逃避不可!やってきた幼馴染!
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バカ恐竜の牙をナイフ扱いすることで、俺のスローライフは少しだけ進んだ。
俺の予想通り、牙は下手な石よりも強度があり、刃物として使いやすかったのだ。
やはりナイフというのはとても便利だ。何をするのにも使える。肉の解体にも使えるし、木材の大雑把な加工などにも使える。これなしでスローライフなんてできる気がしない。
ヨヒラからお裾分けされていた肉をナイフで切って、自分でなんとか焚き火を起こし、肉を焼いて食べてみたが、とても美味しかった。機械やシェフに任せてできた完成度の高い料理もいいが、自分で苦労して自炊した料理はまた違った良さがあるものだ。
いやぁ…美味しかったなぁ…
こういう感動を味わいたいから、俺はこんな不便な生活をしているといってもいい。
なんだか俺、とてもスローライフしてるっぽいぞ!成長してる!俺の人生、順調だ!
…ということで、配信ボタンぽちー。
「よーし、今日もスローライフを満喫していくぞ!」
>いきなり始めるな
>最初は視聴者に挨拶くらいしろ
>今日も楽しみ
>ねぇ…上空に、なんか宇宙船みたいなの飛んでない?
「え?ここに宇宙船なんて来るわけないぞ。だってここ、相当辺境だしね。それに、もし俺の配信を見てここへ来ようと思ったとしても、あまりに辺境すぎて、どの惑星から出発したとしても、最低一ヶ月はかかるはずだよ」
>その惑星、辺境すぎないかwww
>あまりに遠すぎる
>でもあれ、宇宙船にしか見えないけど…
「そんなに言うなら見てみるけど……うん、確かに何か飛んでるね。鳥とかじゃないのかなあ?………んん!?よく見たらあれ、どう見ても宇宙船じゃん!なんで!?」
しかも、なんだか見たことのあるタイプの宇宙船だ。なぜか俺の所有する宇宙船と瓜二つだ。違うところといえば、色くらいなものだ。
俺の宇宙船は、自分で一からオーダーメイドで作った、俺だけのオリジナル。この世に二つとあるものではない。
それなのに、俺の作った宇宙船と色以外はまったく一緒だぞ?俺の宇宙船のことを知っていなければ、あんなの作ることはできないはず。
そもそも、俺が昔宇宙船を衝動買いしたときに立ち会った人なんて、思い当たるのは一人しかいない。
…え、もしや…?
まさか、あいつか?
俺の背中に冷や汗が伝う。
いやいや…そんなまさか…
だって、まだこの惑星に着いて二週間くらいしか経ってないんだぞ!
それに、そもそも俺は、この惑星に来るということを誰にも言っていない。逃げるようにやってきたのだ。
だから、もし気合の入ったやつが俺の居るところへ来ようとしたとしても、俺の配信を見て、俺の居場所を把握してからじゃないと、絶対に来れない。
二週間でここまでやってくるなんて、距離的に不可能なはずなのだ!
……え?じゃあなんでそこにいるの!?考えれば考えるほど、意味がわからない!
俺の中で疑問がどんどん大きくなるにつれ、宇宙船もどんどんこちらへ向かって飛んでくる。
そして、あの宇宙船は俺のすぐ近くに着陸した。
数秒後、宇宙船の扉が開く。
そこから出てきたのは、俺のよく見知った「幼馴染」の姿だった。
「来ちゃった♡」
ヒエッ。
その一言だけで、俺は寒気がした。
俺がここに来た理由。それは「女にカモにされるから逃げてきた」と以前語っただろう。
その逃げてきた主な相手というのが、こいつなのだ。
こいつの名前はセリ。簡単に言うと…まあ俺の幼馴染のヒモ女だ。
俺と一緒に住んでいた同居人で、俺の金で一日中ゲームばかりしていた廃人ゲーマーでもある。俺の人生の中で一番、俺の稼いだ金をむしり取った女だ。
見た目は白くて長い髪にジト目のような灰色の目つき。年中黒いマスクをしており、温かそうな半纏のような服を着ている。性格は子供っぽく、面倒くさがり。寝癖を直すことすら億劫に感じるようで、いつも頭にアホ毛のような寝癖がついているのが特徴だ。
「よ、よおセリ。よ、よく来たな」
>声震えていて草
>知り合いなのか?
