第94話side1『『第三位』vs女神』
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――《確率操作》。それは、【十執政】『第三位』レグナード・ロウが持つ『異能力』だ。
それで出来ることは単純だ。確率を変えることだけ。自分の攻撃、相手の攻撃を必中にすることも出来るし、絶対に当たらないようにも出来る。
今回は、『風神』エオニアの放った風の刃が彼に当たる確率をゼロパーセントにした。そのお陰で、攻撃を避けられたのだ。
「――《確率操作》だっけ? 想像以上にめんどくさい『異能力』じゃん」
「あれ、なんでオレの『異能力』知ってるの? あー、クロイツが使ってたのかな。《複写》って強すぎるよね」
どの口が言ってんだと思うが、セツナは一切会話をする気がない。両手に血液の刃を生成し、飛び立った。
「速いな。流石『創世神』の血を引いてるだけあるね」
「チッ、うるさい」
素早い手捌きでレグナードに一閃を与えた。また無力化されるかと思ったが、喰らっているようだ。
「痛いな。クロイツたちはこんなのと戦ってたわけ? 凄いな」
「……早く消えて」
「えいっ!!」
イゼルナの出した氷の霧をエオニアの風で吹き飛ばし、レグナードに与える。それは瞬く間に彼の肉体を凍らせ、四肢の身動きを封じた。
「行くわよ! 喰らいなさい!」
空に飛んだアクアによって、水のビームが放たれた。簡単に岩をも砕く威力のそれがぶつかり、レグナードを囲った。
「――っ!」
雷速で突っ込むエオニアと、血液の刃を持って飛び込むセツナ。二人の攻撃がレグナードに当たりそうになった時、彼のもう一つの『異能力』が発動された。
「《適応》」
すると、彼の四肢を凍らせていた氷は一瞬で消えてしまったのだ。
そして、強烈な蹴りが二人を吹き飛ばした。
「わぁっ!?」
「――チッ、何今の?」
「オレが《適応》した攻撃は、二度とオレにダメージが通らなくなる。今の攻撃に適応して、破壊したんだ」
《確率操作》に加えてそんな力まであるとは……。ということは、今後彼には四肢を凍らせる攻撃が効かなくなってしまう。
《適応》を破るには、一発で倒すか、大量の攻撃で一気に倒すしかない。
セツナは拳を握りしめ、呟いた。
「……そ。じゃあ良いや」
その瞬間、セツナの髪と瞳が真っ白に変化した。『創世神』の力を出した証拠だ。
(――っ!? 後ろに――《確率操作》!)
後ろに現れたセツナに反応できず、攻撃を受ける確率をゼロにしようと『異能力』を発動した。
しかし、それは出来なかった。
「がはっ!?」
代わりに、セツナの強力な一撃が彼を襲った。レグナードは空に蹴飛ばされ、天井に衝突してしまう。
「な、んでだ? オレの『異能力』が……」
「攻撃の確率をいじられたり適応されたらめんどくさいからね。クロイツだっけ? あれと戦ったおかげで『異能力』の対抗策創れたんだから」
『創世神』の力で、『異能力』を無力化する結界を生み出したのだ。
『第六位』クロイツとの戦闘のおかげで、セツナは密かに『異能力』に対する特攻能力を生み出していた。
使ったのは今が初めて。ただ、創ったばかりの力のため、この結界をずっと維持することが出来ない。もって十分だろう。それまでに、レグナードを戦闘不能にする必要がある。
「オレの『異能力』をめんどくさいって言ってたくせに、お前の方がめんどくさいじゃねえかよ。まあ、いい」
そして、『異能力』を封じられたレグナードは悪魔の呪いの力を放出した。それは右手に集結し、腕を構える。
――刹那、紫色のエネルギーが無数に放たれ、セツナ達を襲った。
「もう! 気持ち悪い攻撃するんじゃないわよ!」
