ヨヒラの家族!母と祖母!
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さて、これでもう俺のわがままは終わった。このあとの予定は、各々親子水入らずで帰る時間までゆっくりしてもらうだけだ。
一旦俺は母のいる自室へと戻ることにする。なんだかんだ俺も、母と二人っきりでは話していないからな。
部屋に入ると、母はクスネと遊んでいた。
かなり激しく遊んでいたようで、クスネは尻尾をぶんぶん振りながら、ハアハアと息を荒げていた。
「ふぅ……おかえりー。その顔は、なんとか上手くいったようね」
「うん。まあ、どうにかこうにかってとこかな」
クスネは俺が帰ってきたことを認識すると、目がよりいっそうキラキラしだす。そして、小さくて丸っこい身体をぴょんぴょん飛び跳ねさせながら、だだだっと駆け寄ってきた。
よーしよしよし!相変わらずお前は可愛いなあ!
「ねえ?ヒノキ。このコお土産に持って帰って良い?」
「ダメ」
俺は即答する。母もクスネの可愛さに頭がやられたようだ。許可するわけないんだよなあ…
――この会話を足がかりに、俺たち親子はしばらくの間、なにげない会話を交わしていった。
「ねぇ?そろそろヨヒラちゃんの親がくる時間じゃない?」
ヨヒラの母はなにか事情があるようで、男性との接触禁止例が出されている。よって、ヨヒラの祖母の監視のもと、一時間程度しか俺と会うことが許可されていない。
だから、会えるのはみんなの帰り際の、この短い時間だけなのだ。
「おっ、そうだな。じゃあ、行ってくるよ」
「あ、待って」
母が、部屋から出ようとする俺を引き止める。
「私からの、とても個人的なちょっとしたお願いがあるの。これを気にするかどうかは、あなたの自由。それを踏まえて聞いてね?」
母にしては珍しく、やけに仰々しい。なんのお願いなのだろうか?
「今日だけでいいから、チップの設定からセキュリティ対策をオフにしてほしいの」
…なんか、とんでもないことを言い出したぞ?
チップにはデフォルトで厳重なセキュリティ対策があり、まず問題は起きない。といっても、この宇宙は平和だから、不正アクセスなどの違法行為なんて滅多にないんだけどな。
とはいえ、たとえ一応でも、セキュリティ対策は本来やっていて損のないもの。その機能をオフにするメリットなど、一つもないはずなのだが…
「…うん?……うん、分かった」
でも、俺は少し悩んだのち、この意味深なお願いを了承することにした。
決め手はたった一つ。母の顔が真面目だから。それだけ。女性の真面目なお願いくらい、男としては聞いてあげたいんだよね。それがたとえ、母とはいえ。
「頼んでおいて何だけど、もうちょっと警戒心を持っていて欲しいわ…」
「それは、『常識を捨てろ』って育てた、どこかの母親が悪いってことで。じゃあ、今度こそ行ってくるよ」
俺の返答に苦笑いしながら、母は俺を見送った。
さて、ヨヒラの母と祖母との集合場所は、カマクラホテルのヨヒラにあてがわれた部屋となっている。
俺はヨヒラの部屋へ向かい、部屋へと入れてもらって、ヨヒラとともに予定時刻を待つことに。
ヨヒラは母と会うのが、少し嫌そうに見える。奥歯になにかものが挟まったかのような、珍しい表情だ。
以前、ヨヒラから聞いた話では――祖母は少々強引だが、誰よりも頼れる人。母は色々謎の多いミステリアスな人物で、少々困った人とは聞いてはいるが…
と、そんなことを思い出しているうちに、集合時間となった。
――シュン。
時間ピッタリに、二体のアンドロイドが現れ、余波で空気が揺れた。
二体のアンドロイドがスリープモードを解除している間に、俺は二人をよく観察することにした。
一体はアマゾネスのような、露出の多い筋肉質な美女。手になぜか槍を持っている。
もう一体は完成された少女人形のような、地雷系メイクの可愛らしい女性。白いゴスロリファッションを身にまとい、手に白くてふわふわの日傘を持っている。日傘に銃口のようなものがあるため、多分アレは銃にもなるのだろう。
ヨヒラもバカでかい斧を背負っているし、どうやらヨヒラの家族はみんな、何か武器を持たないと気がすまないらしい。
「で、どっちがヨヒラの母で、どっちが祖母なの?」
「…あの白ロリのほうです。再三言いますが、あの人には気をつけてくださいね」
「おう!何を気をつけるのかは知らないが、とにかく気をつけてみる!」
と、そんなところで――スリープモードの解除が終わった。
「ようこそ!惑星フルールへ!」
「おう!招待ありがとうな!私はヨヒラの祖母、ハッセンだ!ヒノキとは一度実際に会ってみたかったんだよ!よろしくな!で、コイツが」
「ルリって言いまーす!よろしくね♡」
祖母の方はやたら大きな声で、母の方はふわふわした甘い声で挨拶をされた。
…この人たちが、ヨヒラの家族か。みんな明るそうでいいね。
「ふむ、ヒノキ。少々失礼する」
「えっ、ちょっと!?」
突然、ハッセンさんがまるで何かを確かめるかのように、俺の身体を念入りにペタペタと触ってきた。
「いやん」
思わず、情けない声が漏れてしまった。お恥ずかしい。
でもさ……いくらヨヒラのおばあちゃんとはいえ、こんな美人さんに触られたら、ドキドキしてしまうのは仕方ないだろ!
