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【書籍化】異世界に聖女として召喚されましたが、私はただのアラサー女です   作者: ユタニ


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33/91

33.目を開けて、そこに居たのは


ピアノを弾き終わり、ゆっくりと目を開けて、そこに立っていた人物に私は驚いた。


カサンディオ団長?


え?なぜ?本物?

ぱちぱちと目を瞬く。


「拐われた本人が、何してるんだ」

カサンディオ団長が、ため息とともにそのように仰る。知ってる低い声、カサンディオ団長の声だ。


「拐われた訳では、」

「ナリード伯爵が、娘の為にあんたを拐ったと言ったぞ」

おっと、伯爵、騎士団長に自白してどうする。

私の、「罪はこれからの生き様で償ってくださいね」的なカッコいいやつが台無しではないか。


むむむ、となっていると、カサンディオ団長はもうひとつ、ため息をつき、そっと手袋のまま、私の右目の目尻の涙を拭った。


「さっきの曲、聞いた事のない美しい旋律で、胸を打つ演奏だった、故郷の曲か?」

聞きながら、右頬の涙のあとを柔らかく擦る。


「はい」

「そうか」


右頬が擦られた後、左目の涙も拭われて、とても大切な物のように左頬が優しく包まれると、親指で頬をなぞられた。

その触れ方はとても甘い。


「カサンディオ団長?」

「心配した」

そう言ったカサンディオ団長の声は掠れていて、かなり心配してくれていた事が分かり、胸がズキンとする。


「なんか、すみません。でもどうしてここに?遠征からのお帰りも、もう少し先だったのでは」


「帰路が順調で日程が早まったんだ。先ほど城に着いたら、あんたが拐われているかもしれない、という報せが来ていて、アンダーソンとこちらに向かった」


答えながらカサンディオ団長の手は、私の顔を包んだままで、親指は優しく頬を撫でている。


あの、これちょっと、ドキドキしてきてしまうのですが、、、、

でも、振り払うのは勿体ないような。


するり、するり、とカサンディオ団長の親指がゆっくりと私の頬をなぞる。

1回、、、、2回、、、、3回、


うっわ、ダメダメ。

ものすごく、ばくばくしてきた。

息も苦しいよ。しかも、何でだろう、気持ちが昂ってまた泣きそうだ。


私は、無理矢理、頭を切り替えた。


「あれ?ところで、ロイ君は?」

そう、ロイ君はどうした?


私の気付きに、2人で部屋を見回すと、部屋の入口に空気になったロイ君がそっと立っていた。


「アンダーソン、何をしている?」

「あ、、、、、お邪魔かな、と」

「何のだ」

するり、とカサンディオ団長の手が離れた。





***


「罪に問わないなんて、本気か?」

ナリード家の馬車で送ってもらいながら一部始終を話し、伯爵を騎士団に突き出すつもりはない、と言った私をカサンディオ団長が睨む。


私とロイ君が並んで座り、向かいにカサンディオ団長が居るので、何だか尋問されているみたいだ。

その、ワイルドイケメン系の顔で睨まれると、まあまあ怖いんですけどね。


「どちらかというと、手厚くもてなしてもらいましたし」

「本当に何もされてないんだな」

「帰してもらえなかった事以外は、良くしていただきました。伯爵は丁寧で紳士的でしたよ」

私の言葉に、カサンディオ団長の眉がぴくん、と跳ねる。


「紳士的な男なら、あんたをすぐに家へ帰した!そもそも、無理矢理屋敷には連れこまん」

ひゃあ、怒った。


私が思わずロイ君の方へと身を寄せると、カサンディオ団長は険しい顔のまま黙る。


「ナリード伯爵は、バイオレット嬢の身を案ずるあまり、少し変になってたんですよ、もちろん、すこーし怖い思いはしましたけど、お食事は美味しかったし、侍女の方達は親切でお風呂も広かったです。服も貸していただいたんですよ、これも借りてる服です」

服のくだりで、カサンディオ団長のイライラ度が、ぐんっと上がる。


「服だと?」

ひえっ、ものすごく低いお声ですね。


「ええ、、、あの、でも、ほら、囚人服とかじゃなくて、生地も良いもので、たぶん、わざわざ用意してくれたいいやつデスヨ」

カサンディオ団長の目付きが怖くて、最後は片言になってしまった。


「他の男が用意した服なんか着るな、仲を誤解される」

「でも、私、着の身着のままだったし、仲を誤解って、伯爵には大きな娘さんも居てですね」

そこで、もはや殺気みたいなものを帯びた目で見られて私は口をつぐんだ。


「ロイ君、たすけて」


「アンズさん、僕も伯爵を罪に問わないのは、納得いきません」


「そんなあ」

「でも、そんなアンズさんだから、今のアンダーソン家はあります。罪に問わない事は反対はしませんけど、そんな風にナリード伯爵を庇われると僕だってムカムカします」

ロイ君が、ロイ君にしては珍しく少し怒った声だ。


「、、、ごめん。伯爵がした事は悪い事だっていうのは分かってる」

「なら、いいんですけどね」


「カサンディオ団長も、ごめんなさい。帰還後、そのまま駆け付けてくれたんですよね?忙しいのにすみません。でも、結果論ですが、丸く収まりましたし、伯爵を罪に問うつもりはありません」


「あんたの証言がなければ、どうせ騎士団も何も出来ない。受け入れるしかないな」

「ありがとうございます」

「なぜ、あんたが礼を言うんだ。、、、、はあ、本当に無防備すぎる。とにかく、無事で良かった」

カサンディオ団長は呆れた声でそう言った。




馬車がアンダーソン家に着き、カサンディオ団長は、ロイ君にはこのまま家に帰るように言い、自分は帰還後の処理があるからと、さっさと城へと戻って行く。

「今度、何かお礼をさせてください」と言うと、「いらん」と言われてしまった。


でも、何かお礼しよ。

お酒とか飲むかな?いいお酒とかかしらね。



「ロイ君も、やっと帰ってきて疲れてるのにごめんね」

「いえ、何をした訳でもないですしね。解決したのは全部アンズさんです。あなたはやっぱり、とても素晴らしい人ですね」

うおっ、、、久しぶりのロイ君の攻撃!


「解決したのは、たまたまだけどね」

ロイ君の攻撃をさらりと流して、1週間ぶりの我が家へと帰る。

家では、私を心配していたフローラちゃんとサイファにもみくちゃにされた。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 団長心配して怒ってるのはわかるけど、警備が雑なのは反省した方が良くない?ロイくんいるから城出ていいよ、ってことならロイくん動かすの違うよね。
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