家族集合!その4!イカれたメンバーを紹介するぜ!
読んでいて少しでも感情が動いたら、評価・リアクション・ブックマークをお願いします。
ヨヒラによって飲み物が配られたので、俺は同時並行でそれぞれの席に赴き、料理を提供していく。
用意した飲み物は、俺の足踏みワインから作ったスパークリングワインと、アルコールが苦手な人に向けた緑茶だ。
脳内のチップによってアルコールの分解は自由自在なので、この宇宙ではあまりアルコールが身体に合わないという人はいないのだが……まあ、念の為だな。
結局、全員が足踏みワインを所望したようだ。
まあ、正直そうなるとは思ってた。だって、俺が作ったこの足踏みワインの売値を見せてもらったが、思わず目がひん剥いてしまうくらい、とんでもない値段だったんだもの。
どうもこの宇宙において、緑茶とこの俺が作ったワインでは、価値がぜんぜん違うらしい。
「さあ、今回皆さんに提供するのは見ての通り、“寿司”です!」
母親たちから「おおー」と歓声が上がる。
昼食を寿司にしたのは、トリカが「男が直接触って作る料理の方が、圧倒的に価値が高い」と言い出したので、それを考慮した結果だ。
トリカの許可が出る完成度になるまで、それはもう寿司の握り方をたくさん練習させられたんだよなあ……トリカってかなりスパルタだから、まあしんどかった。
「ちなみに、全てのメニューを俺一人で用意すると大変なので、ネタと寿司下駄はヨヒラに、スープはウツギに用意してもらいました。俺がやったのは握りの部分だけです」
一応、こういう補足はしっかり入れておく。男の手料理詐欺みたいなのは、この宇宙ではよく聞く話だからな。なるべく情報は正確に伝えておくのだ。
…それにしても、握りだけでもかなり大変だったなあ。
どうも俺はぎゅっと力強く握ってしまうクセがあるみたいで、シャリをふわっとさせるのには、かなり苦戦した。
それでも諦めず、チップによって示される正しい握り方を参考に、何度も何度も作った。
その結果、今ではもはや、寿司は俺の得意料理だ。
…あ、これは俺の中での話ね。本物の寿司職人と比べれば、まだ天と地ほど差があるからね。
全員に料理を配り終えたので、「いただきます」と挨拶し、食事に入る。
「あ、俺は今からここでリアルタイムで寿司を握るので、足りない人はどんどん注文してくださいね」
途端に「きゃー」と黄色い歓声があがる。
こうするのもトリカの提案だ。男が寿司を握る姿を見るのも、娯楽としてかなり面白いらしい。
だから、最初は少し少なめに配り、おかわり込みで満足してもらうという形式にしたのだ。
その代わり、俺はのんびり昼食を楽しめなくはなるが、その程度なら問題ないだろう。寿司を握りながらでも、簡単な会話は出来るしな。
――それから、俺以外のみんなは、和やかに昼食の時間を過ごしていった。人によっては涙を流しながら俺の握る寿司を食べているような人や、腹がはち切れるほど飲み食いしようとしていた人もいたが……まあ、その程度なら和やかの範疇ということで。
「じゃあ、順番に自己紹介しましょうか。言い出しっぺの私からいきますね。私はヒノキの母、ヒイラと申しまーす!仕事は研究者をしています。何を研究しているかは……秘密♡趣味は思いついたものを作ることと、息子にいたずらすることでーす!モットーは『常識を打破しろ』です!みんな、よろしくね!」
俺の母はハイと手を上げたまま、明るい調子で自己紹介した。
…うん。息子の俺が聞いていても全く嘘のない、完璧な自己紹介だ。
自己紹介では何の研究をしているか秘密とのことだが、俺すらも母が何の研究をしているのかは知らない。ノリと口の軽そうな母だが、それだけは絶対に教えてくれないのだ。
そのことを追求すると、教えてくれないと言うより、スポンサーの意向で教えられないというのが正しいらしい。
何を研究しているのかは謎だが、お金はそこそこ稼いでいるようなので、「実は優秀な研究員なのでは?」と俺は睨んでいる。
俺の母が、「では次の方どうぞ」とパスしたので、次はセリの母が自己紹介することに。
「あらあら。では、次は私が。セリの母、ポリインと申します。こんな老いぼれですが、仲良くしてくれると嬉しいわ。娘のセリもとってもいい子なので、娘ともどもよろしくおねがいしますね」
おばあちゃんはいつものようにニコニコした表情で、柔らかい声色で挨拶をした。その様子を見たセリも、自然と笑顔になっている。
この人は、お日様のような空気をまとっている人だ。一緒にいると、ぽかぽかと温かい気持ちになる。今もあの自己紹介によって、この場は優しい空気で包みこまれているのが分かる。
