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第79話『フィナーレの星空と学園祭』

 ――魔法実習場に着くと、何やら上級生が魔法を披露しているようだ。周りを多くの観客が囲んでいて、ショーを楽しそうに見ている。


「どんなショーだ? この身体だと見えねえな……」


 どうにかして見ようとするが、今は「性別反転の薬」で背が低くなってしまっているため、観客の頭が邪魔で何も見えない。

 飲まなければ良かったと後悔していると、突然身長が高くなった。

 というよりは、アレスが持ち上げたのだ。


「あ、ちょ、アレス……」


「見れなかったんでしょ? これで見れる?」


「ああ」


 ――持ち上げてくれるのはありがたいが、弟に持ち上げられるのは何か……複雑だ。

 初めは不機嫌なラインだったが、ショーを見るとその美しさに感動してしまった。


「すげえなあれ……。どうやってるんだ?」


 上級生の生徒が、光魔法で生み出した剣で剣舞をしている。キレッキレの動きと共に、観客席には星を模した光が飛んでくるのだ。ダメージはなく、綺麗で神秘的に思える。


「綺麗な剣筋だ。凄いね」


「『剣聖』が褒めるなら何も言えねえな」


 おそらくアッシュの声は聞こえていないが、『剣聖』に褒められたと知ればさぞ嬉しい事だろう。


 ――ライン達がショーを見ている中、『生と死の神』、『法則の神』、『氷神』、『水神』のグループは外を歩き回っていた。


「ワタシたちはどこへ行きますか? 楽しそうなのはないですかね?」


 『法則の神』ファルネラはそう呟き周りを見渡すが、興味を惹かれるものがない。魔法実習場で何かショーをしているのを見えるが、人が多いので行くのはやめた。


「あ、あれ何かしら? 迷路って書いてあるわよ?」


 『水神』アクアの指さす方向を向くと、多くのお客さんが迷路に入っていくのが見えた。


「……ん。あれ行きたい。お姉ちゃん」


「ボクも行きたいな。姉さん行こうよ」


 そう言って『水神』の腕を引く『氷神』イゼルナと、『法則の神』の腕を引く『生と死の神』アリシアス。


 妹を見て、二人の姉は迷路に行くのを決めたようだ。


◆◇◆◇


「私たちはどこに行く? 行きたいところある?」


(わたくし)はどちらでも構いませんよ」


「アタシもどこでもい〜よ〜」


 セツナ、レンゲ、セレナ、エルフィーネ、エリシアの五人は校舎を歩いているが、あまり気になるものがない。


「三階行ってみようよ」


 エリシアの提案で階段を登り、足音が空間に響く。三階に着くと、何やらいい香りが鼻に漂ってきた。


 角を右に曲がり、匂いのする教室に向かって歩いていく。すると、その先に看板が見えた。

 看板には「花の庭園」と書かれていて、教室には花がたくさんあった。


「あ! お客さん? どうぞどうぞ見ていってください!」


 上級生の女の子が手招きをしたので、セツナたちは教室に足を踏み入れる。

 その瞬間、彼女らの鼻に良い匂いが流れ込んだ。


「良い匂い……」


「見て見て! このお花、色が変わるよ!」


 レンゲの指さす花を見ると、花弁が赤、青、黄……と様々な色に変化するのだ。こんな花は生きてきた中で見たこともない。不思議な表情をしていると、担当の女子が説明してくれた。


「これは白い花なんですけど、カイラス先生に教えてもらった魔法のおかげでこんな感じになったんです。ちなみに匂いも魔法です」


 あの先生はそんな事も出来るのかと感心してしまう。たしかに良い匂いだ。花好きの彼女たちからすれば一本欲しいくらい。

 まあ無理だと思うので匂いを嗅ぐだけだが。


◆◇◆◇


「ん? あれなんだ?」


「アクセサリー屋ですか? 行ってみますか」


 一方、『炎神』イグニス、『雷神』ヴォルス、『空間の神』スピリアはアクセサリー屋を見つけたようだ。

 男三人のグループだが、集まるのは久しぶりだ。意外と楽しそうにしている。


「アクセサリー売ってまーす! ぜひ見ていってくださーい!」


 大声で叫んでいる男子生徒を見て、イグニスたちは顔を見合わせる。


「行ってみようぜ。おいお前、何売ってんだ?」


「え!? あ、ぺ、ペンダントとか指輪とか売ってますよ」


「おう、ありがとよ」

 

 言葉遣いが荒く、顔も怖いので生徒はビクッとしてしまう。なんとか丁寧に対応すると、普通に教室に入っていったのを見て生徒は胸を撫で下ろす。


「へぇ、すごいね。このペンダント凄い綺麗。姉さんたちにあげようかな」


「そうだね。この髪飾りも良いな。アクアたちに買おうかな」


 と、『時間の神』たちにペンダントを買おうとする『空間の神』と、『水神』たちに髪飾りを買おうとする『雷神』。

 そんな二人を見て、『炎神』は「優しいじゃねえか」と心の中で思う。


「あ、そのアクセサリー買ってくれるんですか?」


「うん。このペンダントを六個買うよ」


「僕はこの髪飾りを三つ買うね。イグニスは?」


 会計の女子が話しかけて来たので、二人はそう答えた。そして、イグニスを見るとどれを買うべきか悩んでいるようだ。


「じゃあこのブレスレットを三つ買うか」


 彼らが手に取ったのは、ペンダントに髪飾りにブレスレット。そのどれもが美しく、星空を感じさせる模様が入っている。それは、宙苺の断面を結晶化したもののおかげだ。


「ご購入いただきありがとうございました!」


 売れたことで嬉しそうに手を振る女子生徒に手を振り返し、三人は教室から出る。


「これからどうする?」


「まあ、適当に回ろうぜ」


 ということで、彼らは夜まで学園を適当に歩くことにしたようだ。


◆◇◆◇


 『これより、学園祭のフィナーレを飾るイベントを開催します!』


 既に空は真っ暗になっていて、学園の所々に灯している炎のおかげでなんとか周りを見えるくらいの明るさだ。日差しがないので、身体に当たる風が冷たくて仕方がない。


 フィナーレのイベントは校庭で行うようだ。既に大勢の生徒や、学園祭に来た人々が集まっている。


『なんと、このイベントを手を繋ぎながら見れたら結ばれるという逸話があるんですよ! 魔法の発射まで時間はありますので、是非この際に勇気を出してみればいかがでしょうか!』


