無駄技術!しょうもない親子喧嘩
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「さて、外は風が強いでしょう。家に入る許可を与えましょう」
トリカがぱちんと指を鳴らすと、虹の道が目の前に現れた。この道は天空の城の玄関まで続いており、どうやら乗れるようだ。
虹の上を歩けるなんて、なんだかとても楽しい。
るんるんとした気分で俺は玄関まで歩いていく。トリカが扉を開けて中に入ったので、俺もあとに続く。
「じゃあ、おじゃましまーす…おお!中もすごい!」
>すんごいなこれ
>素足で芝生の上を飛ぶトリカ様神秘的で素敵…
>トリカ様ほどこの家が似合う人はいないだろうな
まず玄関から見える家の中は広い一面の芝生。とても開放的だ。
トリカのように素足で暮らし、芝生の感触を感じてみたくなる。
内装には大きなきのこや木や葉、苔、ツタ、花や水など自然なものが多い。小物の鉢植えや小さくて不思議な見た目のフィギュアのようなものが沢山置いてある。
おそらく妖精が住む部屋というのをモチーフにしているのだろう。トリカは意外とイメージを大事にするタイプなのだ。
「では、今からここをゲストルームにしますので少々お待ちを」
そう言って指をパチンと鳴らすトリカ。
そうすると、周りの見た目が蜃気楼だったかのように変化していく。
おいおい、一体今から何がはじまるんだ?
ほんの数秒後、俺の目の前にはテーブルと茶菓子と紅茶、俺の後ろにはソファー。芝生が高そうなタイルに変わり、壁紙の見た目も変化。例えるなら、まるで万華鏡の中に入ったかような絢爛豪華な部屋だ。
たった一瞬の間に、神秘的で不思議な部屋に早変わり。
いや…綺麗で凄い部屋だし、演出はすごかったけどさ…
技術とお金の無駄遣いし過ぎだろ!
「さて、これでいいでしょう、即席にしてはいい部屋が出来ましたわ」
>指を鳴らすトリカ様かっこいい
>え?今のって…即席でこの部屋作ったの?
>知ってるかい?今の一瞬で莫大なお金が溶けたんだぜ…
>トリカ様のサービス精神凄まじいな
得意げな表情のトリカに少し呆れながら、俺は目の前の椅子に座り紅茶を味わう。おお、やたら美味しいなこの紅茶。
「紅茶なんて久々に飲んだよ。この暮らしをしていると紅茶なんて飲む機会無いからなぁ…」
「あなたも配信でそこそこ稼いでいるでしょう?買えばよろしいのに…あなたが言っているスローライフとやら、一体何が楽しいのか…わたくしには全く理解できそうにありませんわ」
トリカは俺が自ら進んで不便な生活をしていることを心底理解できないようだ。
まあスローライフって男のロマンみたいなものだし、理解されないのは仕方がない。
「まあいいですわ、あなたの蛮族生活も見てる分には面白いですしね。まあ、いくら見ていて面白かろうが、わたくしは真似しませんが…不便で貧相な暮らしなんて絶対にしませんわ!」
「じゃあさ。そもそもこんな不便な惑星まで来なくてよかったのでは?元の惑星にいたほうが簡単に贅沢な暮らしができるじゃん」
「あなたが逃げるからでしょう?まさかあなたがこんな突飛な行動を取るとは思いませんでしたわ…もちろん絶対に逃がしませんけどね。それに、こんな辺境であろうと、お金さえかければ充分贅沢な暮らしが出来ますからね。さらにいえば、わたくしのメインの活動は歌。どんな辺境であろうと関係ありませんから」
それに…とトリカは続けて言う。
「わたくしにとって歌う目的はたった一つ。もっと人気になってお母様へ少しでも嫌がらせすることだけ。それさえ出来れば良いのです。歌うことはわたくしなりの復讐ですから」
>え?トリカさんって嫌がらせで歌ってるの?
>復讐?
>お母様カワイソス
>お?コイツら新参か?復讐の理由を知っている古参ファンのワイ高みの見物
ほら、そんな強い言葉を使うから視聴者がざわついているだろ!
復讐といってもとてもしょうもない理由で、微笑ましいものだということを俺は知っている。古参ファンも同様だ。
仕方がないので、一応フォローしておいてあげよう。
「トリカはなんで復讐なんてしてるんだっけ?」
「もちろんそれは、お母様が宇宙一可愛い子供時代のわたくしを可愛がらなかったからですわ!こんなにキュートなわたくしを溺愛しないなんて、信じられません!」
>ええ…
>理由がしょうもなくて草
>親子喧嘩?