「もーこれ追ってくるよー! 当たると痛いし……えいっ!」
「……気持ち悪い。早く倒れて」
なんとか避けながらも無数の攻撃に対処する三人。だが、レグナードの猛攻は止まらない。
「おいおい力だけか? お前だけ避けきれてねえぞ?」
全方向に放たれた、レグナードの乱れ撃ち。アクアたちは全て避けることが出来たが、セツナは上手く避けれず、破壊しただけ。
一瞬止まったセツナに接近するレグナード。その瞬間――
「《切断》! 《虚構の創作》!」
『権能』が発動し、不可視の斬撃がレグナードの頬を掠めた。血を拭い、そのまま進むが何かに衝突してしまった。
「なんだ!? 何が……」
目の前には何も無い。――否、《虚構の創作》で作られた透明な壁に衝突したのだ。そして、それだけでは終わらない。
「……凍って」
「氷!?」
この場の全員を包み込むように氷の球体が展開し、覆った。周りの温度が一気に下がり、手足がかじかむ。
「まだまだよ! これでも喰らっときなさい!」
アクアから放たれた水の球体がレグナードを包み、呼吸困難に陥れる。
(――っ!? 息が……まだだ)
呪いのエネルギーを溜め、一気に水の球体を破壊する。その瞬間、薄緑のツインテールに橙赤色のメッシュが入ったエオニアが後ろに現れた。
「えいっ!!」
打撃を受け、全身が炎に包まれてしまう。しかし、それだけでは終わらない。エオニアがペンダントを触れると、橙赤色のクリスタルガラスが紫色に変化した。
それに共鳴するようにメッシュの色も紫になる。
そんな彼女からは紫電が放出されている。もう一度、彼女の手がレグナードに触れると――
「がぁっ!? 電撃か!?」
「まだまだー! ぶっ飛んじゃえ!」
手先から風を発生させ、レグナードを遠くに吹き飛ばす。氷に激突したレグナードだが、地を蹴って再び接近する。
「まだだ! 消えろ!」
「消えるのはそっちの方でしょ。《模造》」
血液の刃を生成した上で、『権能』を発動する。それにより、一本の刃が百本に増えたのだ。
「刃が……増え―――っ!」
紫のエネルギーを全方位に放出し、血液の刃を消し飛ばす。
「よし、次――」
空にいるアクアたちに接近しようと上に飛んだ。しかし、その前にセツナが真ん中に現れてしまう。
「引っかかったね。《創血式・桜華》!」
それは、吸血鬼と『創世神』の力を2:3で混ぜた技。
桜吹雪が舞い、嵐のような桃色の斬撃がレグナードを囲い込んだ。
「ううっ!!」
悪魔の力で全身を覆い、なんとか斬撃の威力を軽減しようと画策する。しかし、『創世神』の力を前にして、そんなのは意味を成さない。
――全身を切り刻まれたレグナードはゆっくりと地面に落ちていった。
「よし! やったわね! レンゲの所に急ぐわよ!!」
「……どうする? この人殺す?」
「……とりあえず、縛るだけにします。レンゲを助けてから、どうするかを」
そう呟き、セツナは血液でレグナードの全身を縛る。それだけでは終わらない。『異能力』を封じる力を血液に付与し、目覚めたとしても何も出来ない状態へとしたのだ。
「ほら! 急ぐよ!」
エオニアに急かされ、部屋から飛び出る。そこには、真っ暗な空間が広がっていた。広すぎて、どの方向に進めばいいか分からない。
「レンゲはこの道を真っ直ぐ行けばいます」
四つ子はお互いがどこにいるか常に感じ取れる。だから、セツナはレンゲの居場所を特定できた。あとは進むだけ。そう思っていたが――
「嘘でしょ? 何この数……」
目の前には、人でも吸血鬼でもエルフでも機械でもない化け物が数え切れないほど放たれていたのだ――
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