花見後編!嵐の前の静けさ
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「はあ…まともなものを持ってきた人はいませんの?」
トリカがガチャ芋を持ってきたセリを呆れたように見ている。俺も虚無バナナをもってきた時、同じ目で見られたぞ!仲間だな!
俺が虚無バナナ、セリがガチャ芋、トリカはスパークリングワインとグラスを持ってきた。主催者のヨヒラはこの場と肉を用意してくれているので除外。だから、のこすはウツギだけだが…どんなものも持ってきたのだろうか?
正直ウツギがどんな人なのか、セリやトリカほど知っているわけではないので、持ってくるものが全く予想できない。
「はあ…早起きしてせっせと頑張って準備したうちがばかみたいじゃん…この流れで出すのはあれだけど、うちはかなりまともなものを持ってきたよ。それどころか手間が凄いかかってるから、うちに感謝してありがたく食べてね。はい、これ。手作りのお弁当。重箱に詰めてきたから良かったら食べて」
ウツギは大量の重箱をサイキック能力のテレポートを使いこの場に持ってきて、各々に配りだす。しっかり人数分あるようだ。
おお、コレはありがたいぞ!俺はよく食べる方なので、食べ物なんてあればあるほど嬉しい。しかも重箱って、見た目にかなりの高級感があるから、なんだかテンションが上がる!弁当が重なっているというところもテンションが上がる大事なポイントだ。
「あなた、今どき料理ができますのね」
「うちはいっぱい食べるからね。料理とサイキックだけは自信があるんだ」
ウツギはどこか自慢げだ。
>配信見てても複雑な工程の料理してて凄いよね
>美味しそうにいっぱい食べるから見てて爽快感がある
>サイキック使うのにカロリー使うし、そもそも料理にもサイキック使うという無限ループ
ウツギの態度や視聴者の反応から分かる通り、今どきお弁当をつくれるほど料理ができるなんて相当珍しいことなのだ。それも重箱だ。
重箱ってあれだろ?お弁当の進化系みたいなもんだろ?俺はそれくらいの認識なんだが、合ってるよな?
俺は前世で多少自炊していたので軽くなら料理が出来るが、重箱なんて作れる気がしない。俺には難易度が高すぎる。
この宇宙では、そんな俺レベルの調理技術すらない人が大半だ。
今の時代、複雑な料理は基本的に機械がやってくれる。たまにとても情熱のあり、味覚のセンスの良い人が料理人になるくらいで、普通の人は料理なんてごくたまにしかしない。
そのたまにやる料理というのも、食材を焼くだけ、盛り付けるだけ、お湯を注ぐだけなどの、とても単純な調理だ。
そうなってしまったのは、きっと今どきの食材がどれも工夫しなくても美味しいからだろう。簡単な調理でものすごく美味しいものが出来てしまうので、複雑な工程の料理などする必要が無いのだ。
そんなご時世の中、ウツギは自信満々だ。コレは…期待してもいいかもな。
果たしてどんなお弁当なのか…重箱の蓋をオープン!
「おおおお!凄くない!?何種類もおかずあるし、量もいっぱいあるじゃん!すご!これ全部、この惑星の食材でつくったの?」
「うん、うちが住む南の方で取れたものしか使ってないよ」
ウツギは俺の勢いのいい褒め言葉に少し顔を赤らめながらも、どこか得意げに返答する。
俺に配られた重箱の中身は茶色のおかずが多く、見た目は美しいとは言えないかもしれないが、正直そんなことはどうでもいい。料理は見た目も大事ともいうが、俺は見た目は気にしないタイプだ。
なんなら手作り弁当というのは、色とりどりのものより、茶色のおかずが多ければ多いほど美味しいという説を俺は信じている。
ああ、どれも美味しそうだ。見てるだけでワクワクする。
しかも驚くことに、どうやら人によって重箱の中身が違う。
トリカの重箱は色とりどりの小さなおかずが多いし、セリの重箱は甘いものが多く、ヨヒラとウツギ自身の重箱はバランスが良い。各々の味の好みを予想して作ってくれているようだ。ここまでの凝りよう、もはやプロだろ。
じゃあ、俺の味の好みを予想して茶色のおかずを多めに作ってくれたのか。これは嬉しいな。
では、満を持して…食べますか!いただきます!