>喧嘩というかなんというか…
そう、この親子、旗から見ていると、活動を通してじゃれ合っているようにしか見えないのだ。まあ、トリカは本気で邪魔してやろうと思って活動しているし、トリカの母は母でトリカのことをひよっこ歌手扱いして煽っているし…
ほんとなんなのこの親子?なんでそんな斜め上のコミュニケーションしか出来ないんだよ…
「トリカさあ…トリカの母親が好きな子に何故か意地悪しちゃうタイプの不器用な人って知ってるでしょ」
「そんなことよーく知ってますわ!知っていても納得できないのです!普通わたくしみたいな可愛い子供を産んだら溺愛するでしょう!それを不器用な性格というだけでしないなんてありえません!万死に値しますわ!」
「ほんと、しょうもない理由だよなあ」
「しょうもなくありませんわ!お母様はそんなこじらせた性格だから、男に極端にモテないのです。そんな性格のくせに、モテないことはやたら気にしているし…そりゃ、あんな空回りしている女がモテる訳ありませんわ!」
>ボロクソ言ってて草
>でもまあ確かに、カブトはこじらせてるよなぁ…
>いつも男に対して斜め上方向にしか行動できないカブトが割と好き
「ほんと、男なんてクソばっかなのに、なんでモテたいのですかねぇ…心底理解できませんわ」
「おーい。俺って一応男だよ。男の前でよくそんな事言えるな…」
「あら、フフフ。あなたはまだまともな男だってことをわたくしはよーく知っていますわよ」
妖艶な目で流し目をするトリカ。唐突にそんなふうな目をされると、凄くドキッとするだろ!やめてくれ!
「あらあら?たったこれだけのことでわたくしに欲情してしまうなんて…ホント、困ったワンチャンですこと」
「おい!俺を犬扱いするな!」
そんな俺の言い分を華麗に無視するトリカ。
そんなトリカは、突然ふとなにか思い出したかのような表情を浮かべた。
「そういえばこれ、配信しているんですわよね…いいこと思いつきましたわ!」
トリカは突然、ニヤニヤと邪悪に笑いながら俺に近づいてくる。
多分ろくでもない事をしようとしているが、経験上抵抗しても無駄だ。こういうときは大人しくしているに限る。
「さて、あなた、配信に向かってピースサインをしなさい」
「はい」
良かった。変なことをさせられるわけじゃなさそうだ。
俺がピースをすると、トリカも俺と腕を組んで同様にピースした。
これは…まるで、トリカが男と仲良しなことを、誰かに見せつけているかのようだ。
温かい体温と、女性的な香りがふわっと漂ってくる。甘く、爽やかな緑のような香りだ。
というかね…そんなに密着しないで!正直もう俺の心臓は限界なんだ!流し目されただけでやばかったのに、密着までされると、どうにかなってしまいそうだ。心臓の音がうるさくて仕方がない。
「いえーい、お母様みてるー?あなたが生涯決して触れられもしない男に、わたくしはこんなに密着していますわよー!」
―――遥か遠くの惑星で、ある母親によって持っていたガラスコップが握りしめられ、パリンと割れた。
>母を煽る娘www
>お母様見ってるぅwww
>その隣の男、真っ赤になってるけど…
「あら?あなた、ただ密着しただけですのに、もっと欲情しましたわね?こんな幼い容姿のわたくしにねぇ…ほんと、変態ですわねぇ…」
蔑むような目で見てくるトリカ。ゾクゾクとした快感が体中を駆け巡る。
「ふふっ…わたくしは高貴で魅力的ですから、あなたが欲情するのも仕方がない事かもしれませんわね…ところで…あら?あんなところに大きなベッドがありますわよ?」
いつの間にか置いてあった大きなベッドに移動し、座り込むトリカ。ぽんぽんと手でベッドを軽く叩き、俺を隣に座らせようとする。
俺の頭の中では今、みだらな想像が次から次へと湧き上がっている。雰囲気に流され、脳内を無理やりピンク色に染め上げられてしまった。
やばい!本能さんがやる気満々だ!誰か俺を止めてくれ!なんとか少しでも抵抗しなければ!
「おい!一応配信中なんだぞ!?分かってる!?」
「フフフ、勿論ですわ。だから、女であるわたくしからは決してなにもしませんが…あなたの方はどうですかねぇ…見たところ、もう我慢の限界のようですが…気持ちよくなりたくありませんの?」
はい!気持ちよくなりたいです!
…じゃなかった!落ち着け俺!考えてから喋れ!
トリカの目を見てはいけない!あの全てを見透かすような妖しげな目を見ていると、あっという間にムードに呑まれてしまうぞ!それに、耐えないと俺の健全な配信が台無しになってしまう!
「あら?配信を気にしているのかしら?フフフ、せっかくならあなたの全てを全世界に見せつけてやればよろしいのではなくて?」
「いやいや!何いってんの!?さすがにそれは…」
>え?いまからR18配信はじまるの?
>ワクワク
>破産してでも見ます!
>超貴重なR18配信きちゃあああああ!!
おい!そんなことするわけ無いだろ!そんなものみせるほど俺は非常識じゃないぞ!
「配信を超高額設定にすれば良いのですわ。沢山稼げるしあなたの欲も発散される…一石二鳥ですわよ?」
トリカが俺の手の上に手を乗せ、しなだれるように体を預けてくる。
いつの間にか照明が薄暗くなり、大人な雰囲気に変わっている。
「さて、どうします?」
―――結局、俺は配信を超高額設定にはしなかった。
ただ、俺は唐突に配信を終了させたということは伝えておこう。
え?何故配信終了したかって?その後どうなったかって?
そこは…もちろん黙秘する。何もなかった。いいね?
次回予告:女版ヒノキ登場?




