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第57話 復讐の矛先は

 薄暗い地下の階段を下っていく。埃っぽくて、じめじめしてて、嫌な感じ。

 ロレッタから受け取った地図に従って辿り着いた先に在ったのは、街のはずれにあるいくつかの廃墟が連なった場所だ。

 その中の一つにある廃墟の中には、地下へと続く階段が隠されていた。


「あの豚らしい、陰湿なところね」


 上から微かに振動が響いてくる。この魔力の乱れ方からして……戦闘でも起きたのかしら。もしかするとアルフレッドたちが独自にこの場所を突き止めたのかもしれない。


 ……バカな子ね。こういう時はせめて素直にデートの一つでも楽しんでおけばいいのに。

 第三王子のくせして堂々と王座を獲りに行く宣言なんかするし、そもそもあんなことは宣言するものじゃない。

 本当に不器用で、捻くれた弟。元々、あの子に『悪役』なんて向いていない。なのにそれを演じ続けてきたんだから、不器用が過ぎるというものだ。


「……扉?」


 階段を降りると、扉に突き当たった。

 鍵は開いている。向こうに何があるのかまでは分からないけれど……ここまで来て引き下がるなんて選択肢は、当然あたしには無い。

 ましてやこの先に親友ロレッタを救うための手がかりが、『何か』があるのなら、無理を押し通してでも進むだけだ。


「――――っ!」


 一気に扉をあけ放ち、中へと踏み込む。

 同時に魔力を漲らせていつでも瞬時に『王衣指輪クロスリング』を発動できるように身構えて、


「…………これって」


     ☆


 薄暗い地下の階段を下っていく。どれだけの時間がかかったのかは分からない。

 長かったような気もするし、短かったような気もする。ただ、どことなく地上とは隔絶されたような空気を感じたのは確かだ。


「…………扉?」


 階段を降りていくと、目の前に扉が視界に入った。だがその扉は半端に開かれており、誰かがその先に入っていったのは明白だ。

 地上に戻っても待っているのは『ラグメント』の群れだけだ。アレを放置しているのもまずい。結局はこの先に行って根源を絶たねばならない以上、引き返すという選択肢はない。


「いくぞ」


 俺の後ろにいるノエルたちに一声かけると、そのまま扉を蹴飛ばし、中へと踏み込む。


「…………なんだ?」


 扉の先。行きついた地下の部屋の中は奇妙な空間だった。

 奥の方には二メートルはあろうかという濁った結晶が鎮座しており、その周囲を補強するように装置が設置されている。


「この装置…………」


「シャル。これを見たことがあるのか?」


「はい。王都の魔導技術研究所で似た装置ものを見たことがあります。向こうは、魔法の摘出と移植を目的とした魔導装置でしたが……これが同じ機能なのかまでは……」


 魔法の摘出と移植。それ自体は一般的だ。

 何しろ魔法というのは基本的に指輪を使って発動するものだ。そこで指輪に頼らず魔法を発動できるようにならないか、という考えのもとから生まれたのが魔道具だ。

 魔道具は指輪に宿る魔法を移植されたものであり、レイユエール王国の発展にはこの魔法の摘出と移植の技術が大きく関与している。


「こっちには木箱か。中身は……」


 壁一面に敷き詰めるように積まれていたのは大量の木箱だ。エリーヌはその中の一つを手元に転がして中を開けると、積もった埃が無邪気に舞い、どこか息が詰まりそうになる。


「……魔指輪リングだね。けど、どれもただの廃棄品だ」


 箱の中に大量に詰め込まれていた指輪をつまんでみせた。

 焼け焦げたように変色しており、形もとても指輪とは言えないほど歪。まるで内側から怪物がのたうち回って飛び出してきたような。


「加工に失敗したんだろうが……あたしもこんな失敗の仕方は初めて見たよ。魔力に魔指輪リングそのものが耐えきれなくなって暴発したようじゃないか」


「つまり豚領主シミオンは、何らかの魔指輪リングに関する実験をしてたって感じですかね?」


「かもしれないな。こんな施設を地下に隠し持ってる以上、ロクでもない実験だったことは確かだろうが……」


 ネネルの父親はガーランド領お抱えの彫金師。

 そしてこの地下施設にある、大量の怪しげな指輪の廃棄品……随分ときな臭くなってきたな。


「……ネネル!」


 部屋の奥に佇んでいたのは見覚えのある小さな背中だ。

 物音にすら一切反応せず、微動だにしない。まだ何かしらの幻覚を見せられているのか?


