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第82話side1『『炎神』イグニスvsライン』

side1から4までは同時進行です!

 『空間の神』スピリアが生み出してくれた空間に入ったラインと『炎神』イグニス。


 『炎神』による試練内容は――


「じゃあどうしま――っ!?」


「これくらい防げ。何してんだ? 俺に一撃でも入れてみろ」


 容赦のないことだ。全方位から炎に包まれ、皮膚には焼けるような痛みが走る。吸血鬼じゃなかったら命を落としているはずだ。


「本気で来い。全部受け止めてやるよ」


「――はい」


 ――瞬間、炎がラインを襲う。炎魔法の比ではない。簡単に命を奪う威力だ。それなのに、制限なく何発も撃てる。ラインを持ってしても、避けるか防ぐかの二択しかなかった。


(よし! 入り込め――)


 炎を避け、イグニスに近づくことが出来た。すぐに血液の刃を生成し、振ろうとした。

 だがその前に、イグニスの不気味な笑みが目に入った。


「オラァ!!」


「痛っ!?」


 燃え盛る炎の大剣を横に振り、ラインの両腕を容赦なく切り落とす。幸い、彼が吸血鬼だということで一瞬で再生したが、本当に痛い。焼けるような痛みがまだ続いている。


「突っ立ってる場合じゃねえぞ!」


 痛いし荒いし、容赦のない斬撃が繰り返される。こうなったら――


「《超加速》」


 アッシュの持つ『権能』を使い、移動速度を超加速させる。さらに『創世神』の力を顕現させることで、真っ白の髪と瞳になり、全ての能力が格段に上がった。


「お、良いじゃねえか。その調子だ。でも、まだ足りねえな!」


 ラインの殴りと蹴りを軽くいなし、手から炎を放出する。空間を焼くような一撃に怯んでしまったラインを『炎神』は見逃さない。


 大剣が水平に軌跡を描き、ラインの身体は真っ二つに――ならなかった。


「《無敵》」


 今度はグレイスの『権能』を使ったのだ。これを使えば、三分間はどんな攻撃でも受け付けない無敵の身体が手に入る。


「《獅子の咆哮》、《刻律の調律(こくりつのちょうりつ)》、《封界の楔(ふうかいのくさび)》!」


 さらに、レオの『権能』とセレナの『権能』二つを使用し、驚異的な身体能力アップ、攻撃のタイミングの支配、そして、一定範囲内にいる相手が魔法の使用不可になる楔が埋め込まれた。


 これでイグニスは炎を出せなくなる――と思っていたが……


「俺の炎は魔法じゃねえから意味ねえぞ」


「えっ」


 どこから――と確認する前に、足元から炎が浴びせられてしまった。

 無敵状態のため怪我も痛みもないが、普通に殺しにくる威力だ。怖すぎる。


「防御力は申し分ねえが、攻撃力が全然ねえな」


「《拘束》、《切断》!」


 エリシアの『権能』でイグニスを透明な鎖で拘束する。そして不可視の斬撃を放ったのだが――


 鎖は一瞬にして破壊され、斬撃も彼の持つ大剣で防がれてしまった。


「――っ!」


 《超加速》で近づき、『創世神』の力を溜めた右手を振るう。しかし――


「おっと、良いぞ。だが、まだまだ!」


 ラインの右手を掴みながら思いっきりぶん投げた。地面に倒れ込んだラインに向けて、イグニスは炎を放つ。


 無敵状態のため攻撃は無意味だ。無傷の身体をゆっくり起こし、イグニスを見つめる。

 まさか、ここまで強いとは思いもしなかった。『創世神』の力を使ってなお、傷一つ付けれない。ラインは既に何回も即死級の技を喰らっているというのに。


 『神龍オメガルス』よりも、これまで戦ってきた【十執政】たちとも比べ物にならない強さ。

 このまま『権能』だけを使っても、勝てないと全身で理解する。だからラインは、戦い方を変えた。


「あ? なんだその瓶?」


 商店街の魔法グッズ専門店に売ってある、魔法で生成された栄養血液の瓶だ。それを一口飲んだ瞬間、彼の髪色と瞳は茜色になる。


「なるほど。吸血鬼の力か。面白そうじゃねえか」


「――血式・紅(けっしき・あか)!」


 瞬間、四方八方から血液の球体が爆ぜ、イグニスに襲いかかる。大剣で水平に振り、燃え盛る斬撃が血液を燃やし尽くした。


「次はどう来る? あ? どこ行きやがった――」


 上を向くと、何も構えていない無防備なラインが落ちてくる。大剣をラインに向かって構えるイグニスだったが、ラインの手先が白く光ったのに気づいた。


「っ!? なんだぁ? それは?」


 彼が手に持つ、真っ白の剣。それは、『創世神』の力で作った剣だ。イグニスの持つ大剣と刃が合わさり、金属音が響く。


「良いぞライン! ここからどうやって俺に一撃を入れる!?」


「あ、う……」


 刃が押し返される。《無敵》の『権能』が切れてしまった。そのせいで、イグニスの刃から発せられる熱で手先が焼ける。それを見て、彼は《無敵》が切れたことに気づいたようだ。


