家族集合!その3!全員が来た!
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ヨヒラが何かを言いかけてやめたからか、滑らかな会話のラリーがわずかに止まる。この場にほんの少し、不思議な沈黙が訪れた。
だが、そんな空気をまるで気にしていない人――俺の母が、そんな空気をぶち壊した。
「よく言ったわヒノキ!そう!その調子で、これからもどんどん常識を捨てていきなさい!」
こういう時、母の明るさはとても助かる。ありがたく俺のこの流れに乗っからしてもらおう。
「うん!これからはこんな感じでヨヒラと接していくわ!愛してるぜ!ヨヒラ!」
「ちょっと!?御主人様!?正気に戻ってください!」
ヨヒラは俺の頭を、手のひらでバンバンと叩く。
「…いてっ、痛い!やめてヨヒラ!俺は正気だ!」
そんな昭和の家電みたいに叩かないで!人間は殴ったら直るなんてことはないぞ!
ヨヒラが「本当に正気?」といった疑いの眼差しで俺を見てくるが、正気も正気だ。
あれなんだよ。俺もしばらくちゃんと考えてみたけど、なんだか本当に憧れも恋心も俺にとって変わらない気がしてきたんだよ。
だってさあ。俺がヨヒラに持っている気持ちは、「手の届かない高嶺の花への憧れ」というのが一番しっくりくる。テレビの中のアイドルや女優さんを好きになる気持ちみたいなもの。
それを前提に、よーく考えてみてくれ。
もしその高嶺の花の女性から「好きです」と好意を寄せられたら、みんなはどうする?
俺なら、きっと大喜びでお付き合いするだろう。みんなも、似たようなものじゃないか?
決して手が届かないから「憧れ」で終わるというだけで、相手から歩み寄ってきた場合は、一瞬で「憧れ」は「恋」に変わってしまう。
少なくとも、俺はそうだ。だから、母の言うように、俺にとって、憧れも恋心も一緒なのだ。
それに、俺がヨヒラに持っている憧れの気持ちは、セリやトリカに持つ恋心と同じくらい大きいものだ。
だから、もう別に俺はヨヒラが好きと言ってしまっても良い気がしてきたのだ。
いやあ…なんだかスッキリしたなあ。
「「ねえ?」」
ぽんぽんと肩を叩かれて、俺はゆっくりと首を傾ける。
右を向けば、仮面のような表情でニコニコしたセリ。左を向けば、ニコニコしながらも、こめかみに青筋がピキッと走っているトリカ。
…あっ。
「僕は、ヒノキが何をしようが別に良いんだけど、それでも先に恋人である僕に筋は通してほしかったな」
「あら?優しいですわね。でも、わたくしは基本的に、浮気は絶対に許しませんわよ?だって、わたくしという偉大な存在がいるんですもの。ねぇ?」
これは…あれか?
……詰んだ?
「ええっと……ごめんね?」
このピンと張り詰めた空気をちょっとでも和ませるために、両手をグーにして顎の下に置き、首をコテンと傾けて、あざとく謝ってみた。ほれ?我、可愛いだろ?許して?
「許さないよ?」「許しません!」
…はい、ですよね。世の中そんなに甘くない。
あーれー。
俺は別室に連れて行かれ、いろいろな意味で、こってりと、しっぽりと絞られることになった。
「…常識を捨てろとは言ったけれど、誠意まで捨てろとは言っていないのよね」
そんな母の一言が、俺のいない部屋で虚しく響いたのだそうだ。
◆
体感時間で言えば永遠、実際には三十分くらいで一旦許してもらった俺は、また次に来る母たちに向かってお出迎えするために、到着予定地の部屋へと戻った。
――それからは、続々と母たちが来訪してきた。
「あらあら、お出迎えありがとう」
「おばあちゃん!会いたかったよ!」
二番目に来たのはセリの母親。自身の母のことが好きなセリが、おばあちゃんに向かって飛び込み、抱きしめに行った。
この人を一言でいうと、地蔵のような人だ。
身長は小さく、糸目で、優しく穏やかで、いつもニコニコしている、お線香の匂いがする、懐の深い人物。
こんなの、おばあちゃんと呼びたくなってしまうだろ?
でも、どこか底の見えない人物でもある。
謎の人脈を持っていたり、過去が見えなかったり、普通の人なら知らない知識を知っていたり…
俺は勝手に、あの糸目が開眼したら、めちゃくちゃ強者になるのではないかと疑っている。
ほら?糸目が開くと覚醒するの、あるあるじゃん?
