第85話side4『『風神』エオニアvsレンゲ』
遠くでは『炎神』とライン、『雷神』とアレス、『水神』&『氷神』とセツナが戦っていて、ここでは『風神』がレンゲと対峙している。
「よーし! 私たちも始めちゃおう!」
「はーい! 分かりました!」
お互いに元気なことだ。属性神の中では一番元気な『風神』エオニアと四つ子の中で一番元気なレンゲ。性格が似ている二人だが、どんな戦いを繰り広げるのだろうか。
「レンゲちゃんにはもっと強くなって欲しいし、ちょっと本気で行くね!」
「はーい! 待ってます!」
レンゲが元気に答えると、エオニアが嬉しそうに笑う。そして、戦闘が始まった。
「わあ! すごい!」
「危なかったです!」
風を切るような速度で突進したエオニアの攻撃を飛んで避け、血液を飛ばした。
迫る血液を、彼女は風で遠くに飛ばしたのだが、お互いの反応速度は中々のものだ。
「えいっ!」
血液を世界に放出し、大量の刃が現れた。連続して刃がエオニアを襲い、走って避け続ける。
「やっぱり強いね! これならどう?」
首から下げている、透明なクリスタルガラスで出来ているペンダントを擦った。すると、突然紫色に光ったのだ。
それに共鳴するように、薄緑色のツインテールだった彼女の髪に、紫色のメッシュが走る。
さらに、彼女の身体からビリビリと紫電が放出されていた。
まるで、『雷神』ヴォルスのように。
「!? 速いですね!」
雷速でレンゲに接近し、風の刃を飛ばす。レンゲもそれに反応し、血液の刃で切り刻む。両者ともにありえない速度で動き回り、周りからは何をしてるのか全く分からない。
刹那の一瞬に刃が何度もぶつかり合い、轟音が響く。
再び、エオニアがペンダントを擦る。紫色のクリスタルガラスが、橙色に変わり、彼女の髪に橙赤色のメッシュが入った。
「――っ!? 熱い!」
手のひらに出した炎を風で拡散し、レンゲに放った。炎が彼女を襲い、熱さを感じながらも何とか耐える。
「インフェルノ!」
魔力を全身に流し、炎魔法として世界に出現する。大量の火柱がエオニアを囲み、一斉に噴射された。しかし――
「危なかったー!」
橙赤色のメッシュが、銀白色のメッシュに変わっていた。ペンダントを見てみると、それも同じ色に変化している。
巨大な氷を生成し、レンゲに向けて飛ばす。それだけでは終わらない。
ペンダントの色と彼女の髪に入るメッシュの色がコロコロと変化し、炎、雷、水、氷を風で拡散する。
これにはレンゲも避けることしかできなかった。
「――っ! 危ない!」
「凄い! よく反応したね!」
後ろから迫る属性攻撃から避けるのに必死になっていたレンゲ。彼女の進む方向を先回るように、エオニアは雷速で彼女の正面に移動したのだ。
風の刃を振ったのだが、なんとレンゲは血液の刃で防御を決めた。凄まじい反応速度だ。
空を蹴り、後ろに下がった――と思えば、今度は空を蹴って加速しエオニアに刃を降る。それを対処するように彼女も風の刃を使い、ぶつかり合う。
今の彼女は紫色のメッシュが入っていて、全身を紫電が覆っている。『雷神』のような速度で動き回る彼女に、レンゲは対応できているのだ。
『権能』や『創世神』の力を使っている訳でもなく、ただ、吸血鬼としての身体能力だけでだ。
四つ子は全員身体能力が化け物だが、レンゲは群を抜いている。そしてそんなレンゲにはまだ、『権能』を使うという手が残されている。
「《早駆》!」
ありえない速度で動き回れるようになるそれを使い、元々早かったのにさらに速度が上がった。
「速いね! レンゲちゃんはその速度で攻撃を仕掛けるのが良いと思うよ! あと『創世神』の力も使って!」
「分かりました!」
エオニアのアドバイスに従うように、彼女は力を引き出した。すると、腰まである赤髪と緋色の瞳が真っ白に変化し、神々しい姿になった。
血液の刃と、『創世神』の力で作った剣を両手に持ち、エオニアの風の刃と衝突させる。音よりも早く、二人の戦いが空間を揺らした。
そして――
「わっ!」
強い衝撃でバランスを崩した瞬間、レンゲの手が肩に触れた。というわけで、彼女も訓練終了だ。
「早かったよー! でも強くてびっくりしちゃった!」
「わーい! 触れた!」
嬉しそうにはしゃぐレンゲと手を繋ぎ、二人仲良く空間から出てくる。
