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【書籍化】異世界に聖女として召喚されましたが、私はただのアラサー女です   作者: ユタニ


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25.魔法文字の翻訳とイオさんの正体

***


「魔法文字まで読めたんですねえ、、、」

所変わって図書室の最奥、室長室です。


あの後、イオさんに引き摺られるようにして図書室へ戻り、イオさんがへラルドさんに、私を古代魔法及び歴史研究室へ譲ってくれ、と懇願し出して、図書室はちょっとした混乱に陥った。

私が欲しい、ってそういう意味だったか。


へラルドさんが、落ち着いて話しましょう、とイオさんを宥め、私とへラルドさんとイオさんは、室長室でお茶をいただいている。


「アンズさんには魔力がないのに、不思議ですねえ」

「本当ですねえ」


「へラルド室長!とにかく、先ほども言いましたが、アンズさんの配置換えをお願いしたい」

「急ですねえ、、、、アンズさんは、どうしたいです?」

「私ですか?」

「ええ」

私は、突然話を振られて驚く。

でも、意見を聞いて貰えそうで嬉しい。


「アンズさんっ、私は古代の生活を解明したいんです。魔法文字を読める人なんて、あなた以外いません、お願いです」

「イオさん、まずは、アンズさんの希望を聞いてあげてください」

縋ってくるイオさんをへラルドさんが窘める。


「私は、せっかく慣れた図書室から異動させられるのは嫌です」

「そんなっ」

図書室に響くイオさんの悲痛な叫び。


「でも、私しか読めないならお手伝いしたいな、とは思います。、、、、、そして、そう思いますけど、魔法文字を読むのはかなり疲れそうなので、長時間は嫌です」

魔法文字は、まるで新聞を切り取って作った犯行声明文みたいなのだ、あれをずーっと読むのは嫌だ。


「なら、週2、いや!週1でもいい!私では3年かけて、まだ1冊も翻訳出来てないんです!読んで、分析、考察して、古代の生活を知りたいのに、そもそも読むのにとても時間がかかってしまうんです!私には、あなたが必要なんだ」

イオさんが必死だ。


“あなたが必要”

聖女のオマケだった私には、そういう言葉はちょっと胸に来てしまうぞ。


「イオさんは、どうして、そんなに古代の生活を知りたいんですか?何かすごい魔法でも見つかるんですか?」

手伝ってもいいかな、という気持ちはどんどん大きくなりつつあるが、国家転覆の陰謀とかに巻き込まれたら嫌なので、確認しておく。

イオさんの見た目は、ばっちり怪しいと思うし。


「どうしてって、素敵でしょう?古代の人々は皆、おしなべて、大きな魔力を持っていて魔法はもっと身近だった筈なんです。彼らはおおらかに暮らしていた。その暮らしぶりを知るなんて、浪漫じゃないですか」

さっきまでの必死さが消えて、うっとりするイオさん。


「へえぇ」

うん、へえぇ、しかないね。

でも、何だか楽しそうではある。国家転覆はなさそうだ。どうやら私の能力も役立つようだし、ここは手伝ってもいいかな。


「図書室にご迷惑がかからないなら、お手伝いに行ってもいいですか?」

私がそうへラルドさんに聞き、イオさんの顔が輝く。


「来てくれるんですね!?」

「へラルドさんの、オッケーが出たらです。あと、あの研究室、虫が出そうで怖いので片付けておいてください」

私の言葉に、イオさんは「分かりました!」と力強い返事をくれた。





***


私は、図書室司書のお仕事がない日は、古代魔法及び歴史研究室、で魔法文字の翻訳をする事となった。もちろん、お給金も弾んでくれる、との事。


そして、迎えた、古代魔法及び歴史研究室(ところで、いちいち長いな)への出勤初日。


たたたたっと、半地下の古代魔法及び歴史研究室(長いよ)へ降りて、扉を開ける。


「お早うござい、、、、ま、、す」

扉を開けて、私は驚いた。

部屋が大分、きれいになっている。


まだ少しごちゃごちゃしているけれど、かなりすっきりした。

床に散乱していた、紙類や本がどけられ、あちこちにあった飲みかけのコップも片付けられている。


「うわあ、本当に片付けてくれたんですね」

部屋を見回して喜ぶ私と、そんな私に、微笑みながら近付いてくる、、、


「頑張って片付けました、今日からよろしくお願いします」


サラサラ金髪の美しい男性。


うわ、

誰ですか?


「、、、イオさん?」

「はい、そうです」


微笑む美しいイオさんは、今日はぱりっとアイロン(こっちにアイロンあるかは微妙だけれど)のかかった清潔なシャツも着ている。


ぼさぼさで、くすんでいた金髪は、艶やかにサラサラと輝き、肩のあたりでゆるーく纏められて、しどけなく背中へと流れる。

そして、まるで王子のような、美しい顔面。


「おっと、これは、、、あるある、ですね」

よくあるパターンですよね。

眼鏡を取ったら美人だった、とか、前髪を切ったらハンサムだった、とかね。


「あるある?」

「いえ、今日はイオさんも、さっぱりしてますね」

「はい、母に、女性と一緒に働くなら身綺麗にしなさい、と言われました」

「しかも、思ってたよりお若いんですね」

「22才になります」

「そうでしたかあ」

「年下の上司は、気を使いますか?」

「あ、いえ、大丈夫です。そこは、大丈夫です」


そこで、私は、はっとして、イオさんの顔をまじまじと見る。


完璧な美しさ、、、、、この顔、どこかで、見たような。

金髪碧眼の、、、、、、


「!」

私の頭の中で、()()の家系図が広げられる。

イオ、、、イオって、、、


「、、、、、、まさか、イオンカルド第三王子殿下ですか?」

「ご明察です」



オーマイガッッ

私は、びたん、と片手を額に当てた。


知ってるー、知ってたー、ちょっと変わってるらしい第三王子だ。ゴシップ欄にも載ってたもん。社交界には一切顔を出さない謎王子。王位継承権にも一切興味ない変な王子。


王子、、、、選りによって本物の王子、、、、。

なぜだ、なぜ王子がこんな半地下に?


いやいや、待てよ、王子だからか。

だって、古代魔法及び歴史研究室、なんてよく分からない研究室を、所属1人で存続させてもらえてるって、王子だからだよね。


「人付き合いは苦手で、こちらにずっと籠りっぱなしなんです。王子とは名ばかりなので、気にしないで頂きたいです。実際、気付いてない人もけっこういますし」

「ええぇ」

「王子だからやっぱり断るとか、なしですよ。ダメですからね」

「ええぇ」

「ここでは、古代魔法及び歴史研究室のイオなので」

「ええぇ、でもその顔、完全に王子ですよ」

「気になるなら、髪の毛で隠します」

「それはそれで、中身を想像しちゃうので、止めてください」

「中身、、、、ふふ、分かりました、止めます」

うわあ、笑うとバックに花が舞いますね!

くうっ、眩しいな。


「アンズさん?」

眩しさに両手で顔を覆っていると、怪訝な声で名前を呼ばれた。


「大丈夫です。その内、慣れるでしょう」

ロイ君の眩しさには、3日くらいで慣れたから、きっとこちらも、それくらいで慣れる筈だ。

この日、私は黙々と犯行声明文を翻訳した。




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