土産選択!そんなの買わないで!
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「大丈夫?」
俺の心情を察したセリが、俺に心配の声をかけてくれる。
「まあ、大丈夫ではあるけど、ちょっとムカついてはいる」
どうも、割り切れない思いが、モヤモヤと胸にくすぶって仕方がない。
当の本人のウツギは、日々を強く生きている。だから、こんな事、気にもしていないのだろうがなあ…
あ、でも。そういえば、あの時…
ふと、ウツギの家に案内された時に言われたことが頭によぎった。
『性欲や本能に負ける女にだけはなりたくない』
そう決意に満ちた目で俺に語っていたウツギ。
きっとこの言葉の背景には、この駄目な母親の存在があったのだろう。不思議と、そんな確信がある。
そんなふうに俺がやりきれない感情にモヤモヤしていると、セリが穏やかな表情で、そっと俺に寄り添ってくれた。
こういう時、人のぬくもりが本当にありがたい。ささくれだった心が穏やかに整っていくのが分かる。
「やっぱり、俺はもう寝るわ。ゴメンな、セリ。なんだか、今から勝負をする気になれそうにないわ」
「うん。わかった。おやすみなさい」
俺は目を閉じながら、ぼんやりと考える。
もし自分がいつか子どもを持つことになったら。
ちゃんと考えて、ちゃんと向き合って。
その子には、宇宙一幸せになってもらいたい。
柄にもなく、そんなことを頭に浮かべていた。
セリに抱きしめられながら、その温かみに安心しているうちに、いつの間にか俺は穏やかに寝息をたてていたのだった。
◆
次の日。
ぐっすりと寝たおかげが、昨夜とは打って変わって気分がいい。
現在は朝の七時。この街ではちょうど朝日が登る時間だ。
この惑星では、朝と昼の時間は少なく、夜が長い。
この惑星の一日の周期は、多くの惑星と同じく、二十四時間周期だ。ただ、特殊な人工恒星(人工の太陽)の動かし方により、明るい時間はおよそ朝七時〜正午十二時の間の、約五時間だけ。
それ以降は、再び朝の七時が来るまではずっと夜だ。
このため、日が沈んだ後の長い夜が、人々の主な活動時間となっている。多くの住民は朝と昼に眠り、夜に目を覚まして活動するという、夜型のライフスタイルが定着しているのだ。
だから、こんな明るい時間に目が覚めても、街は静まり返っていて、やることがない。
「ヒノキおはよう。僕はそろそろ賭けをやめて、仮眠でも取ろうと思っていたけど…ヒノキも起きたことだし、僕も活動を始めようかな」
驚くことに、どうやらセリは、夜通しネペンテラスチャンネルで遊び倒していたようだ。
まだ一睡もしていないらしく、そして、今日も徹夜で観光を楽しむ気満々だ。
いやあ…若いなあ。
ま、同じ歳なんだけどね。
それにしても、セリはこの都市に来てから、完璧にこの特殊な環境に適応しているな。
このセリのあり様は、まるでここで長年過ごしている、猛者住民かのようだ。
「おはよう。俺だけ寝ちゃってゴメンな?セリも寝てないようだし、ちょっと寝たら?」
「大丈夫。僕って睡眠時間がいっつも不規則だから、多少寝なくても平気なんだよね。それに、最悪眠くなっても、エナジードリンクを飲めば眠気なんて吹っ飛ぶから、なんの問題もないよ」
「…そう。まあ、エナジードリンクは程々にな」
個人的には、セリにも規則正しくたくさん寝る生活をしてほしいと思っている。だが、こういうことって、強制させるものでもないしな。各々のやりたいようにやるのが一番だ。
さて、今日の本来の予定についてだ。
本来は、朝日が昇るとともに寝て、昼頃に起き、お土産を買ってから、ちょっとだけ遊んで、帰るという流れだった。
その予定は俺が寝てしまったことによって崩れてしまったし、セリも今から寝る気はなさそうなので、予定を変更しなければいけない。
「さて、これからどうするか…店も開いてないだろうしなあ。うーん…」
「じゃあさ、軽くこの街の静かな朝を散歩しながら、チップショッピングでこの都市特有のお土産でも買わない?」
「いいね。そうするか」
チップショッピングとは、要するに前世でいうネットショッピングのようなものだ。
チップさえあれば、二十四時間、いつでも買い物ができるのだ。
そして、多くの観光地には、現地でしかアクセスすることの出来ない、観光客向けのお土産屋が沢山ある事が多い。
この都市もその例に漏れず、俺達はそれを活用して、お土産屋を巡ることにした、というわけだ。
とはいえ、個人的にはやっぱり、お土産は自分の足で実際に店を回って選ぶのが好きだ。
というのも、観光地のお土産屋って、商品だけでなく、店そのものにも楽しめる工夫が凝らされていることが多いんだよね。
チップショッピングでは、そういった店の独特な空気や体験を味わえない。
だから、チップショッピングの利用は、あくまで苦肉の策なのだ。
まあでも、こうなったのも俺が原因だしな。割り切って、今できることを全力で楽しんでいこう!