ドキドキ……ドキドキ。
ハッセンさんから、とても気持ちの良い香りが漂ってくる。朝露のように清らかで、まっすぐな香り。
だからだろうか。セクハラまがいの行為をされているのに、不思議とハッセンさんから邪念を感じない。
きっと、なにか事情があってこうしているのだろう。なら、俺のことは好きなだけ弄ってくれ!それに、俺の体臭性格診断によると、この人は絶対いい人だしな。
…なぜかヨヒラから呆れた視線を感じるが、ま、気の所為ということにしておいて。
「おまえさん……心拍数が激しいし、顔も赤い。こんな年寄りで、蛮族みたいな格好の私にも欲情するのかよ……噂以上だな…」
「いやあ……へへへっ」
「褒めてねえよ」
という、ヨヒラのおばあちゃんであるハッセンさんとの茶番のようなやり取りの後――ハッセンさんは俺から離れ、デカい声でこんなことを言い出した。
「まあ、そんなことはどうでもいい。身体に触れて、疑問が確信に変わった。ヒノキ、お前の身体は、爆発的な成長を望んでいるみたいだ!心も、身体もな!だからヨヒラ!お前がアンドロイド流武術を教えてやれ!きっとそれが一番ヒノキに合うはずだ!」
「承知しました」
え?なに?アンドロイド流武術?
なんか知らんが、俺はいつのまにかヨヒラに武術を習うことになっていた。
まあ、いいか。ハッセンさんは俺のことを思って提案してくれてるっぽいしな。
――これは、さっきのやり取りについて、後からヨヒラに聞いた話なのだが…
ハッセンさんは「武術の達人」で、肉体に触れるだけで「身体の声」を聞けるらしい。
つまり、意識の奥底にある本当の欲求や、肉体が求めているものを感じ取れるとのことだ。
それで分かったのは――俺は今、いわゆる「成長期」にあるということだった。心も身体も、もっと強くなりたいと願っていたらしい。だから、成長するには今がまさに絶好のタイミングなんだとか。
そしてハッセンさんには、身体の声を聞けば、その人にとって一番合った武術が分かる。なにしろ、この世のあらゆる武術を習得しているというのだから、説得力があるよね。
そんなハッセンさんが、俺にすすめたのが――アンドロイド流武術だった、というわけだ。
さて、そのような俺たちのやり取りを、後ろの方で大人しく見ていたルリさん。とても大人しそうで、全く問題児には見えない。
…と、俺が油断していると。
ルリさんが勢いよく距離を詰め、俺のすぐ目の前まで近づいてきた。そして、俺の手を指先でやさしく撫でながら、囁くようにこう言った。
「ねえ、ヒノキ君。今日ね、ちょっと頑張っておしゃれしてきたんだ。……この格好、似合ってるかなあ?男の子の目から見て、ちゃんとかわいい?」
どこか鼻にかかったような甘い声で、ルリさんは上目使いで見つめてくる。
うるんだ大きな瞳が、揺れるように光っていた。
不意に距離を詰められたせいか、ふわりと女性的な香りが漂ってくる。
甘く、深く、どこか懐かしい。お菓子のようでありながら、どこか薬品めいた響きもある。その香りは、細部まで緻密に計算された極上の香水のようだった。
「はい!めちゃくちゃ可愛いです!」
思わず俺は即答していた。
この人からは、トリカとは違う方向性の「完成された美」を感じる。もう一度言うが、めちゃくちゃ可愛い。
「ほんと~嬉しい!でも、そんなこと言ってくれるの、ヒノキ君だけなんだよ?ヒノキ君って、優しいね♡」
愛嬌たっぷりの笑顔で、俺の手を両手でぎゅっと握るルリさん。
…いつもの俺なら、「デヘヘ~ありがとうございます!」とでも答えていただろう。
ただ、この時の俺はというと――自分でも驚くくらい、なぜか妙に冷静だった。
え!これって……もしかしてだけど、あれか!?
「なあヨヒラ!もしかして俺、ちょろいの卒業したかもしれない!全然ドキドキしない!」
思わず、そう口走っていた。だって、これが本当ならすごいことだもん!そりゃ感情的にもなるよ。
呆気にとられたのか、ルリさんが一瞬固まった。
人形のように可愛い表情がふっと緩み、目の奥に戸惑いの色が見える。その時俺は、ルリさんの本当の自分のようなものが見えた気がした。
…あれ?なんでだろう?なんだかその気の抜けた表情のほうが、さっきより断然素敵に感じるのだが…
次回予告:4章最終話




