第62話『運命を握る女神』
二十万文字突破しました!
真っ白の髪と瞳に変化した四人を見て、【十執政】『第六位』クロイツ・ヴァルマーは冷や汗が止まらない。彼らに不安になる言葉をかけ、動揺したところを攻撃しようと考えていたようだが、判断を完全に間違ってしまったようだ。
いくら彼が《造物》で『創世神』の力の剣を作ったとしても、その程度のもので今の彼らに有効打を与えることはできない。
(これは、まずい)
心の中でそう呟いたクロイツに、先制攻撃をしかけたのはレンゲだった。
「絶対許さない」
目の前から消えた彼女はクロイツの後ろに回っていた。それに気づく間もなく、真っ白のエネルギーを纏った右足に蹴り飛ばされる。
悲鳴をあげながら上空に辿り着くと、彼は『異能力』を発動した。
「《再誕の輪》!」
それは、『第四位』セルヴィ・ミレトスが持つものだ。殺した相手の命を自身の残機に変換し、その分生き返ることが出来る『異能力』。頭上に表示された数字は、この世界の文字で30000と書かれていた。
「こんな時の為に昔からコツコツ貯めてて良かった」
「何がコツコツか分からないけど、君はその罪を償った方が良いよ」
続いて上空に現れたアレスに蹴り飛ばされ、続いてライン、セツナ。四人に蹴り飛ばされ、轟音を出しながら地面に倒れてしまった。
一応、吸血鬼の貴族の家系に生まれているのだが四人はかなり足癖が悪い。手よりも先に足が出るのだ。
準備運動のように足をストレッチする四人をクロイツは睨みつける。
「さっきも聞いたけどさ、そんな力を持ちながらなんで普通に過ごしてるんだよ。僕ならすぐに世界を思い通りに変えるのに」
「……」
左手を背中に隠し、呪いの力を溜めながら尋ねる。
――そんな事、決まっているだろう。そもそも四つ子はただ平穏に暮らしたかっただけだ。世界を支配しようなどと大層なことは考えたことすらない。
生まれつき力を持っていなければ考えることなのだろうか。元々力を持っていた四つ子にはクロイツの考えが全く理解できない。
「答えてくれないのか。まあ良いよ。《透明化》、《未来の選択》」
「!? 消えた……」
すると、クロイツの身体は透明になり見えなくなってしまった。今までで聞いた事のない『異能力』なので『第三位』、『第五位』、『第九位』のどれかのだろう。
ラインとセツナがそう推測する中で、アレスはそれが『第五位』のものだと気づく。なぜなら、最初にこの場に来た時、姿のない殺気を持つ攻撃を受けそうになったからだ。
そして、それを見たサフィナが『あーいるねー。『第五位』の『異能力』かー』と言っていたし。
「面倒だな」
正直、透明化自体は空気の揺れや殺気でどこにいるかわかるため問題は無いが、《未来の選択》が面倒だ。
未来を見てこちらの動きを対処出来るのは無法すぎるのだ。
ただ変わるかもしれない未来を見るだけの《未来予知》の『権能』と違って、未来を見た上に様々な選択が出来、さらに都合の良い未来に導けてしまう。
――そして、彼の選んだ未来に向かうように透明な紫の鎖が彼の手から放たれた。その鎖には『ラビリンス・ゼロ』でロエンたちが『創世神』の力を盗んだ時の指輪と同じ素材で作ったものが組み込まれている。
それらは四つ子と『知恵の神』を巻き、『創世神』の力を奪って短時間だけ戦闘不能にさせる……はずだった。
「君が《複写》できるのはオリジナルの八割程度、だったよね。なら、本来の使用者より精度が低いと考えたけど、正解だったみたいだね」
八割程度しか出力できなかったことで、その『異能力』に少しだけ穴が空いてしまった。それを見抜いたアレスによって、鎖はバリアで防がれてしまった。
「チッ……。だった――ら」
透明のまま、また次の行動をしようと思った。しかし、それよりも早くセツナが投げた真っ白の刃が彼を貫いた。《透明化》は切れ、刃の刺さる胸を抑えながら地面にゆっくりと落ちてくる。
即死の一撃のはずだったが、先程《再誕の輪》を発動させていたことで30000の残機が一つ減るだけで済んだ。
「はぁ、はぁ。残機があるとはいえ、死ぬのは怖いよ。セルヴィはよく命を無駄にして突撃出来るよね……」
地面に膝を立てながら左手の人差し指に指輪をはめた。すると、彼を貫く刃は瞬く間にそれに吸い込まれていく。
「全然、勝てる方法が思い浮かばないや。でも、僕らが望む世界を手に入れるにはやらなきゃいけないんだよ。《未来の選択》、《反射》、《透明化》、《引力の王》、《幻焔花界》、《確率操作》!」
その瞬間、一気に六つの『異能力』を発動した。改めて《複写》の強さを再認識する。選択した最善の未来に向けて透明化し、反撃されてもいいように反射するバリアを貼る。
そして、引力で五人を引き寄せて五感を錯乱させる花弁を出す。
――四人には確実にそれを対処する力があった。だが、彼らは花弁を喰らい、五感を錯乱してしまう。それは彼が最後に発動した《確率操作》のせいだった。
「ふぅ。僕の攻撃を必中にしたから当たっちゃったね。って、もう聞こえてないか! という訳で――」
そして、彼は先程はめた指輪を四人に向ける。すると、彼らが顕現させていた力は瞬く間に吸い込まれ、真っ白の髪と瞳は赤髪と緋色の瞳に戻ってしまった。
力を盗んだクロイツは指輪を天に掲げ見つめる。
「凄い濃い力を手に入れた! これだけあれば僕の望みも! ……あれ、もう一人の女はどこに? ま、いっか。もう一回消えてくれ」
左手に禍々し杖を取り出し、四つ子をまたもや別世界に送り込もうとする。五感が錯乱し、動けない彼らは全く反撃できずに地面に倒れていた。
「君らを片付けたら、今度は【十執政】だ!」
大声で笑いながら杖を上空に掲げる。黒い穴が出現する……その前に、左から女の声が聞こえ、炎魔法が飛んできた。
「フレイムスパーク! それ以上はさせないよ」
「あ、居なくなった女じゃん。どうやって逃げた?」
それは白銀の髪と瞳を持つ神秘的な美貌の女神だ。 世界の誰よりも豊富な知恵と知識を持つ『知恵の神』。
クロイツとの戦闘中、ほとんどラインに庇って貰うほど戦闘が苦手な彼女だけが万全な状態で動けるこの状況。
(やるしか……ないよね)
女神を余裕そうにじっと見つめるクロイツと、それを睨む彼女。クロイツが勝つか、負けるか。その運命は『知恵の神』に委ねられた――
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