「さて、準備オッケー。行こうぜ」
「うん」
俺達は手をつなぎ、ホテルを出る。
昨日も歩いた道と同じ道を、セリとゆっくり歩く。それだけなのに、これが意外と面白い。
というのも、この都市は、夜と朝では別世界だからだ。
夜にはきらびやかに光るネオンライトのような照明や、都市を歩いているだけで札束が降ってくる演出、人の怒号や叫び声など、とにかく騒がしかった。
ただ、この都市の朝は、それらが一切聞こえてこないのだ。あまりに今この場所は、閑散としている。
ギラギラした街が、一夜にしてこれだけ変わるとは…
そのような感想を他愛もなく話しつつ、色々なお土産屋を物色しながら、何を買うかをセリと話し合う。
「この店のお土産は、酒、タバコ系、音楽、お香、ライト系のものが多いな。俺は食べ物とか買いたかったんだけど…そういうのは種類が全然ないな」
「確かに食べ物系のお土産は、眠気覚ましチョコとか、カフェイン大量配合のシリアルバーとかくらいしか見つからないね」
どうもこの都市は、食にあまりこだわっていないらしい。
実際俺達もこの都市では食事という食事はしておらず、色々なお酒と酒のつまみや、サンドイッチなどの軽食を食べて腹を満たしていた。
食べることが大好きな俺だが、その点については、そこまで不満はない。
だって、ただ必要以上に食に力を入れていないというだけで、普通に美味しいレベルのつまみや軽食を食べることが出来たからな。
それに、俺達のメインの観光目的は、駆け引きを楽しむことだ。
こだわった御当地グルメのようなものは、最初から期待していなかったのだ。
「でもその割には、お酒は大量に種類があるなあ。一転して凄いこだわりようだ」
「いろんなお土産屋をざっと見てみたけど、どうもこの都市は、酒とタバコと音楽にはこだわっている傾向があるみたいだよ」
確かに、カジノで飲むお酒は美味しかったし、この都市で作られたタバコを吸っている人も多くみかけた。
カジノでかかっていた陽気でジャラジャラとした音楽も雰囲気にぴったりで、俺自身、自然と気分が高揚したのを覚えている。
きっと、どこのギャンブル場でも“雰囲気づくり”を重視しているのだろう。だからこそ、この街では酒やタバコ、音楽といった要素に、自然とこだわりが生まれたのかもしれないな。
「よし!俺はここらへんから適当におすすめを選んで買おうかな」
「うん。僕もそうしよう」
今回は前回のバーチャル旅行のときのような買いすぎに注意しないとな。
俺はまず、母に送るために一番人気の酒やタバコや音楽を買う。
身内のお土産なんて、とりあえず一番人気のお土産を渡しておけばいいと相場が決まっているからな。
後は、惑星にいる皆に何を買うかだ。こっちは多少こだわりたいな。
とりあえず、酒は多めに買っておこう。みんななんだかんだ酒好きだし。
でもそれだけじゃなんだか味気ないよな。
それぞれの喜びそうなものを追加で買うか。
ヨヒラは実用品などより、その都市独特の雰囲気があるもののほうが喜びそうなイメージがある。ということで、この都市のロゴが入ったカジノチップのレプリカと、ポーカーセットやダイスなどを買おう。
こういうのって、小物として置くだけで、雰囲気が出るからな。
ウツギには食べ物!…と言いたいところだが、この都市は食べ物にそこまで力を入れていないからな。
さて、どうするか。
そういえば、ウツギって最近香水作りにハマってたよな…
よし!じゃあこの香水にしよう!
この香水は俺がカジノでカモにされたエロエロお姉さんが身につけていたものと同じもので、退廃的で官能的な香りのする、高級な香水だ。
さて、後はトリカにあげるお土産だが…
実は、個人的にトリカに贈りたい物なら、もう見つけてある。
ただ、これなあ…
こんな俺の欲望を叶えるためだけのものを送るのって、どうなんだろう。
うーん…
まあ、良いや!買っちゃおう!なんならセリの分も合わせて、二つ買っちゃえ!
え?何を買ったのかって?
そりゃもちろん………秘密だ!
恋人になったんだから、こういうものを送っても…良いよね?
次回予告:ネタバレ。セリに秘密がバレないなんてことは、決して起こらない。




