観光案内!いたたまれない気持ち!
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昼食を食べ終わり、しばらくゆっくりした後、俺はこんな提案をした。
「さて、これからどうしますか?一応原則自由としていますけど、もし観光がしたいなら、案内する準備はできていますよ?」
俺たちが事前に計画している今日と明日のプランはというと――
今日は昼食の後、夕方まで観光案内。それからは温泉で身体の疲れをとってもらい、酒場で夕食を食べ、あとは夜の観光、またはそのまま酒場で楽しんでもらう。
翌朝は昼にはもう帰ってしまうので、各々家族水入らずで過ごしてもらう。その時間で俺は、それぞれの母たちと個別に挨拶をさせてもらうつもりだ。
ああ、挨拶っていうのは、「娘さんをください」ってやつな?
――母たちは俺の話を聞いて軽く相談した末、全員一致で「俺たちが用意したプランに乗りたい」という結論に至った。
「分かりました!じゃあ、観光案内の先陣は俺からいきます!まずはラフティングに案内しますね!」
今回の観光案内は、俺たちそれぞれの子ども側が、バスガイドの要領でこの観光地を案内する――いわば授業参観の観光版みたいなものだ。その方が喜んでくれると思ってな。
「ここに人数分の多目的シューズを用意しているので、これを履いてついてください!」
全員が準備を整えるのを確認すると、俺は先頭に立ち、空へと舞い上がった。軽やかな風に乗って、ぐんぐん高度を上げていくのは、少し楽しい。
俺は先頭で移動し始めた。
子どもたちはそれぞれペットを抱きかかえながら、母たちは後方でおしゃべりを楽しみつつ、のんびりとついてきている。
「ほら見てください?うちの息子、案内するだけなのに、ちょっとだけ緊張してるわ。さっきからクスネくんを撫でる手が止まらないもの。息子はこういう時、妙に小心者なのよねえ…」
「あらあら」
「…可愛い」
「ふふ、でも、緊張しつつもしっかりやっているのは好印象ですわ。立派な息子さんだと思いますよ。うちの娘なんて――」
…なあ、母親たちって、なんでこうも人前で我が子の話を堂々とできるんだ?いや、悪気がないのはわかってるけどさ。
ほら、ウツギも俺と同じように思っているのか、頭をポリポリとかいて、苦笑いしてるじゃん。
その後も母たちは、いつまでもおしゃべりに花を咲かせていた。主に、俺たちについての話題だ。
俺はいたたまれない気持ちになりつつ、自然と耳に入ってくる会話を聞き流していた。すると、しだいに一人ひとりの性格面での特徴が、なんとなく分かってくる。
例えば、母親たちの中でとくにおしゃべりなのが、俺の母とウツギの母親だ。この二人を中心に、この場はガンガン会話が回っている。
俺の母はともかく、ウツギのお母様がおしゃべりなのは、個人的に少し意外だったな。母のように冗談こそ言わないが、日常的な会話を楽しんでいる。
一方セリの母親とトリカの母親は、会話では聞き役に徹することが多い。
セリの母親は自分からはほとんど話さず、相槌を打ちながらニコニコと話を聞いている。まさに聞き上手といった感じだ。トリカの母親は、たまにぼそっと呟いたり、話題が投げられたら一言で応じたりしていた。聞き上手というよりは、ただ会話に入るのが苦手といった感じだ。
そんな母たち同士の会話は、ヨヒラやセリも加わり、どんどん賑やかになっていった。
その一方――俺やウツギ、トリカはこの会話に入れないでいる。
なんだかこういう母同士のおしゃべりって、「大人たちの会話」っぽくて、子ども側は会話に入りにくくないか?特に会話の内容が俺たちのことについてが多いから、余計にそう感じてしまうのだ。
そのように少しやりにくく感じている中、セリはいつもと全く変わらず、誰と関わる時も平常運転だ。
「でも、僕はヒノキがやる時はやる男って知っているから、心配していないんですよ。ねえ閣下」
「かっか!」
「あらあら」
今もこんなふうに親たちの会話に入って、場を盛り上げている。しかも、おばあちゃんの腕をぎゅっと掴んで甘えながら。
…こうやって距離の詰め方がうまいから、セリは地元でとても愛されていたんだよな。
「あ、そうだ!セリちゃんに息子のことで聞きたいことがあるんだけどさあ。ほら?昔からあの子って――」
あーあー。俺は何も聞こえませーん。
だからあ!母自身から俺の子供の頃の話なんて、聞きたくないんだよ!なんとなく分かるだろ?というか、分かってくれ!
