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第95話side2『vs残機を持つ男』

 ――生死や命を支配する大権を持つ『生と死の神』アリシアス。彼女に出来ることとしては、視線を合わせた者に強烈な恐怖を植え付けること。そして――


(チッ、クソが! また目を見ちまった! 身体が動かねえ……)


 また、アリシアスの目を見てしまった『第四位』セルヴィ。身体が動かせない中、ゆっくり彼女は近づいてくる。


 瞬間、セルヴィの全身を痛みが襲った。攻撃は受けていない。それなのに、内臓が潰され、一気に口から血が溢れ出る。『死』を与えられてしまったのだ。

 

 変わらず、肉体は動かない。《再誕の輪(リサレクト・サークル)》のおかげで生き返っているが、これが何度も続くならすぐに残機が切れてしまう。

 ならば――


「――ん? 上か」


 何やら天井から禍々しい音が聞こえる。ふと上を見上げたアリシアス。目が離れたその瞬間、セルヴィは行動を開始した。


「《亡者の印(グレイブ・シグル)》! 吸血鬼、エルフ、獣人!」


 そう叫び、彼は昔殺害した吸血鬼、エルフ、獣人の能力を身体に纏った。

 そこから繰り出されるのは、吸血鬼の身体能力による驚異的な動き、エルフの優れた魔法を操る力、獣人の圧倒的パワーだ。


「ちょこまかと動いて……」


 『雷神』ヴォルスの投げる雷の刃を避け、炎と水魔法を詠唱し飛ばす。


「オラァ!!」


 さらに、超人的なパワーで打撃を行い、ヴォルスを壁に殴り飛ばしたのだ。


 壁からゆっくり離れ、地面に足を着く。その瞬間、彼の全身を紫電が覆った。


「悪いけど、僕たちも時間が無いんだ。全力で行かせてもらう」


「面白いじゃねえかよ。来いよ。――なっ!?」


 刹那、セルヴィの瞳からヴォルスが消えた。肉体を動かすより先に、電撃が彼を襲った。


 (さっきより、速ぇ!)


 元々、かなりのスピードで動けるヴォルスだが、それでも力のほとんどを抑えてる状態だ。今の彼は三割程度の力しか出していない。にも関わらず、速度の差は歴然だ。

 

 もはや、セルヴィでは目で捉えることも出来ない。それなら――


「ハァッ!」


(――っ!? なんだ!?)


 悪魔の力を右手に溜め、地面に叩きつけた。その瞬間、ヴォルスの動きが鈍くなったのだ。


「まずは一人!」


 セルヴィの左手がヴォルスの心臓を貫通させ、血が溢れ出る。

 ――『雷神』ヴォルスの命は尽きた。そのおかげで、セルヴィの残機は一つ増え、さらにはヴォルスの力を使うことも出来る。


「さあて、あとはお前らだけか」


 遠くで佇んでいる『生と死の神』アリシアスと『夢の神』フォカリナ。その方向を見つめ、セルヴィは再び右手に悪魔の力を溜める。


「フッ、ここまで気づかないなんて、愚かだね」


「はぁ? 何言ってんだ? 退いてもらうぜ!」


 ヴォルスが殺されたというのに、何故か余裕そうに、さらにはセルヴィをバカにするような顔で見ている二人。

 そんな彼女らに違和感を抱きながらも、彼は殺害した『雷神』の力を使い、雷速で接近する。


 その手がアリシアスに触れそうになった瞬間、フォカリナの声が空間を響いた。


「あたしたちの勝ちだねー」


 ――その刹那、空間が一気に崩れた。球体にヒビが入り、そして――


「ガハッ!? なんでお前が!?」


「上手くいったみたいだね」


 なんと、殺したはずの『雷神』により、強烈な電撃を浴びせられてしまったのだ。一体どういうことなのか、セルヴィは考えるほど頭が痛くなってしまう。床に倒れて頭を抱えていると、フォカリナが口を開いた。


「全部嘘だよー。今の戦いは全部あたしが作った虚構の世界の話。おかげでキミの戦い方も分かったよー」


 ――そう。今の戦いは全部フォカリナが生み出した偽の世界の話だ。とはいえ、アリシアス、フォカリナ、セルヴィは本当に戦っていた。唯一違ったことが……


「僕は外で観察してただけ。君が戦ってたのは、僕じゃない僕だ」


「は? お前、何言って……」


「ボクが生み出したヴォルスだからね。さっきから『死』の力しか使ってなかったし、『生』も操れるってこと忘れてたのかな?」


 彼女は、先程から恐怖を与えたり死を与えるような戦い方しかしていなかった。そのため、セルヴィはその力ばかりに警戒していたのだ。今のように、生命体を生み出せるというのに。


