第92話『vs『第一位』、『第二位』、『第三位』』
――ラインたちの飛ばされた暗い空間とは違い、ここは明るい空間だ。
そこに飛ばされたのは『時間の神』アスタリア、『空間の神』スピリア、『法則の神』ファルネラ、そしてアレスだ。
「姉さん、大丈夫?」
「うん。貴方たちも大丈夫?」
後ろを向くアスタリアに、アレスとファルネラは頷いた。
ここはどこだろうか。幸い、彼らの本拠地から追放されたわけではなさそうだが、さっきの部屋までの道が分からない。
「早く、レンゲを助けに行かないと」
「うん、そうだね。スピリア、行くよ」
『空間の神』なら、さっきの場所にすぐ帰ることが出来る。そのため、スピリアに飛ばしてもらおうと彼に近づく。
その瞬間――
「させないよ。時間稼ぎしないといけないし」
「君は……」
飛んでくる鉄の剣を破壊し、その方向を向く。そこには、【十執政】『第一位』ソール・アスタリウスがいたのだ。
「はじめましてかな? 僕は『第一位』ソール・アスタリウスだ。君の兄とは会ったことあるんだけどね」
以前、ラインたちと交戦したことのあるソールはここにいるメンバーと相対した事がない。
だから丁寧に名前を名乗ってくれたが、アレスはラインから話を聞いていたのでソールの『異能力』を知っている。
そして、アスタリアももちろん知っている。なぜなら――
「ちょうど良かった。過去や未来を改竄する『異能力』を使っていたのは貴方だね? よくもまあ堂々と」
腕を組み、つま先を何度も地面に叩きつける。どこからどう見てもマジギレしている。見られている訳ではないアレスだが、その圧に一瞬だけ腕が震えてしまった。
「そっちは何の神? 『時間の神』かな? あの方が言ってたし――」
刹那、ソールの動きが止まった。『時間の神』に身体を止められたようだ。
そして、蹴りが入った。
「――っ!? 今のは……時間を? 《未来の選択》」
未来を見て都合の良い未来に導く『異能力』を発動し、アスタリアたちの攻撃を見切ろうとする。
――だが、『時間の神』には通用しない。
「――熱っ!? 選択した未来と違う……」
選択したはずの未来とは違う攻撃がアスタリアから放たれた。
ソールが見たのは、彼女が拳で打撃を放つ未来だった。それを回避しようと身体を捻らしたのだが、そこに炎魔法が飛んできたのだ。
思い通りにならなかったことに困惑し、アスタリアをじっと見つめる。
「何をした?」
「わたしにそんな能力が効くと思ってるの? 『時間の神』だよ?」
『時間の神』の彼女に対して、未来や過去を改竄する力は意味をなさない。彼女のおかげで、ソールの『異能力』を二つ意味の無いものにすることが出来た。
「後は反射できる『異能力』だけだね。『創世神』の力なら反射できないらしいけど」
『創世神』のエネルギーを右手に集め、ソールに近づく。
「あんまり使いたくないんだが、仕方ないか」
――瞬間、紫色のエネルギーが辺り一面を覆った。
◆◇◆◇
また別の部屋には『剣聖』アッシュ、『炎神』イグニス、そして、ロエンとヴァルクが飛ばされた。
「……ここは……変な所に飛ばされたみたいだね」
「チッ、あのクソガキが。こんなわけの分からん所に飛ばしやがって」
地面を思いっきり叩き、顎に手を乗せて不機嫌そうにするイグニス。すると、目の前に突然人が現れた。それは――
「さて。お前らの相手は俺だ。さっさと倒して他の方に行かねえとな」
それは、【十執政】『第二位』ルシェル・バルザーグだ。みんなをバラバラの部屋に送った張本人だが、この部屋に来たようだ。アッシュの前に出てくるとはいい度胸をしている。
「君はお父様の身体に入ってた者で間違いないね?」
「ああ。さっきも言ったが、お前の父親の身体良かったんだけどなー。『剣聖』の『権能』が強かったのに――」
――瞬間、アッシュの刃が軌跡を描いた。氷の『神剣』フロストリアは水平に振られ、氷の斬撃がルシェルに襲いかかる。
