表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】異世界に聖女として召喚されましたが、私はただのアラサー女です   作者: ユタニ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/91

59.息子目線の母親像について


「はああああぁ」

激励会から数日が経ったその日、お昼前の図書室にて、私は長いため息を吐く。

「アンズさん、大丈夫ですか?やはり、帰った方が良くないですか?今朝の件もありましたし」

グレイの叔父であり、図書室長でもあるヘラルドさんが心配そうだ。


「今朝?あ、落書きの件ですね」

今朝の件、と言われて、私は一瞬きょとんとしたがすぐに思い当たった。


今朝、図書室ではちょっとした騒動があった。

ヘラルドさんが1番で出勤して来ると、入り口の案内板に私を誹謗中傷する落書きが書かれていたのだ。


落書きの内容は、「バーカ、バーカ」みたいな内容で、子供の悪口のレベルの誹謗中傷。

なので内容自体は、気分が悪いわね、で済むものだったのだけれど、ここはお城の図書室、誰かが忍び込んで書いたのなら問題なので、騎士団に知らせが行き、現場である図書室は少しざわついた。


結局、図書室の窓や出入り口に異常はなく、侵入者の形跡はない、という事で落ち着く。

城に勤める者であれば、朝の出勤時、早めに来て図書室に入る事は可能ではあるので、嫌がらせの類いかなあ、との事。


「アン、今日はもう帰るか?」

嫌がらせ、に落ち着いた所で、グレイが言う(私絡みだったので、団長が来るような案件じゃないけど、もちろん来ている)。


「いえ、ただの嫌がらせなら、帰るほどじゃないです。これだけ、大事になっちゃったし、次からは止めてくれるでしょう」

うん。止めるだろう。

正直、私は今回の事は、図書室の受付レディ達の誰かがやったのかな、と思っている。

レディ達の中には、あんまり私を良く思ってない子もいるので、そういう子がやったんじゃないかなあ、と。それなら、騎士までやって来て、今頃びくびくしてる筈だ。

もう、こんな事はしないだろう。


「働きに来てるんだし、仕事しますよー」

そう言って、グレイを追い返し、「やはり、グレイのいう通り、お休みしては?」と言ってくれるヘラルドさんに「平気です」と返して働いていた所なのだ。



「このため息は、今朝の落書きの事でじゃないです、マリッジブルー的なやつです。いや、違うか、マリッジブルーではないですね。マリッジに向けての悩みですね、ん?それってマリッジブルーですかね?」

こんがらがる私。

グレイとの結婚まで、2ヶ月を切り、最近はその準備でも忙しい。

そして、その事で、今朝の受付レディの落書きなんて、どうでも良くなるくらいの重たい案件があるのだ。


「式に関わる悩みですか?」

「そうですね。式の準備のお手伝いにグレイの両親が、主にお母様が領地からこちらにやって来るんです」

答えてから、私はまた、ため息をつく。


今回の結婚式、神殿で婚姻の儀式を行った後、カサンディオ邸でお披露目の宴を開くのだが、その規模は侯爵家としてはかなり小さいものになる予定だ。

なぜかと言うと、私の交遊関係がとても狭いからだ。

知り合いと親戚だけ来るこじんまりした宴になるのだが、それでも、こちらの世界初心者の私には勝手が分からない事が多い。

もちろん、グレイはいろいろ手伝ってくれるのだけれど、結婚式ってやっぱり花嫁の意見を聞かれる。


ウェディングドレスのトレーンの長さどうする?とか、お花どうする?とか、お花の本数どうする?とか、から、招待客の席順どうする?(こういう所は前の世界と一緒よね)まで。


トレーンの長さ?本数?と、戸惑う事が多い上に、結婚ともなると、時々「実家の両親に知らせてあげたかったなあ」なんてセンチメンタルな気分にもなって、こっそり落ち込んだりしていた。

両親とは20才くらいからすっかり疎遠だったのだけど、結婚ともなると喜んでくれただろうと思う。


そんな私の状況が、どうやらセバスチャンからグレイのお母様に伝わったようだ。


〈もう爵位も譲った息子の嫁であるし、あまり干渉はしないでおこう、とは考えていたけれども、聖女様であるアンズさんは事情が特殊だし、いろいろ不慣れでしょう。顔もまだ合わせていなかったし、これを機会に仲良くしましょう、云々……〉

