聞いた言葉でもすぐに理解できた。
「見て下さいご主人様!あの閣下とは色が違う結び姫様がこっちを見ました!可愛い!」
「……で、俺の母親はどこまで聞いたんだ?」
「スルーしてないで、ヨヒラちゃんの相手をしてあげなさいよ」
「いや、こうなったヨヒラは放って置くに限る。推し活の邪魔するは野暮だしね」
「なるほど。なら、私と息子で話を聞きましょうか。まだ解説は始まったばかりだったし、ナギさんには申し訳ないけれど、最初から説明してくれる?」
「そうですね。そうしましょう。では、結び姫様とは何か、どういう存在か、最初から順に説明していきますね」
閣下たちについていきながら、俺と母はナギさんの語る解説に口を挟まず、耳を傾ける。
「まず、結び姫様はこの星では縁結びの神様と言われています」
うん、それは知ってた。
というか、この星の空気を見れば、誰だって分かる。
「結び姫様たちには、恋のキューピットとしてこの星で自由に暮らしてもらっています。なぜか結び姫様たちもそれを望んでいます」
このふわふわとしたクッションのような生き物はみんな、おせっかいおばさんみたいな暮らしが好きらしい。変わった生態だなあ…
「結び姫様たちは人が愛し合うと喜びます。カップルが成立すると、それはもうピカピカと満足そうにするのです」
ああ、ここでもそうなんだ。それは閣下と同じだな。
「そして、結び姫様には、運命の相手を探す能力があるようなのです。僕も結び姫様に紹介された女性が今の妻ですし、ほとんどのカップルが結び姫様によって紹介された相手ですね」
ここで初めて、母が口を挟んだ。
「あら?ナギさんって妻がいるのね。それなのに、とっても濃密にスキンシップしちゃった。お嫁さんに申し訳ないことしたわね」
「いえいえ。妻とは運命で強く結ばれているので、多少女性とスキンシップをしたところで大丈夫ですよ。それに、妻以上に僕と相性のいい女性は存在しません。僕と妻は強固な絆で結ばれているのです」
ナギさんは自信ありげにそう語った。運命の相手とは絶対にうまくいくと、疑ってすらいないようだ。
…でも、なんでそんなに自信満々なんだろう?
少なくとも、俺なら運命やら相性やらだけでそんなに自信を持つのは無理だ。
「あらそう?なら、このままでスキンシップを続けるわね。うへへ」
…いや、母親よ、ちょっとは遠慮しようよ。ほら、ナギさんも苦笑いしてるじゃん。
「えっと、その結び姫様っていうのはカップル製造機ってことだよな。だから地球にはカップルが多いのか」
「そのとおりです」
「でも、運命の相手を探す能力があるって、結び姫って何者なんだろうな?」
「結び姫様たちは能力も正体も生態も、不明な点ばかりです」
「不明?」
ありゃりゃ。ここまで来てそれかい!と、ずっこけそうになった。
「というよりは、我々にとって結び姫が何者であろうと、別にいいのです。結び姫様たちは、僕たちに有益なことばかりしてくれ、笑顔にしてくれますから」
そう語るナギさんの表情には、深い信頼と愛が表れていた。
「それにですね」
ナギさんは少し俺たちより前に進んだのち、くるっと体を回転させ、ウインクしながら続けた。
「今更調べるのなんて、恐れ多いでしょう?」
ナギさんという男は、まともなうえにお茶目さまであるようだ。
お茶目な男……良いよね、前世ぶりに見た気がするわ。
あとさ、母はあんまり「いやん、いやん」と体をくねらせないでほしい。気持ちは分かるけど、やめて。
さて、その他にも噂レベルの話や、運命が見える話の根拠、結び姫さまによる伝説など、様々なことをナギさんは語ってくれた。ウィットに富んだナギさんの話は、どれも面白い。
結び姫様が宇宙の外からやってきた説の話なんて、妙に信憑性があったし、とってもワクワクした。
「でもさ。いくらそういう面白くて有益な生物だとしても、俺には地球のみんな例外なく結び姫様たちを崇めているって感じに聞こえたんだよ。それっておかしくない?」
ふと、話を聞いたうえで感じた疑問をこぼす。
ただ一人の例外もなく全員が全員結び姫様のことが好きっていうのは、少しだけ違和感がある。なにか理由があるのではないだろうか?
「それはですね。我々は、日々“愛を大事にする”ことを当たり前として暮らしているからです。そういう価値観が、長い歴史の中で文化として根付いてきました。ですから、結び姫様と目指している方向が同じで、自然と好意的に受け取れるのですよ」
「愛を大事に……か、それはいいね」
「ええ、その文化になったきっかけ自体は込み入った話をすることが禁じられているのですが……できる範囲でふわっとだけ説明すると、この星はEエネルギーにより救われ、そのEエネルギーは愛によって偶然できたとされています。それからこの惑星は、愛を大事にするようになったとされているのです」
「ほえー。なるほどなあ」
「研究者のサガか、もっと詳しい話を聞きたいけれど……言えないのなら仕方ないわね。禁書庫にたどり着けたときにでも歴史を調べてみることにするわ」
…それにしても、なにかと地球には「愛」というワードが出てくるな。地球にとってそれほど大事なんだろう。
「さて、今説明できる範囲の情報はこれくらいでしょうか」
「十分だよ。ありがとう、ナギさん」
「おっと、そう言えば、重要なことを話し忘れていました。我々が貴方方を勇者一行として扱うのは、結び姫様――いえ、そちらでは閣下でしたか。その影響なのですよ?」
「ん?それについて詳しく」
「我々は閣下様を通して伝わってきた生の映像を、娯楽化しているのです」
「ありゃ、原因の根本は閣下がやったことなのか。閣下は何を考えてるのやら……でも、なんでそんなに大流行したんだ?」
「それはですね…」
「かっか!」
ナギさんの説明の途中、船長帽を被った俺たちがよく知る閣下が「一緒に遊ぼう!」と俺たちの手を引いて引っ張ろうとしてきた。
「おっと、結び姫様たちからお誘いが来てしまいましたね。またいずれそのことは説明するので、今は遊びましょうか」
「そうだな」
あんなに可愛い生物に手を引かれてしまっては仕方ない。話はいつでも聞けるし、俺も閣下の集団に混じって遊ぼうか。
「かっかっか~♪」
「「「かっかっか~♪」」」
先頭の閣下の声に合わせ、俺たちはみんなで合唱する。ここにいる人や、回りでありがたがっている人たち、みんなが楽しそうだ。
…ついでにヨヒラも蕩けそうなくらい幸せそう。まあ、歌う閣下は俺から見ても可愛いけどさあ…
こいつらは話を聞いても結局よくわからない生物だった。
ただ、これだけみんなを笑顔にしてくれる生物でもあるのは確か。
謎の生物だろうが、悪い奴らではないはずだ。それさえ分かればいいかと、そんな風に思ったのだった。
次回予告:勇者による悪魔の囁き




