第83話side2『『雷神』ヴォルスvsアレス』
「うわぁ……激しいな。可哀想に」
ラインと『炎神』イグニスが戦っている所から、少し離れた場所。そこで、アレスは『雷神』ヴォルスと対峙していた。『雷神』はイグニスたちの方を向き、ラインに同情する。
「じゃあアレス、僕たちも始めるよ」
「はい。よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げるアレスに笑顔を向け、紫色がかかった薄い銀髪をかきあげる。
「まずはいつも通り戦って。そしたら直すところを教えるから」
瞬間、ヴォルスの身体から紫電が放出される。頬に冷や汗をかき、アレスが右足を後ろに下げると――
「っ!? 速い!?」
雷速で接近してきたヴォルスに触れられそうになるが、ギリギリ飛んで回避する。彼は触れた相手の体内に電撃を流すという危険な技を使ってくるため、出来るだけ触れられたくはない。
「すごい! よく避けたね! でも、足が低いよ」
「痛っ!?」
ヴォルスの手が少し足を掠っただけだ。それなのに、全身を電撃が襲い、内蔵をやられてしまった。吸血鬼の再性能力で治ったが、身体がまだビリビリしている。
再び、雷速でアレスに近づく。両手には雷で作った双剣を持ち、回転しながら斬撃を放った。
「――っ」
対抗するように、アレスも血液を操り剣を生み出す。ヴォルスと剣をぶつけ合うのだが、押されるだけだ。軽い身のこなしでアレスの攻撃を次々と避け、的確に刃を当ててくる。
ただ、これでもかなり手加減してくれている方だ。アレスが必要以上に傷つかないように、腕を切り落としたり身体に刃を貫通させたりとかはしてこない。
――だとしてもだ。避けるのに必死になってしまっている。
「《切断》」
不可視の斬撃を格子状にして飛ばし、少しでもヴォルスに掠ると思ったのだが――
雷速で格子状の穴を通り抜け、電撃の刃がアレスを襲う。
(まずは、あの電撃をどうにかしないと……)
そう考えている間も、ヴォルスの攻撃は続く。
「《早駆》」
ありえない速度で移動できるようになる『権能』を使い、ヴォルスの後ろに回る。そして、生成した血液の刃で切りかかろうと――
「っ!?」
身体中に電撃が走った。ヴォルスから攻撃は受けていない。アレスが後ろに回ったのも今気づいたようだし、こちらに攻撃をした感じもなかった。ならば、なぜだ?
「僕はさっきから紫電を身体に纏ってたでしょ? これがバリアみたいになってるから、僕に近づこうとすると感電するんだ」
全身から放出されている紫電を見て納得する。しかし、それなら彼に攻撃を当てることが出来ない。次の攻撃を構えていると、ヴォルスが突然立ち止まった。
「大体分かったよ。僕の攻撃にも反応は出来てるし、技の数も豊富だから良いと思う。でも、やっぱり火力が足りないよね。どうしようかな……」
冷静にアレスを分析した上で、どこを直すべきかヴォルスは考える。一瞬の思考を経て、指を鳴らした。
「アレスには、反射的に行動できるようになってもらうね。武器を創造したり、魔法でも『権能』でも良いから、使って」
「……分かりました」
首を傾げながらアレスが答える。そして、戦闘は再び始まった。
迫る雷を避けるだけではなく、ヴォルスに言われたように創造することにした。
「ふっ」
『創世神』の力で避雷針を生み出し、雷は全てそちらに引き寄せられた。
「お、良いね。あとは反射的にするだけだよ」
作られた避雷針を蹴り壊し、ヴォルスは雷速で接近する。彼が手をかざすと、アレスの全方位から雷が落ちた。轟音が響き、目を潰すような閃光が辺りを囲んだ。
それを喰らえば確実に死に至る物だったが――
《時間停止》の『権能』のおかげで、雷はアレスの目の前で全て止まった。
思考するより先に『権能』が発動され、ヴォルスが望んだ事が出来たようだ。
「うん。ばっちり。それじゃあちょっと本気で行くよ。僕に触れたら終わりにしよっか」
