第84話side3『『水神』アクア&『氷神』イゼルナvsセツナ』
少し離れたところではアレスが『雷神』ヴォルスと戦い、さらに奥にはラインが『炎神』イグニスと戦っている。それを見て、『氷神』イゼルナと『水神』アクアセツナを見つめた。
「……それじゃあ、行くよ」
「本気で来て良いわよ。アタシたちに攻撃を当てたら終わりね」
「分かりました。お願いしますね」
瞬間、冷気がセツナを襲った。先日、『ラビリンス・ゼロ』で戦った『氷結の女王』リュミエール・フローズとは圧倒的に格が違う氷の技。
セツナは炎魔法を使って全身を温めることで何とか大丈夫だが、少しでも判断が遅れていれば全身が凍っていた。
「――っ」
体内の血液を世界に放出し、刃を作る。イゼルナの放つ氷の攻撃を切り裂き、接近する。しかし、もちろんそんなに上手くいかない。
アクアの水がセツナを襲い、呼吸を止めるように彼女を閉じ込めたのだ。さらに、イゼルナがその水の球体を凍らせてしまう。そのせいで簡単に出れなくなってしまった。
(っ!? やばい……《切断》!)
不可視の斬撃を放つ『権能』が発動し、内側から氷の壁に連撃した。しかし、どれだけ固いのだろうか。全く壊れる気配が無い。先に溺れてしまう。
ならば――
「――っ!! 《切断》!!」
ワープして彼女達の後ろに回る。再び不可視の斬撃を放つが、イゼルナに刃が凍らされてしまう。不可視だというのに、なんということだ。
「フレアランス!」
魔力が全身を流れ、この世界に炎魔法として出現する。
イゼルナに対して二番目に強い炎魔法を放つのだが――
「はい! イゼルナ!」
「……ん。ありがとう、お姉ちゃん」
水をかけられて炎が消えてしまった。正直めんどくさい。この二人は姉妹だ。お互いがお互いを助け合っている。絶対に虚をつくことが出来ない。
再び、氷がセツナを襲う。
「《破壊》、《早駆》」
迫る氷を『権能』で破壊し、ありえない速度で移動できる『権能』で二人に近づく。
「《虚構の創作》」
そう呟き、空中に絵を描くように指でなぞったのだ。円を書くように指を動かし、それを触る。すると、透明な円盤が出来たのだ。
《虚構の創作》は、空中に描いた物を触れると具現化出来る『権能』だ。今は円盤がこの世界に具現化した。
「はっ!」
円盤を投げるが、アクアに軽く蹴飛ばされてしまう。しかし――
「《追尾》」
また新しい『権能』を発動させると、遠くに飛ばされた円盤がすごい速度で戻り、アクアたちに向かっていったのだ。
「……ん。危ない」
イゼルナに凍らされてしまい、氷ごと円盤は破壊された。そして、二人はセツナのいた方向を向く。だが、そこには何もいなかった。
「え!? どこ行ったの!?」
「《透明》、《破壊の衝撃》」
アクア達がセツナを認識出来なかったのは、『権能』で透明化していたからだ。さらに指先に破壊の波動を集め、一気に放つ。
しかしその瞬間――
「……危ないね」
三人を巨大な氷の球体が覆ったのだ。温度が急激に下がり、全身がかじかむ。
指先以外が動かなくなり、身体が凍り始めて来る。足の細胞は壊死し、心臓を、脳を止めるように氷が身体を広がっていく。
「セツナ、まだ出来るでしょ? 寒くて吸血鬼の力は出しずらいんだから、『創世神』の力をもっと使って」
ならば――
「――っ」
赤髪と緋色の瞳が一瞬にして真っ白に変化し、全身を蝕んだ氷を破壊する。
「《虚構の創作》」
指を動かし、空中に透明な剣の様なものを作り出す。そして――
「《模造》」
その『権能』を発動した瞬間、一本しかなかった剣が百本まで増えたのだ。
「《追尾》」
さらに、二人に向けて放った剣が追尾機能を持ち、壊れるまで二人を襲い続ける百本の剣が誕生した。
