第70話『新たに始まる平穏』
第四章開始です!
――群青と金に分かれた空が見え、星のような光が流れる滝は神々しさを感じる。
そんな場所で、【十執政】『第六位』クロイツ・ヴァルマーは目を覚ました。
「あ、れ、ここはどこだ? 身体が、動かん……」
全く動かない身体を見てみると、血液で全身を巻かれていた。何重巻きにもされていて、顔以外は動かせない。
「くっそ……これ……」
何とか外そうと試みるが、上手くいかない。それに必死になっていると、突然目の前に現れた女に気づかなかった。
「やあはじめまして。貴方がクロイツ・ヴァルマーで間違いないね?」
その女は、銀色に光る砂時計のような模様が散りばめられたドレスを着ていた。
それがふんわりと広がり、時の流れを紡ぐようなものを感じさせる。
彼女は『創世神』アルケウスから時を操る大権を与えられた女神、『時間の神』アスタリア。
腰まである金髪と共に輝く金色の瞳は、その男をじっと睨む。
優しい口調をしているが、目を合わせるとクロイツの頬を冷や汗が流れる。
「お前、誰だよ。こんなことして、許されると――」
「君はそんなこと言える立場なのかな? 神が管理している事を、『異能力』とかいう力で実現させるなんて。許されない行為だよ」
クロイツの発言に被せ、アスタリアは言った。口調は優しいが、顔も目も、とんでもない圧を彼に与えた。
「ほらほら。聞きたいことがあるんでしょ? 先にそれを聞くべきだよ」
「ああ、そうだね」
新たな声の主に、クロイツは目を向ける。その女は淡い桃色と黒がゆるやかに溶け合うドレスを着ていて、その裾には桜の花びらと羽根の刺繍が交互に揺れていた。
輝く銀髪とは違って、赤い瞳は見たものを吸い込むような雰囲気を持っている。
彼女は世界の命を管理する大権を『創世神』に与えられた『生と死の神』アリシアス。
彼女の言葉を聞き、アスタリアは再びクロイツを睨む。
「事実確認だよ。君は『創世神』のライン君たちをこの世界から消し、支配しようとした。さらには過去や未来を変える『異能力』を使ったり、それ以外にも多くを使った。そうだよね?」
彼女の言うことは全て事実だ。本当に事実確認をするつもりなのだ。だが、クロイツはそんなものを素直に答える気は無い。自分たちの夢は打ち砕かれ、縛られた上にこんな意味のわからないところに連れてこられている。
納得いかない。
「知るか。そんなの答えるわけねえだ――」
縛られたままの身体を動かし、アスタリアに襲いかかろうとする。だが、彼の身体は止まってしまった。意識はあるが、身体は全く言うことを聞かない。縛られているから動かせないのではなく、全身が止まっているのだ。
――それをしたのは、『時間の神』だ。
「……今、わたしは怒ってるから機嫌が悪いの。貴方のせいでライン君とアステナを助けるために沢山の世界を移動したし、大変だったわけ」
そこまで言って、ため息をついたあとに再び言葉を紡ぐ。
「もし次に反抗しようとすれば、君という存在をこの世界のあらゆる時間から消し去るからね」
そんな事を言われたら流石に反抗できない。彼女の圧に押し潰され、クロイツは止まったままアスタリアを見ていた。
「アリシアス、彼の目を見て」
「はいはい。仕方ないね」
アリシアスと呼ばれた女性が、クロイツと目を合わせる。初めは何も思わなかったが、彼女の瞳が一瞬だけ光った。すると――
(――っ!?)