「分かりました」
激しい音と閃光がヴォルスを包み、先程よりも速くなった。目で追えず、気づけば後ろに現れる。ちょっと本気と言ったからには、攻撃もしっかりしたのをしてくるだろう。気を抜いていられない。
「《超加速》、《早駆》」
動く時間を加速させる『権能』と、ありえない速度で動けるようになる『権能』を使ってアレスもまた動き回る。
虚空を蹴り、発生した衝撃波がヴォルスに向かう。
しかし意味がなく、後ろからアレスに刃を振る。
「《破壊の衝撃》」
破壊の波動を指先に集中させ、後ろに向けて放った。難なくヴォルスは回避し、双剣がアレスの髪を掠った。
「《創造》」
武器や足場を創れる『権能』で巨大な壁を作り、ヴォルスを引き離す。
「ソル・レイ。ブリザード・レイ」
光魔法と氷魔法を詠唱し、魔力がアレスの身体を通じてこの世界に現れる。そしてレーザービームが生まれ、ヴォルスに放たれた。
「インフェルノ。エアブレード」
広範囲に燃え上がる火柱を召喚し、真空の刃がヴォルスを襲う。
四つの魔法が放たれたが、なんと彼は何食わぬ顔で全部を対処したのだ。
「《拘束》、ウォータージェイル」
透明な鎖で拘束する『権能』でヴォルスを縛り、水の球体が彼を包んだ。
(!? 呼吸を……)
水に閉じ込め、呼吸を制限する作戦だ。これなら出ようとしても感電してしまう――
と、アレスは考えた。だが、大切な部分を忘れていた。
「え!? あ――」
「うん。僕たちは同じ属性は効かないからさ」
四肢を縛った鎖を破壊し、雷速で球体から脱出する。彼ら属性神は、それぞれが司る属性の攻撃を無効化出来るので感電など喰らうわけなかった。知らない訳ではなかったが、この戦いのせいで忘れていた。
「《覇王の支配》」
『煌星の影』レオの、視界に収めたものを支配できる『権能』を使い、先程《創造》で生み出した壁をぶん投げた。
「《切断》、アクアパレット、フリーズニードル、フレイムスパーク!」
不可視の格子状の斬撃をヴォルスではなく、四方八方にばらまいた。そして水の弾丸、氷の針、炎の弾丸を彼に放ち、そちらに集中している隙に――
《覇王の支配》で収めた斬撃をヴォルスに送った。
「!? 危な――」
「《刻律の調律》、《超加速》、《早駆》、《跳刃の舞踏》」
セレナの『権能』でアレス自身の行動を早め、ヴォルスの行動を遅くする。そして動く時間を超加速させる『権能』とありえない速度で動ける『権能』を使う。
最後にエルフィーネの『権能』で、ヴォルスの出す光の軌跡を利用し空間を跳ねるように接近する。その速さをヴォルスは対応出来なかった。
「――っ!!」
「おっと……触られちゃったね」
彼の手を掴むことに成功した。右手を掴まれたヴォルスは、驚いた顔と同時に嬉しそうな顔をして地面に降りていく。
「凄いね。ちょっと本気で行ったんだけどなー」
「でも、全然疲れてないじゃないですか……。僕は今のでもう……」
『創世神』の力を使いすぎた影響で身体がちゃんと動かない。肉体には痛みなどないのだが、倦怠感が全身を襲っている。
属性神たちの力が『創世神』アルケウスから切り離された力とはいえ、もう数えられないほど長く生きている。まだ十五年しかこの世にいない四つ子では、到底勝てないのだ。
改めて強さを実感した。
「あー大丈夫? ライン君も動けなくなっちゃって。わたしに任せて」
『時間の神』アスタリアに身体を触られると、時計のような模様が全身を包み込んだ。そして――
「あれ、身体が軽い? なんですかこれ?」
「肉体だけ戦う前に戻したんだ。これで大丈夫。さてと――」
そう言って、アスタリアは未だ戦っているセツナとレンゲを見る。
「あの子たちも治してあげないとね……」
「……まあ、頑張ってよ」
ため息をついて首を横に振る彼女の肩に、『知恵の神』は優しく手を置いた。
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