第60話『vs『第六位』2』
「……一体君たちはどうなってるんだろうね?」
異世界に飛ばしたはずのライン達が突如目の前に現れ、【十執政】『第六位』クロイツ・ヴァルマーはそうつぶやく。その目は驚きというよりも、想定内だったかのように落ち着いていた。
「久しぶり……でもないか」
「さっきぶりだね。よく帰ってきた――」
「創血式・緋」
時間稼ぎをしようと思ったのか、質問をしようとすると吸血鬼と『創世神』の力を3:2で混ぜた技を目の前で放たれてしまった。
だが――
「その剣で防いだのか? 『創世神』の力を感じるし……」
右手に持つ真っ白の剣に防がれてしまったのだ。
「前に『ラビリンス・ゼロ』で君たちの力を少し奪っただろ? それから作ったんだ」
「……だから私を睨まないでくださいよ。仕方ないので」
ラインに睨まれた『第七位』ロエンはそう答える。本当ならなぜここにロエンとサフィナがいるのか聞きたかったが、見た所彼らの狙いもクロイツのため、とりあえず聞かなくていいと判断した。
「一人、二人、三人……九人か。さすがにこの人数は僕に厳しいね」
「何? 諦めるの?」
「諦めるわけないだろ? この子達の相手をしてもらおう」
セツナに言われたクロイツはそう返す。その瞬間、左手に持つ禍々しい杖を振った。
再び黒い穴が出現し、別の世界に飛ばされる……と考えていた全員だが、その考えはすぐに砕かれた。
その穴から現れたのはライン達が見た事のある存在だったのだ。
「そいつ、『ラビリンス・ゼロ』の……」
それは、『ラビリンス・ゼロ』の【第一層】『断罪の門番』ゴルグだった。それも一体だけでなく二十体もいる。
「僕が作ってみたんだ。結構出来良いでしょ? 行け」
ロエンの合図により、ゴルグは一斉に動き出す。巨体の機械騎士で、鋼の身体を持つ彼が全力でこちらに向かってくるのは地獄絵図のようだ。
(ソールからは二度目の「創血式・緋」は不発したと聞いてる。今撃ったばかりだし、そう簡単にゴルグたちがやられるわけは――は?)
先日、ラインと属性神たちが『第一位』ソールたちと戦った時にラインは「創血式・緋」を二度放てなかった。それはその時彼が力を使いすぎていたのが原因なのだが、それを聞いたクロイツは彼がそれを撃ったタイミングでゴルグを出せばすぐに倒されないと思ったのだ。
実際、その判断は正しかった。ラインは先程並行世界で「創血式・桜」を撃っていて次に撃てば三発目になってしまう。流石の彼にもそれは厳しかった。
迫り来るゴルグたちをどういなすか、刹那の時間に様々な方法を考えていた。しかし、それより先にセツナの技が決まった。
「創血式・桜華」
それは、ラインの「創血式・桜」と同じく吸血鬼と『創世神』の力を2:3で混ぜた技だった。
桜吹雪が舞い、嵐のような斬撃がゴルグ達を容赦なく切り刻む。物理防御も魔法防御も非常に高水準な機械だが、『創世神』の力の前ではそんなものは意味無く砕かれる。
二十体も一気に倒されることは想定外だったのか、クロイツは驚いた顔で冷や汗を垂らしていた。
「セツナお姉ちゃん凄い!」
「すごいですセツナ様!」
「セツナ様〜凄いですよ〜」
妹とメイド二人に褒められ、セツナは上機嫌になり腰に手を当てる。
「お前も出来るのかよ。てか俺の技とほとんど同じじゃ……」
「真似した訳じゃなくて本当に似たようなのになっただけ。それは良いから、早くあいつをぶっ飛ばす」
ライン自ら生み出した「創血式・桜」と同じでは無いが、似ている技だったので彼は不服そうだ。だが、セツナは本当に真似したわけでは無く、技を作ったらたまたま似ただけなのだ。
さすが四つ子と言うべきか、考えが似ている。
「まあ、良いよ。今のは想定外だったけど、これはどうかな?」
その瞬間、クロイツは再び黒い穴を生み出す。そこからはなんとさらに多くのゴルグが現れてきたのだ。
「まじかよ……。どんだけそいついるんだよ」
「さあ? 数えてないし正直僕も分からないよ。大量にいるのは確かだけど……ね!」
語尾を強調するとすぐにゴルグ達は襲ってくる。
「チッ……めんどくさいな」
苛立ったラインがそうつぶやくと、ロエンとサフィナが「ここは任せて」というようにゴルグ達を引き付けたのだ。
「セレナ! エルフィーネ! あいつらと一緒にゴルグを倒してくれ!」
「わかりました!」
「は〜い〜了解で〜す」
そう答えるメイドに微笑みかけ、四つ子と『知恵の神』はクロイツと対する。
「『創世神』に対抗できるのは『創世神』の力だけ。この剣じゃないと君たちと戦えないっていうのは本当にしんどいよ」
右手に握る真っ白の剣を見つめて呟く。すると、クロイツの口角がニヤリと上がった。
「だから考えたんだ。君たちが居なくなった今、商店街やあの村の人達はどうなるんだろうってね」
「……は? どういう……ことだよ?」
クロイツの言ったことの意味が分からず戸惑っていると、彼は話し続けた。
「僕のことを君たちも【十執政】も追ってくる。つまり、商店街や魔法学園を大量のゴルグで襲っても誰も対処できなくなるだろう? まあ、学園は今日休みだからどうなるか分からないけど今、ゴルグを送り込んだ。ここにいる数とは比にならないくらい大勢だ。強い存在がいない中でどう対処するんだろうね?」
「お、前……正気か?」
「もちろん。ほら、君たちが助けにいかないと全員やられるよ?」
四つ子の不安を煽るように言うクロイツに腸が煮えくり返る。手を握りしめ怒りを抑えていると、さらに不安にさせるような一言を言われる。
「早く行けよ。今日は『剣聖』も『魔導師』もいないんだから君たちしかいないんだよ?」
「は? なんで……だよ。今日は学園も休みだ。あいつらの行動がなんでわかる?」
「あれ、知らないの? だって今日は『剣聖』が騎士団に入った歓迎式が王都レガリアであるんだから」
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