「お疲れ様。他の三人はちょうど今終わったよ。レンゲちゃんは……身体大丈夫そうだね」
「はい! 元気ですよ!」
『創世神』の力を使った時間が少なかったことで、三人のように動けなくなることはなかった。
◆◇◆◇
全ての戦闘訓練が終わり、四つ子は地面に座り込む。
「ハッ、ライン、お前やるようになったじゃねえか。正直見直したぜ」
「ね。アレスも成長してて、本当に強くなったのを感じたよ」
「セツナの使えるものは全部使うみたいな戦い方好きよ」
「……うん。セツナ、強くなってた。凄いよ」
「レンゲちゃん強かったー! やっぱり戦闘センス抜群だよ!」
と、それぞれ属性神たちに褒められて四つ子は顔を赤らめてしまう。面と向かって褒められて恥ずかしいのだ。
「ま、これなら【十執政】が襲ってきても大丈夫だろ。良かったな」
「はい。今日はわざわざありがとうございました。戦ってくれて……」
「良いって。僕たちも最近鈍ってたし、良い運動になったかな
あんな激しい戦いだったのに、良い運動と捉える『雷神』に誰も突っ込まない。ていうか、頷いてるので属性神たちにすると運動だったのだろう。相変わらず化け物だ。
「じゃあライン君たちは帰る? 飛ばせるよ」
「じゃあよろしくお願いします」
『空間の神』スピリアに頭を下げると、彼の指が鳴る。瞬きする間に、四つ子は屋敷に飛ばされたようだ。
――だが、ここではまだ話が終わる気配はなかった。
「――それで、どうするんだい? 本当にするつもり?」
「――考え中だよ。ヤツが復活したら、わたしたちだけでは倒せないし、ライン君たちでも倒せない。だから――」
「だからって、わざわざアスタリアたちが犠牲にならなくても……」
『知恵の神』アステナと『時間の神』アスタリアの話し合いを、他の神々は無言で聞いている。アスタリアたちが何をしようとしているのか、それはここにいるメンバーしか知りえないことだ。
「正直、不安です。ワタシたちが居なくなったあとに、彼らが本当に勝てるのでしょうか?」
「ボクも姉さんと同じ意見だね。ヤツを倒せないと、この世界は終わる。でも、可能性があるなら良いのかな」
「うーん、あたしたちじゃ倒せないんだし、可能性に託した方が良ーんじゃない?」
腕を組み、深刻そうに呟くのが『法則の神』ファルネラと『生と死の神』アリシアスの姉妹だ。姉二人に比べて、楽観的な『夢の神』フォカリナは空中に浮いている。
「……もしわたしたちがその方法を取るなら、貴方たちにもしてもらう必要があるけどさ。それは……どう?」
「俺らは別に構わねえけど……」
アスタリアの提案に、『炎神』を含めた属性神たちは受け入れるかのように頷いた。しかし、『知恵の神』は自分の手を見て、なにか考えたように握りしめた。
「私は……反対だ。勝たないといけないのは分かってるよ。でも……でも……」
「――アステナ?」
アステナが涙を流している。あまり見せないその姿に、神々は驚く。アスタリアもまた同じだ。目を見開いて、泣いている彼女の顔を見つめる。
「私は、私の大切な人達をまた失うのが怖いんだよ」
アステナは、昔の事を思い出していた。両親が、リアナが、村のみんなが、全員惨殺されたあの日の事。彼女が『知恵の神』となった日の事だ。
彼女はもう、大事な人達を失いたくない。あの日から知り合った『時間の神』たちや、その後知り合った『炎神』たちを。
「だから……ダメだよ。アスタリアも……みんな自分の事を大事にしてないから。絶対に辞めさせる」
アスタリアだけじゃない。他の神々もだ。全然自分の事を大切にしていない。生きていることが一番大事なことなのに。
「……フッ。バカだね。でも、そっか。最終手段として、取っておくだけで良いかもね。わたしも、貴女の言う通り少しだけ自分を大事にしてみるよ」
アスタリアはクスッと笑みを浮かべ、そう言った。綺麗な金色の瞳をゆっくりと閉じ、上を向く。そして、なにか考えるとアステナを見つめた。
「そうだね。いざと言う時の最終手段として取っておくよ。だから――」
金色の瞳を地面に……いや、世界に向ける。睨むような視線でどこかを見つめながら、アスタリアは呟く。
「もう一度叩き潰してあげる」
読んでいただきありがとうございます!




