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第91話『末妹奪還作戦開始』

 ――真っ暗で冷たい空間に、【十執政】『第二位』ルシェル・バルザーグ、『第四位』セルヴィ・ミレトス、『第九位』レヴ・ダイナス、そして、レンゲが現れた。


 レンゲは依然として意識を失っている。彼女を担ぎ、三人は巨大な扉を開け、中に入る。そこには二体の石像が置かれていた。


「……ついに来たか。よくやったぞ」

 

 片方は『魔王』、もう一方は『破壊神』だ。千年前、『創世神』アルケウス達に敗北し、このような姿となって封印されてしまった。


 ――だが、それも今日解かれる。


 石像の横には人が丁度一人入れるくらいの二つのポットが置いてあった。その片方には、『ラビリンス・ゼロ』から【十執政】が連れ去った『凍界の女神(とうかいのめがみ)』リュミエールフローズが入っていた。


「このポットって何のためだっけ? クロイツが作ったのは知ってるけど……」


「『創世神』の力を我々に流し込み、封印を解くためだ」


 二つのポットは、【十執政】『第六位』クロイツ・ヴァルマーによって作られたもの。『創世神』の力で封印を解くための道具なのだが、一つ問題があるのだ。


「我々の封印を解ける量の『創世神』の力を流し込むには、最低でも六時間必要だ。その間、奴らはその女を助けに来るだろう。時間を稼げ」


 レヴの担ぐレンゲを見て、『魔王』の石像は命令する。その内容を()()の【十執政】に広めた。各自で受け取った【十執政】は、六時間稼ぐように働くはずだ。


 ラインたちに――否、世界に残された時間はたった六時間。それを過ぎてしまえば、『魔王』と『破壊神』が封印から解き放たれてしまう。


 ――だから、それまでに何とかレンゲを助けなければ――


 ――そして、レンゲはポットの中に入れられてしまった。


「さあ、開始だ」


◆◇◆◇


 レンゲを攫われてしまい、学園にいるラインたちは今すぐにでも助けに行かなければならない。

 しかし、どうやって行く? 場所が分からなければ行き方が分からない。


 ――いや、ロエンがいるじゃないか。


「おい、お前らの拠点ってどこにある!?」


「今すぐ行きますよ。時間が無いです」


 ロエンがそう口にする。時間が無いとはどういうことだ? そう思っていると、彼の目の前に紫色の魔法陣が現れた。それは、連絡魔法だ。あの方から送られてきたらしい。


「おそらく、私とサフィナを省くのを忘れていた様ですね。六時間後にあの方たちが復活してしまいます。それまでに助けましょう」


 【十執政】を辞めたロエンたちにも送ったのはちょっと抜けてそうだ。だが、六時間以内にレンゲを助けないと。


「あ、ああ。じゃあ俺らと……アッシュとグレイスも来てもらっていいか?」


「うん。僕は構わないよ」


「ああ、良いぞ」


 ありがたいことだ。これで、レンゲを助けに行こう。そう思っていたら、エリシアが声を上げた。


「ま、待って。私も行く」


「え? お前も行くつもりか?」


「うん。レンゲは大切な友達だし……」


 正直、心配だ。他のみんなみたいに高い戦闘力がある訳じゃない。出来れば事が済むまで家で休んでいて欲しいが、彼女の『権能』に目をつけた。


「エリシアのって《拘束》と《飛翔》だったよね? じゃあ戦う時にいいかも」


 《拘束》で相手を縛れるし、いざ危険になったら空に飛んで逃げれる。連れて行っていいだろう。


「【十執政】が六人であの方たちが二人いるけどーアタシたち十人じゃん? 一人につき一人で倒せるわけないしー後何人か欲しいんだけどー」


 腕を前に組み、困ったようにサフィナが呟く。【十執政】は実力主義だ。順位が上の方がもちろん強い。

 ロエンとサフィナは『第七位』と『第八位』だったし、殆どが奇妙な『異能力』を持っている。

 一体一で何とか出来る相手ではない。


「て訳だからー手伝ってよ」


「はぁ……なんで俺が」


「お前……いたのかよ」


 校門から男が入ってきたのだ。それは、ロエンたちと同じく"元"【十執政】『第十位』ヴァルク・オルデインだったのだ。


「私がヴァルクに連絡をしました。『【十執政】を倒しに行くから行きましょう』って」


 軽い連絡だが、元々彼らは【十執政】だったのに潰すことをなんとも思わないのだろうか。

 

