挨拶周回!その2!ふにゃっふにゃ!
読んでいて少しでも感情が動いたら、評価・リアクション・ブックマークをお願いします。
セリとおばあちゃんの部屋を後にした俺は、次に蓮華さんとウツギの部屋に行くことにした。といっても、隣の隣の部屋だから、歩いてすぐなんだがな。
すぐに部屋の前までたどり着いた俺は、コンコンと扉をノックする。
「開いてるわよ。どうぞ」
扉の奥からそんなウツギの声が届く。と同時に、部屋がドタバタと騒がしくなった。
えっと……これは入って良いんだよな?どうぞって言ってたよな?
「…お邪魔します」
おそるおそる部屋に入ると、ドタバタの原因がすぐに分かった。
「あわわわわ。ええっと……男の子が部屋に来る時の礼儀は……ケーキを出して、クラッカーを鳴らせば良いのでしたっけ?あら?とりあえず札束で殴るのが正しいお作法なのでしたっけ……あ、まず歓迎の踊りを――」
このように、どうやら蓮華さんがパニックになっているようなのだ。今もなぜかホテルの部屋のロッカーを、無意味に開けたり閉めたりしているし…
…なにこの状況?
「はわ、はわわわわ。な、生の男性と密室……しかも、こんなに近く……なんて破廉恥な……お、落ち着かないと…一旦お酒を…」
「落ち着いてママ!安易にお酒に頼らないで!それに、昨日までは態度を取り繕えてたでしょ?あの時を思い出して!ママならできる!しっかりしたママに戻って!」
「だって、だってえ!男の子ってすごくいい香りがして、すごくすごいの!密室だから、それがすごく分かっちゃうのよ!それに、いざ帰る時間が近づいてくると、なんだか自然とこうなっちゃったのよ!」
ああ、なるほど。蓮華さんは緊張しているのか。確かに男を部屋に招く機会なんて、この宇宙ではそうそうないからな。合点がいった。
ふにゃふにゃの蓮華さんを見ていたら、こっちの緊張なんてすぐに吹き飛んでしまった。人って、自分より緊張している相手を見ると、不思議と落ち着けるものだよな。
「とりあえずこれ、お土産と粗品。今はウツギに渡しとくね」
「了解。わざわざありがとうね。こういうの、ママは絶対喜ぶはずだわ」
お土産はワイン。粗品はお手紙と絵だ。
絵の内容は、モグちゃんとウツギが美味しそうに肉を食べている絵。お手紙の内容は、俺がウツギとどのような関係になりたいか、今後どうしていきたいか、ウツギのことをどう思っているかをしたためたものだ。
さて、そろそろ落ち着いてほしいのだが……依然として蓮華さんは目がぐるぐるとしたままで、一向に落ち着く様子はない。
「あわわ、えっと。『男の子が部屋に来てくれたら、もう後はウィニングラン!』って女性雑誌のコラムに載っていたような……『※こういうときは、男の子を性的に襲っても犯罪にならないぞ!』とも書いてあった……よね?はっ!そうと決まれば、早速ベッドを整えなければ!」
おいおいおーい!どんな状況だろうが、男を無理やり襲えば犯罪だぞ?気を確かに!
…あと、その女性雑誌にクレームを入れたいので、出版社を教えてくれ。
「なあ、ウツギ。蓮華さん、そろそろどうにかならないか?」
「うーん……基本的にママっていつもキリッとしてるから、こんな姿が見られて新鮮で楽しいのだけど……流石にそろそろ見苦しくもなってきたし、なんとかしてみるわ。ちょっと待っててね」
「頼んだ」
――それから、水をぶっかけたり、強く頭を叩いてみたりなど試行錯誤の末、本当に少しずつ正気を取り戻していった。
ただ、まだ決定打には欠けるというか……奇行はしなくなったが、なんかまだふにゃっとしてるんだよね。
「そうだ!あれよ!今までママはお着物を着ていたから、なんとか取り繕えていたのよ!ほら、ママ?このルームウェアから、着物に着替えましょう?」
「…そうね。そうしましょう」
そうして蓮華さんはチップから衣装の変更を設定し、着物に一瞬で着替えた。
髪の毛もしっかりセットし、正座を組み、テーブルのお茶を上品に一口飲む。
するとようやく、蓮華さんにスイッチが入ったようだ。背筋がぴんと伸びた、凛と咲く花のような、会った当初の姿に戻った。
よしよし。これでやっと真面目な話ができるな。長かった…
「少々お見苦しい姿をお見せしてしまいましたね……申し訳ありません。ですが、もう大丈夫です」
やっとのことで、俺と蓮華さんは席に向き合った。
「では、お母様に伝えたい事がありまして…」
俺がお母様と呼ぶと、蓮華さんの頬がぽっと赤くなり、雰囲気がまたちょっとだけふにゃっとなった。蓮華さんって、男の子を育てたい願望でもお持ちなのかな?