一気に背筋が凍るような恐怖を抱くようになった。心拍数が上がり、何故か自分で命を断ちたくなってしまうほどの恐怖。しかし、身体の時間は止められているため動かせない。目も避けられないまま、恐怖の時間が続いているとアスタリアが話し出した。
「わたしたちは貴方を裁くつもりだよ。ただ、【十執政】の情報を全て吐いてくれれば少しだけ軽くしてあげる。どうしたい?」
――【十執政】の情報を吐き、少し軽い裁きを受けるか、何も言わずに重い裁きを受けるか。究極の選択が、クロイツを襲った。
◆◇◆◇
――陽光が差し込んでくる朝に、ラインは目を覚ます。その隣には――
(なんでこんなにいるんだよ……)
真ん中にライン、左隣にセツナ、右隣にアステナ。さらに、セツナの隣にはアレスとレンゲ、アステナの隣にはセレナにエルフィーネも一緒のベッドで寝ている。
いくら一人で寝るには大きすぎるベッドとはいえ、ここまでの人数は多すぎる。
そのため、寝る方向を横に変えた。背の高いラインとアレスは足がベッドから出てしまっているが、それ以外は何とか収まっている。
こんな大勢で、ラインの部屋で寝ている理由。それは、昨日の夜のことだ。
◆◇◆◇
――クロイツをアスタリア達に届けた後のこと。
ファルレフィア家の屋敷に帰ってきた一行は、重い扉を開けて入ると、真っ先にリビングにあるソファーに倒れ込んだ。
四つ子は吸血鬼の体質のおかげで肉体は疲れていないが、精神的に疲れている。
その中でもライン、セツナ、アステナは別格に疲れた。ラインとアステナは並行世界に飛ばされ、そこでダンピールの男と戦ったり、『神龍オメガルス』によく似た龍とも戦った。
それだけでも凄まじいのだが、こちらの世界に戻ってからは【十執政】『第六位』クロイツと『第九位』レヴとも戦ったのだ。
セツナもまた、ラインたちを助けるために『時間の神』と『空間の神』と共に多くの世界を旅した後に【十執政】と戦った。
その疲労は精神に大きな影響を与えた。
「もう、疲れたから私寝る……」
「俺も寝ようかな。今日は疲れた……」
そう言って、それぞれの部屋に戻るとした時だ。なにか思いついたようにレンゲが声を上げた。
「ラインお兄ちゃんの部屋でみんなで寝ようよ!」
「はぁ!? ベッドに入らないだろ?」
「みんなで横に寝れば問題なし! ほらほら、行こ行こ!」
どこからその元気が出てくるのか分からないが、ラインとセツナはレンゲに手を引っ張られ、どんどん階段を駆け上がっていく。
それを見て、セレナも尻尾と耳を動かして笑顔で言った。
「私たちも行きましょうか。レンゲ様、待ってください!」
「絶対きついですよね〜アレス様〜。ま〜行きましょ〜」
「うん、そうだね。アステナさんも」
「うん。行くよ。 ……あ!」
エルフィーネ、アレスに続き、アステナも階段を登ろうとした。
突然声を出したかと思えば、素早い動きでレンゲたちよりも先に階段を駆け上がり、二階で待っていた。
彼女が考えていたことは単純だ。部屋にたどり着くのが最後だったら、ラインの隣で寝れないのでは? と考えただけ。
『知恵の神』とは思えない可愛らしい行動の理由は、ここにいる誰も知らない。
◆◇◆◇
「って、起きろみんな。朝だぞ」
ラインの声が部屋に響き、続々と目を擦らせながら起きる六人。
「おはよう兄さん」
「ん……おはよ、お兄ちゃん……」
「おっはよー! ラインお兄ちゃん!!」
「あ、ライン様、おはようございます」
「ライン様おはよ〜ございま〜す」
「ライン君おはよう」
と、それぞれ異なる挨拶をしてベッドから起き上がる。
昨日は学園が休みだったが、今日は授業がある。確か、来月ある学園祭のための準備が始まるとカイラス先生が言っていただろうか。
先生によると、毎年テーマは星や宇宙らしいが、どんなことをするのかはまだ不明だ。
今日から始まる学園祭前の準備のために、四つ子とメイド二人は学園に向かった――
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