第74話『それぞれの役割』
――メイド服を着るのはライン、アッシュ、セツナ、エリシア、エルフィーネとなり、決まった。
そして、料理をする人、案内する人なども着実に決まっていき、残るは部屋を夜空のようにする魔法だけ。
普通ならそんな大変そうな仕事を誰もしたがらない。だが、このクラスには『魔導師』がいるのだ。グレイスほど適任な人は存在しない。
「じゃあ俺それで」
彼もやる気だったようだ。すぐに手を挙げると、カイラス先生は黒板にグレイスの名前を書いた。
「よし、これで全部の役割決まったな。一ヶ月後だからってダラダラするんじゃないぞ? 明日からそれぞれ準備や練習をするように」
◆◇◆◇
――そして次の日、クラス全員がそれぞれの役割を練習し始めた。
料理役のセレナは料理の上手さから他のメンバーを教える立場になり、案内役のアレス、レンゲ、リリスは他のメンバーと一緒に看板を作ったりと頑張っている。
グレイスもカイラス先生と共に魔法を練習しているし。
――そんな中、メイドメンバーの五人はある空き教室に集まっている。
「メイド服……どうする? 商店街の服屋に売ってるかな?」
「多分売ってないでしょ。そこまで需要なさそうだし」
「女性物のメイド服を僕たちが着れるか分からないし、どうしようか……」
セツナ、エリシア、アッシュがそれぞれ話し始めどうしようか悩み出す。エルフィーネはラインたちの屋敷でいつも着ているメイド服があるので問題ないが、残り四人はどうしたものか。
「うーん……じゃあ俺が一回作ってみようか?」
二人には『ラビリンス・ゼロ』で四つ子が『創世神』の血を引くことをバレてるので特に問題は無い。そのため、『創世神』の力でメイド服を作ろうと思った。その意見にセツナも頷く。
「エルフィーネのを参考にして……えっと……こんな感じ?」
エルフィーネの持つメイド服を見ながら、イメージする。ラインとセツナがそれぞれ二つずつ生み出し、片方をアッシュ、エリシアに渡す。
「こんなのを作るのに力を使うとは思わなかったね……」
作ったそれを広げセツナは呟く。初めて作ったにしては良い出来だ。エルフィーネのものと瓜二つなほどよく出来ている。
「俺ら別の場所で着替えてくる」
「うん。早くどっか行って」
「当たり強いな!?」
――どちらも着替え終わり、再び同じ教室に集まった。エルフィーネはいつも通りよく似合っていて、セツナ、エリシアも似合っていて三人とも可愛い。
一方の男子二人は――
「ふ、フッ。ま、まあ良いんじゃない?」
「笑うなセツナ。恥ずかしいんだから」
兄のメイド姿を見てセツナは笑いを堪えられない。ツボに入ったようで、涙を流しながら笑う声を何とか押し殺している。
彼女が笑い続けるせいで残り二人もツボに入ってしまい、必死に声を我慢して笑う。
そんな三人を見て、ラインとアッシュは少し心にくるものがある。
「本気でこれ着るのかよ……。勘弁してくれ」
「お兄ちゃん、頑張って」
セツナに肩を叩かれ、ラインは上を見上げる。そして心でこう思った。
(性別反転の薬、飲もうかな……)
◆◇◆◇
「もう少し加えれば良い感じになるのではないでしょうか?」
「ん! 本当だ! 美味しくなった!」
その頃、セレナたち料理組は調理室で料理をしていた。学園祭で出す料理を星や宇宙を感じられるようなものにするべく試行錯誤中だ。
味はセレナのおかげで美味しくなっているが、見た目が上手くいかない。星や宇宙を感じられる見た目とはどんなものだろうか。見当もつかない。
「はぁ……見た目、どうしましょうか?」
「果物を星の形に切り取って星座みたいに貼るとかどう?」
「良さそうですね。試してみましょうか」