…これは、またさっきの駄目な蓮華さんに戻ってしまうのも、時間の問題かもしれない。
なら、手早く伝えたいことは伝えきらないとな。
「お母様。大切な娘さんをこんな辺境に住まわせていて、ご心配なことも多いと思います。ですが、もしウツギに何かあったら――俺が、必ず守ります!責任を持ちます!そして、俺はウツギとこの惑星で、一生暮らしたいと思っています。どうか、そんな身勝手な願いを持つことを、許してはもらえないでしょうか?」
俺は蓮華さんの目を見て、力強く宣言した。
これが、俺が蓮華さんに伝えたかった全てだ。
俺はただ、ウツギと仲良くこの星で生きていきたい。それだけなんだ。
もちろん、そんなのはウツギを巻き込んだ、俺の一方的な願望にすぎない。だからこそ、せめて誠意くらいは、きちんと伝えたかったのだ。
「――あなたは、本当に変わった男性ですね」
一拍置いて、蓮華さんは微笑む。
「あなたは少々お下品でお調子者なところもありますが、誰よりも実直で優しい心の持ち主だと、実際に接して感じました。そんなあなたがそばにいれば、母としては安心です。これからも娘のこと、どうかよろしくお願いしますね」
そう言ってお辞儀をする蓮華さんの所作は、とても美しいものだった。
ふぅ……よかったよかった。最初はどうなることかと思ったが、なんとか一段落ついた。
さて、これでもう俺の用事は済んだ。次はカブトさんへの挨拶だな。予想では、ここが一番鬼門なんだよなあ…
「では、失礼します」と俺が退室しようとすると、「待ってください」と蓮華さんに引き止められた。
ん?まだ何かあるのかな?
向き直ると、蓮華さんの表情は真剣そのもの。この場にピリッとした空気が走る。
「聞くところによると、娘は『浮気相手』、ヒノキ君は『友達関係』になりたいと、意見がぶつかっているのですよね?母である私から、そのことについて少し申し上げたいことがあります」
「ちょっと、ちょっと!真面目なママはそういう不埒な関係が許せないのは分かるけど、これはうちたちの問題。あまり口出さないでよ!」
「ウツギ。まだ私の話は途中です。話は最後まで聞きなさい」
ウツギは真っ当に怒られて、シュンと小さくなった。
…そうだよな。清廉潔白な蓮華さんが“浮気”なんて聞いたら、黙っているはずがない。これからの言葉で、ウツギの誘惑が少しでも落ち着いてくれれば…
なんて期待していた、まさにそのとき――
「私としては、浮気だろうがなんだろうが、娘とヒノキ君が関係を持つことに全く異論はありません。むしろ、さっさと結ばれて孫を見せてほしいくらいです」
「「ほえ?」」
俺とウツギは、思わず気の抜けた声を出してしまった。
ええ!?蓮華さん、まさかのそっち側!?
戸惑う俺をよそに、蓮華さんは静かに、でもはっきりと言葉を続けた。
「気の抜けた顔……かわい……コホン。ではなくて、ですね。私はウツギのことを誰よりも信用しています。今後あなたたちがどうなるかは分かりませんが、もう娘もしっかりとした大人です。それぞれの判断で、自由に関係を築いていってください……そんなことより!あらー?ここにベッドがありますね。なので、どうですか?私と、セック――」
「わかりました!自由にやりますね!ご提言ありがとうございます!」
あ、時間切れだ。もう蓮華さんは、完全にふにゃっとなって、とろけたメスの顔になってしまった。
途中まですごく良いこと言ってたのになあ…
「あ、待ってください!待って待って待って!それが無理なら、せめて鎖骨だけでも舐めさせ――」
「ちょっとママ!正気に戻って!あと、ヒノキ!あなたはうちを守る必要なんてないわ!うちは守られるような、弱い存在じゃないからね!それは覚えておきなさい!あ、あとついでに、うちも鎖骨は――」
「失礼します!!!」
必死に引き止める声を背に、俺は扉をしめて足早に退出する。
中でめちゃくちゃに騒いでいる声が聞こえるが、全て聞こえなかったことにして……と。
さ、次の部屋へと行きますか~
次回予告:ヒノキ、ビッチになる




