27。水本とスノードロップ
「スノードロップというのは、元々私とルーク元皇帝との間で交わされたんだ。
まず、戸籍のない子供であること。そして何より、女児であること。」
「それで私たちのような境遇の子達を集めたのですね?」
「ああ。育てるのに数年かかるが、幼ければ幼いだけいい。私たちの言うことをきちんと聞き入れられるから。
女児なら、慰み者として扱えたり。便利なんだ。」
「ですから、私たちは物ではありません。物のように"便利だ"と言わないでください。」
「そんなにそれが重要か?」
「重要です。」
「慰み者として扱われる、ところは問題無いのだね?」
「そこも問題です。そもそもその為にスノードロップを作ったのではないのでしょう?」
「そうだ。君たちは、一番の仕事は殺し。
そして、アルタイアと何故手を組んで作ったのか。だが…
君たちスノードロップというのは奴隷として売買するんだ。」
「戸籍がないから、人身売買に適任だ。ということですね。」
「そういうことだ。それに、アルタイアと共に歩めば華楽も安泰なんだ。
収入減となり、尚且つ自国を守る矛となり盾となる。」
「華楽のためになる、そう言いたいのですね。」
「華楽のため、以外何ものでもない。
それに、これはトロッコ問題なんだ。君たちスノードロップを犠牲にする代わりに国全体を守ることができる。
反対に君達を解放すれば、人攫いどもで溢れかえり混沌状態になる。
……頭のいい君たちなら、答えは簡単に出せる。」
「……私たちを犠牲にーー、「犠牲になどなりません!」
杏が玉の声をかき消すように被せて言い放つ。
「それなら、国を犠牲にする。のが正しいと?」
「いえ、それは……」
「それは、国長たち政府が犠牲を出さずにするべきです。スノードロップの子たちも、辛い過去があります。
さらに国の戦闘兵器のように扱われたり、アルタイアに対しての貢物にされるのはお門違いです。」
「ん?辛い過去?あぁ、辛い過去か。
あれも全部、私が手を加え親のいない。戸籍がない。を作り上げたんだよ。」
「え?どういうことですか?私が父親を殺させたのもその為なのですか?」
「それは、君の親はアルタイアの人間。
父親は赤の瞳、母親は青の瞳。皇族以外の貴族たちは、赤の瞳を持つものと基本的に一緒になれない。
例外がいるねえ、ジル?」
「…彼女は、紫と赤のふたつの瞳です。
それに、ルーク前皇帝にお許しを頂いてます。僕は例外です。」
「ーと、いうことだ。アルタイアでは家庭を持てないからと、華楽に不法侵入をしたのだろう。
見逃されて過ごしていた、ということだろう。」
「やはり、私はアルタイアの人間なのですね。」
「黒と茶以外、華楽には存在しない。悪魔のいろだ、としたのもこの国を守る為。
華楽には、華楽の血を残すべきなんだ。
紫の瞳でありながら華楽の軍部のトップに立てているのは、実力だけじゃない。
スノードロップが、アルタイアとの橋渡しになっているからだ。」
「橋渡し……人身売買いがいに、なにがー?」
「水銀だ。アルタイアは、たくさん取れる。
それを薬だと龍元に輸出をする。
人身売買で人と水銀を交換するんだ。」
「なぜそこまでして、水銀を龍元へ輸出をしたがるのですか?
水銀は危険な鉱物です!中毒症状で龍元は、国力を落としてしまいます!」
「もうこの世界には、龍元という国は必要ない。」
「必要、ない?ですか?国に必要、不要は他国が決められることではありません!戦争が起こりますよ!」
「ああ、戦争だ。龍元は、古き良き国?そんな古さを大切にしていると置いて行かれるんだ。
新しい世界にしていく必要がある。その為には古い龍元は消す必要がある。」
「今は、龍元の娘娘の息子の畑国長なのです。
龍元との戦争はしません。」
「そこは予想外だった。でも、畑になってもいいように私たちは商会を作った。」
「水銀だけの取り扱いなのですか?」
「そうだ。その為に作ったのだから。酒井もいい国長としてやってくれていた。まさか、畑になるとは……誤算だ。」
「彼は、何よりも私たちのことを考えてくれます。
より良くと思う思いは、あなた方よりも強いです。」
「フッ。何も分かってない。
あんな自分のそばに置く女の正体にも気づかないのに、なにがより良く?
自分の身の回りに潜む人間が、どんな奴か次第では国を陥れることになる、というのに。」
「実際に情報が垂れ流しになっていた。
そのおかげでそれぞれ3人に対応できる人間を用意できたそうだよ。」
「ぼくに話を振らないでください。」
「悪い悪い。スノードロップが、万が一アルタイアに楯突いても負けるだけだ。負け戦なのだから、辞めておきなさい。
いろんなことを知った上で、今まで通りスノードロップとしてやっていくんだ。」
「………しかし…」
「前にも言わなかったか?私の意見は絶対だ。返事をしなさい。」
「……ぎょ…ぃ。」
(全て、全て。水本が……)
「……お待ちください。玉の父母を殺したのも水本元国長ですか?
私の弟や母なこと。それに、杏の家族を殺したのも。全てですか?」
「ああ。私が全てやった。
玉の父親に、アルタイアに戻り底辺の生活をしたくなければ。と脅したんだ。
それと、月の母と弟は美味しいお菓子だと言って食べさせたんだったか?
杏が襲われたのも、派遣していた人がいたからちょうどいいと思って騒動を起こしてもらった。
おかげで、いい師匠に巡り会えただろう?」
「全ては、水本元国長の手のひらの上ということですか。」
「フッ。人聞きが悪い言い方だ。
うまく駒を動かすことができるものこそが、国長にふさわしい。私は自分の仕事をこなしただけだ。
君たちスノードロップも、与えられた箱で与えられた役を演じている。
私と君たちと何も変わらない。」
かるく首を振り、水本は3人をそれぞれ目を合わせた。
「それに、あのままの生活よりは今の衣食住が約束されている環境の方が生活しやすいだろう。
私のおかげで、国が守られ、生活のできない子供に職を与え衣食住の約束もして。なんてお互いにとっていい事しかない。
何に不満があるというのかー。」
そういうと水本が立ち上がり、玉たちの反応を確認することもなく部屋を後にした。
ジルは目の前をとある時に会釈をし、玉たちの後ろにある窓を開けた。
「大人しく、しているべき。そういうことだ。」
ジルは窓を開けたあと、部屋を出ようとして開けたままにされていた扉まで近づいた。
「ノア皇帝が、後でこちらに来る。そのまま待つように。」