アドバイスを受け、セレナは近くにある巨大な箱に手を置き、扉を開ける。縦二メートル程度あるそれは、中に入れた食材を氷魔法で冷やして腐らせないようにする魔法式冷蔵庫だ。
その中から彼女は一つの果物を取った。それは、宙苺と呼ばれる果物で山の頂上くらいでしか採れないものだ。
見た目は赤い果実だが、中身は星のようにキラキラしたものが散らばっているのだ。そのため、宙苺の断面を並べれば良いのではと思った。
ナイフで半分に切断し、それを再び半分に切る。そしてそれを盛り付ければ――
「完璧じゃん! メニューの一つはこれで決定! まだまだ作るよ!」
――一方、案内役のアレス、レンゲ、リリスとその他メンバーは看板を作っていた。
大きな木の板に文字を彫り、学園祭の楽しい雰囲気を表すような明るい絵も描く。
「アレスお兄ちゃん、リリスちゃん見て! この絵良くない? 頑張って描いたんだー」
彼女の指さすところには星座が描かれており、ちゃんとテーマに沿ったことを描く妹に感心する。
「上手! どうなってるのこれ!?」
あまりの上手さに目を見開いて驚くリリス。そんな中、アレスは首を傾げて目を瞑る。
「あれ、この星座って確か……」
長い弧を描く翼のように星が並んでいて、中央に槍のように縦に星が並ぶそれを指さし、アレスは何と言う名前の星座か記憶から引っ張り出す。
「うん! ヴァルキリー座だよ! かっこいいよね!」
「ヴァルキリー座」と呼ばれるそれは、この世界の神話の本などに出てくる『戦闘の神』だ。
神話では、龍や不死鳥の味方とともに敵の軍団を滅ぼしたと言われている。
現在は、ヴァルキリー座の周りをリヴァイアサン座やフェニックス座といった星座が囲んでいて、夜空を輝かせている。
ただ、本当に『戦闘の神』という存在がいたのかアレス達にも分からない。アレス、セツナ、レンゲの三人は『炎神』たち属性神と『知恵の神』、『時間の神』、『空間の神』にしか会ったことがない。
『戦闘の神』もいるのかもしれないが、それは神々に力を分け与えた父親に聞かないと分からないことだ。
「良いセンスだね。じゃあ僕はリヴァイアサン座を描こうかな」
「それじゃあアタシはフェニックス座描こ!」
◆◇◆◇
カッカッ……と足音が廊下に響き、一人の男が空き教室の前で止まる。
「――」
中に誰もいないことを確認すると、すぐさまドアを開け中に侵入する。その部屋は、先程までメイド組のラインたち五人が会議していた部屋だ。
その手に持つ羅針盤を見つめる。普段は紫色の結晶が、さらに濃ゆい紫色を放出していた。
ポケットから指輪を取り出す。黒曜石のような漆黒と紋様が刻まれた銀色の環が常に回転していて、それにも羅針盤と同じく中央に紫色の結晶が埋め込まれていた。
指輪をつけた人差し指を向けると、一気に指輪に力が吸収されていく。それは、先程ラインとセツナがメイド服を作った時に出た『創世神』の力だ。回収が終わると、指輪を見つめ、顔に付けている獅子の仮面の奥でニヤリと笑う。
「まだ足りないな」
そう呟いた途端、ドアが開いた。ドアの外にはグレイスとカイラス先生がいた。
「あれ、音がしたから誰かいるのかと思ったんだけどな。気のせいか。エヴァンス、外行くぞ」
「はーい。俺はどんな魔法練習すれば良いんですか?」
どうやら気づかれなかったようだ。二人の声は段々遠ざかっていき、床に伏して隠れていた彼が見つかることはなかった。
「危ない危ない。戻るか」
――そうして、獅子の仮面を取った男は何事も無かったかのように部屋から出て廊下を歩き始めた。
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