「切れたか? 容赦なく行くぜ!」


 『炎神』である彼に炎攻撃は一切喰らわない。だから、彼はラインごと包み込む炎の球体を生み出したのだ。


「――ん? いねえな?」


 しかし、炎に包み込まれる前にラインは脱出したようだ。今度は一体どこに? そう思っていると――


「後ろ――いや、いない?」


創血式・桜(そうけっしき・さくら)!」


 どこからともなく、桜の花びらが宙を舞い、桜色の斬撃が放たれた。


「チッ!? 無数の斬撃か!」


 吸血鬼と『創世神』の力を2:3で混ぜた技。先日、並行世界に飛ばされたラインが、龍を討伐するのに使った技だ。龍をも粉々に切り刻む威力の技に、流石のイグニスでも怯んだ。

 大剣で斬撃を対処するが、放ったはずのラインの姿が見当たらない。

 確認しようにも斬撃を対処しなければならず、確認出来ない。


「……ん? 聞こえるぞ?」


 だが、風を横切るような音が耳に入る。どうやって姿を隠しているか分からないが、近くにいるならアレが出来る。


 『炎神』がニヤリと笑った。半径十メートルを炎の球体で包み込んだのだ。《無敵》が切れている今、この炎はラインを焼き尽くすだろう。それをどう攻略してくれるか、イグニスは楽しみにしている。


 そして――


「はぁっ!!」


「なっ……」


 ラインの殴りが、イグニスの胸に衝突した。威力を弱めたのか分からないが、優しい打撃だった。

 ――これで、ラインはイグニスに一撃を入れることに成功した。


 瞬間、半径十メートルの球体は壊れ、中からはイグニスとラインが出てくる。


「フッ。やるじゃねえか。どうやって俺の炎を攻略した? 姿も見えなかったしな」


「姿が見えなかったのは、《透明》の『権能』のおかげです。炎を攻略したのは、グレイスの……」


 そこまで言って、ラインは膝を付いて倒れてしまう。さすがに、力を出しすぎた。まだ『創世神』の力をずっと使う事は出来ないようだ。


「はぁ、はぁ……。炎を攻略したのは、《虚無の防御》って『権能』のおかげです……。無敵のバリアを貼るものなので」


 《無敵》と《虚無の防御》はグレイスの持つ『権能』なのだが、こう見ると防御特化すぎる。

 まあ、彼がそれを持っていたおかげでラインが助かったのは事実だ。感謝しよう。


「結構やるじゃねえか。そんだけ多彩な攻撃が出来るんなら、まあ大丈夫じゃねえか?」


 倒れて動けないラインを肩に担ぎ、イグニスは『空間の神』が作った空間から外に出る。その瞬間、イグニスは『知恵の神』アステナに頭を殴られた。


「痛っ!? 何すんだお前!?」


「いくらなんでもやりすぎだよ! 死んだらどうするつもりだったの? 今だって動けないようだし」


「はぁ? あれくらいで死ぬわけねえだろ。お前じゃねえんだから」


 一々アステナをイラつかせる。ラインに容赦ない攻撃をするし、アステナを煽るし。お互いに睨み続けていると、『時間の神』アスタリアがため息をついた。


「はい、ライン君を渡して」


「あ? ほらよ」


 両手を出すアスタリアにラインを引き渡す。その瞬間、ラインの肉体に時計のような模様が浮かび上がった。


「え、なんですかこれ?」


 驚く間もなく、模様は消えた。何の変哲もないが、ラインは変化に気づいた。


「あれ、身体が軽い……」


「貴方の肉体だけを戦う前に戻したから。大丈夫だよ」


「あ、ありがとうございました」


 身体を治してくれたアスタリアに礼を言い、戦闘訓練をしてくれたイグニスにも頭を下げる。

 その最中に、アレスと『雷神』ヴォルスが激しく戦っているのを目にする。


「ハハハ……わたしはあの子も治さないといけないかな?」


 両手を広げ、首を横に振るアスタリアを見て、三人は彼女に同情した――

読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
イグニスはこんなに強かったんですね。 もう十執政の相手はイグニスで良いのでは? (´・ω・`) 吸血鬼の力も使った総力戦でどうにか……ってとこですが、まだ伸びしろがあると考えれば悪いことばかりでも無…
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