第71話『学園祭の出し物は?』
――朝から魔法実習場で訓練する生徒たちの声が聞こえる中、四つ子とメイド二人はゆっくりと学園の門を通過する。
「朝からみんなすげえな……。朝から魔法の練習は俺らにはきついし。何より……」
緋色の瞳を後ろにいる兄妹たちに向ける。何があったのかと不思議そうな目で見てくる彼らにため息を付き、言葉を紡いだ。
「お前らが一緒に寝てきたから全然眠れなかったんだよ。まだ眠いし……」
愚痴を零すと、アレスは頬をかいて笑い、その他女子たちは笑顔で頭に手を当てている。
ため息を付き、校舎に入ろうと歩き出す。涼しい風を感じていると、ラインは突然「あ」と声を出した。
「急になに? お兄ちゃん?」
「そういえばお前さ……」
彼はセツナの方を向き目を合わせる。緋色の瞳を兄に向け、首を傾げていたセツナを見て彼は話し始めた。
「俺とアステナを助けに来た時に、俺の事「ラインお兄ちゃん」って呼んだよな? なんで?」
「――っ」
「あ! そういえばラインお兄ちゃん達が別世界に飛ばされた時にセツナお姉ちゃん言ってたよね!」
「ああ、そういえば言ってたね。『私がお兄ちゃんを……ラインお兄ちゃんを助けに行く』とも言ってたね」
天空にて、セツナが『時間の神』に言ったことを思い出しながらアレスは答える。すると、段々とセツナの顔は真っ赤になっていった。
セレナとエルフィーネは最近ファルレフィア家に来たため、なんで彼女が赤くなってるのか分からない。
否、兄妹三人もなんで赤くなってるのかは分からない。
別に、ラインはただ疑問で聞いただけだ。それ以外の意図は無い。
子供の頃はセツナもレンゲと同じく、ラインのことは「ラインお兄ちゃん」、アレスのことは「アレスお兄ちゃん」と呼んでいた。
だが、ある日突如としてラインのことは「お兄ちゃん」、アレスのことは「アレス」と呼ぶように変わった。
特に気にもしていなかったため、今日まで聞いてこなかった兄妹たち。しかし、久しぶりにそう呼ばれたことでラインはとうとう疑問を口にしたのだ。
全員が真っ赤になったセツナをじっと見つめていると、その唇が震えながら開く。
「だ、だって……――」
「え? なんて?」
下を向いてボソッと呟いたため、誰にも聞こえなかった。ラインが首を傾げ近づこうとすると、突然真っ赤な顔を上げて叫んだ。
「だ、だって甘えてるって思われたくなかったんだもん!」
「「「「「え?」」」」」
「えっと……どういうこと?」
「ず、ずっとラインお兄ちゃんとか呼んでたら甘えてるみたいに思うじゃん!」
真っ赤で叫ぶ妹を見て、そんな風には思わないけど……とラインは思う。そして、同じく自分を「ラインお兄ちゃん」と呼ぶ末妹を見た。
「別にレンゲは甘えてるわけじゃ――」
「甘えてるよ?」
即行にそう返された。嘘をついている訳でもない堂々とした態度に、ラインとアレスは止まってしまう。それを見て、セツナも「ほらね」と呟いた。
「と、とにかく私がお兄ちゃん達をどう呼ぶかは勝手だから! この話はもうしないでね!」
――真っ赤な顔で校舎まで走っていく妹の後ろ姿を残りの五人は見つめていた。
◆◇◆◇
カイラス先生が教室に入り、朝のホームルームが始まる。その内容はというと、生徒たちが楽しみにしていた学園祭についてだった。
「来月ある学園祭だが、テーマは星や宇宙ということは伝えただろ? それについての話し合いをする」
学園祭を楽しみにしていた生徒たちは、大声を上げて喜ぶ。
――まあ、うるさすぎると以前のように先生に魔法をぶっぱなされかねないので、すぐに落ち着いたが。
「適当に集まって出し物の良いアイデアを考えるんだ」
