第78話『学園祭の楽しみ方』
――そろそろ休憩の時間だ。午前のメンバーと午後のメンバーが入れ替わることになっている。ただ――
「メイドって俺らしか決まってないよな? 交代する人いなくない?」
盲点だった。五人しか決めていなかった上に、全員が午前中に働いた。そのため、交代するメイドがいないのだ。
「えっと……私たちだけ午後もする?」
エリシアが困った表情でそう言うが、全員疲れているので頷くのを躊躇う。もう料理班などは他のメンバーと入れ替わり始めたため、ラインたちが働かないと料理をお客さんに提供できない。
「仕方ないですね〜。アタシは殆ど料理してたのでアタシがしましょ〜か?」
エルフィーネはそう言ってくれるが、午後までするのはさすがに働きすぎだ。これ以上は休んで欲しい。
「じゃあ私とお兄ちゃんがしよっか。身体は全然疲れてないし」
「それで良いか。じゃあお前らは適当に休んで――」
「ちょっと待った!」
突然、後ろから声をかけられ五人は振り返る。そこには、午後の案内役と料理班の女子が数人いた。
「あたしたちがするよ」
「メイド服着てみたかったんだー」
「良いの? 案内と料理回らなくならないかな?」
メイド服をキラキラした目で見る女子たちだが、彼女たちが居なくなればその持ち場は大丈夫なのだろうか? と言った心配をアッシュはするが、全然気にしてないようだ。
任せてと言わんばかりの女子らの表情に、ラインたちは任せることにした。
「わかった。じゃあ頼むな。ありがとう」
「はーい!」
元気な女子たちに笑顔を向け、ラインとアッシュは教室から出ていった。
「よーし、夜まで頑張るぞ!」
メイド服を着た女子の一人が、天を見上げて叫んだ。そういえば、夜には星空を再現させる魔法をグレイスが撃つらしい。
この学園に代々伝わる風習らしいが、何の意味があるのか。
「よく分からないんだけど、その魔法ってなんで代々学園祭で撃ってるの?」
セツナが不思議そうな顔で首を傾げると、エリシアと女子たちが「えぇ!?」と大声をあげた。
「な、なに? ビックリしたんだけど」
「知らないの? 星空の魔法を手を繋いで一緒に見たら結ばれるって言う逸話があるんだよ!?」
「そんな逸話あるんだ……。知らなかった」
ロマンチックな逸話のようだ。手を繋いで見るだけで結ばれるならなんて簡単なことだろう。あまり信じていないのか、セツナは「へー」といった目で見ていた。
「ねえ、セツナは好きな人とかいないの?」
「好きな人? うーん……いないかな」
隣にいるエリシアがセツナの肩を叩いてそう聞く。だが、セツナは特に気になる人もいない。
それは、彼女が吸血鬼だからそのような感情があまり理解できないのだ。もちろん、ライン、アレス、レンゲも同じだ。今はまだ好きな人や気になる人は出来ないだろう。
「そういうエリシアは好きな人いるの?」
「え!? い、いや、いない……よ」
「何その反応……。ま、良いや。私たちも外出るね」
何か顔を赤らめているエリシアに疑問を抱くが、特に考えることもなく彼女とエルフィーネの手を引いて教室から出たのだった。
◆◇◆◇
「ラインお兄……あれ、性別反転の薬飲んだの?」
「ああ。見た目はお前と瓜二つだろ?」
「うん! 可愛い!」
校舎から出たラインとアッシュは、案内役の仕事を終えたアレスとレンゲと出会う。ラインが女の子になっている姿に驚いていたが、流石は兄妹。彼がラインだとすぐに分かった。
「男に戻るにはアステナを探さないとだけど、まあまだ良いか」
「何か僕より兄さんの背が低いの面白いね」
「ちょ、やめろってアレス……」
ちょうどアレスの手を置ける位置に頭があるので、彼はラインの頭をゴシゴシと撫でる。弟の手を払い除け、呆れたように睨んでいると校舎からセツナたちもやってきた。
「アレス何してんの?」
「兄さんが女の子になってるし、撫でてみようかなって」
「あ、バカやめろって……」
再び撫で始めたアレスを睨んでいると、セツナは兄二人を見てため息をつく。
「私たちは回ってくるから。行こ、レンゲ、エリシア、エルフィーネ」
「はーい! じゃあまたねラインお兄ちゃん、アレスお兄ちゃん!」
笑顔で手を振る妹たちに手を振り返し、隣にいるアレスとアッシュと顔を合わせる。
「どうする? 他のクラスの出し物に何があるかとか知らないんだけど」
「そういえば、魔法実習場で何かあるって聞いたけど……行ってみようか」
アッシュの提案に乗り、三人は魔法実習場へと向かおうとすると――