一見すると、とても優しそうな人に見えるし、実際にその通り、優しい人だ。だがそれ以上に、どこかただならぬ雰囲気を漂わせていて、優しさだけでは語れない何かを感じさせる人でもある。
聞いた話によると、おばあちゃんの人生は波乱万丈だったらしく、その長くて深い経験が、今の空気感をつくり出しているらしい。
だから、俺はなにか人生で行き詰まったら、自分の母ではなく、この人に相談すると決めている。俺の周りにいる大人の中で、いちばん信頼できる人だからな。
おばあちゃんが、次の人にバトンを渡し、今度はウツギの母が自己紹介することに。
「ウツギの育ての母、蓮華と申します。昔から少々頭が硬いと申されることもございますが……どうかご容赦くださいませ。華道を生業としており、日々、静と美を学んでおります。好きな言葉は『花鳥風月』と『品行方正』です。母、娘共々、どうぞ、よろしくお願いいたします」
蓮華さんはゆっくりと聞き取りやすい自己紹介を終え、深くお辞儀した。
お着物や態度から、凛と咲く花ような雰囲気を持つ、格式高い人だ。
この人が挨拶すると、場が少し引き締まる。
俺はあまりきっちりとした人と関わった経験がないので、どうも少しだけ緊張してしまうな。
「はあ……ママはこんな感じで取り繕っているけど、その実はただの売れない華道家だから、みんなそこまで緊張しなくていいわよ」
「こらウツギ!わざわざそんなこと言うんじゃありません!みっともないでしょう!」
そこから、食べ方に上品さが足りないだとか、もっと膝をくっつけて座りなさいだとか――ウツギに対しての礼儀指導が始まった。
ウツギも少し迷惑そうにしつつも、怒られてちょっとだけ嬉しそうだ。はは、なんだがウツギ、構ってもらいたくていたずらしちゃう子供みたい。
ウツギがああ言ったのは、あえて茶々を入れて、この場の空気を明るくしたというのもあるだろう。なんだか、ウツギのおかげで、蓮華さんがかなり親しみやすい存在として感じられるようになった。
ありがとう。ウツギ。
…まあ正直、寿司を食べながら号泣していたのはこの人なので、今の姿が取り繕っているっていうのは察してたんだけどな。だから、別にウツギがフォローしなくても……と少しだけ思ったのは内緒にしておこう。
そして最後に、ここに来てからほぼ言葉を発していない問題児、トリカの母が挨拶をする流れに。
彼女は「もうここで人生が終わってもいい」とでも言いたげな表情で、気合を入れて食べまくっていた人だ。もはや今までの自己紹介を聞いていたのかすら怪しい。
自然と彼女に注目が集まる。すると、トリカの母は「…自分の番か」と小さく呟いた。
それから――じっくり、溜めるにしても相当長い間、沈黙が訪れた。
「…カブトと言います。よろしく」
ぼそっと小さな声で、抑揚のない声で沈黙を破ったカブトさん。こんな自己紹介にも関わらず、「やりきった!」みたいな満足げな表情をしている。
…本人的には、「無難な自己紹介ができた!」と認識しているのだろうなあ。
あの長い沈黙も、内容の薄さも、まったく変だと思ってないのがすごい。独特の感性をお持ちのようだ。
「おいクソババア。相変わらず、まともに自己紹介もできないのね。というかねえ!おでこにご飯粒が付いていますわよ!どうやって食べたら、おでこにご飯粒なんてつくのよ!」
「…不覚」
カブトは歌手として有名人なので、彼女のちょっとズレた所、不器用さ、ダメさ加減、見栄っ張り加減は、みなの知るところだ。見栄も強がりも、歌の中では全部剥がれてるからな。
だから、何をしてもどこか許されてしまう人でもある。
要はカブトさんは、内心はまるでうさぎのような小動物なのに、モテたくて必死に自身を獅子のように見せようとしている、超不器用で残念な人、というわけだ。
…それに俺、この人に関しては、他の誰よりも理解度が深い自覚があるんだよね。
(どうもカブトさんは、前世の俺の父親と不器用さがそっくりなんだよなあ…)
だからか、普通の人よりも、内心が手に取るように分かってしまうってわけだ。
きっと今は「男の作った料理を食べられて嬉しい!」としか考えていないし、トリカと喧嘩をしているのも、「娘がかまってくれた!嬉しい!あ、私もそれ相応にちゃんと相手しなきゃ!」としか考えていないのだろう。
だから、俺は誰よりもこの二人の喧嘩を温かい目で見られるのだ。
――そんなメンバーで、俺たちは仲良く昼食をともにしたのだった。
次回予告:みんなで観光!