先生の言葉が終わると、それぞれ友達の元に集まった。セツナ、レンゲ、セレナ、エルフィーネはエリシアとリリスのところに集まる。
そして、ラインとアレスのところに来たのは――
「アイデア出せって言われても、むずいよな」
「星や宇宙についてか……。難しいね」
『魔導師』と『剣聖』だ。頭に手を当てて歩いてくるグレイスと、手を顎に置いて歩いてくるアッシュ。
【十執政】『第六位』クロイツ・ヴァルマーによると、『剣聖』アッシュ・レイ・フェルザリアが騎士団に入った歓迎会が昨日あったそうだ。
「俺たち招待されてないなー」と思っていると、アッシュが声をかけてきた。
「昨日は家に居なかったの? 僕の歓迎会があったから連れていこうと思ったんだけどさ……」
「お前らいなかったから、俺とこいつとリリスとエリシアで行ったんだぞ? 二人ともお前らの妹と仲良いから呼んだのに」
全然嫌われたりしていた訳じゃないようで安心する。その四人は中々面白いメンバーだろう。アッシュとグレイスは『ラビリンス・ゼロ』でエリシアと話す機会があったが、リリスとは全然話してない。
セツナたちがいないのについて行った二人はかなり優しいと思う。
「俺ら以外に連れていこうとした人はいるのか? アッシュの歓迎会が王都レガリアであることを伝えた人は?」
「あーレオだよ。でも予定があるとか言って断られたんだよなー。どうしたんだよ? てか、王都であったとは言ってねえのになんで知ってんだ?」
「いや、まあ。色々あってな。――よし、話変えるぞ。学園祭の出し物どうする?」
別に言っても問題は無いが、昨日【十執政】『第六位』クロイツ・ヴァルマーと『第九位』レヴ・ダイナスという奴と戦ったと今言えば、彼らは驚いて学園祭の話し合いにならないだろう。
そのため、一先ずは話し合いを進めることにした。
◆◇◆◇
――一限目が終わる頃、黒板には出し物の一つが書かれていた。星や宇宙に関することなので、魔法で星座を作り、暗い部屋に照らしたりするものなのかと思って前を向く。
そこに書かれていたのは――
――メイド喫茶だ。
それを見て、一同は「は?」と声が出てしまう。一体誰がそんな出し物を提案したのか? そう思って周りを見ると、クラスの女子が一箇所に固まっていたのだ。
絶対そこが提案したのだろう。聞かなくてもわかる。
先生が黒板を見て、一言呟く。
「えっと……これしかないならこれになるんだが良いのか? 一応、テーマはさっき言った通りだぞ? メイド喫茶でテーマ通りのことが出来るか?」
れっきとした質問を女子達に投げかける。すると、一人が手を上げて話し始めた。
「部屋を夜空みたいにしたり、メニューをそんな感じのにすればいいんじゃないですか?」
「まあ、な?」
これ以上出ないのなら、先生は否定する気もない。だが、とりあえずまだ意見を出していない男子に聞くことにした。
「じゃあお前らはどうす――」
「メイド喫茶で良いです!」
先生の発言が終わる前に一人の男子がそう被せた。それに続き、ライン、アレス、アッシュ、グレイスを除いたクラスの男子たちが「メイド喫茶で良いです!」と声を張り上げた。
それを聞いて、先生は頭を抑えてため息をついた。
「分かった分かった。じゃあうちのクラスはメイド喫茶な」
「「「「「「やったー!!」」」」」
男女含めた歓声が、教室を響かせた。
そんな中、平然な顔をしながら心で叫ぶ妹の姿を確認する。
(な、なんでこんな事になるの!?)
彼女の心の声を、兄妹だけは感じ取った。そして、心の中で呟く。
(まあ、頑張れ)
(頑張ってね)
(一緒に頑張ろ! セツナお姉ちゃん!)
兄妹の心の声を感じ取ったセツナが、こちらを一瞬睨んだ気がした――
読んでくれてありがとうございます!