「お前らって【十執政】嫌いなの?」


「嫌いというか……仕方なく入っていただけですし。好きも嫌いもないですよ。それに、嫌な予感もしますし」


「ま、良いか。行く――」


 ――瞬間、場面が変わった。群青と金に分かれた空に囲まれ、星のように流れる滝がある空間。

 そう、ここは『時間の神』たちの住処だ。ここに飛ばされたということは、今までの話も聞かれていただろう。


「聞いてました?」


「うん。聞いてたよ。早速ボコボコにしに行こうか?」


 なんでか分からないが『時間の神』がめちゃくちゃキレている。しかも、『時間の神』たちだけでなく『炎神』たち属性神も、『知恵の神』も勢揃いだ。


「早くレンゲちゃんを助けるよ。そしてその後あいつらをぶっ潰す」


 本当に誰にキレてるのか分からないが、みんなが手伝ってくれるならこんなに頼もしいことは無い。


「レンゲを攫ったんだ。絶対に許さない」


 静かに怒りを露わにするラインの手を、アステナはぎゅっと握る。


「前に言ったけど、【十執政】の『破壊神』は――」


「ああ、分かってる。慎重にするよ。ロエン、行くぞ」


「はい、分かりました。行きますね――」


 その瞬間、黒い羽根のような霧がみんなを包み込む。その行き先は、もちろん――


◆◇◆◇


「――来るか。ロエン、そいつらを手伝うなら我々も容赦はしないぞ」


「あっ……っ……」


 ポットに入ったリュミエールとレンゲから少しずつ『創世神』の力は流し込まれる。

 力を吸われたからといって、レンゲから『創世神』の力が消えるということは無いが、無理やり力を奪われるのは肉体に負荷がかかってしまう。


 痛みに耐えるレンゲを無視し、容赦なく力を吸い取っていく。


 ――刹那、黒い羽根のような霧が目の前に現れた。


「――ほう。これはまた大人数だな」


 霧が晴れ、現れたのはラインたち三人とメイド二人、『剣聖』と『魔導師』にエリシア、"元"【十執政】三人に十一人の神々。

 計二十二人の大勢が、一気に『魔王』と『破壊神』の石像のある場所にワープした。


 目の前にはレンゲの入ったポットがあり、苦しむ声が聞こえる。


「お前ら……レンゲを返せ」


 血液を体外に放出し、血液の剣を作り出す。何とか平常心を保つ兄妹三人を見て、バカにするような声が響く。


「妹が大切なのは分かるが、まずは自分たちの心配をした方が良いだろう。やれ」


「《瞬間移動》」


 その瞬間、突如として現れた『第二位』ルシェルにより、、《瞬間移動》の『権能』が使われた。各々の地面に黒い穴が出現し、落下してしまう。


「さぁ、時間稼ぎを頼むぞ」


◆◇◆◇


「――っ!? ここは……」


「暗いな……」


 ラインとグレイスが飛ばされたのは、真っ暗な部屋だった。彼らの根城から追放はされてないようで一安心だが、早く戻らないと。


 そう思っていると、二人の女性の声が聞こえた。片方はラインを掴み、もう片方はグレイスを掴む。


「ライン君、ちょっと待って」


「グレイス君待って」


 そう、彼女たちは『知恵の神』アステナとエリシアだ。見た感じ、四人しかいない。他のみんなはバラバラに飛ばされてしまったのか。


「……よし、《暗視》」


 どんな暗闇状態でも周りが見えるようになる『権能』を使い、辺りを確認する。結構奥行きもあり、広い部屋のようだ。


 その奥に、いた。『煌星の影(こうせいのかげ)』レオ・ヴァルディが――否、【十執政】『第九位』レヴ・ダイナスが。


 何やら、こちらに向けて杖を構えている。


「――!! お前ら避けろ!」


 魔力の流れで瞬時に魔法を撃たれることに気づいたグレイスが叫び、横に倒れる。幸い、レヴに撃たれたそれは直線を描き、当たらなかった。


「《黎明》」


 新たな『権能』を取得した。それは、どんな暗いところでも昼くらいの明るさに出来るもの。範囲は部屋くらいしかないため、この部屋で丁度良い大きさだ。


 明るさを取り戻した瞳に、獅子の仮面を被るレヴが映った。


「来たようだな。さて、俺が相手してやるよ」


 彼の右手に持つ杖が、再び光った――

読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
何だか最終決戦のような展開……ここで破壊神たちとの決着になる? (´・ω・`) レンゲの見せ場はきっとあると信じているので、助けが入ると祈っておりますよ。 (「`・ω・)「
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