「無事か、怪我はないか?」


「……エロエロ王子」


「喧嘩を売る気力があるなら大丈夫そうだな」


 ネネルの瞳は蓋の開いた箱の中へと注がれていた。


「こいつも魔指輪リングか。けど、さっきの廃棄品とは違うな……」


 先ほど見つけたものは明らかな失敗作だったが、ネネルが見つけたものは明らかに魔指輪リングとしての形を保っている。ざっと見ただけでも五十個以上はある。そして、同じ箱が傍にいくつも山積みにされていた。

 規格が統一されていることに変わりはないが、一般に流通しているコモンリングとは違う……いや。この感覚、どこかで……。


「……『禁呪魔指輪カースリング』か」


 そうだ。以前戦った『指輪壊し』の使用していた『誓砕牙クランチ』。

 アレに気配が似ている。


「……ふん。たしかにこいつはクソガキ王子の言う通り『禁呪魔指輪カースリング』だが、ちょいと違うね」


「どういうことだ。彫金師」


「『禁呪魔指輪カースリング』ってのは、中に悪魔が宿った指輪のことさね。けどこいつに宿っているのは悪魔じゃあない。せいぜい悪魔の切れ端がいいとこだ。……ま、それでも十分な力はあるけどね」


「つまり『禁呪魔指輪カースリング』の劣化コピー……って感じですかね?」


「もしかしてさっきの装置も……?」


「残念ながら、シャルの懸念は的中さね。製法は至って単純。オリジナルの『禁呪魔指輪カースリング』から悪魔の力を摘出して空の魔指輪リングに移植……ってとこだろう」


 エリーヌの眉間にしわが寄る。『禁呪魔指輪カースリング』は彫金師たちにとっても忌むべきものだと聞いているので、こいつとしてもあまり気分の良いものでもないのだろう。


「こっちの棚には研究資料が入ってましたよ。エリーヌさんの言う通り、ここで行われていたのは『禁呪魔指輪カースリング』の量産。その実験……」


 マキナは研究資料の一つであろう書物にざっと目を通していき、あるページでその手をピタリと止める。


「……ビンゴですね。シミオン・ガーランドの名前を見つけました」


「ルシルさんの情報はここを示してたわけですね。ですがなぜ、わざわざ私たちに教えたんでしょうか? あの装置もそうですが、これだけの設備を揃えるにはかなりの資金や手間がかかったはずです」


 そうだ。ここの情報をタダで渡すほどルシルもお人好しじゃない。

 あいつにとっての何らかの利があるはずだ。


「……わざわざネネルちゃんを誘い出したのも気になります。一体何の意味があって」


「――――そいつに教えてやるためだよ」


 暗闇の奥から、凍えるように冷たい声が木霊した。

 ひたり、ひたり、ひたり、と。冷徹な足音が徐々に近づいてくる。地下に反響する足音は、まるで地の底からおぞましい何かが這いずり上がってくるようで。


「お前には、復讐以外の道がないってことを」


「モーガンおじさん……」


 暗闇の奥底から静かに姿を現したのは、見覚えのある擦り切れた刃のような眼の男だ。

 あれは確か森で、ネネルを痛めつけていたモーガンとかいう……『ラグメント』が来た時のゴタゴタで、取り逃がしてしまったやつだ。


「なんで……おじさんがここにいるの?」


「決まってるだろ。『土地神』を殺すための戦力を揃えるためだ。契約した『禁呪魔指輪カースリング』の力があれば、それが叶う。魔指輪リングは完成する。使えないバカ共も、多少は使える駒になる」