「なっ!? やるじゃねえか!」
身体を上手く捻り、被害を最小限に抑える。そしてルシェルは反撃をしようと指を出し、
「《破壊の衝撃》」
破壊のエネルギーを指先に集め、放とうとしていた。
しかし――
「おい、お前らだけ戦ってんじゃねえ」
アッシュとルシェルの間に入り込んだイグニス。拳に炎を集め、ルシェルの胸に打撃を与える。
「チッ、熱いじゃねえかお前! 痛ぇな!」
「《引力の王》」
イグニスの打撃で腹を抑えて後ろに飛ばされたルシェルだが、ロエンによって引き寄せられてしまう。そして――
「《超加速》」
動く時間を加速させる『権能』と、雷の『神剣』ヴィザレストを手に持ち一閃を放つ。
雷の刃は軌跡描き、ルシェルの肉体に斬撃が入る。腕が切り落とされ、血が溢れる。
「――っ」
向きを変え、再び接近するアッシュ。刃が当たる寸前に、『権能』が発動された。
「《無視》、《再生》」
瞬間、ルシェルの肉体は絶対不変の無敵状態と化し、アッシュの斬撃をいとも簡単に受け止める。さらに切り落とされた腕はもう一つの『権能』で完璧に再生されてしまった。
――そして、無敵を攻略する戦いが幕を開けた。
◆◇◆◇
「痛っ……ここは? あっ、レンゲ!?」
また別の部屋に飛ばされたのは、セツナ、『水神』アクア、『氷神』イゼルナ、『風神』エオニアだ。
レンゲを探そうと周りを見渡すが、もちろんいない。
「レヴ……いや、レオだっけ。絶対許さない」
レンゲを何らかの方法で気絶させ、連れ去った挙句にあんな狭いポットに入れるなんて。
セツナは怒りを露わにし、ゆっくり立ち上がる。
「変なところに飛ばしてくれたわね……。どこなのよここ……」
続いてアクアも立ち上がり、周りを見渡す。本当に何も無い真っ白な空間だ。その時、声が聞こえた。
「オレの部屋さ。えっと……四人も飛ばされてきたの? きついなー」
部屋には謎の男が入ってきた。足音を響かせ、セツナたちの目の前に立つと彼は名乗り始める。
「オレは【十執政】『第三位』レグナード・ロウ。よろしくな――」
瞬間、氷の刃が彼に放たれる。ギリギリで顔を動かし避けると、びっくりした顔でイゼルナを見つめる。
「まだ話の途中だったのに凶暴だね」
「……時間が無い。あなたに構ってる暇ないから退いて。退かないなら……」
「悪いけど出来ないなぁ。時間稼ぎするように言われてるし。稼がせてもらうね」
冷たい声で淡々と話すイゼルナにそう答え、準備運動のように首を動かす。その瞬間、彼の全身を血液が縛り付けた。
「……本当に構ってる暇ないから。邪魔するなら容赦なく潰すからね」
「おー怖っ。でも良いよ。戦ってあげる。容赦なく来ていいよ」
「言質取ったからね! 行くよ!」
その刹那、エオニアが首に下げているペンダントと彼女の薄緑のツインテールに紫のメッシュが入る。雷速でレグナードに近づき、大量の風の刃を飛ばす。
だが――
「危ない危ない。当たらないよ」
「えっ、なんで!?」
確実に当たるように放ったはずだ。だが、レグナードには傷一つ付かず、エオニアが想定していた場所とはかけ離れた所に刃は刺さっている。
――それを見て、セツナはそれがどんな『異能力』か分かった。
以前、【十執政】『第六位』クロイツ・ヴァルマーと戦った時のことだ。
彼は【十執政】全員の『異能力』を《複写》していた。
記憶を巡り、クロイツのことを思い出す。どんな『異能力』を使っていたのか。
『全然、勝てる方法が思い浮かばないや。でも、僕らが望む世界を手に入れるにはやらなきゃいけないんだよ。《未来の選択》、《反射》、《透明化》、《引力の王》、《幻焔花界》、《確率操作》!』
と、一気に六つの『異能力』を発動したことがあった。
その後の戦闘で起きたことと、今の出来事から察するに、レグナードの『異能力』の一つは――
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