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第69話『戦いの終結と混沌の始まり』

 【十執政】『第八位』サフィナ・カレイドにより、『第九位』レヴは斬られ、地面に向かって落ちていった。


  レヴが地面に落下しているのを見て、『第六位』クロイツは焦りを見せる。


 レンゲにさえ対抗できていないのに、クロイツが一番苦手な女であるサフィナが、次の獲物を見る獣のように瞳をこちらに向けてくる。


「――っ」


 このままでは負ける。彼らの理想郷を作れないまま。

 そんなのは嫌だ、絶対に嫌だ!


「ウザー。世界を支配したいなんてつまんない事考えてるから負けるんだよー?」


「フッ、どうせ、お前らが復活させようとして魔王も、神も! 同じことしか考えてないだろ! みんなバカばかりだ! お前も、ロエンも、全部!」


 呆れた目つきでだるそうに話すサフィナに対し、クロイツは怒号を浴びせる。それを聞いて、サフィナは眉をひそめてつぶやく。

 

「……そーかもねー。やっぱり、アタシには何も感じないや」


 ――上空でサフィナとクロイツが口論をしている中、レンゲは追撃するように落ちていくレヴを血液で拘束し――


「おりゃあ!!」


 ぐるぐる巻きにした彼を、こちらに向かって飛ばしてきたのだ。


「もう、レンゲったら。アレス、行くよ」


「了解。じゃ、頼んだよ兄さん」


 ラインの肩に手を乗せ、弟と妹は末妹の蹴飛ばしたレヴにさらなる追い討ちをかけるように飛んで行った。


「ったくあいつら……。ま、レヴはあいつらに任せて俺は……」


 『創世神』の力を出せない中で、「創血式・緋(そうけっしき・ひいろ)」も「創血式・桜(そうけっしき・さくら)」も出せない。

 今の状況で一番強い技は一つしかない。それを決めるために、ラインは瓶に入った栄養血液を飲んだ。


 その刹那、赤髪と緋色の瞳は茜色に変化し、ラインの周囲を血液が浮遊し始めた。

 おそらく、そのまま撃ったとしてもクロイツが《複写(コピー)》している《反射(カウンター)》によって返されてしまうだろう。以前、ソールに向かって撃った時のように。


 出来るだけ音を立てず、クロイツの後ろに回り込む必要がある。すると、その考えを察したアステナが彼の肩に手を置き――


「ブーストリア。ほら、かっこよく決めておいでよ」


 瞬発速度を上げる魔法を彼女にかけられ、移動速度が上がった。そしてさらに――


「ライン様! 《刻律の調律(こくりつのちょうりつ)》です!」


 セレナの『権能』により、ラインの移動速度がさらに上昇。そして、彼女が『権能』を使ったのはラインにだけではない。上空を見てみると――


「っ!? 速い……」


 セレナにより攻撃速度を上げられたサフィナと、下げられたクロイツ。クロイツは気づいていないようだが、サフィナはそれをセレナがしたことだと気づいた。そして、何をしようとしてるのかを。


 (アタシに集中させれば良いんだねー)


 上がった攻撃速度を利用し、対の扇を振り回すことで花びらのような軌跡を大量に出す。

 もはやそちらにしか目がいかないクロイツには、ライン達を警戒するという大事なことを忘れてしまっていた。


「《斥力の王(リペル・ロード)》!」


「おっと……」


 瞬間、ロエンの『異能力』で上まで飛ばされ、そこからは上昇した身体能力を駆使して移動し続け――

 クロイツの後ろにたどり着く。

 

「なっ……後ろに――」


 思った通り、彼はなぜラインが後ろにいるのかもわかっていないようだった。そんな男に、吸血鬼の一撃が繰り出される。


血式・紅(けっしき・あか)!!」


「《反射(カウンター)》――」


 反射する『異能力』を発動しようとした。しかし、セレナによって攻撃速度が下げられたクロイツは、上げられたラインの攻撃速度に勝てなかった。


 爆発する血液は一気にクロイツの身体を突き破り――

 1400、1300、1200……100……


 と、残機がどんどん減っていく。そしてやがて――


「あっ……ぐっ……」


 残機は0になり、残っているのは今の命だけ。全てを喰らったクロイツは、地面にゆっくりと落ちていった。

 彼にはもう、意識は無かった。


◆◇◆◇


「――さてと。捕まえたはいいが、どうしたものか……」

 