>絞り出すようなか細い声で草
「ねえ?幼馴染の僕になにも言わず勝手に遠い所に行っちゃうなんて、ひどくない?」
「いや、俺はセリから逃げるために行動したんだよ!」
「ひどーい。女の子にそんな事言うなんて」
およよよ、とわざとらしい泣きまねをするセリ。白々しい奴め。
>男と幼馴染なんて…この女、勝ち組じゃん
>まあ実際は幼馴染だろうと、男はそっけないけどな
>幼馴染の男が自分にだけ優しいっていうのは、物語の中だけなんだよなぁ…
「というかさ、そもそも宇宙船なんて持ってなかっただろ?あと、旅費はどうしたんだ?」
「ママとお姉ちゃんにお願いして、援助してもらった!」
「…はぁ…相変わらずあの家族、セリのこと甘やかし過ぎだろ…」
このセリという女は、なぜかやたらと家族に愛されているのだ。そのせいで、大体のおねだりは通ってしまう。宇宙船なんて安い買い物じゃないのになぁ…
「でも、ヒノキも僕を甘やかしてたよね」
「それは…まあ、嫌々ね」
「ほんとにイヤイヤだったの?僕にはそうは見えなかったけど…」
セリはニヤニヤとからかってくる。
うっ。たしかに。
実は、セリを甘やかすのは、そんなに嫌ではなかった。
この幼馴染のセリは、子供っぽく面倒くさがりという悪いところも確かにある。でも、ずっと一緒にいても苦にならないし、意外と気もあうのだ。
俺はかなり仲の良い友達だと思っている。
まあ、俺がそう思っているだけで、セリの方は明らかに友達以上の関係を求めてきていたが…
この世界の男と女というのはそういうものだから仕方がないけどもさあ…なんだかなあ…
そんなセリは、誰に対してもとても甘え上手だ。甘えられた方は、必要以上に頼ってくれる感じがして、ついセリを甘やかしてしまう。だからセリの家族は、セリに甘いのだろう。
まあそんな俺も、セリを進んで甘やかしていた気もしなくもない。ただし…
「いや、俺はそのデカいおっぱいに負けただけだから!」
「…幼馴染だけど、なんでこんな脂肪の塊なんかに弱いのか、心底理解できないよ…」
>でかい声で情けないこと言うな
>ほんとに、なんでこいつはこんな脂肪の塊に魅力を感じてるんだよwww
>男としてあまりに情けなさすぎるwww
そう、セリは胸が大きい。はんてんの上からでも胸の膨らみが丸わかりだ。あの脂肪の塊に、俺はいつも勝てないというわけだ。
男女比が1:10のこの宇宙では、一般的に女性の大きな胸にそこまで価値はない。なんなら巨乳は女性らしさを感じて嫌だという男がほとんどなのだが…
あいにく、俺は前世の記憶を持っている。
だからさ、仕方ないんだよ…前世の男なら分かってくれるはずだ。ね?分かるよね?…分かるって言え!
「というかさ、こんなに早くどうやってきたの?理論上ここに来るのには、一ヶ月はかかるはずだよね」
「それはねぇ…ふふっ。僕のヒノキを想う切ない恋心が、理論を超えただけだよ」
ウインクしながらそう答えるセリ。言動が完全にふざけてる。
…ふざけているのは分かっているのだが、俺はそういうのに弱い。ウインクに普通にドキッとしてしまった。
>簡単に理論なんて超えないで
>あっ…これは恋する女の目じゃない。獲物を狩るときのハンターの目だっ…!
