挨拶周回!その2!難敵カブト!
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蓮華さんの部屋を後にした俺は、カブトさんとトリカのいる部屋に向かう。
カブトさんには、トリカと付き合うことの許可と、この惑星に住む許可の、二つの許可を得たいと思っている。
ただ、なあ…
「カブトさん、自分の欲に真っ直ぐな人だから……はあ。この後、絶対に苦戦するだろうなあ…」
思わずため息も出るってものだ。
カブトさんは、ある意味とても分かりやすい人だ。
頭の中は、八割が「モテたい」、残り二割が「娘が可愛い」でできている。しかも、その思いの“濃さ”が常人離れしているのだ。だから、二割しかなくても、普通の人とは比べものにならないほど娘を可愛がっている。
そして、二割でさえそれだけ強いのだから、八割を占める「モテたい」という気持ちの強さは、計り知れないものがある。
ちなみに、トリカもそんなカブトさんの性質は理解しているが、その「割合」が気に食わないらしい。だから喧嘩中なのだ。
「男に飢え過ぎてるからか、カブトさんは俺にもアプローチしまくってたもんなあ……でも、あんなアプローチじゃあね…」
目が合うとニタリと笑ってみたり、俺と全く同じ仕草や行動をしてみたり、カッコつけてるつもりなのか、シャドーボクシングをしながら、チラチラこちらを見てきたり……
そんなのじゃ、男はアプローチされていることにすら気づかないと思うぞ?
「娘への愛も本物だが、娘への嫉妬心も本物。だから、絶対に一筋縄ではいかないはず」
それでも、やるしかない。全ては、トリカとの素敵な未来のために!がんばろう!
さて、気合も入れたところで、俺はカブトさんの部屋の前でコンコンとノックをする。
「…どうぞ」とカブトさんのぼそっとした声が聞こえたので、部屋へと入室した。
中に視線を移すと、貧乏ゆすりしているトリカと、明らかにスネているカブトさんの姿が。
…うん、どちらの気持ちもなんとなく察した。トリカはカブトさんと一緒の空間にいることがただ気に食わないくらいの軽い気持ちだと思うけど、カブトさんの方は、ちょっと問題だな。多分あれ、俺に対してスネてるっぽい。
おそらく、昨日俺がお酌をしなかったことを、今日まで引きずっているんだと思う。
うーん……なかなか未練がまし――おっと、失礼。なんでもないですよ?
とりあえず、カブトさんの機嫌を直さなきゃな。
俺はカブトさんに対し、「昨日はごめんねっ☆」と、あざとくウインクしながら謝った。
「…可愛い」
よし、許された。チョロくて助かる。
――その後色々あった後、やっとのことで俺はお土産と粗品を渡した。
色々というのは……まあ、主にカブトさんからの斜め上のアプローチだ。自作“恋みくじ”を引かされたり、女児向け魔法少女のコスプレをしたカブトさんに、魔法をかけられたり…
好意を持ってくれているというのは嬉しいが、トリカがいる前で堂々とそういうことをやらないでほしいです。なんか気まずいので……はい。
そんなカブトさんは、今もお土産と粗品を受け取って「…家宝として後世に語り継ぐ」と、かなり真剣な表情で言っている。
…この人に関しては、こういうことをいちいち気にしてたらきりがないな。ようやく俺の話を聞く態勢になったのだから、さっさと挨拶してしまおう。
こほん。
俺はカブトさんに向かって、ぐっと背筋を伸ばし、深く頭を下げた。
「カブトさん。俺はトリカと真剣に付き合っています。なので、お付き合いを許可して下さい!そして、娘さんがこの惑星に住む許可も、どうかよろしくお願いします!」
「…ダメ」
即答かい。
「…でも」と、カブトさんは一切表情を変えず、言葉を続ける。
「…私のことも娘と同じくらい愛してくれたら、許可する。娘だけズルい」
いやあ……それはちょっと…
横で聞いていたトリカが、額に手を当てて大きくため息をついた。
「…やっぱりこうなると思ったわ。ヒノキ、もういいじゃない。本来、わたくしの行動を咎めることなんて、親であろうと、誰だってできないはずだもの」
…だよなあ。
トリカの言うことは正論だ。
でも、俺はどうしてもこういう筋をしっかり通したいのだ。だから、もう少し粘らせてくれ。
「…なるほど。どうしても許可がほしいのね。ならヒノキ、あのクソババアに色仕掛けでもしてやりなさい。そうすれば一発よ?」
…正直、俺もそんな気はしている。さっきも、色仕掛けまがいの謝り方で機嫌が直ったしね。それに、カブトさんも俺から色仕掛けなんてされたら、大喜びだろう。現に今もちょっとだけ目が期待しているし…
でも、こういう時にそんな行動をするのは、たとえ最適解であろうと嫌だ。なんだか、誠意に欠けた行動な気がするのだ。
そういう気持ちをトリカに目で伝えると、トリカは「仕方ないわね…」という表情を浮かべた。ここからはもう何も言わず、ただ見守ることに決めたようだ。
「納得できないのは分かりました。ですが、俺は許可が取れるまで、何度でもカブトさんにお願いに伺うつもりです!俺は諦めません!」
何度でもお願いに伺うと聞いたカブトさんの鼻の穴が、ぷくっと期待で膨らんだ。
これは……逆効果だったか?