 モーガンの右手に宿る邪悪な気配。さっきの劣化コピーとは違う。

 多少の差異はあるが、デオフィルと戦った時に感じた『誓砕牙クランチ』と似ている。

 そうか……あれがオリジナル。そして地上に出ていた狼の群れを生み出しているのも、あの『禁呪魔指輪カースリング』か。


「領主様のご実験に、アンタも協力してたってワケかい?」


「まさか。あの領主が、こんな実験に俺のような平民を参加させると思うか?」


 モーガンはエリーヌの言葉に呆れを滲ませる。


「聞いてたんだよ」


 ぬらり、と暗闇の中で指が動く。モーガンの指先は真っすぐに……ネネルを指し示す。


「ネネル。お前の父親からな」


 指先を向けられたネネルは金縛りにでもあったように体を硬直させる。

 魔法を使われているわけじゃない。


「お父さん……が……?」


「お前の父親は知ってたんだよ。この施設のことも。あの領主が『禁呪魔指輪カースリング』を量産して、商品として流そうとしていたことも」


「じゃあ……お父さんは…………」


「別に領主に手を貸して悪事の片棒を担いでたってわけじゃあない。あいつが手を貸していたのなら、廃棄品クズリングの山なんざなかっただろうよ」


 モーガンは遠い過去に酔いしれるように、地下の薄暗い天井を見上げる。


「あいつは子供ガキの頃から良いやつだった。才能もあった。ああ、そうさ。間違っても、あんな豚領主に手を貸す奴じゃあない。どれだけ金を積まれても、その腕を穢すようなことはしなかった。立派な立派な彫金師だったよ」


 立派な立派な彫金師。心なしか、モーガンのその言葉には皮肉のようなものが込められている気がした。…………どこか似てる。決闘の時の、レオ兄と。


「あの領主とも最後まで揉めてたよ。最後の最後まで、この計画を止めようと必死だった」


「じ、じゃあ……お父さんは、『土地神』に殺されたんじゃなくて……」


「……『領主に殺された』とでも?」


 怒気の籠ったモーガンの言葉が、ネネルの言葉を先回りして踏み躙る。


「違うな。違うんだよ、ネネル。言っただろう? あいつは『土地神』に殺されたんだと」


 モーガンは懐から取り出し、見せつけたのは一つの魔指輪リング

 表面が赤黒い……血が凝固したもので穢されていることが辛うじて視認できる。


「『禁呪魔指輪カースリング』のコピー品? いや、それとも少し違う……コピーの元になった原型オリジナルってとこかい?」


「こいつは『土地神』に奉納されるはずだった魔指輪リングだ。そして、コピー技術の原型になった魔指輪リングでもある。あいつが作ったこの魔指輪リングを元に、『禁呪魔指輪カースリング』のコピーが生み出された。……ネネル。お前の父親はこいつで、『土地神』を救おうとしてたんだ」


「『禁呪魔指輪カースリング』のコピーは、悪魔の力を移植したもの。その原型オリジナル……」


 考え込むような仕草を見せたエリーヌはすぐに、はっとして目を見開いた。


「…………ネネルの父親は『土地神』の瘴気を、その魔指輪リングに移植しようとしてたってことかい?」


 瘴気に汚染された『土地神』を救う方法は、『浄化』によって瘴気を祓うことだ。

 その『浄化』に必要なのは第五属性の魔力。それがなければ瘴気を浄化して消し去ることは出来ない。

 だが……『浄化』ではなく『移植』なら。

 消し去るのではなく、瘴気を土地神の体内から別の場所に移し替えることが出来るとしたら、『土地神』を救うことは出来る。


「確かにその方法なら『土地神』を救うことは出来るかもしれないね。だが……」


「そう。あいつは失敗した。『土地神』に殺された。救おうとしていた『土地神』に殺されたんだ」


 モーガンは一歩、前に踏み出す。


「あのクソ領主がお前の父親を嵌めたとでも思ったか? 始末されたとでも思ったか? お前、もしかして――――『土地神』を殺さなくてもいいと、安心したんじゃないだろうな?」


「――――っ……!」


 ネネルはそのどす黒い怒りで染まった眼に気圧され、後ずさる。

 そんなネネルを追い詰めるかのように、モーガンの指から渦巻いた瘴気から、あの黒狼たちが生まれ出でる。


「見てたぞ。この黒狼共を通して、お前を視ていた。そこのガキと楽しそうに歩いてたよな? 楽しそうに。平和そうに。のうのうと。『「これしかない」とは思ってほしくない』? 『諦めさえしなかったら、何か別の道が開けるかもしれない』? そんなわけがないだろう」