「ねぇ君めちゃくちゃ可愛いじゃん。俺たちと一緒に回らない?」
「は?」
突然後ろから声をかけられ、ラインは振り返る。そこには、三人の男子生徒のがいた。見たところ、上級生だ。
現在女の子になっているラインの見た目はレンゲそっくり。話しかけて来た彼の言う通りめちゃくちゃ可愛いのだ。
だから話しかけて来たようだが……ラインは「は?」と呟き睨み返した。
その圧に男子生徒三人はビクッとしてしまっている。
「え、えっと……一緒に回らない?」
「いや、結構ですね」
声色は冷たいし目はギロっとしている。自分よりも背が低い女の子のはずなのに、今にもボコボコにされそうな感覚が三人を襲った。
「は、はい。ご、ごめんね」
猛獣を見るような目で逃げるように走って行くのを見て、ラインはため息をつく。
「へぇ……兄さんってモテるんだ」
「圧が凄かったね」
と、ラインが口説かれていたのに何もせず傍観者となっていた弟と友達をラインは睨む。
「お前ら覚えとけよ……」
◆◇◆◇
宙苺の星空タルトを食べ終わったら神一行は、三つのグループに分かれて行動することにした。
『炎神』、『雷神』、『空間の神』の男性グループと、『知恵の神』、『時間の神』、『夢の神』、『風神』のグループ、そして『生と死の神』、『法則の神』、『水神』、『氷神』のグループに分かれた。
さすがに十一人で行動するのは難しいと思ったようだ。三つともバラバラに行動している。『知恵の神』のグループは、次にどこに行くかを迷っていた。
「次はどこに行く? 私はどこでも良いんだけど」
「そういうのは調べてよ。『知恵の神』でしょ?」
「占いとかどう? あそこにあるらしいよー」
アステナとアスタリアが睨み合っているとフォカリナが指をさした。その方向には、「あなたの未来を占います」といういかにも怪しい看板があった。
「……未来を占うって書いてるけど、あれ潰した方が良いのかな?」
「待った待った! ただの学園祭だよ? 本当に未来を見るわけないだろう!?」
今すぐにでも占い屋を破壊しようとするアスタリアを必死に止め、アステナが諭す。彼女は『時間の神』のため、そういうのに敏感なのだ。
まあ、過去や未来が変わらないようにする彼女の働きは立派なのだが、占いなどを楽しめないのは可哀想と思ってしまう。
「よし、あの店行くよ。本当に未来を見るんだったら消してくる」
「あ、アスタリア! 待って! 二人とも追いかけるよ」
時をかけるように店まで向かったアスタリアを三人は追いかける。『風神』エオニアの力で彼女のもとまで飛んだ三人は綺麗に着地――否、アステナだけが転んでしまった。
「あ!? ごめんアステナ! 私が担げば良かったね」
「いや、大丈夫。治癒魔法をかければ良いから」
心配するエオニアとフォカリナに手を差し伸べてもらい、何とか立ち上がる。
やはり運動神経がないとこういう場面で大変な目にあってしまう。
――いつも寝ている『夢の神』よりも運動神経がないのは少々複雑な気持ちだが。
「占って貰ったよ。大丈夫だったから潰すのは辞めるよ」
「はやーい。何したのー?」
占い屋さんを壊すのをやめたようで安心するが、いくらなんでも占ってもらうのが早すぎる。彼女が店に入ったと思ったら、次の瞬間に出てきたのだ。
「店の中の時間を加速させてたからすぐ終わったんだ。今は戻したよ」
「ちなみにどんな占いだった!? 知りたーい!」
エオニアがワクワクしながらアスタリアに質問すると、彼女は笑ってこう答えた。
「夜に魔法を夜空に撃つイベントでわたしが告白されるとか言われてさ。そんなことあるわけないだろう?」
告白とは驚きだ。とはいえ、彼女に告白する者はいないだろう。一緒に来た神の『炎神』、『雷神』はそんな事に興味無さそうだし、『空間の神』は彼女の弟だ。結婚できない。
その話を聞いて、アステナが気になったのはそのイベントだ。どういうイベントなのだろうか。
「夜空に星空を再現させる魔法が撃たれるらしいんだけど、それを手を繋いで見たら結ばれるって逸話があるらしいよ」
「……へぇ、そんな逸話があるんだね」
聞いてもいないのに丁寧に教えてくれるものだ。アステナは腕を組んで平然としているが、心は穏やかではない。
そんな彼女を見て、アスタリアはクスッと笑う。
『時間の神』は善意で教えたつもりだ。なんせ、いつも大胆な行動をしない『知恵の神』があんな事をする未来を知っているのだから――
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