第93話『vs『第四位』、『第五位』、『第九位』』
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――違う部屋に飛ばされた『生と死の神』アリシアス、『夢の神』フォカリナ、『雷神』ヴォルス。
彼らに相対するのは、【十執政】『第四位』セルヴィ・ミレトスだ。
目の前に堂々と立つセルヴィをアリシアスは睨みつける。
「殺した者の命を残機にする『異能力』を持ってるね? ボクと会ったからにはこれ以上生きれると思わないように」
「生意気言いやがって。ぶっ殺してやるよ! 《亡者の印》!」
『異能力』を発動し、過去に殺した吸血鬼の力をその身体に顕現させる。血液を体外に放出し、刃を生み出す。
「さあ来いよ!!」
アリシアスに対して一閃を放つ。しかし、それは雷速で反応したヴォルスに防がれてしまった。
「テンション高いね。僕たちはそれどころじゃないんだけどさ」
「――っ!?」
ヴォルスの手が身体に当たった途端、全身に強力な電撃が走った。頭上にある残機は一つ減り、新たな肉体が再構築される。
「痛ぇじゃねえかよ。雷めんどくせえな。ま、良いぜ」
セルヴィが右腕を前に出すと、紫色のエネルギーが腕を覆った。それは、【十執政】全員にある悪魔の呪いの力だ。
「うわーなんか凄いの腕にあるじゃん。どうする? 姉ちゃん」
空をふわふわ飛びながら、フォカリナはアリシアスに近づく。困った顔で無言のアリシアスだったが、ゆっくりと顔を上げた。そして――
「じゃあまずは。動けないようになって貰おうか」
真っ赤な瞳が一瞬光り、セルヴィの瞳と見つめ合う。その瞬間、セルヴィを背筋が凍るような恐怖が襲った。
それは、生死を司る彼女が持つ大権の内の一つだ。どんな相手でも、強制的に恐怖を感じさせて動けなくすることが出来る。
(身体が……動かない!? あの目か? 視線を……)
視線を逸らそうとするが、身体が全く動かないので上手くいかない。
そして、身体が蹴り飛ばされたかと思えば――
「ちょっと強く行くよ」
高火力の電撃がセルヴィを襲い、全身に痛みが伴う。
まだ紫電は放出されたままだ。残機は瞬く間に減っていき、百個消えた。
「――っ! やめろって! 退けよ!」
「おっと。危ないね」
アリシアスから離れたことで身体の自由が効くようになり、悪魔の力をヴォルスに放った。
幸い、雷速で後ろに避けることが出来たが、当たればどうなってしまったのだろうか。
「次はそうはいかねえぞ。覚悟しろよ?」
再び、悪魔の力を溜めるセルヴィ。そんな彼を見て、アリシアスは呟いた。
「さてと。本気で行かせて貰うよ」
◆◇◆◇
明るい部屋に、セレナ、エルフィーネ、サフィナがワープさせられてしまった。ゆっくり立ち上がり、周りを見渡す。
「二人とも大丈夫ですか? ライン様たちとはぐれてしまいましたね……」
「う〜ん、大丈夫〜」
「アタシもー」
頭を抱え、二人はゆっくり起き上がった。すぐにここからでなければ――と思っていると、足音が響いた。
「はぁーぁ。あーしがなんでこんな事しないといけないんだろ」
三人が一斉に声のする方を向く。そこには、あくびをしながらダルそうに歩く女性がいた。また新しい【十執政】ですね……と思っていると、サフィナが手を振った。
「あ、ミレーナじゃーん。久しぶりー」
「あ、サフィナ? 久しぶりー。元気してた?」
お互いに手を振り、仲良さそうにするサフィナとミレーナ。セレナとエルフィーネがキョトンとした顔をしていると、ミレーナはこちらを向いた。
「あーそうだ。あーしは【十執政】『第五位』ミレーナ・ネフェリア。よろしくねー」
毎度恒例のごとく、丁寧な自己紹介をしてくれた。セレナとエルフィーネは構えるが、敵意が全く感じられない。そういう『異能力』なのだろうか? そう思っていると、サフィナが話し始めた。
「アタシたち石像のところまで行きたいからさー。一緒に行こうよー」
そんな堂々と聞くのか……と、セレナが目を向ける。そしてミレーナの方を向くと、だるそうに話し始めた。
「えー。時間稼ぎするのがあーしの仕事だもん。でもサフィナと戦いたくないし、どうしよっかな」
腕を組み、困ったように上を見上げる。なんかこのまま上手く押せれば穏便に済みそうだ。戦わなくていいのならそれが良いに決まっている。顎に手を当て、悩んだミレーナは口を開いた。
「サフィナはなんで【十執政】辞めたの? 何も言わずに居なくなっちゃってさ」
「別にアタシは忠誠を誓ってた訳じゃないしー。……それに、昔みたいに三人でいたいって思っただけ」
