エピローグ
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アリエルの予想通り、金庫の中にはシルヴァンからの手紙が入っていた。
ジェラルドはその手紙を読んだのち、しばらく書斎に一人で籠って、感情を整理していたようだ、きっとこみあげてくるものがあったのだろう。
「兄が生きていた頃に仲直りができなかったのが、悔やまれるな」
しばらくして書斎から出てきたジェラルドはぽつりとそう言ったが、その表情は晴れやかだった。ただ、目元は、泣き腫らしたように赤くなっていたが。
暗号は解けたが、ジェラルドにもうしばらく側にいてほしいと頼まれたので半月程ル・フォール伯爵家ですごし、アリエルはロカンクール伯爵家に戻った。
ジェラルドからは正式に婚約する方向で進めさせてほしいと言われ、アリエル自身ももちろん否やはなかったが、先に両親に確認が必要だろうと思ったからだ。
ジェラルドも、アリエルが家族に報告したのちに挨拶に来てくれると言っている。
「ただいまー」
ル・フォール伯爵家の馬車を借りてロカンクール伯爵家に戻り、玄関を開けた途端、中からばたばたと慌ただしい足音が聞こえてきた。
「「アリエル!」」
「姉様!」
両親とルシュールが駆けて来る。
と、思えば、父にがしっと肩を掴まれた。
「いったいなにがどうなっている⁉ なんでお見合いパーティーに行って、こんなに長期間帰って来ないんだ? しかも、滞在中は一日銀貨一枚の支払いが我が家にあるなんて、まさかお前、いっ、いかがわしい仕事を……!」
「そんなわけないでしょ! 手紙にも書いたけど、ル・フォール伯爵のお手伝いをしていただけよ! それから、報告があります。正式に、ジェラルド・ル・フォール伯爵と婚約することになったの。今度彼が挨拶に……って、お父様?」
父があんぐりと口を開けて固まった。
母が「まあまあ」と手を叩いて笑い、ルシュールが親指を立てる。
「姉様、無事に玉の輿に乗れたんだね」
その通りだが、その言い方はなんか嫌だ。
(ま、まあ、わたし自身が玉の輿に乗ると言ってお見合いに行ったんだけど……)
正式に婚約を結んだあとで、ジェラルドはロカンクール伯爵家の財政をどうにかすべく助言もしてくれると言っていた。
さらに彼はロカンクール家の借金を肩代わりしようかと言ってくれたのだが、そこまでしてもらうわけにはいかないとアリエルが断った。父のプライドもあるだろうし、娘の結婚相手に何から何までおんぶにだっこ状態になるよりも、助言をもらいながら自分で立て直したいだろう。
「それはそうと、ルル。お菓子は食べられたかしら?」
手紙に、毎日銀貨一枚分もらえるから、それでお菓子を買ってもらいなさいねと書いておいたのだ。
ルシュールは満面の笑みを浮かべて頷く。
「うん! 町でケーキとかクッキーとかを買ってもらったよ! あと、派遣されて来たル・フォール家の料理人がとってもすごくて、毎食デザートを用意してくれるんだ!」
「それはよかったわ」
よしよしと頭を撫でると、ルシュールが「えへへ」と笑う。育ち盛りなのだ、しっかり食べて大きく成長してほしい。
「それで姉様、兄様になる人はどんな人?」
「そうねえ……」
まだ固まっている父は放置して、アリエルはルシュールと手を繋いで歩き出す。
「外見はちょっと気難しそうにも見えるけど、とっても優しくて素敵な紳士よ。だから安心して甘えるといいわ」
「楽しみだなー。いつ来るの?」
「来週あたりって言っていたわ。事前に手紙をくれるから、日付がわかったらまた教えてあげるわね」
「わかった。あ、あとさ、姉様。いい加減庭のジャガイモを掘らないと駄目だと思うよ」
アリエルは階段を上りかけていた足をぴたりと止める。
「……そうだったわ。抜かずに王都に行ったんだった」
ジャガイモの茎や葉はすっかり枯れていることだろう。
着替えたらさっそくジャガイモ掘りだなと肩をすくめると、ルシュールが「仕方がないから僕も手伝ってあげるよ」とちょっぴり生意気なことを言った。
ルシュールの頭をぐりぐりと撫でてから「仕方がないは余計よ」と笑う。
ロカンクール伯爵家に、真っ赤な薔薇の花束を抱えたジェラルドがやって来るのは、それから一週間と少し後。
うっすらと雪が積もった、よく晴れた冬の朝のことだった。
お付き合いいただきありがとうございました!
これにて完結です!
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