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スノードロップ  作者: 白崎なな
第5章、戦争
38/46

38。叶果

ふわふわしてる。


あったかい。



まわりの温かい空気と自分が溶け合うような、そんな感覚がする。



あーもう。目も開けずにこのまま、まどろんでいたい。


ーーーきっとあれは悪い夢だ。

それならば、目も開けずにふわふわしたこの空間に身を委ねていよう。



『……か。ー…、ょ、……』




なんだろう?誰のことを呼んでるのかな?


ーあれ?わたしって、名前なんだった?



まぁ、いっかーーー。



『きょ、…か!……きょうか!叶果!』




だんだんクリアに聞こえるようになり、"きょうか"そう呼ばれていたのだとやっと理解した。




きょうか?

だれのことだろう。それよりも、なんだかとても嫌なことがあったような…


いやな記憶なら、思い出さなくて、も…



『きょう、か。……叶果。』


あぁ。私のなまえがそんなようなだった、かな?

 ……私の名前!!




そこでハッとして重たい重たい瞼を開く。

名前を呼んでいた人物が目の前に現れた。




「叶果??……叶果!!」



「お、おかあ、さん?どうして、ここに?」



お母さんと呼ばれた女性が目を閉じるようににこりと笑った。



「私はあなたを待ってたの。ずっとここで。

辛かったでしょう?苦しかったでしょう?

私のいないところで、あなたが傷つきもがき苦しんでいるっていうのに。

ここから見ていることしかできなかった。そんな母を許して。」


今度は悲しそうな笑みで、そう言って頭を撫でた。

でもなんだかふわふわとした感覚で、不思議な感じだった。



「お母さん。待っててくれてありがとう。

ーーということは、使命を果たしたってことかな?」




「使命よりあなたが生きていてくれる方が何よりも喜ばしいのに。…でも私、大きくなったあなたと顔を合わせて話ができる。これほど幸せなことってない。そう思ってる、………なんて思ってしまうの。早く話がしたかったの。


ひどい母親だなって、自分でも思う。あなたに早く会いたかったなんて、早く死んでこちらにこいって言っているのと同じなのに、ね。」



「…………つらかった。しんどいって何度も思った。逃げたかった。でもできなかった。」



叶果は、あの悪夢は夢ではなく現実で起きたこと。

ふたりを置いてきてしまったこと。


一気に思い出させた。

静かに涙が頬を伝う。



「………ひとりにしてごめんね。」




「私、ひとりじゃなかった。仲間ができた。家族のようなそんな2人だった。引き合わせたあの人には、恨んでも恨みきれないほどの想いがある。


…………でも、あの2人は大好きだった。

私をどんな時でもひとりにしないでいてくれた。あの二人が大好き。





「そ、そっか。あの2人は、あなたの家族のようなそんな存在だったの。ありがとうって言いたいね。」





「大丈夫。伝わってると思うから。

それに、ここで待つって言うなら、また私を1人にするの?って言うだけだけどね!……おかあさん。」




頭を撫でていたその手は、叶果の手をぎゅっと握る。

もう離れないのでは、と思うほど強く握られる。



「うん、じゃあ……いこうか。

今度はこの手を離さないからね、叶果。ずっとずっと。今度は私があなたをひとりにしない。絶対に。」





「もう、私子供じゃないよ?それに、おかあさんよりもずっと強いんだから。守ってあげるよ、おかあさん?」




「ふふふふ。愛してるわ。」




もしもひとつだけ、願うとしたら。

もう一度二人に会いたい。



ふたりに贈りたい。”私、生まれてきてよかった。そう思えたのは、ふたりのお陰。”と。



(ありがとう。そして、ごめんね。あとのことは、任せたよ。)





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