みたいな丁寧なお手紙が届き、式の1週間前に来るはずだった、グレイの両親が時期を早めてやって来る事になったのだ。


「、という訳で、3日後にご対面なんです。今から緊張してるんです」

「ああ、なるほど」

ヘラルドさんは穏やかに笑う。

そして言いやがる。


「大丈夫ですよ。義姉のチェルシーさんは、とてもいい人ですよ」

にっこり、にこにこ。


ええ、ええ、それ、グレイにも言われておりますよ。

「大丈夫だ、アンズ、母上はとても良い人だ」

とね。

でもさ、でもね。

それ…信用出来るかしら?


出来ないよね、出来ないよ。息子目線の母親像、信用なんて出来ないよ。

絶対に変なフィルターかかってると思う。

もちろん、義弟目線の兄嫁像も然り。

ええ、然り。


グレイは、母親に関しては「とにかく良い方だから心配するな」の一点張り。

おまけに、父親の前侯爵様になると、「父上は少し感じが悪い。すまない、先に謝っておく。アンには関わらせないようにするし、恐らく関わっては来ないから心配しなくていい」と言われてしまった。


ううむ、この対面、怖さしかない。


「はああ、嫁の気持ちなんて、ヘラルドさんには分かりませんよ。前侯爵様は少し怖い方らしいですし……」

「あー、そうですね、兄上は少し取っつきにくい、というか、うーん、感じが悪いです」


やっぱり、そこは、そうなんだ。

息子と弟の語る、父像、兄像はしっかりしてそうなだけに、それも怖い。


「あ、参考までに、お二方の外見ってどんな感じです?」

「外見ですか?」

「はい、そっちの心構えもあった方がいいかな、と。カサンディオ邸には肖像画とか無いんですよね」

前侯爵は肖像画を嫌う方だったらしい。


「ふうむ、チェルシーさんは、そうですね、チャーミングで温かそうな方です」

ふむふむ、温かそう?赤毛なのかしら?


「兄は、そうですねえ。目付きは悪いですね」

「はあ」

ヘラルドさん、こういう描写苦手なのね。


「ヘラルドさんは、前侯爵様の弟さんですよね、ヘラルドさんと前侯爵様は似てますか?」

私は助け船を出してみる。


「どうでしょう、笑った顔が同じだと、子供の頃には言われましたが……目元は似てるかな」

ふむふむ、じゃあ何となく似てるのね。

と言うことは、グレイはお母さん似なのかしらね。グレイとヘラルドさんは似てないものね。


グレイは、ワイルド系イケメンだけど、ヘラルドさんは親しみのある顔立ちというか、何というか、所謂、じゃがいも顔だ。

私は、ヘラルドさんの目付きが悪い版みたいなお義父様と、男顔美人みたいなキリッとしたお義母様を想像する。私の不安を反映してか、お義母様の目付きも鋭くなってしまう。

ふむ、怖そうな2人になってしまったけど、これで3日後に備えてイメージトレーニングでもしよう。


「ありがとうございます、ヘラルドさん、ちょっと元気出てきました」

「それは、良かったです」


そうして、私は仕事の合間に、姑と舅のイメージトレーニングに励んだ。






***


そして3日はあっという間に過ぎる。

今日はグレイの両親と初顔合わせの日。私は朝から侍女長推薦の感じの良いドレスを着て、ソワソワしている。お二人は先ほど屋敷には到着されたようだ。


「アンズ、父と母が着いた。応接室でお待ちだ」

グレイが私を部屋まで迎えに来てくれて、2人で応接室へと向かう。


ふうー、ドキドキするわね。

仲良く出来たらいいな。今さらだけど、やっぱりお義母様は、グレイの語る母親像の通りの人だといいな。


「母はとても良い人だから、何も心配しなくていい」

緊張の面持ちの私に、グレイが再度そのように言ってくれる。

ありがとう、グレイ、でもそれ、まだ信用は出来ないの。なんて思いながら、私は応接室の扉を開けた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