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第86話『封印された日の記憶』

 冷たく、暗い空間に二体の石像が置かれている。千年間、彼らは封印されているのだ。

 意識はあるが、自由に身体を動かすことも世界を動き回ることもできない。彼らにできることは、【十執政】を束ねることだけ。


 だが、それもあと少しの辛抱だ。再び、この世界に解き放たれるだろう。


「……視線を感じるな。一体誰が……」


 左側の石像から、そう声が聞こえる。反応するように、右の石像からも声が出された。


「『時間の神』か。長い時を経ても変わらないものだ」


 どこからか分からないが、殺意の視線を感じた。


「フッ、馬鹿どもめ。あの戦いがもう一度成立すると思っているのか?」


 そう呟き、二体の石像は遠い昔の記憶を辿った。


◆◇◆◇


 青い空は真っ赤に染まり、木々は燃え、世界は崩壊し、終わったかのような見た目。――否、終わっているのだ。この世界は上空に佇んでいる『魔王』と『破壊神』によってほとんど壊された。村も、国も、人も、あらゆる生命体は終わりを告げた。


「フッ、なんてザマだ。なぁ、兄さん」


「――っ」


 灰色の髪を持ち、漆黒の衣を着ている『破壊神』は、地面に立つ真っ白の髪と瞳を持った美青年――『創世神』アルケウスを見下す。


「自分の力を分けたお前が我々に勝つことなんて出来ないのだ」


「満足に力を出せないお前が、これ以上何が出来る? 守ろうとした世界もこんな風に変わったんだぞ?」


「……ハハッ、いい度胸してるなお前ら。俺が力を分けたからといって、お前らが強くなったわけでもない。それに――」


 ――瞬間、アルケウスの隣に十一人の神が瞬間移動してくる。『空間の神』スピリアのおかげだ。


「俺が使えなくても、みんながいる。行くよ」


 十一人全員が頷く。そして、『知恵の神』を除いた神々が一斉に空に飛んだ。


「エオニア、行くよ」


「はーい! やっちゃうぞー!」


 『雷神』ヴォルスに触れられ、『風神』エオニアの薄緑のツインテールに紫色のメッシュは入った。

 二人共に雷速で走り、それぞれ雷と風の刃を上空にいる二人にぶつける。

 しかし、効果はないようだ。高い防御力を持っている。


「ほら、スピリア行って!」


「全く姉さんは荒いな……。はぁっ!!」


 『時間の神』アスタリアに蹴り飛ばされた『空間の神』スピリア。それを狙い撃つように構える『魔王』と『破壊神』だが、彼らの時が止まった。


 その瞬間、スピリアの蹴りが届いた。彼は相手がどこに居ようが、空間を圧縮することで絶対に攻撃を当てられる。今回も、止まった『魔王』たちに一撃を送った。


 が、やはり威力が足りない。


「オラァ!! ――チッ、クソが!」


 『炎神』イグニスが燃え盛る大剣で襲いかかり、水平に軌跡を描く。しかしこれも手応えなしだ。どれだけ硬いのだこの二人は。


「無駄だ。お前らが何をしたところで変わらない」


 『破壊神』の手が、イグニスの大剣に触れる。その瞬間――


「なっ!? ――クソが」


 大剣は木っ端微塵に破壊されたのだ。塵も残らず壊され、驚愕の顔をするイグニスにその手は迫った。

 しかし――


「――っと。させねえよ。《切断》」


 アルケウスがその腕を掴み、睨みつける。さらに不可視の斬撃で『破壊神』の肉体を切り刻み、蹴り飛ばす。

 アルケウスの攻撃は効果があるようだ。腕は切断され、血が飛び出た。


「こっちだ!」


「あ?」


 『魔王』が自身の血液を操り、人の身体より大きい鎌を生み出した。それをアルケウスに振るのだが――


「……動かないで。許さない」


 『氷神』イゼルナの出した全身を凍らせる冷気が『魔王』を襲い、身体が凍ってしまう。なんとか破壊しようとするが、『水神』アクアに水をかけられる。


 そして――


「オラァ!」


 イグニスの炎を纏った拳に殴られ、肉体に大きなダメージが入る。しかし、それで終わるような存在ではなかった。


 鎌が水平に振られ、大量の血の斬撃が彼を襲う。


「えいっ!!」


 雷速で近づいたエオニアが風の刃で切り刻み、イグニスに当たるのはなんとか避けれた。もし当たっていればどうなっていたのだろう。それは技を出した『魔王』にしか分からないことだが。


