第53話O編『それぞれの使命』
元の世界編です!
「うーん……困ったなぁ……」
群青と金に分かれた空に加え、星のような光が滝のように流れる天界に連れられたアレスたちに自己紹介をした後、『時間の神』アスタリアは腕を組んで空を見上げた。
困っている理由はセツナとレンゲが地面に膝を付いたまま全然起き上がらないからだ。目は開いていて寝てはいないはずだが、身体を起こさない。
先に冷静になったアレスとメイドたちは膝を付く二人に寄り添っていて、気軽に話せる状況ではない。
話をする頃合いを見計らっているが、一体いつになるのやら……
「――えっと、話がしたいんだけど大丈夫かな?」
どれだけ待っても二人が起き上がりそうにないため、アスタリアは時間を加速させた。およそ半日といったところだろうか。ようやく二人は少しずつ身体を上げたところで力を切る。
彼女は時間を加速させていたため、体感時間は十秒にも満たない。そんな彼女が立っていられるのは当たり前だが、半日もずっとセツナとレンゲに寄り添っているアレス、セレナ、エルフィーネもまた化け物だろう。
「……はい。ここはどこ……ですか? なんで私たちはここに?」
「ここはわたしと他の神が住んでる場所さ。君たちはスピリアが送ってくれた」
「アステナが頼んできたからね。『知恵の神』はテレパシーを飛ばせるの羨ましいと思っちゃうよ」
美少女……に見える金髪の美少年が歩いてくる。彼が『空間の神』スピリアだ。『時間の神』アスタリアとは姉弟である。
「アステナさんが頼んだってどういうことですか?」
「それはね……」
【十執政】『第六位』クロイツ・ヴァルマーが生み出した黒い穴が閉じそうになる前にアステナは言ったのだ。
『ライン君! スピリア、彼女たちをそっちに!』
その言葉のおかげでスピリアはアレスたちをこちらに移動させることができた。アステナがそんなことをしなければ全員がバラバラの世界に飛ばされてしまっていただろう。
「あの二人も助けたかったけど少し遅かったね」
「うぅ……ラインお兄ちゃん……」
「そのお兄ちゃんとわたしの友達を助けるために君たちの力を借りたいんだけど、もちろん良いよね?」
その言葉にアレスたちは首を上下に素早く振る。
「わたしかスピリアが出来れば良かったけど、数多ある世界からたった二人を見つけるのは困難だからね」
「どうやって探すつもりなのですか?」
首を傾げながらセレナが尋ねると、アスタリアはウィンクする。
「考えがあってね。ライン君の兄妹に一人に手伝って欲しいな。お互いの繋がりが分かるんでしょ?」
ラインが消えた時にこの三人は繋がりが切れたのを感じた。ならば、ラインのいる世界にたどり着けば切れた繋がりが戻ってすぐ見つけ出せるのではないか、というものだ。
「長い旅になると思うけど、それに耐えられる子は返事して。大丈夫、何があってもわたしとスピリアが守るから」
腕を前に出し、笑顔で片目を瞑るアスタリアと、その様子を腕を組みながら笑顔で見ているスピリア。
無言の時間が続いたが、少女は立ち上がった。
「私が行く。私がお兄ちゃんを……ラインお兄ちゃんを助けに行く」
セツナは胸に手を当てながら心強く言う。その瞳はまっすぐアスタリアに向いていた。
「フフッ、綺麗な目じゃないか。うん、わかった。じゃあ残りの四人には頼みたいことがあるけど、良いかな?」
◆◇◆◇
「あっ……セツナお姉ちゃん……」
「レンゲ様! 大丈夫ですか?」
アレス、レンゲ、セレナ、エルフィーネは一度、『空間の神』スピリアによって屋敷に戻された。それからすぐにセツナとの繋がりが切れ、床に倒れ込んでしまう。
「セツナたちは行ったみたいだね」
「私たちも行きましょう。【十執政】を探しに」
そう、アレスたちがアスタリアに頼まれたこと――それは【十執政】『第六位』クロイツ・ヴァルマーを見つけ出し拘束することだ。
あわよくば『第一位』と『第四位』の男も捕まえて欲しいと言われたが、この二人に関しては私怨だろう。苛立った様子で腕を振っていたし。
「早速行こうか」
――四人は【十執政】を探すために屋敷から出ていった。
◆◇◆◇
空間が一瞬で切り替わり、異質な空気が流れているのを感じる。赤く、この世のものとは思えない禍々しい空に戦慄する。
「うっ……」
ラインだけでなく、アレスとレンゲとの繋がりも切れて倒れそうになってしまう。
「大丈夫? その様子じゃ、この世界にはいないみたいだね。次行くよ」
――スピリアが頷くと、瞬く間に三人は新たな世界に辿り着いた。今度は明るい空が広がっていて心地よい雰囲気だ。だが、ここでもラインの存在は確認できないようだ。
「はぁ……やっぱりキリがないね。あ、貴女ってライン君とかと連絡取れないの? わたしはいつもアリシアスと連絡取れるんだけど」
「連絡……」
普段から『時間の神』アスタリアと『空間の神』スピリアは他の世界に行っているのだが、別世界にいる最中でも『生と死の神』アリシアスなどと連絡が取れている。
アスタリアの助言を聞き、「アリシアスって誰?」と心で思いながらもセツナは目を瞑った。
(お兄ちゃん……ラインお兄ちゃん)
二人がしばらくその様子を見つめていると、ついに彼女は目を開けた。
「ラインお兄ちゃん! どこにいるの!?」
『セツナ!? お前ら無事なのか!?』
「……うん、みんな無事。お兄ちゃんも大丈夫?」
兄の声が心に響き、落ち着いた顔で嬉しそうに微笑んだ。
◆◇◆◇
冷たくて暗い空間を一人の足音が響く。どこまで続くか分からない長い道を進み続け、一つの部屋に入る。
部屋に入ると、さらに奥にある石像のようなものが光った。
「よく来たな、ソール」
「はっ」
謎の声が響き、【十執政】『第一位』ソール・アスタリウス跪く。その相手は目の前にある巨大な二つの石像だ。ソールを見ているかのように石の瞳がギロっと動く。
「現在、ロエン達が集めた『創世神』の力をクロイツが解析しています。直に封印を解くことが出来るでしょう」
「ああ、それは知ってる。お前を呼んだ理由だが、【十執政】たちに共同で動いてもらう」
全員で動くことはこれまで無かった。初めて言われた命令に首を傾げていると、衝撃的な発言を耳にする」
「『第六位』クロイツ・ヴァルマーを抹殺せよ」
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