 一歩、一歩。また一歩。

 どす黒い瘴気を垂れ流しながら、モーガンは歩み寄る。


「うっ…………!?」


 ネネルが苦しそうな呻き声と共に頭を抑える。


「……っ…………!?」


 それと同時に俺の頭にも鈍い痛みが走った。……いや。俺だけじゃない。

 シャルも、マキナも、エリーヌも、ノエルも。この場に居た俺たち全員の頭に痛みが走り、何かが流れ込んで来ようとしている。


「この頭痛は……気を付けてください! 恐らく、幻覚を見せる魔法です……!」


 モーガンじゃない。あいつが幻覚を放っているそぶりは見えない。

 だとしたら、誰が……?


「なん……だ…………?」


 頭の中に流れ込んでくる。これは……景色だ。古い遺跡ような場所。

 誰かが歩いている。男だ。そして、男の傍に寄り添うように歩く女性の姿も……。


「お父さん……お母さん……」


「ネネルの両親……? だとすれば、この幻覚は……」


 二人の他にも神聖な印象を受ける装いに身を包んだ者たちが列をなしている。

 中にはモーガンの姿もあった。恐らくこれは……『土地神』に魔指輪リングを奉納しに行った時の……。


「真実だ。俺が見た、全てだ」


 場面は映る。遺跡と森が組み合わさったような道を進み、その最奥へと一行は訪れた。


『――――ッッッ!!!』


 瘴気に侵された龍……恐らくはアレがガーランド領の『土地神』なのだろう。

 咆哮を上げ、全身から瘴気を噴出しながらのたうち回っている。

 奉納に訪れた人々が逃げ惑う中、ネネルの父親が魔指輪リングを輝かせながらたった一人で『土地神』へと立ち向かっていく……。


 だが次の瞬間、のたうちまわる『土地神』の全身から凄まじいまでの炎が爆ぜ、周囲へと叩きつけられ――――。


「あ…………」


 その場にいた者共を容赦なく焼き尽くした。

 大地は燃え盛り、人々は糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。

 いや。それはまだマシな方だ。『土地神』に最も近づいていたネネルの父親は右腕を残して、それ以外は肉片すら残らず焼かれて消えた。父親だったソレ……千切れた右腕は、魔指輪リングを嵌めた状態で、ぼとりと生々しい音を立てて地面に落ちた。


 母親の方はかろうじて人の形は保っていたが、全身はどす黒く焼け焦げ、もはやそれが人だったのかも判別することは困難だった。何も知らない者が見たら、炭の塊と言われても何ら区別がつかないだろう。


 焼け焦げた肉の匂い。生暖かい風。生き残った者たちの悲鳴。

 ……全てがリアルに感じられる。まるで俺たちも、この場に居たかのような臨場感。


「ぁ…………あ……おと……さ……おかあ……さ……」


 隣にいたネネルが手を伸ばしている。だけどこれは幻覚だ。

 何も掴めず、小さな手が虚しく空をかきむしる。


「悔しくないのか」


 モーガンの声と共に、幻覚が消失した。

 俺たちは『土地神』のいる森の最奥から、一気に冷たい地下の空間に引き戻された。


「お前の父親は救おうとしてたのに。助けようとしてたのに。『土地神』は殺したんだ。お前の父親を、母親を。悔しくないのか。悲しくないのか。憎いと思わないのか。仇を討とうとは思わないのか」


「はぁっ…………はぁっ…………はぁっ……はぁっ、はぁっ……!」


 呼吸を激しくしたネネルが膝を折る。瞳孔は開き、汗が滝のように流れている。


「ネネル。今なら出来るんだ。ここにある『禁呪魔指輪カースリング』のコピーと、お前の才能をもってすれば、圧倒的な力で『土地神』をねじ伏せられる。家族の仇をとることが出来るんだよ! さあ、この手をとれ!」