「わっ!? 危ないわね!?」
(私はお兄ちゃんたちやレンゲみたいに力が強くないし、こんな事しか出来ないけど……)
「……あれ、後ろにいる……」
百本の剣を捌き切り、後ろに回ったセツナにイゼルナは目を向ける。また氷を放たれそうになるが、その前に『権能』が入った。
「《拘束》!」
エリシアの『権能』を使い、透明な鎖がイゼルナとアクアの四肢を縛る。だが、鎖だけでは脆くてすぐに壊される。
「《破壊》」
今現在、三人を閉じ込めている氷の球体に手を触れると、ヒビが入って崩れ落ちる。
「《早駆》、《跳刃の舞踏》、《模造》!」
ありえない速度で移動できる『権能』と、エルフィーネの空間を跳ねるように移動できる『権能』を使って空中を優雅に動き回る。
そして飛び散っている氷の破片全てに手を触れ、《模造》で増やしたのだ。
「《覇王の支配》」
数えられないほど大量にある氷の破片全てを視界に収め支配し、アクアに向かって放つ。イゼルナは『氷神』のため、氷属性の攻撃は効かないし吸収されてしまうからだ。
「っ!? やるわね……。でもまだよ! って、あれ?」
水で氷の破片を流して避けようと思ったアクアが首を傾げる。なぜなら、氷の破片が一気に崩れ、世界から消滅したからだ。
それをしたのは、『氷神』だ。
「……氷だし、操れるに決まってる。お姉ちゃん忘れてた?」
「う、うるさいわね! 忘れてるわけないでしょ!?」
今回の氷はイゼルナが出したものだったが、誰が出した氷だろうが『氷神』の彼女にとっては全て支配できる対象にすぎない。
これは属性神たち全員に出来ることだが、アクアは今回は本当に忘れていた……というより、氷の破片を目の前に飛ばされて焦ったという方が正しいだろう。
――しかし、セツナはそのことを忘れてはいなかった。
「ていうか、セツナはどこに?」
「……あれ、いない……。あれ?」
気づいた時には、イゼルナとアクアは血液で全身を縛られてしまったのだ。氷の球体から出れた今、吸血鬼の力を存分に使える。
そして、拘束した二人に近づいて――
「……あっ……触られた……」
「あっ!? もう!! 触られた!」
二人を触ったことで、訓練は終わった。だが、今の戦闘で力を酷使しすぎたのだ。髪と瞳の色は元の綺麗な赤と緋色に戻り、意識を失ったのか、目を閉じながらゆっくり落下してくる。
「おっと。大丈夫かしら?」
「……多分大丈夫。あたし、やりすぎたかな?」
「本気は出してないしやりすぎてないわよ。でも、本当に強くなってるわね、この子」
腕で眠るセツナを見て、アクアは呟く。
「……もうちょっと強くなれそうだけど、今は休んで」
そう言って、イゼルナはセツナの頭を優しく撫でる。アクアとイゼルナは姉妹だが、血が繋がっていないセツナとレンゲのことを姉妹みたいに思っている。もちろん、ラインとアレスのことも。
いつもはレンゲを甘やかす姉のセツナだが、この二人の前では甘える側になる。
「お疲れ様。ライン君とアレス君も今終わったよ。よいしょっと」
戦っていた空間から出ると、目の前に来たのは『時間の神』アスタリア。その手がセツナに触れると、彼女の肉体に時計のようなような模様が出現し、一瞬で消えた。
「……ん、何したの?」
「身体だけを戦う前の状態に戻してあげたんだ。すぐに目覚めると思うよ。あとは――」
そして彼女は、未だ戦っている『風神』エオニアとレンゲの方を見つめる。
「レンゲちゃんも治してあげないといけないかな?」
「お疲れ、姉さん」
近づいてきた弟――『空間の神』スピリアと目を合わせ、クスッと笑った。
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