 【十執政】『第六位』クロイツ・ヴァルマーと、『第九位』レヴ・ダイナス。両者ともラインたちに敗れ、今は血液で拘束されている。

 保険として、拘束した後にサフィナが《夢虚(ムーンフェイン・)牢城(セラリウム)》を二人にかけたことで、一日は眠ったまま。これで逃げられることはないだろう。


 それはいいのだが、問題はラインたちと【十執政】側で条件が違うこと。

 ラインたちは『時間の神』アスタリアに、クロイツを「拘束」するように言われ、【十執政】はあの方たちからクロイツを「抹殺」するように命令が出されている。


 『ラビリンス・ゼロ』では彼らと戦ったとはいえ、今回は協力関係を結んでいた。

 もしロエンたちが戦うつもりなら、こちらも抵抗するつもりだ。だが、出来るだけ戦いたくはない。穏便に済ませたい。


「――君たちはクロイツを抹殺するのが目的だったよね? どうするの?」


 そこで口を開いたのはアレスだ。ロエンとサフィナに目を合わせ、二人が何と答えるかを無言で待つ。


「――そう、ですね」


 ――沈黙の時間が少し流れ、ロエンは覚悟を決めるようにそう呟く。そしてその瞳をラインたちに向け、彼が紡ぐ言葉は――


「私たちが――」


「そっちにあげるよー。アタシたちはもういいや」


 ロエンの言葉を遮り、サフィナがそう言った。その言葉に、四つ子たちだけでなく、ロエンも「は!?」という目で見ていた。


「もー良いでしょ? 最後に決めたのはあっちなんだし。それにアタシは……」


「……分かりました。クロイツとレヴは渡します」


「い、良いのか? そんなあっさり……」


「ええ、構いません」


 サフィナに反対することなく、ロエンもそれを飲み込んだ。

 おかげで穏便に済ませることが出来そうだ。戦闘をすることもなく、彼らをアスタリアの元まで送れる。まあ、彼女が何をするつもりなのか分からないが、彼女を信じよう。


「それでは、私たちは帰ります。手伝ってくれたことに感謝しますよ」


「じゃーねー。もしかしたらまた会うことになるかもだけどー」


 ラインたちに手を振る二人の姿が視界から消えるまで見送り、一息つく。


「さて、二人を連れていこうか」


 指を鳴らした『知恵の神』の人差し指から、光が放たれた。それは、一瞬にして雲を突き抜け、天空への光の道が出来上がった。


 それを見て、アステナ以外の六人は目を見開いて驚く。なんでそんなに驚いてるのか最初は分からなかったが、すぐに理由が分かった。


「そっか。みんなこれを見てないんだよね」


 最初にラインが彼女によって天空に連れられた時、彼は目隠しをされていたので見ていなかった。

 残りの五人もまた、アステナがテレパシーを送ったスピリアに一瞬にしてそこへ飛ばされたので光の道など知らなかったのだ。


「驚いてないで。登るよ」


 道に足を踏み入れた七人と二人の身体が一瞬にして空まで消えていった。


◆◇◆◇


 ラインたちと別れた後、ロエンとサフィナは二人で歩いていた。草以外何も無かったところからかなり離れ、周りには木々が沢山生えている。

 山道を通りながら、ロエンは彼女に尋ねた。


「本当に良かったんですか? ソールたちに怒られますよ?」


「別に良いよー。……あのさ」


「? どうしました?」


 サフィナは突然歩みを止め、ロエンの目を見つめる。これまでの彼女からは想像もつかないしっかりした姿に、ロエンは固まってしまう。


 ――きっと今言わないと、アタシはずっと後悔する。だから――


「――ねぇロエン、【十執政】……辞めない?」


「――」


 彼女から紡がれた言葉に、再びロエンは固まる。彼が無言になったことで、サフィナは選択を間違えた……と思ってしまう。

 だが、ロエンの表情には驚きと笑みが混ざっているようだった。

 まるで、ずっとその言葉を待っていたかのように。


「そう……ですね。ヴァルクにも聞きましょうか。まあ、答えは分かりきってることですが」


「うん!」


 彼の言葉を聞き、サフィナはそう答える。やっと、やっとだ。【十執政】になったあの日から望んでいたことがようやく。


 ただ三人だけで仲良く過ごしていたいと願う彼らは、ついにその夢を叶えられる。


 サフィナの顔は笑っていた。ロエンが久しぶりに見た、作り笑いではない本当の笑顔。彼女は普通の少女になろうとしていた。

 もしかすると、彼女の感情もまた――


◆◇◆◇


 クロイツが四つ子たちに捕まり、そして――【十執政】『第七位』ロエン・ミリディア、『第八位』サフィナ・カレイド、『第十位』ヴァルク・オルデインが組織を辞めた次の日。

 『第一位』ソール・アスタリウスはあの方たちに呼び出しを受けた。

 冷たく暗い空間にある巨大な扉。それを開けることで、一つの部屋に入る。


 さらに奥にある巨大な二つの石像が彼を待っていたかのように光り出した。

 

「よく来たな、ソール」


「今回は――」


 クロイツを抹殺出来なかったこと、彼自身が【十執政】に招待したロエン達が辞めてしまったことの二つを謝ろうとした。しかし、先に石像から言葉が紡がれた。


「構わん。ロエンとヴァルクはともかく、サフィナは活動に全くやる気が感じられなかった。いずれ起こるとは思っていたことだ。ただ……」


「ただ? なにか?」


「我々の封印を早く解かなければならない。クロイツが奴らの手に渡ったことで、我々が何者なのかを伝えた場合がある。あの日、我々を封印した『創世神』といたあの神共に……」


 段々と石像からの声が大きくなる。それは、封印した相手を憎んでいるような声色だった。

 封印を早く解かなくては……と言っているが、これまでそれをしていたのは機械開発や、【十執政】が集めた『創世神』の力で彼らへの対抗策を作っていた『第六位』クロイツだ。

 彼が裏切り、いない今、封印を解くのがさらに遅くなるかもしれない。と、ソールが口に出そうとすると、それすらも見透かしていたかのように話し始めた。


「あいつが居るだろう。連れてこい、二人とも」


 ソールが後ろを振り向くと、そこには――


「連れてきました。魔王様」


「連れてきました」


 【十執政】『第二位』ルシェル・バルザーグと、『第四位』セルヴィ・ミレトスが扉から入ってきた。そして、彼らは一人の男を連れてきた。それは――


「さあ、選べ。クロイツと同じように我々を裏切るか、再び我々のために働くかを」


「チッ」


 獅子の仮面をつけた男――【十執政】『第九位』レヴ・ダイナスだった――

 

読んでくれてありがとうございます。これにて、第三章『揺れる秩序』は終わりです。次回、70話からは第四章に入ります!

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― 新着の感想 ―
色々と怒涛の勢いで事態が動きましたね。 抜け十執政となったメンツがどう動くのかも気にはなります。 (「`・ω・)「 レヴはこんな場所に呼び出しを受けてその問いだと、実質的には断れない問いでは? (´…
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