 モーガンは、その手をネネルへと差し伸べ――――


「――――『アルビダ』!」


「…………ッ……!」


 咄嗟に展開した精霊が、瘴気を退けモーガンの手を遮る。

 そのまま周囲を牽制しながら、俺は『アルビダ』を『霊装衣』として身にまとうと、再構成された銃を掴むと、そのまま銃口をモーガンへと向けた。


「貴様……!」


「ったく……ガキの教育に悪いもん見せやがって……。押しつけがましいオッサンは嫌われるぜ」


 ネネルの瞳はまだ揺れている。動揺している。

 当然だ。いきなりあんなものを見せられて、平気でいられるはずがない。

 ……あの幻覚が真実なのかどうかは分からない。だが実際問題、ネネルの家族は既にいない。暴走した『土地神』に殺されてしまったという事実だけは確かなのだろう。


「ネネル。俺は言ったよな。魔法の……『力の使い方を間違えるな』って」


「…………」


「俺は間違えたことがある。いや……つい最近まで、ずっと間違え続けてきた」


「…………え?」


「……俺は自分の力を、ずっと逃げ続けることに使ってきた。現実から目を逸らすことに使ってきた。間違え続けて、その結果、兄貴と大喧嘩になった。その兄貴は……これも言ったよな。『片腕を失くして、今は家族とも離れ離れになった』って」


 それは今でも根深いところに残っている、俺の後悔だ。


「お前が色々なものを見て、知って。それでも復讐を選ぶなら俺はそれを止めない。その言葉も嘘じゃない。けどな……復讐を選ぶなら、正しい方法で復讐しろ」


「正しい……?」


「憎しみをぶつけるなら、相手だけにしろ。関係のないやつらを巻き込むな」


 俺は銃口を向けながら、モーガンを睨みつける。


「……なァ、おい。オッサン。あの『禁呪魔指輪カースリング』のコピーは、アンタの復讐の道具なんだよな?」


「それがどうした」


「この場所に保管されていたコピーリングの数は、アンタとネネルの手足の指を合わせても余る数だ。……誰にバラまくつもりだった?」


「――――――――」


 俺の問いに、モーガンは黙り込む。


「まさかとは思うが、アンタ……関係のない連中にも、無理やりコピーリングを使わせるつもりだったんじゃねぇだろうな」


「えっ……? それって……」


 彫金師の娘というだけあって、ネネルも『禁呪魔指輪カースリング』の最低限の知識ぐらいはあったらしい。


「『禁呪魔指輪カースリング』は一度使えば、悪魔と契約を結ぶことになる。劣化コピーとはいえ、そのデメリットが無くなるとは思えない。それに……ここにあるコピーリングの魔法は全て、元はお前が契約した『禁呪魔指輪カースリング』が元になってるんだよな?」


 ネネルの父親が造った魔指輪リングから生まれたのは、あくまでも『仕組み』だ。

 ようは空っぽの器を用意して、そこに悪魔を宿らせるという方法に過ぎない。

 そしてここにあるコピーリングは全て悪魔の力の残滓、切れ端が宿っている。そのコピー元となった悪魔の力は……モーガンが契約している『禁呪魔指輪カースリング』。


「さてはお前……自分の『禁呪魔指輪カースリング』のデメリットを、無関係な領民に背負わせようとしてたんじゃないだろうな」


 親となるコピー元と、コピー先の間に経路パスを繋ぐことで、デメリットを肩代わりさせる。わざわざこんなコピー品を作ったんだ。……俺がこいつならそうする。


「それがどうした?」


 モーガンは俺の推理を否定しなかった。

 むしろ清々したとでも言いたげな顔で。


「俺の家族が殺されたんだぞ。なのにあいつらは……『土地神』の事件を、ただの不幸な事故だと思って……無関係だと思って、今日ものうのうと平和に暮らしてやがる! 今も『土地神』に縋りついている! クズ共が! 反吐が出る! 許されるはずが無いだろう! そんなことが!」


 激昂と共に闇から黒狼が湧きだし、徐々に部屋を埋め尽くしていく。


「その怒りも、悲しみも、憎しみも、俺は分かってやれねぇ。けどな……それでもあんたを止める。その力を向けるべき先を間違っているあんたを止めてやる。それがきっと、俺が王族としてやるべきことだ」


 ガーランド領の大地を覆い尽くそうとする黒狼の闇へと向けて。

 俺は、その引き金を引いた。




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