歌姫楽宴!誕生日ライブ!誕生日ライブ3
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トリカによってマイクが渡されたので、まずは視聴者に向かって、軽く一言かますことにする。
「お前ら!下手とかトリカを出せとか言うの禁止な!そんなこと俺が一番分かってるから!文句を言わず黙って俺の歌を聞け!」
昔、トリカによって提供されたこの曲の名は【優等生のロックンロール】
俺の性格や考え方をトリカが考慮し、俺にピッタリの曲として作られたものだ。
初めてこの曲を歌った当時は、俺の存在が世間にはあまり認知されていなかった。
だから、世にも珍しい「歌う男」というだけで、とてもチヤホヤされたことをはっきりと覚えている。
ただ、今思えば、あの頃の評価は、不自然に良いものしかなかった。
きっと男という存在に気を使ったのだろう。
だが今の俺には、誰も気なんて使ってくれない。特に俺の視聴者は、普段から俺にかなり気安く接している。
だから、歌った後に厳しい評価を受けそうで、少し怖いな。
でも、ここまで来たらもう開き直るしか無いよな。
歌唱力には自信があるわけではないが、声量だけは自信がある。だから、腹から声を出して、勢いのまま歌わせてもらうぞ!
うん、トリカは準備オッケーそうだな。じゃあ…
「ミュージックスタート!」
ジャーン!
掛け声とともに、トリカがエレキギターをかき鳴らす。
この曲の構成は、エレキギター、ベース、ドラムの音が中心だ。
終始ノリの良いビートが奏でられ、サビには弾けるようなテンポで盛り上がるという流れだ。
まさに、王道。これぞ黄金のロックだ。
ただ、歌詞に関しては王道とは言えない。
なにせ、俺の本質は、ロックな生き方が好きなわけじゃないからな。
そんな等身大の俺に合わせた歌詞となっているため、少々カッコ悪い歌となっているのだ。
「女は片手で数えるくらいの人数だけでいい!」
俺は腹にぎゅっと力を入れて、最初のフレーズを歌う。
俺の歌う歌詞の内容を受け、女性たちからブーイングの嵐が巻き起こった。
…そりゃそうか。
男としてなかなか情けない言い分だし、女性からしてももっと男には積極的になってもらいたいもんな。
ただ、仕方ないだろ!これが俺の、偽らざる本心なんだよ!
俺は女性の飢えた獣のような目が嫌で、この惑星に一人でやってきたくらいなんだからな!
──でもさあ、なんだか、この状況。
ファンたちから大量に浴びせられる罵詈雑言のコメント、生声で俺にまで届く罵声。
それがなんだか、妙におかしく感じてきた。アドレナリンのせいで、感覚がおかしくなっているのかもしれない。ドーパミンのせいで、快感でテンションがぶっ飛んでるのかもしれない。
…ハハ、ハハハハハ!
気づけば、腹の底から笑いが込み上げてきた!
楽しい!歌うの、本当に楽しいぞ!
それにさあ、男がこんな激しいブーイングの嵐を浴びせられながら歌うことなんて、今までの長い宇宙の歴史の中で、一度でもあっただろうか?
いや、絶対にない!ある意味で、歴史が動いたと言ってもいいだろう。
それにだ。こんな情けない気持ち、普段では絶対に言えない!魂の奥深くから本心を発しているようで、すんごい気持ちいいのだ!
「男も女もバカばかり」「正直男を見る女の目が怖い」「一人にしてほしい」
俺が歌えば歌うほど、女性からのブーイングは激しくなっていく。
そして、俺はどんどん楽しくなってくる。
さて、そろそろサビだ!もっと腹から声を出して、気合を入れて歌うぞ!
「あくまでルールの中でちょっとだけ暴れる!それが俺のロックだ!」
サビに入るとともに、コメントとのレスバトルのような展開になっていく。
>みみっちい男だな!!
>情けないぞ!!
「うるせえ!俺なりのロックを笑うんじゃねえ!」
>そんなんロックじゃねえよ!!
>パチモンロックがよお!!
「うるせえ!ルールを守ってるやつのほうが偉いんだよ!」
>それじゃあつまらんだろ!!
>人生は楽しんでこそだ!ルールなんて二の次!!
「うるせえ!お前らメスにはついていけねえ!」
>オスは大人しくメスに喰われていれば良いんだよ!!
>抵抗するな!黙って従え!!
演出として大量の激しいコメントが形となって俺にぶつかってくるが、俺だって負けない。
情けなかろうが、この歌の歌詞のように、俺には俺なりのロックがあるのだ!
俺はこの生き方を曲げるつもりはない!
汗水垂らしながら、俺なりの歌い方で、俺は必死に歌い続けた。
さあ、そろそろこの曲も終わりだ。
最後にこの言葉で、この歌を締めよう!
