第57話O編『vs『第六位』』
冷たく暗い空間に三人の男が立っている。【十執政】『第一位』ソール・アスタリウスと『第二位』、『第四位』セルヴィ・ミレトスだ。
あの方たちから命令を受けたソールが帰っているところをこの二人は近づいてきた。
この『第二位』は先日『剣聖』アッシュ・レイ・フェルザリアに負けた。そのため、今の彼は先代『剣聖』のエルンの身体ではなく、新しい身体に乗り移ったのだ。
「おい、その身体ってまさか……」
「ああ。まあこいつとはしっかり契約したし『第九位』に怒られても問題ない」
その肉体は、顔面に獅子か何かの面をつけている【十執政】『第九位』の部下であるルシェル・バルザーグのものだ。『神龍オメガルス』戦でライン達を襲った吸血鬼の男でもある。
「まあそれなら良いのか。なんでそいつにしたんだ?」
「こいつは『権能』を奪える《奪取》を持ってんだよ。これまでこいつが奪ってる大量の『権能』を使えるから選んだ」
意気揚々とした物腰で話す『第二位』を「ああ、そう」という冷めたような目でソールは見る。
「ほーら。こんな所で止まってないで探しに行くぞ」
セルヴィの催促で三人は光に向かって進んで行った。
◆◇◆◇
「本当にこんな所にいるのかな?」
「分かりませんが、クロイツがよく行っていた場所がここですから。探してみましょう」
ロエンの黒い霧に包まれる力でアレスたちが足を踏み入れたのは草だけが生い茂っている拓けた大地だ。周りには本当に何も無く、誰もいない。ただ草が風でなびくだけだ。六人はそれぞれ別方向に歩いていくが、何も手がかりが見つからない。そんな時に、サフィナは何かを見つけた。
「やっぱ誰もいないじゃん。あれ、これ足跡? みんなー足跡あるよー」
彼女の方向に集まると、一直線に続く足跡があった。
「かなり続いてますね」
「僕見てくるね」
アレスは足跡の先に向けて飛ぶが全然終わりがない。このまま進むべきか、戻るべきか悩んでいると殺気を向けられたのを感じた。
「っ!?」
「――《引力の王》!」
殺気の放つ攻撃を避けたのと同時に、ロエンの『異能力』で彼の元に引き寄せられる。
「っと。大丈夫ですか?」
「うん。ありがとう。今のってもしかして」
「あーいるねー。『第五位』の『異能力』かー」
アレスの進んでいた方向を見ると、何者かがこちらに向かっているのが見えた。それは正真正銘、探している『第六位』クロイツ・ヴァルマーだった。
「ロエンー、僕たちはあの方達のために『創世神』の力を集めてるのになんでそれを助けちゃうのかなー」
「今回の目標は彼らではなくあなたです。【十執政】全員があなたを狙ってますよ。一体何したんですか?」
「なんかもう面倒臭いからさー。死んでくれない?」
目の前から消えたと思えばロエンに対して真っ白の剣を振る。その目にはなんの躊躇いもない殺意だけが向けられていた。
「《斥力の王》」
「やっぱり距離取られるのめんどくさいね。ん?」
剣が身体を貫くより先に弾く力がクロイツを飛ばす。その先にいたのは――
「《幻焔花界》」
サフィナが左目を隠し、右目が一瞬ピカっと光ると瞳孔が花びら状に変化する。花のように綺麗な桃色や黄緑色の入った対の扇を展開し、振る。
すると、触れた者の五感を錯乱させる大量の花の奇跡がクロイツを包み込んだ。
だが――
「《時間反転》」
「チッ」
時間が巻き戻ったことで花の軌跡が作られる前に逃げることに成功する。レンゲ、セレナ、エルフィーネは驚いた顔をしていたが、今の『異能力』をアレスは知っている。
なぜなら『ラビリンス・ゼロ』で彼が戦ったのは『第十位』ヴァルク・オルデイン。今の『異能力』を持った相手だったからだ。
なのにその力を『第六位』が持っている。どういうことなのかと動きが止まっていると、隣にロエンが接近してきた。
「彼の持つ『異能力』の一つは《複写》です。【十執政】の持つ『異能力』だけを模倣できる力です」
「【十執政】みんなのを模倣してるんだよねー。もちろんアタシとロエンのも。あーあ、めんどくさ」
顔には出ていないが不機嫌な態度をとるサフィナ。そんな彼女にクロイツの刃が向けられていた。
「へぇ、意外とやるじゃん。僕とここまで出来るなんて」
「全然嬉しくないんだけど。早くくたばってよ」
白い剣と扇がぶつかり、火花を散らしながら激しい戦闘を行っている。身体能力としてはセツナやレンゲには全く敵わない。それでも、彼女はもちろん普通の女の子より圧倒的に強いのだ。
「っ……《引力の王》」
サフィナの扇がクロイツの頬を掠め、血が出た瞬間、クロイツはロエンの『異能力』を使った。サフィナが引き寄せられるのは剣先だ。このままでは腹を刺されてしまう。
だが、そんな彼女に救世主が現れた。
「《刻律の調律》! レンゲ様!」
「うん! ありがとう!」
攻撃のタイミングを早めたり遅くしたり出来るセレナの『権能』でクロイツの動きが遅くなり、反対にレンゲとサフィナの動きが早くなる。
駆け込むようにサフィナの腕を掴み、飛ぶとクロイツの刃は当たらなかった。
「大丈夫? サフィナちゃん!」
「ありがとー。優しいんだねー」
感謝はしているが表情が全然変わらないサフィナに疑問を抱きつつもロエンの元に届ける。そんなレンゲの顔に気づいたのか、ロエンは言った。
「元々こんな感じなんです彼女は。全然気にしないで良いですよ」
「えーそれどーいう意味ー? まーいっか。次はどーするのー?」
◆◇◆◇
――百五十回目。ラインとアステナと連絡を取ってから多くの世界に移動したが、全然目当ての世界に辿り着ける気がしない。無限に広がる多元宇宙でラインたちが飛ばされた世界にすぐ行けると言うのもありえない話だ。
長い時間生きている『時間の神』アスタリアと『空間の神』スピリアはなんて事ないが、ここ十五年しか生きていないセツナには辛い時間だった。
「これ、いつまでかかるんでしょうか……」
「キツくなって来たでしょ? 大丈夫、頑張って。やるしかないんだから。そろそろしたら次の世界に行くよ」
「はい……」
世界を移動するためにアスタリアとスピリアの手を握る。すると、突然セツナは『創世神』の力を別の世界から感じた。
「もしかして、見つけたの?」
「『創世神』の力を他の宇宙から感じました」
ラインが何かをしたことで『創世神』の力がセツナに届いた。無理をした可能性のある兄を心配になるが、先にその世界に行くのが先だ。
セツナの手を握って行くべき世界の分かったアスタリアとスピリアは宇宙間を移動するゲートを生み出す。
「すぐに行くよ」
「はい」
(お兄ちゃん、今助けに行くから)
心で強く願うセツナを優しく見守る二人。ようやく、引き離された兄妹が出会おうとしていた――
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