第66話『『知恵の神』の戦い方』
「な、んだこれ?」
突如形成されたドーム状の結界に閉じ込められ、五人は困惑する。
クロイツが何かしたのかと思ったが、『時間の神』に動きを封じられた彼は依然、止まったまま。
ならば一体誰が結界を立てたのだろうと思考を巡らせる。
――その時、クロイツの元に何者かが飛んできた。
「結構派手にやられたな。こんな所で負けてもらったら困るんだが」
「お前、誰だよ!?」
結界内から聞こえる叫ぶ声を耳にし、その男はゆっくりとこちらに目を向ける。
その顔は――分からなかった。
なぜなら顔には獅子のようなお面を付けていたのだ。そのせいでどんな顔をしているのか分からないが、【十執政】だということは確定だ。こうやって、クロイツを助けに来たのだから。
「フレイムスパーク」
そう思っていたら、突然炎魔法でクロイツの全身を燃やし始めたのだ。その出来事に空いた口が塞がらない。身体を焼き尽くす火は止まらず、皮膚を焼いては《再誕の輪》のおかげで命尽きても何度でも肉体を再生できる。
――そしてそれは、肉体が消えた場合、新たな肉体を再構築する。
「馬鹿な……アスタリアが止めたはず」
肉体は跡形もなく燃えてしまったが、その後すぐに再生し、この場に現れたのだ。
新たな肉体に生まれ変わったクロイツは、その身体を動かすことに成功する。
最初は理解出来ない状況を上手く飲み込めなかったアステナであったが、分析することで答えに辿り着いた。
「なるほど。そういうことなんだ」
『時間の神』アスタリアがクロイツにかけた制約。彼が未来や過去を改竄する『異能力』を使用した場合、直ちに肉体の時間を止めるというもの。
同じ力を使うソールとは違った制約をかけているが、それはアスタリアの目的がクロイツを死に至らせる訳ではなく「拘束」する事だからだ。
そのため、力を使いすぎたクロイツは彼女によって肉体の時間を止められてしまった訳だが――
「一度肉体を滅ぼせば、再構築された肉体は止められていないのだから動けると……。そんな強引にされるとは彼女も思わなかっただろうね」
アスタリアが止めていたのは、あくまでクロイツの身体だけ。その肉体に傷がつき、《再誕の輪》の残機で生き返ったとしても肉体は動かない。
そこで獅子の仮面を被った彼が試したのは、クロイツの全身を消し炭にすることだった。
身体が消えれば、新たなものが再構築されるのはこの『異能力』を持つオリジナルの『第四位』セルヴィ・ミレトスから聞いている。
だからクロイツを助けるためにそれを試したのだ。
「はぁ、はぁ、呼吸も出来なかった……お前にも焼かれ続けたし、残機がどんどん減ったぞ」
火炙りから抜け出したクロイツは、何度も何度も深呼吸を繰り返す。呼吸も止められていたため、残機も数個減ってしまった。その上に炙られ続けたことで命を捨て続けたため、アステナの「エクスプロード」で2000を切った残機は、1500を切り始めた。
その愚痴を零すと、仮面の男は大笑いしながらクロイツの肩を叩く。
「まあ良いじゃねえか。助けに来てやったんだし。それに、力は集めたんだろ?」
「まあな」
男に向かって、人差し指に付けた指輪を向ける。黒曜石のような漆黒と紋様が刻まれた銀色の環が常に回転していて、中央に紫色の結晶が埋め込まれている指輪だ。
『ラビリンス・ゼロ』でロエンたちが『創世神』の力を集める時に使ったものであり、先程五感を錯乱させられた四つ子から力を盗むためにクロイツが使ったものでもある。
それを見て、仮面男はニヤリと笑うが、すぐに怒号が飛んできた。
「お前、急に出てきて誰だよ。お前ら一体何しようとして……」
「――そうだな俺は【十執政】『第九位』レヴ・ダイナスで良いか。目的はこいつが言っただろ? ただこの世界を俺らのものにしたいだけだ。そのためにはお前らが邪魔だったんだが……まあ上手くいかないよな」
「要するに、お前らを倒さないと世界の危機ってか」
腕を組みながらそう答えるラインを、バカにするような高笑いが響く。
「その結界、『創世神』の力を組み合わせて作ったものだ。お前らはさっき出してた力を奪われただろ? その状態でまた力を顕現させるのは身体に負担がかかるはずだ」
「――っ」
図星を付かれ、四つ子は言葉を詰まらせる。おそらく、レヴはそのことをソールかロエンかサフィナに聞いたのだろう。『ラビリンス・ゼロ』で、ラインはロエンに力を盗まれた後、ソールと戦う時に再び力を顕現させた。
それは、『ラビリンス・ゼロ』で待機していた兄妹達と負担を分割することでなせることの出来た技だが、今回はその兄妹達も多く力を出してしまった。
この状況では吸血鬼の力しか出すことが出来ない。
『創世神』の力に対抗できるのは『創世神』の力だけ。そのため、形成された結界がその力で作られていると言うのなら、どんな強力な力をぶつけても破壊することは不可能。
このままではクロイツとレヴは逃げ出してしまい、ラインたちは最悪半日は出られない。
――本来ならそのはずだったが、『知恵の神』の演算がそれを越した。
「ガハッ!? 魔法!? 誰が……」
「っ!? 危ねぇなおい……」
瞬間、どこからともなく現れた炎、水、氷、雷、風、光魔法が二人を襲った。
その全てを喰らい、吐血と同時に残機を大幅に減らしたクロイツと――
何の『異能力』を使ったか分からないが、迫り来る魔法を支配し、どこかへ飛ばしたレヴ。
レヴが現れることも、今の攻撃を無力化されたことは想定外だった。しかし、クロイツが魔法を受けることはアステナの思い通りである。
「一体いつ? まさか……」
一体どのタイミングでこんなにも大勢の魔法を撃ったのか。今は結界の中にいるし、身体を動かしてすらいないため今撃ったということはないだろう。
ならばどこで? という思考を続けていると、再び魔法が襲って来る。
「っ! またかよ」
避けても避けても、降り注ぐ魔法は止まらない。彗星のように流れ続ける炎魔法は、結界内から見ると神秘的で美しかった。
だが、クロイツとレヴからすればそんなものではない。残機のあるクロイツはともかく、この量の星に一つでも当たれば次々と当たり続け、命を落としてしまう。
ただの炎魔法に見えるかもしれないが、これは『知恵の神』が自ら生み出した、彼女しか使えない新技なのだから。
――迫ってくる星をレヴの力で支配し、一箇所に集め、
「アクアパレット!」
水魔法をかけ鎮火する。
これにより、もう彼らを脅かす脅威は消えた。
と思っていたのだが――
「《刻律の調律》!」
「《跳羽の舞踏》〜」
「《引力の王》!」
「《夢虚牢城》」
「なっ……」
――またもや、『知恵の神』アステナの演算が彼らを上回った。
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