 そこまで言って、放送は途切れた。既に知っていた男女は手を繋いだりしていたが、今の放送で初めて知った者はかなりいるようだ。もちろん、ラインもその一人。


「へーそんな逸話があるのか」


 まだ見た目は女の子だが、ラインだ。彼の近くには兄妹三人とメイド二人もいて、静かに立っていた。


「そんな逸話あるんだね。知らなかったよ」


 アレスも知らなかったようで頷いているが、セツナ、レンゲ、セレナ、エルフィーネは知っているようだ。

 セツナとエルフィーネは、先程メイドを代わってもらった時に聞いたのだが、彼女らはどこで聞いたのだろうか。


「お前らなんで知ってんだよ」

 

「私はセツナお姉ちゃんに教えてもらったんだー! ロマンチックで良いよね!」


(わたくし)も同じです。素敵なイベントだと思いますよ」


 目をキラキラさせているレンゲとセレナだが、生憎ここにいる六人には好きな人がいない。手を繋ぐ相手がいないのだ。


「ま、俺らには関係ない話――」


「ほら、みんな手出して。私たちが繋げばいいじゃん」


 突然セツナがそんな事を言ったため、五人はフリーズしてしまう。


「い、いや、別に人数に指定は無いんだし、結婚するとも言ってないじゃん!? "結ばれる"ってだけでしょ?」


 急に顔を真っ赤にして慌てて話すセツナを、ラインたちはまだフリーズしたまま見ている。

 恥ずかしくなったのか、両手で顔を覆ってしまった。


「じゃあ繋ご! ほら手出して!!」


 笑顔で言うレンゲを見て、五人は顔を見合わせる。そして、エルフィーネ、セレナ、レンゲ、セツナ、アレス、ラインの順で手を繋いだ。


「何かみんなで手を繋ぐの面白いですね〜」


 その瞬間、放送が流れた。


『それでは、『魔導師』グレイス・エヴァンス君により、学園祭のフィナーレを飾って貰いたいと思います』


 放送の声はカイラス先生だった。放送が切れると、校庭の真ん中に立つグレイスに全員が目を向ける。


 瞬間、彼の足元には水色の魔法陣が展開された。彼の周囲には光が星のように散らばっていて、今にも星空が現れようとしている。


「よし……行くぞ」


 『魔導師』でも緊張してるのか、深呼吸で身体を整える。そして、杖を上空に向けた瞬間――


 弾けるような音が鳴り響き、夜空を星空が囲んだ。さらに、彗星のような光が大量に現れ、その美しさに全員が息を飲む。


「すっげ……ぇ?」


 ラインが息を飲んだ時、彼の右手がぎゅっと握られる感触を覚えた。その刹那、ラインの身体は男の姿に戻り背も伸びる。

 星空が光っている中、右隣にいる女の顔が光で見えた。


 それは、白銀の髪と瞳を持つ神秘的な美貌の女性――


「ア、ステナ? なんで……」


 『知恵の神』アステナがラインの右手をぎゅっと握っていた。頬は真っ赤に染まり、上目遣いでラインを見つめる。


「――っ!?」


 ラインにとって初めての感覚だ。セツナやレンゲ、セレナ、エルフィーネに可愛いと思ったことはもちろんあるし、『水神』たちや『時間の神』達を美人だなと思ったことももちろんある。


 だが、それ以上の意味は無い。兄妹愛や友達としての愛だけ。それ以外は思ったことが無かった。

 もちろん、『知恵の神』にも。


 しかし今、ラインの中で何かが崩れた。手を握りしめられ、赤く染った顔で上目遣いをされる。

 彼女がファルレフィア家に来てから、ラインは毎日一緒に寝た。その光景が何度も何度も頭をよぎり、彼も頬を染めてしまう。


「あ、アステ……」


 星空の魔法の音が大きすぎて、ラインの声はアレス達にもアステナにも聞こえない。そして、アステナの喋った事も同じくラインには聞こえない。


「ねぇライン君。――」


 名前を呼ぶ声は聞こえた。だが、それ以上は何も。もう一度聞き返そうと、赤らめた顔を近づけると――


「――!?」


 二人が何をしたのか、見たものはいなかった。ただ、こうなる未来を知っている人物がたった一人だけ――


 少し遠くではアステナを除いた十人の神が手を繋ぎながら星空を見つめている。

 そんな中、誰にも聞こえない声で『時間の神』は呟いた。


「よくやったよ、アステナ」


 ――そして、学園祭は幕を閉じた。

読んでいただきありがとうございました!

これにて学園祭終了しました!また、第四章も終了です!短かったですが、次回から第五章に入ります!

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― 新着の感想 ―
何だかんだアステナが良いとこ持ってったような雰囲気ですけど百合展開ですよ! (*ノ・ω・)ノ♫ それはそうと十執政は? (´・ω・`) てっきり攻めてくると思っていたのに、来ないまま文化祭が終わっ…
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