第81話『属性神たちとの訓練』
「よいしょ……よいしょ」
ファルレフィア邸の庭園には、四つ子の母親のルナミア、そして、セツナ、レンゲ、セレナ、エルフィーネが育てている花がある。
彼女らが熱心なおかげで、毎日綺麗な花びらを見せてくれるのだ。
水魔法で丁寧に水を与えていくレンゲを微笑ましそうに見つめ、笑う。そして、突然怖い顔になり首を横に傾ける。その方向にいたのは――
「「はぁっ!」」
なんと、ラインとアレスが戦っているのだ。朝から何してるんだとセツナは呆れた目を向ける。
「ちょっとバカ兄二人! また花壇壊さないでよ!? 壊したらぶっ飛ばすからね!」
「分かってるって! 安心しろ!」
距離が離れてる上に、兄二人がうるさい戦いをしているため大声じゃないと耳に入ってこない。また花壇を壊されまいと守るように立ち、叫ぶ。
「なんで朝から戦ってんの!? お兄ちゃんは遊びに行くって言ってたし、アレスは本読むって言ってたじゃん!」
ごもっともな意見。ラインはアッシュたちの家に遊びに行くつもりだったし、アレスも図書室で本を読むつもりだった。
でも――
「そのつもりだったけど、アステナさんにあんなこと言われたらさ。強くならないと心配になって!」
「……ま、それもそうね」
叫んだセツナだったが、アレスにそう返されて納得したように腕を組む。さっきアステナにあることを言われ、心配になっているのだ。このままなら多分……
「はぁ……じゃあ私も」
「セツナお姉ちゃんもするの?」
準備運動のように足をブラブラしている姉を見て、レンゲは尋ねる。
「うん。レンゲも行くよ」
「はーい!」
元気そうに立ち上がる妹の手を持ち、花壇に『創世神』の力でバリアを貼る。これで壊れることは無い。
「さーて。じゃあバカ兄二人、覚悟してよ、ね!」
「うおっ!? 危ねぇな!?」
「あ、剣は無しだった? ごめんごめん」
一瞬で距離を詰めたセツナは、血液で生成した剣で貫くような軌道を描く。容赦ない動きに兄二人はビビるが冷静に対応した。すぐに剣を壊したセツナは、虚空を蹴る。
それで発生する衝撃波が兄を襲った。
それに対応するように全員が虚空を蹴ったり殴ったりするのだが、威力がおかしい。
彼らは通常技のようにしているが、当たれば普通に命を落とす技だ。恐ろしいものだ。
「もう……朝から騒がしいね。――なにこれ」
あまりのうるささにアステナが屋敷から出てきたのだが、空で戦う四つ子を見て言葉を失った。
軽い動きで戦っているが、音は大きいし威力も桁違いだ。
アステナが喰らえば命を落とすかもということを彼女自身はすぐに理解した。
「不安にさせすぎちゃったかな……」
と、先程彼らにあることを教えたことを少し後悔する。
「ふぅ。よいしょっと」
庭に寝転がり、空を見つめる。草の感触が背中を覆い、風で髪がなびく。
何故か顔を赤らめ、恥ずかしそうにする彼女に誰も気づいていないようだ。
「よし、ちょっと本気で行くぞ」
そう呟いた瞬間、ラインの髪色は真っ白に変化した。その状態の彼から繰り出される攻撃は生物の命を軽く奪うものだ。
学園に入学してからというもの、『神龍オメガルス』と戦ったり、『ラビリンス・ゼロ』のボスたちと戦ったり、【十執政】とも戦った。
そのおかげと言っていいのか分からないが、四つ子は以前よりも『創世神』の力をある程度コントロール出来るようになってきた。
今の彼らなら、『神龍オメガルス』を一撃で倒せるはずだ。もちろん、被害を出さずに。
「ねぇ、そういえば考えてたんだけどさ」
「ん? どうした?」
セツナが口を開き、三人は手を止める。
「私たちって『創世神』の力をちゃんと使えてないよね? 神って感じの戦い方をしてないと思って」
「まあ、たしかに」
セツナの言い分に全員は頷き、戦い方を改めようと考える。だが、いい案が出ない。こういう時は――
