54.続 ありがちなお茶会
長くなったので2つに分けました。
本日2話目です。
「リサちゃん、南央部の遠征って第二王子は?一緒に行くの?」
夜会に行く事になってしまったショックから立ち直った私はリサちゃんに聞いてみた。来月なら王子の謹慎も明けるわよね。
「行くはずっすよ。私のお世話係りは外れてるんで、会う事はないんですけど、、、」
リサちゃんは、そこで少し目を伏せる。
、、、ん?
リサちゃん、少し、寂しそう、かしら?
「会わないと、寂しい、、とか?」
そう切り込んだのは、フローラちゃんだ。
いいわね、良い切り込みだわね。
「あー、いやあ、居たら絶対に鬱陶しいんすけどねー、まだ絶交中ですし」
「まだ絶交してるの?残念だけど、悪い人じゃないわよ、残念だけど」
「ふふっ、アンズさん、残念を強調しすぎっす」
「謹慎も大人しくしてるって、グレイは言ってたわよ。あ、ローズは少し第二王子の身の回りのお世話したのよね」
「ええ、第二王子殿下に全くチヤホヤしない侍女を入れて欲しい、と第一王子殿下直々に要請がありまして」
クールにそう答えるローズ。
「チヤホヤされるのねえ、残念なのに」
「アン、第一王子殿下は幼い頃より自分を律する事の出来る、王の器をお持ちの方でした。第二王子殿下は、そのスペアとして、そして軍を掌握する王子として幼い頃より育ちました。少し教育は偏っていたと思われます、残念なのは本人のせいだけではないでしょう」
「ローズさんも、さらっと、残念って言うんすねー」
「真っ直ぐな方ではあると思います。平民出身の私にもいちいちお礼を言ってくれました」
残念は否定せずに、褒めれるとこだけ褒めるローズ。ほんとクールだわ。
「あー、そういうとこ、あります」
「私の名前は終始、間違っておられましたが」
「「「あー」」」
ここは全員で納得だ。
そういうとこ、だから、そういうとこだぞ、王子。
「愛着は湧く人なんすけどねぇ」
リサちゃんがしみじみする。
「あれね、“役に立たないものは、愛するほかないのだから”ね」
「うわ、なんすか、そのカッコ良さげなやつ」
「ふふふ、詩の引用よお」
どや顔の私。
「詩?さすが大卒のインテリっすね。でも、アンズさん、フェンデルは役には立ってたと思いますよ?」
「あー、ロイ君も指図の手際はいいって言ってた」
「ロイ君!あの、飯ごうくれた、イケメンっすよね」
知ってるぞ、と身を乗り出すリサちゃん。
「そうよ、うちの爽やかイケメンよ。あ、こちらのフローラちゃんの夫よ」
「えええええ!!!」
リサちゃんが目をひん剥いて驚く。
「ええっ、ほんとに?フローラと、飯ごうのイケメンが?あっ!じゃあ、フローラが悲劇の恋人?うっわあ、人形劇の人!人形劇の人っすよ!アンズさん!!!
くあっ、マジかあ!分かりますかね、今の私の気持ち、分かりますかね!ほら、マブダチだと思ってた2人が実は付き合ってた、みたいな感じっす!分かりますかねえ」
大興奮のリサちゃんだ。
そして、そこからはフローラちゃんとロイ君の馴れ初めについて、フローラちゃんをつつきまくるお茶会となった。
***
コンコン。
お茶会が終わって、レディ達をお見送りし、片付けを手伝ってから、私はグレイの執務室をノックした。
ローズ達が帰って、人恋しい上に、お茶会でグレイの事をしゃべったせいで何だか無性に会いたくなったのだ。
そういうの、ない?
友達に彼氏の事話してると、本物に会いたいなあ、ってなるやつ。
あるわよね。あるのよ。例え同じ屋根の下で暮らしていても、あるのよ。
「どうぞ」
お馴染みの低い声がして、扉を開けて入る。
「アンか」
中に入るとグレイが、書類から目を上げて、読みかけのそれを脇へと置いた。
本日は休日仕様のラフなシャツ姿で、その袖を優雅にまくっているカサンディオ侯爵だ。
イケメンの腕まくり、いい。
おまけに見えてる腕は、がっしりしてて、いい具合に血管も浮いている。
すごく、いい。
これで、眼鏡でもかけてたら、完全にノックアウトだったと思う。
脳内で勝手に、銀縁の眼鏡をかけてみる。
、、、、、、。
っかーーーー!ヤバイな。
「お邪魔でしたか?」
平静を装い、腕をガン見しながら聞く私。
「いや、父上からの領地の報告を読んでただけだ。どうせ今日は麗しいレディ達に君を取られてしまったからな。茶会は済んだのか?」
「はい、先ほど散会しました」
「それで、淋しくなって俺の所に来たのか?」
「あー、まあ、ソウデスネ」
私は素直に認める。
ここは、フローラちゃんなら「ち、違うわよ!そっちが淋しいかな、と思って来てやったのよ」で、リサちゃんなら「何いってんすか、バーカ、バーカ」くらいだろうか。どちらも中々可愛いけれど、私はもう28才、強がりませんよ、素直に認めますよ。あ、そしてローズなら、そもそも来ないと思う。
グレイは私の返答に一瞬驚いた顔をしてから優しく微笑む。
くうーーーっ、いい。
ドキドキしていると、立ち上がってこちらに来てくれて、おでこにキスをしてくれた。
「一緒にお茶にするか?」
「先ほど、飲みましたよ、たっぷり」
私の髪に唇をつけたままグレイが笑う。
「そう言わずに、俺の茶にも付き合ってくれ」
「えー、少しだけですよ」
そうして、私は本日5杯目くらいの紅茶を飲んだ。




