第59話『『創世神』の帰還』
「はぁ、はぁ、これ、全然キリがないですね……」
「ほんっとうにめんどくさーい」
『第六位』クロイツ・ヴァルマーから距離を取り、『第七位』ロエンと『第八位』サフィナはそう愚痴をこぼす。
この男が大量の『異能力』をコピーしているため、全然普通の戦闘ができないのだ。
近づけばロエンの《斥力の王》で弾かれ、離れれば《引力の王》で引き寄せられてサフィナの《幻焔花界》で斬られてしまう。
それ以外にも様々な『異能力』を使うが、最も厄介なのが――
「やはりソールの『異能力』が一番厄介ですね……」
『第一位』ソールのものだ。彼は他の【十執政】と異なり三つの『異能力』を持つ。
ある一定の量の攻撃なら反射する《反射》、未来を見て最も都合のよい未来に導く《未来の選択》、そして、過去を改変して無かったことにする《因果律操作》だ。
ただ、《因果律操作》には何か制限があるのか、一度使ったらクロイツは血を吐いてしまった。それ以降使っていないが残り二つもかなりめんどくさいのだ。
「ね〜あれの弱点とかないんですか〜?」
エルフィーネがそう言うとロエンとサフィナは顔を見合わせた。
「《複写》はかなり無法なんですよ。時間制限も同時発動できる個数も制限ないので。ただ――」
「ただ?」
「彼が《複写》出来るのはオリジナルの八割程度です。なので私たちが使う時より劣っています」
そう教えてもらいアレスたちは頷く。だが、八割程度でここまでめんどくさい戦い方をされるとこの男を拘束すら出来ずに終わることになってしまう。ならば――
「っ!?」
突然目の前に現れたアレスに反応できず、一撃を受けてしまう。そのおかげでよろめくクロイツを接近するレンゲの刃が襲う。はずだった。
「あれ、なんで!?」
かなり丈夫に作ったはずの血液も刃が一撃で粉々にされたのだ。それを成し遂げたのは先程からクロイツが右手に持っている謎の白い剣だ。戦い始めてからその違和感をアレスとレンゲは感じていたが、今その理由に気づいた。
「その剣、やっぱり『創世神』の力を含んでるね」
「ああ。僕のもう一つの『異能力』の《造物》で生み出したものさ。『ラビリンス・ゼロ』でロエンたちが集めてくれた力を使ってね」
「……私を睨まないでくださいよ」
アレスに対しそう答えたクロイツ。サフィナ以外の全員がロエンを睨むと、まるで「任務だったので仕方ないじゃないですか」といった目で訴えかける。
ため息をついて再びクロイツを見つめると、彼は突然とんでもないことを言い出した。
「もう戦うのはやめようよ。無駄な時間だろ?」
「は? いきなり何を言い出すんですか? 頭おかしくなったんですか? そもそもあなたがライン様達をどこかに飛ばしたんですよね?」
普段のセレナからは想像もできない毒舌にアレスとレンゲは驚きつつもクロイツの反応を待つ。
「質問攻めやめてくれる? そもそも僕は戦う気ないのにお前らが僕を捕まえようとするからじゃん。【十執政】は僕を抹殺するよう言われているし。抵抗するのは当たり前だと思うんだけど?」
急に開き直った態度にその場の全員の動きが止まる。そして、サフィナが彼に質問をした。
「そもそもさー、なんでクロイツを抹殺するように言われてるのー?」
それを聞き、クロイツの顔に笑みが浮かんだ。先程、『第一位』ソールから連絡された際にもどうしてクロイツを抹殺しなければならないのか伝えられていなかった。ただ、彼が反旗を翻したということしか知らない。彼が何を目的として、何をしているのか誰もわからないのだ。
全員が息を飲む中、クロイツは笑って顔を上げる。
「簡単なことだよ。僕はこの世界を僕のものにしたいだけさ。でも、それは簡単に出来ることじゃない。四人の『創世神』も【十執政】もあの方たちも、全てが邪魔だったのさ」
「なんでそんなことをしたいの?」
「僕の理想郷を作るためさ。あの方たちを復活させることしか考えてない【十執政】と違って、僕はちゃんと自分の夢を持っている。神をこの世界から消し去り、僕が支配する世界を作るんだ!」
そう言って無邪気に笑い、クロイツの左手に謎の杖が出現する。禍々しい見た目を持つそれは、ラインとアステナを並行世界に送る時に使ったものだった。
「だからさぁ。みんな消えよっか」
杖を上空に向けて振ると真っ黒な穴が出現する。それに入ってしまえば異世界に飛ばされてしまう。咄嗟の判断で後ろに下がった面々だが、クロイツは止まらない。
「《引力の王》」
「ッ!? 私の力で……」
黒い穴に吸い込まれるように引力を発生させ、下がっていた面々は穴に向かって近づいていってしまう。
「っ……」
アレスとレンゲだけなら逃げるのはいとも簡単に出来るが、セレナとエルフィーネ、さらにはロエンとサフィナをも吸い込まれないようにするには少し時間が必要だ。
「アレス様!?」
「あ、レンゲ様〜」
「ちょ……ロエンー?」
セレナをアレスが、エルフィーネをレンゲが抱き抱え、サフィナをロエンが《斥力の王》で遠くに飛ばす。すると、一人残されてしまったロエンは穴に向かって引き寄せられていく。
だが、その穴は崩壊するように崩れ、空間にヒビが入った。
パリィ……という音でヒビが割れると、現れたのは――
「……一体君たちはどうなってるんだろうね?」
「久しぶり……でもないか」
『時間の神』と『空間の神』のおかげで元の世界に帰ってきたラインとセツナ、アステナだった――
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