というか、俺の母親に関しては、もはやわざとやっていないか!?
あっ、ほら!こっちを見てニヤニヤしてる!絶対わざとだ!やめろよ!
――その後も母たちは俺たちに関する話題は尽きることがなく、目的地へ着くまでずっと楽しげに会話を続けていた。
はあ……ようやく目的地にたどり着いたぞ。時間的にはそこまでかかってないのに、なんか妙に長く感じたわ。
「さあ、付きました!ここがラフティング場です!……ちょっと気疲れしので、俺は休みます!だから、自由に遊んでいてください!」
俺の休む発言により、多少ブーイングが起こった。だが、それをものともせず、強引に休憩をとることに。
ここまで来たらもう案内することもないしな。申し訳ないけど、俺抜きで楽しんでくれ。
俺はこの場を離れ、少し遠くの木陰にあるベンチに座る。そこでキャッキャウフフと遊んでいるみんなを、遠くから見て休憩することにした。
「ねえ?隣良い?」
「おっ、トリカも来たのか。良いぞ」
この場には、俺とトリカだけ。
ペットたちも含め、みんなラフティング場で楽しそうにはしゃいでいるからな。
トリカから「はい、あなたもこれ飲む?」とホットミルクティーを渡されたので、それを飲んでホッと一息。
うん、甘い。温かくて、落ち着くわ。
「いやあ…前にも謝ったけど、トリカにはちょっと悪いと思っているんだよね」
トリカとトリカの母は喧嘩中だ。
それなのに無理やりみんなの母親を呼んだので、トリカにはこういう場が少し気まずかったかもしれない。
「いや、もうそれは良いのよ。なんなら今は、ちょっと良いことを思いついて、逆に楽しんでいるしね」
楽しんでる?それは意外だな。
「何を思いついたんだ?」
俺が疑問を投げかけると、「それはね…」とトリカは一拍おき、俺に密着してきた。
その後、わざわざ俺に渡したホットミルクティーを手に取り、俺の飲んだところに口をつけ、一口飲んだ。いわゆる、間接キスってやつだ。
「ふふ、こうやってあなたといちゃついていれば、あのクソババアは悔しくて悔しくて仕方ないはずよ。こうやってああいつにダメージを負わせることに、今日は専念することにしたの」
そう言って、トリカはいたずらっぽく笑う。思わず見惚れてしまうほど、最高に素敵な笑顔だ。俺も釣られて、ついくすっと笑ってしまったもん。
やっていることはただの意地悪だが、トリカらしいっちゃあ、トリカらしい。俺もイチャイチャできて嬉しいし、最高の案だな!
トリカの母、カブトさんは、以前モテないランキング下位千人を集めた選抜で、見事に抜けたほどモテない人生を送っている。しかも、モテないことをすごく気にしているタイプだ。
そんな人ゆえに、これは効くだろう。
ふと反応が気になってラフティング中のカブトさんを見ると、こっちを見てグギギギと歯ぎしりしているのが、ここからでもはっきり見えた。
あと、ついでにウツギの母親である蓮華さんも、俺の方を見て羨ましそうにしているのも見えてしまった。
…やっぱり蓮華さん、上品な雰囲気を出そうとしているけど、普通に男が好きな俗っぽい人だよね?
トリカと会話したことで、気分が高揚してきた。きっと、楽しげなトリカに釣られたのだろう。
「よし!俺もトリカみたいに割り切ることにするか!せっかくのこういう場なんだから、全力で楽しまないとな!」
「いいわね!それでこそわたくしの恋人よ!」
「みんなはもう一回ラフティングをすると思うから、次の回で俺も参加することにするわ。トリカはどうする?」
「もちろん、付き合うわ!全力でいちゃついて、煽りまくってやるわ!」
ま、ひねくれた楽しみ方だろうと、楽しめないより良いということで……行くぞ!
――その後、俺たちも参加し、全員でラフティングを楽しんだのだった。
次回予告:もうちょっとで犯罪者になるところだった…