サフィナの心の内を聞き、ミレーナは何も言わず、その場に立ち止まっている。
――一、二分ほどだろうか。ずっと無言だったミレーナはため息をつき、サフィナを見つめた。
「ま、いっか。石像まで行きたいんでしょ? 着いてきて」
「わーい。ラッキーだねー」
手招きをし、ゆっくり歩くミレーナにピタリとくっついて進むサフィナ。少し警戒しながらも、セレナとエルフィーネは顔を見合わせた。
「ほ、本当に良いんですか? 案内して……」
「ん? まあ別にどうなろうがあーしは興味ないし」
「けっこ〜テキト〜なんだね〜」
『破壊神』と『魔王』が復活するまで、約六時間。そんな中、彼女らが一番最初にたどり着こうとしていた。
――だが、そう上手くいくはずない。なぜなら――
◆◇◆◇
「はぁ、やっぱ避けるか。『魔導師』を俺の所にしやがって……」
先程と同じく、強力な魔法を放った【十執政】『第九位』レヴ・ダイナス。しかし、それもグレイスのせいで避けられてしまった。
「……ん? あの女、石像の方に近づいてる? 何してんだか」
突然そう呟き、ため息を付く。
「ま、俺も裏切った身だし、あいつに何も言えねえか」
以前、『第六位』クロイツと一緒にレヴは【十執政】を裏切った。しかし、彼だけはこうして元の立場に戻っている。
自分たちの計画が遂行できなかったのは悔しいが、今はとりあえずあの方たちを復活させよう。
そんな思いを抱えながら、レヴはラインたちを見つめる。
「……おいおい、そんな目で見るなよライン。俺らは友達だろ?」
「お前、一体どういうつもりだ? 【十執政】だったのかよ?」
「そうだけど。上手かっただろ? 我ながら結構自信ある演技だったぜ?」
これまで友達として過ごしてきたレオ・ヴァルディ。その存在が、まさか【十執政】のレヴ・ダイナスだとは。
一体、どこからが嘘なのだろうか。
「最初に俺を襲った時も……ずっとか? 全部嘘だったのか?」
「え? 全部が全部嘘ってわけじゃないぞ? 本当の事もあるし。じゃないと、カイラス先生の養子として学園に入れなかったからな」
初めてレオに襲われた日、彼に対して吸血鬼を恨む理由を聞き、言われたことを思い出す。
『……五年前、俺の故郷の村に一人の吸血鬼がいたんだ。そいつは一年くらい村で生活して村の人達と仲良くしていた。でもある日、俺が村に帰ったら村が……血の匂いで染まってたんだ』
『すぐに家に帰ると家族が全員殺されてたんだ。親も、兄も! そして……一番大事だった妹も!! その時後ろからあの吸血鬼の声が聞こえてきたんだ』
【俺は『なんでこんな事をしたんだよ! 仲良く一緒に遊んだりもしたじゃないか!!』って。そしたら『俺たちと仲良くしてたのは油断した俺たちを殺すためだった』って言われたんだよ』
『恐怖を通り越して絶望した俺も殺されそうになったところを通りかかったカイラス先生に助けられた。俺は先生の養子になってここに入ったんだ……』
などと言われた。となると、昔、吸血鬼に襲われたというのは真実なのだろうか。
「じゃあ、村で仲良くしてた吸血鬼に襲われたのは本当なのか?」
「あー。まあ七、八割方は本当だぞ。襲ってきた吸血鬼が一年くらい村で仲良く生活してた事、家族が殺された事が嘘だな。それに――」
「そもそも俺はその村の住人じゃないし、全てあの方に受けた命令の通りに動いただけだ。ルシェルとセルヴィと一緒にな」
「あいつらが?」
「村人たちを惨殺した吸血鬼ってのはそいつらだ。知ってるだろ? ルシェルが吸血鬼ってことは。で、セルヴィは《亡者の印》で昔殺した吸血鬼の力を使ったって話だ。簡単だろ?」
現在、『第二位』に乗っ取られているルシェルが吸血鬼だということは『神龍オメガルス』戦で分かったことだ。セルヴィがいた理由は大体わかる……というか、確信している。
殺した村人の命を自身の残機に変換したんだろう。まさか、そんなおぞましい事をしていたとは思いもしなかった。
「……俺は、お前の事友達だと思ってたのに」
「ああそう。それは嬉しいな。でも、どうせ邪魔するんだろ?」
腕を組み、バカにするようにニヤニヤしながらレヴは答える。そんな彼に、ラインはもう容赦しない。
「当たり前だろ。俺らを騙した挙句に、レンゲを攫ったんだ。絶対に許さない」
――瞬間、レヴの全方位を血液の刃が囲った。
「ハハッ、面白いじゃねえか。やってやるよ!」
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