>メスの性欲は理論を超える。この宇宙の常識
>せっかくの男は大事にしないとね
「まあ実際は、ヒノキが消息不明になったその翌日から、僕なりの方法でヒノキを探してみたんだよ。ヒノキを逃がす気なんてサラサラなかったからね。でも、ヒノキの偽装工作のせいか、どこか遠くへ行ったということしか分からなかった。手詰まりになった僕は、藁にも縋る思いで、“占い”に頼ってみることにしたんだよね」
「おいおい、占いって…そんなの今どき誰も信じてないだろ…なんで占いに頼ろうと思ったんだよ」
「その時ハマっていたゲームで使っていたキャラが、たまたま占い師だったから思いついたんだよね!いやぁ、一か八かだったけど、占いを信じて良かったよ。たまには占いも当たるもんだね。まあ占いと言っても、棒が倒れた方向に向かって、宇宙船で進んでいっただけなんだけどね」
「はあ!?お前まじか!この広大な宇宙で、そんな方法で俺の居場所を突き止めるなんて、奇跡だろ」
「僕、運は良いし、勘は鋭い方だから、占いと相性は良いと思ってたんだー」
>それ、占い?ギャンブルじゃね?
>そんな方法で来るなんて…イカれてやがるっ…!
>ヒノキは逃げ出した!しかし幼馴染からは逃げられなかった!
この宇宙において、占いはただの娯楽だ。理論や統計学などの、根拠は一切ない。当たったらラッキー、外れるのが普通。それでも皆、娯楽だと分かっていて占いを楽しんでいるのだ。だから、本気で占いを信じている人なんていない。
それなのに、どうやらセリはそんな占いに身を任せて行動したらしい。しかも棒が倒れた方向に進むだけという、シンプルな方法でだ。
「そこまでして来るとは…そんなに俺を財布扱いしたいのかよ…」
「ちょっと!僕をヒモ女扱いしないでよ!ヒノキが私に自主的に課金してくれただけでしょ!でもまあ、今回はそんな心配はしなくて大丈夫だよ!僕も今回はヨヒラさんに倣って、どこか近くに住むことにするから。いいよね?」
「ヨヒラに習ってってことは…ああ、配信は見てたんだ」
「うん。配信してくれたおかげで、詳細な位置が分かったから助かったよ!」
「そりゃ占いだけで、ここまでドンピシャには来れないか」
「そりゃあね…でも、かなり近くまで来れただけでラッキーだったよ。で、結局近くに住んでいいの?」
「そりゃまあ別にいいけどさ…セリが俺と一緒に住まないなんて、どういう風の吹き回しだ?」
普段のセリなら真っ先に俺に家へ転がり込んで、ダラダラ俺からお金をせびりながら、ゲーム三昧すると思ったのだが…
「だって、あの家住みにくそうなんだもん!」
「おい」
>草
>そりゃそうかwww
>私もあのログハウスは不便すぎて住みたくはないなw
いやいや…分かってないなあ…確かにあのログハウス、今はそんなに住みやすくはない。
けど、あのログハウスは、俺とともに成長していくんだ!ちょっとずつ良くしていくのが楽しいんだよ!
しかも、ログハウスというのはとてもロマンがある!男のロマンだ!こっちの理由のほうが俺の中では大きい。
「ということで、じゃあ…地面に棒を軽く刺して、と……うん!東ね。じゃあ、僕は東の方に住むことにするよ!」
>なあ?これってほんとに占い?
>実際これでこの惑星にまで近づいたんだから、効果はあるかもしれないぞ
>なんでこんな単純なことで一ヶ月かかるのを二週間に短縮できたんだよ…
いや、ちょっと思ってたけどやっぱりさあ……
それは断じて占いではない!本物の占い師に謝れ!
次回予告:おじさんどんどん貢いじゃうぞ~