「なあ、どんな戦い方すればいいと思う?」
「わぁっ!? 急に来ないでよ!?」
寝転んでいたアステナの顔を覗くようにラインが目の前に現れ、驚いてしまう。胸を抑えて深呼吸すると、四つ子を見つめた。
「私に言われても困るよ。君たちは何でも出来るんだから、出来ないことはないだろう? 想像力が足りないんだよ」
「何でも……出来るか?」
「アスタリア達に力が分割されてるから、その大権は扱えないけどそれ以外なら出来るはずだよ」
確かに、『創世神』の力は何でも出来るのだが、時間や空間などを操る大権は『時間の神』達が持っている。そのため、時間や空間を大幅にいじることは出来ない。
しかし、彼らはあまりに多くの事が出来るのだ。
例えば――
「『権能』を使えば良いんじゃないかな? この世界の全ての『権能』を使えるんだしさ」
この世界で誰もが生まれた瞬間に与えられる『権能』を、四つ子は全て使うことが出来る。
――いや、全てと言ったが、『剣聖』や『魔導師』のように世界に一つしかない『権能』は使えない。
それでも充分なほどだが。
「イグニスたちと戦ってみる? 戦い方を教わったら良いと思うよ」
『炎神』たちの戦闘力はかなりのものだ。おそらく、この世界で人類最強のはずの『剣聖』にも勝てるだろうし、殺傷能力なら四つ子をも勝るだろう。
「じゃあ呼びに行ってくる」
「待って待って。この世界で君たちが戦ったら被害が酷いことになるよ。だから――」
アステナはそう言って身体を起こす。そして右手を鳴らすと――
「え、ここって……」
瞬間、五人は別の空間にいた。群青と金に分かれた空が周りを囲み、星のように流れる滝は神々しさを感じさせる。
そう、ここは『時間の神』たちが住む天空だ。辺りを見渡していると、『空間の神』スピリアが歩いてきた。
「えっと……イグニスたちと戦うんだよね? はい」
スピリアが指を鳴らすと、『炎神』たち属性神もここに呼び出された。五人仲良く過ごしていたようだが、急に世界が変わったことで腰を抜かしてしまった。
「おい、なんでここに連れてきたんだよ」
「ライン君たちが戦闘訓練をしたいって。君たちほど適任はいないだろう?」
いつも通り怖い顔をするイグニスにアステナが答える。すると、属性神たちは「へー」となんとも言えない顔をした。
「ま、いいぜ。付き合ってやら。どこでやればいいんだ?」
「はぁ……僕に作れってこと? みんな人使い荒いよね。良いけどさ……」
属性神たちとアステナに見つめられ、スピリアはため息をつく。そして指を鳴らすと、目の前に巨大な四角形の空間が出来た。
「この中なら好きなだけ戦えるよ。空間内なら何してもこっちには被害が来ないから」
説明してくれた『空間の神』に礼を言うと、イグニスが肩を鳴らして立ち上がった。
「お、良いじゃねえか。じゃあ俺はラインを鍛えてやるよ」
「それじゃあ僕はアレスを鍛えよう」
「アタシとイゼルナはセツナに教えるわ。良いわよね?」
「……うん。良いよ、お姉ちゃん」
「私はレンゲちゃんを鍛えるぞー!」
と、属性神たちがそれぞれ口にして四つ子は頭を下げる。そして、空間の中に入っていくのだった。
「スピリアは戦わなくていいの?」
「僕は空間を操ること以外、高い戦闘能力を持ってないし。攻撃を防ぐのに精一杯になっちゃうよ」
「それもそうだね。私も身体能力がないから頭でしか戦かえないよ」
一方で、彼らのように馬鹿げた戦闘能力を持つ訳でもない『空間の神』と『知恵の神』は地面に座り、見守るようにしているのだった。
「……いやなにこれ? わたしたちの住居で何してるの?」
白銀の神殿から、目を擦って出てきた『時間の神』アスタリア。
目の前にある四角形の中で、四つ子と属性神たちが戦おうとしてるのを見て首を傾げた――
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