でも、それでもまっすぐ自分の気持ち、熱意を伝えることしか俺にはできない。
「とりあえず今日は、俺が渡したお手紙の二枚目を、どうか一度読んではもらえないでしょうか?そこに、俺の気持ちの全てが書いてあります」
一応、これが今回の奥の手だ。
一枚目はみんなに渡した共通の内容。だが、追加で渡した二枚目はカブトさん専用――俺が彼女にどう思ったか、直した方がいいところ、俺から見える魅力、その魅力をもっと伝えるにはどうすればいいか。そんなことを書き連ねた。
いわば、カブトさん専用の「恋愛指南書」みたいなものだな。
カブトさんは「なぜモテないのか分からないのに、それを気にしている」というタイプだ。だから、こういう内容の手紙は絶対に喜んでもらえるはず。
…まあ、改善したところで本当にモテるかは保証できないけどな。あくまで俺の主観だし、そもそも俺自身がかなり特殊なタイプの男だしね。
――それから数十分の間、カブトさんは俺のお手紙を鬼気迫る勢いで読んでいた。まるで、内容を必死に身体に刻み込むかのように。
読み終わったカブトさんの頬は赤い。きっと、俺がカブトさんに対して思っている正直な気持ちを、もはやラブレターかってくらいダイレクトに書いたからだろう。カブトさんに自分の魅力を分かってもらいたくて、ありのままの言葉を並べたのだ。
斜め上のアプローチをしてくれる姿も可愛く感じたとか、自然体のカブトさんの立ち姿が特にかっこよくて好きだとか…
要するに、そもそも俺はカブトさんに対して好印象を持っているのだ。だから、トリカの母という立場を抜きにしても、もっと普通に仲良くなりたいんだよね。
「トリカとカブトさんと俺なら、今までよりもっと素敵な関係を築けると思うのです!カブトさんと恋仲になるわけにはいきませんが、義理の息子にはなれます!どうかそれで満足していただけないでしょうか!」
とにかく必死に頭を下げる。
俺のやれることはこれで全てだ。できることはやった。
これでダメなら、今日は一旦諦める。また今度、違う方法を考えて、何度でも挨拶しにいこう。
しばしの沈黙。カブトさんは腕を組み、何かを思案している。
「……やっぱり、ちょっとだけ許すことにする」
「ホントですか!?ありがとうございます!」
よーし!まだ完全には許可してもらっていないが、一歩前進だ!
「…あくまで、ちょっとだけ。このラブレターを読んだら、私もあなたのことがどうしても欲しくなった。だから、娘とは今日からライバル。私は本気でヒノキさんのことを手に入れる」
いや、それ、ラブレターじゃなくてですね……と、言う間もなく、トリカが眉をきつく寄せて声を荒げた。
「へぇ……望むところよ!歌の実力でも、恋の争いでも負けるつもりはないわ!かかってきなさい!」
「…」
これはもしや……やっちゃったパターン?
今冷静になってよく考えれば……とにかく好感度を上げて、素敵な未来を提示することばっかりに思考が偏りすぎていたかもしれない。
この女性が多い宇宙で、死ぬほどモテない女性が、男からこんなラブレターめいた手紙をもらったら……うん、そりゃあ、こうなってもおかしくないな。これは俺が悪いわ。
などと、俺が後悔しているうちに――
なぜかこの二人は、今から歌唱力でバトルすることになっていた。
……今から? ……なんで?
「ええっと…失礼しますね」
二人は、俺のことなんてそっちのけで言い合っている。でも、争っているはずなのに、なんだか二人ともほんのり楽しそうだ。
だから俺は、この部屋をそっと出ることにしたのだった。
…実はな、決して口には出さないけど、俺はこう思ってるんだ。
「あの二人、絶対仲いいだろ」
次回予告:ちょろいの克服した!!!