「それでも!バカなお前らを、俺は愛してるぜ!」
「「「「きゃああああああ!!!!」」」」
この曲を歌って初めて、ファンたちから歓声が上がる。
何度も情けないことを歌わせてもらったが、この気持ちだって本心だ。
なんだかんだ、俺はお前らが好きなんだよ。
ふふ、こんな気持ち、恥ずかしくて、歌じゃないと言えないな。
最後の一節を歌い切ったので、後はトリカのギターの伴奏に身を委ねるだけだ。
少しの間、このつんざくような大歓声でも聞きながら、余韻に浸らせてもらおうか。
ジャカジャーン!ジャン!
これで、この曲は終わりだ。
はぁ、はぁ…
終わりを認識すると、腹の底からじわじわと達成感が湧き上がってきた。
それと同時に、アドレナリンによって誤魔化されていた疲労を、嫌でも実感してしまう。
一曲歌っただけなのに、この疲労感。
こんなにしんどいのに、よくトリカは何曲も歌えるわ。やっぱプロってすごい。
でも、少しだけ、トリカがなぜ楽しそうに歌うのかが分かった。
きっと今の俺のように、魂が震えるほどの達成感があるから、トリカは歌い続けるのだろう。
「ふふ。ノリノリで歌ってくれてありがとう。あなたなら即興でも歌えると信じてたわ。一度休んでなさい」
そう、まっすぐ目を見て褒められると、少し照れてしまうな。
……あれ?
いま、一度休んでなさいって言った?
ということは、もしかして、まだ出番があるってことか!?どうなんだ?トリカ!?
「さあ、ここからはわたくしの出番よ!あなた達みんな腰砕けにして、めちゃくちゃに楽しませてあげるわ!覚悟してなさい!」
そんな俺の心情などお構いなしに、とびきりの笑顔で、トリカはそう宣言した。
その後は、まさにトリカ劇場。派手で華やかで素晴らしいライブを展開していく。
今日のトリカは、火、水、電気、氷、土、風、などの原初の力とでもいうような現象を自由自在に操り、いつも通り派手に激しく歌っていた。
トリカがぱちんと指を鳴らすと、稲妻のような青白い電気を全身にまとい、見事な電気アートを表現し、観客を沸かせる。
そして、もう片方の手でぱちんと指を鳴らすと、今度は燃え上がる炎をまとい、会場中を炎で照らす。
トリカが片腕を上げれば、会場中を大きなシャボン玉のような水で覆い、まるで海の中で歌っているかのような演出を繰り広げる。
もう片方の手をあげれば、会場が氷点下となり、粉雪や氷の結晶で舞台を輝かせ、パンと軽く手を叩けば、土砂崩れの中、まるでサーフィンをするかのように、土を乗りこなすなど、いつものごとくやりたい放題だった。
そして、トリカのライブで欠かせないのは、”超没入型ライブ”という独自の形式。
俺は以前トリカのライブは”見る”ものでも、”聞く”ものでもなく、”参加する”と言ったはずだ。
これは、会場のみんなで協力し、トリカの演出する世界観に入り込むことによって、格別な一体感がでることからそう呼ばれている一面がある。
ただ、今回は観客が俺たちしかいない。
よって、いつものような、大量の観客を巻き込んだ派手な演出は出来ないのではないか?
心のどこかで、そうトリカを侮っていた。
ただ、いつでも期待を裏切らないのが、トリカの歌姫たる所以。
そんな状況でどうするのかと思っていたが、トリカはこの惑星にいる動物達を巻き込んでいつもの派手な演出を行ったのだ。
トリカが歌えば、自然とたくさんの生物たちが、トリカに寄ってきた。
蝶々たちが歌に合わせひらひらと舞い、小鳥たちもちゅぴちゅぴと共に歌い、家畜たちも各々鳴き声をあげながら、嬉しそうにトリカについていく。
植物でさえ、トリカの歌声にあわせ、ゆらゆらと揺れ、花を咲かせた。
その光景を見て、俺たちも負けじと、トリカについていったのだ。
全方位ホログラムによって、あるときはみんなで山の中で歌い、あるときは森の中でダンスし、あるときは空の上で口笛をふき、あるときは海底でスキップしたり…
誰もが、心から楽しんでいた。
クスネが尻尾を立てて小鳥を必死に追いかけたり、モグちゃんは穴をほったり出てきたり、キュキュは嬉しそうに水を操って小鳥たちと空で踊っている。
人間だろうが、動物だろうが、植物だろうが、関係ない。
まさにトリカは、全ての命を魅了し、導く、妖精の女王のようだった。
どこで歌おうが、どんな条件でも、トリカのライブに付いて行くのは大変で、最高だ!
そして、トリカが一時間ほど歌い、観客が存分にトリカのライブに満足した頃。
これから、もう一つのクライマックスである、ジュニアの点灯式が始まる。
次回予告:つながる惑星