「……チッ。まあいい。どっちにしろ、俺は『雷神』の力を……あれ?」


 偽物だろうが、『雷神』を殺したのは同じ。残機となり、その力を手に入れた。そう思っているセルヴィだったが――

 

「残念だけど、君の残機にも力にもならないよ。さっきそう見えたのは、フォカリナのおかげだから。『夢の神』なんだから、夢を見せてあげるのも仕事でしょ?」


「そーいうこと。姉ちゃんが言ったでしょ? 本気でいかせてもらうって。まんまと騙されたねー」

 

 空をふわふわ飛びながら、話すフォカリナ。そんな彼女に、セルヴィの牙が向いた。吸血鬼の身体能力で近づき、血液で作った爪で襲いかかる。だが――


「……あのさ。命を冒涜する『異能力』を使って、今度はボクの妹を襲うんだ? 許せるわけないよね?」


 真っ赤な瞳に見つめられ、全身が恐怖で動かなくなってしまう。


「あたしのこと戦えない人って思ってそうだけどーそんなことないからねー」


 花の模様が軌跡を描き、セルヴィに打撃を与えた。怯んだ一瞬を、『雷神』は攻める。


 閃光が空間を覆い、目を細める。四方八方から雷が落ち、全てがセルヴィの肉体に衝突する。それは、彼の身体を焼き続け、残機を奪っていく。


 先程、王都レガリアで『剣聖』に会うまでに集めた残機は一万。しかし、現在の彼には五千の残機しか残されていなかった。


 セルヴィの心の中に焦りが生まれてくる。目の前にいる三人は神だ。

 人間では――否、どんな種族であっても適うことのない圧倒的な存在。


 唾を飲み込み、全身から悪魔の力を最大限放出する。


「千個!」


 そう叫び、残機を一気に千個使用する。多くの命をエネルギーに変換し、禍々しい紫の力がセルヴィの全身から溢れ出る。


「そんな力を使うなんて……。仕方ない。出来るだけ力を使いたくなかったんだけど……」


 アリシアスの瞳が真っ赤に光る。しかし、その目を見つめても恐怖は襲ってこない。


「お前ら全員、ここで消えろ!」


 全身からエネルギーを放出し、空間を包み込んだ。常人では一気に生命を吸われ、命を落とす技。だが、そんなものが効かないことくらい予想できている。

 右手にエネルギーを集め、一気に接近した。


 目の前にいるアリシアスと目が合うが、やはり恐怖は湧かない。その瞬間――


「眠ろうねー」


 割り込んできたフォカリナの藍色の瞳と目が合い、全身が心地よくなってしまう。そのひと時を、アリシアスは見逃さない。


「じゃあね。君がこれまでしてきた罪を喰らえばいいさ」


「――っ!? これは……」


 ――それが最後の言葉だった。地面に倒れ、秒にも満たない速度で何度も何度も何度も何度も……


 命を奪われ続ける。残機は減っていくが、アリシアスの『生』の力のせいで死なせてくれない。言葉を放つより先に命が消え続け、セルヴィは動けなくなってしまった。


「はぁ、これ結構疲れるから嫌なんだけど」


「この間のクロイツ? って人にも同じことしたもんねー」


「うん。って、話してる場合じゃなかった。急ぐよ!」


 すぐに部屋を飛び出し、あたりを見渡す。四つ子の絆ように正確では無いが、神どうしならお互いの位置をだいたい把握できるのだ。


「あっちか。行くよ」


 レンゲを感じ取ったヴォルスに従ってついていく。しかし、すぐに足が止まった。


「え? なんで止まったの?」


 不思議そうにするフォカリナとアリシアス。しかし、目の前にいる化け物達を見て声が詰まった。


「……これはまた、すごいものを。……アステナに会わせたくないね」


 化け物を見つめて、アリシアスはそう呟いた。

読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
ヴォルスの下りは、まんまとミスリードに引っ掛かってしまいましたよ。 (^~^;)ゞ 神はいっぱいいるし一人くらいやられちゃうんじゃ無いかな〜と思っていただけに、綺麗に騙されましたw (´ε`) ん…
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