「俺とアスタリアとアリシアスで『破壊神』を倒す。『魔王』は頼むよ」


「おいおい、それで勝てると思って――っ!?」


 地面に落とされた『破壊神』が空中に登り、アルケウスたちを睨む。その瞬間、彼の全身をとてつもない恐怖が襲った。


「ボクの目を見て、そんな事が言えるの?」

 

 それをしたのは『生と死の神』アリシアスだ。彼女の真っ赤な瞳に見つめられると、誰だろうが背筋が凍るような恐怖心を抱いてしまうのだ。それがたとえ、『破壊神』であっても。


「――っ」


 恐怖で身体が動かない。これ自体に攻撃力はないが、精神を蝕んでくる。

 

「もう少し止まろうか」


 アスタリアに身体を触られ、肉体の時間が止まった。その間に、アルケウスの攻撃が『破壊神』を襲った。


 『創世神』の白いエネルギーを両手に覆い、一撃を喰らわせる。

 その衝撃波で、視認できないほど遠くまで地形が崩れるが、『破壊神』はなんとか耐えたようだ。


 一方の『魔王』はというと――


 血液の鎌や刃で強力な斬撃を放っていた。血の斬撃が爆発を生み、中々近づけない。


 ――そんな中、『魔王』の攻撃を無視するように上昇してきたのは、『法則の神』ファルネラと、彼女の背中におんぶしてもらっている『知恵の神』アステナだ。


「はい、どうぞ」


「エレメントキャタスト!」


 炎、水、雷、氷、風、光の属性エネルギーがアステナによって放たれる。それは『魔王』の肉体を貫通し、その肉体を塵にするべく魔法が全身を包んだ。


「行くよ」


 無限の距離を攻撃出来るスピリアにより、迎撃される。そして『炎神』、『雷神』、『風神』、『水神』がそれぞれの属性を高火力で放ち、『氷神』が『魔王』の肉体を凍らせる。


 しかし――


「この程度で、我々が負けるわけなかろう」


(――っ!? 殺気!?)


 全員が殺気を感じた。『魔王』と『破壊神』の両方から同時に。世界の九割を一撃で滅ぼした攻撃が、また――


 瞬間、世界が光った。『魔王』と『破壊神』の連携攻撃がアルケウスたちを包み込み、彼らの命が終焉を迎えた。


 はずだった――


 連携攻撃が繰り出される前に、時間が巻き戻った。それは『時間の神』の能力だ。なんとかギリギリで発動出来たが、ここで止めないともう後がない。

 時間が戻る前の出来事は、アスタリアが認めた者しか頭に残らない。


 話すより先に世界が終わることを悟った各々は、刹那の一瞬で『魔王』たちに接近した。


「な、お前ら……」


 イゼルナの氷で、二人の頭上にある暗黒の球体を凍らせる。追撃でイグニス、ヴォルス、エオニア、アクアが両者を叩き落とし、スピリアが空間を圧縮して『魔王』たちをぶつける。


「させないよー」


 『夢の神』フォカリナの目が光り、藍色の瞳が『破壊神』と『魔王』を睨む。どんな相手だろうが眠るように意識を失うそれを受け、彼らはなんとか意識を保とうとする。しかし――


「これ以上はダメだよ」


 アリシアスの赤い瞳に見つめられ、二人は恐怖心で背筋が凍り、身体が動かなくなった。そのせいで、落ちてくるまぶたを上げることが出来なくなってしまった。


 それでも尚、攻撃を繰り出そうとする二人を『知恵の神』が襲う。


「エレメントキャタスト!」


 二度目の魔法。ファルネラに担がれながら魔法を放ち、眩い光が『魔王』らを襲う。威力はそこまで入らなかった。だがそれでも、()が動ける時間は稼げた。

 

「ありがとな!」


 ――そこからは一瞬だ。二人の肉体に手を触れ、アルケウスが生きてきた中で最大の『創世神』の力を放出する。それが為すのは封印だ。

 『魔王』と『破壊神』の肉体は段々と石になっていき――


 石像となって封印された。


◆◇◆◇


「フッ、あんなので千年も封印されるとはな。だが、アルケウスはこの世界にいない。今度は我々の勝ちだ」


 薄暗い空間の中で響き渡る二体の石像の声を、聞いたものは誰もいなかった。


「さあお前はどう動いてくれる? レヴ」


 獅子の仮面を被った【十執政】『第九位』レヴ・ダイナス。彼に対してある一つの命令を送っている。

 それは――

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― 新着の感想 ―
石像……? あ、思い出した! ちょっと前に動こうとしていた石像ですよね? (´・ω・`) これは過去の戦いか。 魔王も破壊神もかなりの強さ。 当時の方がイグニスたちも強かったのだとすると、今のライン…
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