ま、これはあくまで勝手な想像だけどな。
そして、次に来たのはウツギの母親。お着物を着た、しゃんとした人というのが第一印象だ。
「ご招待ありがとうございます。蓮華と申します。今日と明日、よろしくお願いいたします」
きっちりと深く礼をした蓮華さん。動きに、どこか品の良さが感じられる。
ただ、俺に対しての挨拶だけ、少し様子がおかしかった。
「ご、ご、ごごごごごごご。れんげげげげげげげげげげggg……」
…え?バグった?
どうやら蓮華さんは、今までの人生で男性と接することがほぼなかったらしい。それで生の俺を見て、こうなったとのことだ。
いやあ……漫画みたいに目がぐるぐるになるもんだから、びっくりしたよ…
それでもなんとか俺に挨拶するために、最終的には部屋の端と端まで距離を取って挨拶することになった。
…それだけ距離をとっても、蓮華さんはかなりギリギリそうだったが。
そんな蓮華さんは、なんとか全員に挨拶をし終えると、まっすぐ娘のウツギに向かっていった。
「そんなことより、ウツギ!お説教の時間ですよ!最近、少しお下品ですことよ!服装の乱れは心の乱れ!わたくしがいる限り、そんな格好はさせませんからね!」
「ま、まあまあ、ママ。おちついて。ほら、お客様の前だし…ね?」
「……失礼いたしました。少し娘と話があるので、一度席を外させてもらいますね?」
「いやあああぁぁ……!」
そう言って、ウツギの耳を引っ張りながら、別室へと消えていった。
…強く生きろっ!ウツギ!
そして最後に来たのが、ある意味問題児、トリカの母――カブト。
なぜか出会い頭に俺に対して、「…これ」と、なぜか自分の写真を渡してきた。その後のカブトさんは満足げで、やり遂げた顔をしていた。
俺だから分かるけど、あの行動、俺へのアプローチのつもりなんだろうなあ……相変わらず異性に対しては斜め上に行動してしまうようだ。
「…」
「…」
そんなカブトさんは、無言で周囲に軽く頭を下げてから、トリカと机を挟んで向かい合った。二人とも足を机にドンと投げ出し、互いに睨みをきかせ合っている。
本当は行儀の悪さに怒ったほうが良いのかもしれないが……なんか、そんな下品とも言える姿が、この二人の場合、妙に絵になるんだよな。不思議だわ。
ま、これがこの人たちなりのコミュニケーションのようだから……存分にやってくれ。
ヨヒラの母は遅れてくるので、一旦全員が揃った。
さあ!存分におもてなしするぞ!
さて、と。まずは練習通り…
「皆さま。今日は私の招待に応じていただき、誠にありがとうございます。皆さまにはそれぞれお部屋をご用意しておりますので、観光をお楽しみいただくもよし、ご息女との交流を深めるのもよし、どうぞご自由にお過ごしください」
全員がこの部屋に集まり、それぞれが着席したので、俺は格式張った挨拶をした。
こういうときくらいちゃんとしないとと思い、挨拶は事前に考えてきたのだ。
「ヒノキ。取り繕った挨拶より、普段通りの息子の姿が見たいわ。そんな挨拶されたら、肩が凝って仕方ないもの。きっと、みんなもそうだと思うわ。ねえ皆さん?」
俺の母の言葉に、他の全員の母たちから頷きの反応がみられた。どうもこの挨拶は、あまり評判が良くないようだ。
ただ、ウツギの母、蓮華さんだけは俺の格式張った様子を見て、「そんなしっかりした挨拶もできるのか。好印象だ」みたいな反応をしていた。ただ、周りの空気を読んで、合わせて頷いたようだ。
どうも蓮華さんは、礼儀を重んじる人が好きらしい。
…でも、そんな蓮華さんも一度は了承したのは確かなので、ここからはお望み通り、堅苦しいのはなしで、普段通りでいかせてもらおう。俺としても、そっちの方がありがたいしな。
「じゃあ、最低限の礼儀だけはわきまえた上で、ここからは普段通りでいきますね。……コホン。それじゃあ、まずはおもてなしとして、俺から手作りの昼食を用意しています。それを食べながら、自己紹介でもしましょうか!」
俺がそう言うと、この場の空気がふわっと明るくなった。頬がポッと赤くなる人もいれば、目が情欲の炎でギラついたりする人もいる。
多分、男が作る料理を食べられるから、そんな反応なのだろう。
うん、最近料理を振る舞う機会がちょくちょくあり、そのたびに実感するのだが…
どうも男が作る料理には、俺が思っているよりもずっと価値があるらしい。いつも俺の思った以上に喜ばれるからな。
ま、俺も料理をするのは好きだし、それで喜んでもらえるならWin-Winだな。
次回予告:日本の国民食だ!さあ、涙を流して食え!