俺はウキウキ気分でおかずを一口食べる。
これは…
「毎日俺に味噌汁を作ってください!」
「なにそれ?どういう意味?」
うまい。ただただうまい。
どこかホッとするような優しくて温かみのある味だ。変わった味付けでもないのにやたらと美味い。俺が料理をするときに頭の中で思い描いてる理想の味付けだ。
正直ウツギにはポンコツとか、負け顔とか、ワイルドだとか、そのようなイメージが強かったので、こんな素晴らしいものを作る一面があるとは思っても見なかった。
あまりに美味しすぎて、前世の昔の人が言うようなプロポーズの言葉が勝手に口から飛び出してしまった。
俺は結婚という文化をとても大事にしているので、軽々とプロポーズなんてするような軽薄な男では無いのだが…
え?ヨヒラにも出会った当初にプロポーズしたことあるだろって?
それはまあ、あれだ。
それは、一旦例外とします!何事にも例外はある。
でも、ウツギに言葉の意図が伝わらなくて助かった。もう少しで俺が女なら誰にでもプロポーズしてしまう尻軽男になってしまうところだった。危ない危ない。
この宇宙では会話中にこのようなコミュニケーションエラーは本来あまり起こり得ない。
会話中にわかりにくい表現や、伝わりにくい言葉を発してしまった時、脳内のチップが自動的に言葉を修正して、相手の脳内のチップに正しく言葉の意図を伝えてしまうからだ。
ただ、今回は冗談の範疇で言った言葉とチップは認識したようで、脳内のチップは俺の言葉の意図をあえて汲み取らず、そのまま直訳したような言葉としてウツギに伝えてくれたようだ。実際、冗談で言ったようなものだしね。
チップさん、グッジョブ!
俺は誤魔化すようにワインを一口飲む。そして周りの桜や焚火の火を楽しみながら、また重箱のおかずを食べる。
ああ、改めて美味しいな。一生この状況が続いて欲しい。
「師匠とお呼びしてもいいでしょうか?料理の弟子にしてください!」
俺はキラキラした目でウツギに頼み込む。
どうやら俺はいい感じに酔ってきて、気分が高揚しているようだ。口の滑りがとても良い。料理を教えてと軽く頼むつもりだったのに、気分がいいからか、表現が過剰になっている気がする。
でも、まあいいか!本心ではあるし。たまには酒の勢いを借りよう!
ウツギも料理の腕を褒められてまんざらではないようだ。コレは…もう一押しか?せっかくの料理を教えてもらえるかもしれないチャンスなのだ!このチャンスを逃してはいけないよな!
じゃあ、ガンガン褒め殺しして料理を教えてもらうぞ〜!ガハハ!
ウツギ様!素敵!最強!可愛い!天才!よいしょー!
あー、楽しいなあ!愉快愉快!キレイな焚き火に美しい桜!美味しい料理に美味しい酒!そしてなにより素敵すぎるみんなが居る!完璧だ!人生最高潮!
―――その時の俺は、近くでとても物騒な会話が繰り広げられていることに気づきもしなかった。
「ねえ…さっきの言葉ってさあ…多分あれだよね?プロポーズの言葉っぽいよね?僕達にはそういう事一切言わないのに、ぽっと出の女にそんなこと言ってイチャイチャしてるの見るとさ…なんかムカつかない?」
「そうですわね…わたくしという存在がありながら…少々痛い目にあってもらわなければいけないようですわね…」
セリとトリカが顔を寄せ合って、小声でヒソヒソと何か言っている。
まあ、一切聞き取れなかったが、酒と飯が美味いからどうでもいいや!今日はじゃんじゃん飲んでじゃんじゃん食べるぞー。
…俺が覚えているのはここまでだ。ここから先は飲みすぎて記憶が飛んでしまった。
ただ、その時の事を思い出そうとすると何故か無性に頭が痛くなる。まるで思い出すことに体が拒否反応を示しているかのようだ。
あのあと、なにか嫌なことでもあったのだろうか?
でもまあ、配信はしていたはずなので、見返せばいいかな。
このときは軽い気持ちでそんなことを思っていた…
配信を見返したあと、俺は思い知ることになる。コイツラを一箇所に集めるとろくなことにならないということを…
次回予告:全てを、失う。




