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第61話『大好きな二人のメイド』

「ほらほら、早く助けにいかないとダメだぞ?」


 ラインの不安を煽るように、【十執政】『第六位』クロイツ・ヴァルマーは精神的な揺さぶりをかける。ニヤニヤしたその顔に苛立ちながらも尋ねる。


「商店街と学園にゴルグを送ったって言ったよな?」


「ああ。大量にね」


「わかった」


 そう答えた瞬間、ラインは突然虚空を叩いた。何をしたのか分からないクロイツは「は?」と呟き、キョトンとした顔をする。


「もう安心しろ。商店街と学園にいたゴルグは全部消し飛ばした」


「……は? ど、どうやって? 何も無い所を叩いただけで何が起きるっていうんだよ?」


 クロイツは冷や汗を流しながら質問する。すると、ラインは答えた。


「どんなに離れてても俺が知ってる場所なら攻撃が届くからな。それに一回の攻撃でも複数の攻撃に変えることも出来るし。こんな風にな」


 答えながら彼は再び虚空を叩く。すると、何もされていないクロイツは全身を殴られる感触を受けたのだ。それも一発だけでなく、十、またはそれ以上だ。

 そんな事まで出来るのかと、『創世神』の力の無法さを憎む。


「君らの力が憎いよ。憎い、憎い。そんな馬鹿みたいな力を持ってるくせに、普通に生きようとする神経が僕には分からないね」


 腕に紫色の呪いのエネルギーを溜め続けて淡々と話す。それに気づいたロエンが後ろから叫ぶ。


「それは【十執政】が持つ悪魔の呪いの力です! 一旦離れた方が! って、めんどくさいですねこれ……」


 四方八方から機械が襲い、ロエンは攻撃を避けながら呟く。すると、エルフィーネが口を開いた。


「あ、前にアタシを眠らせたでしょ〜? あれ使ってみればいいんじゃな〜い?」


「あーそれいいかもー。じゃーアタシやっちゃおーかなー」


 『ラビリンス・ゼロ』での戦いで、エルフィーネは彼女、『第八位』サフィナ・カレイドの『異能力』で眠らされてしまったことがある。本当は丸一日起きなくなる技だったようだが、『夢の神』フォカリナがそれより先に起こしたのだ。

 そして、今回はそれを大量のゴルグにしてもらおうと考えた。魔法防御も物理防御も兼ね備えた機械を数十体も倒せるわけが無い。なら、眠らせて動けなくさせればどうだろうか。


 サフィナが空に飛ぶと、その意図を察したのか三人は動き出す。


「《刻律の調律(こくりつのちょうりつ)》! エルフィーネ!」


「は〜い。《幻響の舞奏(げんきょうのまいそう)》」


 セレナの『権能』で全員の動く速度が上がり、エルフィーネの『権能』で広がった幻影が囮になり、ゴルグらを中心に集める。そして――


「《引力の王(グラビティ・ロード)》! サフィナ!」


 地面に集まったゴルグらが、サフィナのいる上空の一点に引き寄せられる。

 機械全てが目の前に来た時、サフィナが右目を隠す。すると左目がピカっと光り、満月のような銀色に輝くと――


「《夢虚(ムーンフェイン)牢城(・セラリウム)》」


 その瞬間、目の前にいたそれら全ては眠り、夢の世界に入ってしまった。


「よーしせいこー。上手くいったねー」


「ていうか、機械に眠るという概念あったんですね……。まあ成功したので良し、でしょうか」


 試してみたはいいものの、機械が寝るんだ……という驚きがセレナとエルフィーネには残った。

 もう邪魔をする機械はいない。四人の視線がクロイツに向いた瞬間、彼は手に集めていた呪いの力を放出する。


「な、なんだこれ!? 霧!?」


 突如、紫色の霧が一面に広がり、視界が曇る。そんな中、四つ子は一瞬でどんな暗闇や視界が曇っていても周囲を把握出来る《暗視》という『権能』を使う。


「お前ら大丈夫か!? あ、アステナ、大丈夫?」


「う、うん、この霧……もしかして」


 咄嗟に鼻と口を手で抑えたアステナに肩を貸し、後ろにいる四人を心配して向く。すると、セレナとエルフィーネが苦しそうに膝をついていたのだ。ロエンとサフィナはそれほどでは無いが、辛そうに息を荒らげている。


「これ、目眩がします……。エルフィーネ、大丈……夫?」


「う、ん……でも、微妙〜かな……」



「セレナ! エルフィーネ!」


 フラフラしながら倒れそうになる四人に近づこうとすると、クロイツの声が響いてきた。


「やっぱり君たちはずるいね。この霧は精神や魂を削って弱体化させるものなのに、なんの効果も見られないや」


「精神や魂を削る?」


「これくらいなら君たちにも効くと思ったのに、『創世神』ってずるいなぁ」


 クロイツの言う通り、セレナたちは苦しそうなのにラインたちは全然平気だ。だから彼は『創世神』には効かないと思っているのだろうが……隣にいる『知恵の神』にも全く効いていないため、そもそも神全体に効かないだろう。


 アステナが『知恵の神』だと知らないクロイツは効いていない彼女に戸惑うが、気にしないことにした。


「次だ」


「っ!? 《切断》!」


 クロイツの放った紫の斬撃にいち早く気づいたセツナが『権能』で対抗する。斬撃が相殺しあい、衝撃波が響いた。


「チッ。って、もうそっちは限界そうじゃん」


 四つ子への攻撃はことごとく対処され、舌打ちをする。奥にいるロエン達を見ると、セレナとエルフィーネはもう完全に倒れてしまっていた。ロエンとサフィナもおぼつかない足取りでフラフラしている。


「っ……《斥力の王(リペル・ロード)》……。あとは頼みますよ……」


「うっわ……ロエンのバーカ」


 弾く力で霧の及ぶ範囲から飛ばされた三人。そんな中、サフィナは小声でそう言った。


「あそこまでなるのかよ……」


「精神と魂を削るって言っただろ? ロエンとサフィナは同じ呪いの力のおかげで何とか意識を保ってるけど、あの二人は気絶しちゃってるね。このままじゃ死んじゃうかも!」


 最後の言葉で場の空気がピリついた。ラインたちを不安にさせようと、先程と同じく精神的な揺さぶりをかけようとしたのだ。

 それで動揺したところでまた技を出そう、と。そんな考えをしていた。

 ――だが、クロイツは判断を間違えた。


 四つ子の赤髪と緋色の瞳は真っ白に変化し、クロイツを見る目はこれまでとは比べ物にならない圧倒的な殺意を持つものになった。

 動揺させようとした彼らの精神はより確固たるものになってしまったのだ。

 ラインもアレスも、セツナもレンゲもアステナも怒りを露わにする。そんな中、一際目立った少女がいた。


「私の大切な人たちを傷つけたのは許さない!」


 『大切なもの』を傷つけられたレンゲの圧倒的戦闘センスを抑えられる者は、もうこの場にはいなかった――

読んでくれてありがとうございます!今まで書いていなかったのですが、プロローグを第一話に投稿していますので良ければそちらもご覧下さい。

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― 新着の感想 ―
あらら、メッキが剥がれて自分から墓穴を掘りにいきましたか。 この痛恨のミスのまま終わるのは悲しいので、なんとかクロイツには踏みとどまって欲しいところです。 (´・ω・`)
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