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EX特別編1『反転した四つ子』

4000PV超えたので特別編です!ifでもパラレルでもないです!

第46話で数日飛びますが、その間の話です!

 ――陽光が差し込んでくる朝、ライン・ファルレフィアは目を覚ます。今日は休日だ。特に予定はないが、朝ごはんを食べないといけない。だるくて起き上がらない身体をゆっくり起こし、頭をかく。


「めんどくさいな。早く食卓行くか……」


ドンッ!


 部屋の扉を開けようとすると、それより先に外側から開かれた。


「ライン様大変です! セツナ様が……ら、ライン様!?」


 それは、彼のメイドであるセレナ・クラヴィールだった。ラインの顔を見るなり、尻尾と耳を高速で動かして驚愕の表情を浮かべていた。


「おはようセレナ。どうかした?」


「ら、ライン様……あの、女の子になってますよ」


「は?」


 何を言っているのか全くよく分からない。意味がわからずポカンとしていたが、段々と自分の身体の異変に気づいた。


「お、おいこれって」


 赤い髪が腰まで伸びていたのだ。さらに身長は低くなり、身体も少し胸が膨らんだりと女性らしい身体つきになっているのだ。


「せ、セレナ、俺って女の子になった?」


「はい。ちなみにセツナ様は男性になってます」


 朝からこんな訳のわからないことが起きて頭がパンクしそうになる。すると、気だるそうにあくびをしたメイド――エルフィーネ・モランジェもラインの部屋に入ってくる。


「あ、ライン様女の子になったんだ〜。アレス様も女の子になってますよ〜。レンゲ様は男の子になってます〜」


「はぁ!?」


◆◇◆◇


「あ! ラインお兄……ちゃん?」


「マジで男になってるじゃねえか」


 これは夢かと疑うほどの出来事にラインは頬を何度も引っ張るがただ痛いだけだ。

 弟のアレスはセミロングヘアの女の子、妹のセツナはいつものアレスのような髪の男の子、末妹のレンゲはいつものラインのような髪の男の子になっていた。


「で、なんで俺らはこんな姿になってんだ?」


 ラインが腕を組みながら呟くが、兄妹たちは首を傾げる。理由もわからず困惑していると、エルフィーネが声を上げた。


「多分さ〜昨日ご主人様たちが食べた料理の中にこれ入っちゃってさ〜。それが原因だと思うんだよね〜」


 エルフィーネの手には「性別反転の薬」とかいうどこに需要のあるかわからないものがあった。


「どこで手に入れたのそんなもの……」


「街にある魔法グッズ専門店で見つけちゃって〜買っちゃったんですよ〜。料理の時にこぼれちゃったんだけど、ご主人様たちは『創世神』だから大丈夫かな〜と思ってたんだけど〜ごめんなさ〜い」


 頭に手を当てて「テヘッ!」というように舌を出すエルフィーネ。そんな彼女を見てため息をついていると、レンゲが声を上げる。


「あ、今日私とセツナお姉ちゃんはエリシアちゃんと遊ぶ約束してるんだ! すぐ行かないと!」


「ちょっと待った!」


「この状況で行ける訳ないだろ」


 セツナとラインにそう言われ、レンゲはハッとした顔をする。残念そうに椅子に座る末妹を見て、アレスが指を鳴らした。


「じゃあこうしよう。僕がセツナ、兄さんがレンゲの真似をして行こう。セツナは僕、レンゲは兄さんの真似をして付いてくればいいんじゃない?」


「はぁ? そんなのできる訳……」


 アレスの提案にセツナは腕を組んで反論しようとする。だが、途中何かに気づいたように顔をラインとレンゲと見合わせる。


「俺らって」


「「私たちって」」


「「「「四つ子じゃん」」」」


◆◇◆◇


「あ、セツナとレンゲ来たんだー。……あれ? なんでライン君とアレス君もいるの?」


 ドアを開けると、レンゲとセツナだけじゃなく彼女らの兄二人もいたため、首を傾げてキョトンとした顔をしている。


「ライ……せ、セツナたちが心配で!」


「わた……僕も二人が心配で」


 ラインのフリをするレンゲ、アレスのフリをするセツナがそう答えるが、エリシアはまさかこの四人の性別が逆転してるとは微塵も思わないため、ただこの二人を「妹のことが大好きな兄たち」と思うだけであった。


「エリシア……ちゃん、今日は何するんだっけ?」


「今日はお菓子作りするって言ったじゃん。レンゲもう忘れちゃったの?」


「い、いや、忘れてない……よ!」


 やはり、いつものレンゲのように元気で明るい振る舞いをするのはラインにとって難しい。

 ため息をつくラインにお構いなしに他の三人はエリシアの家に入っていく。


 四つ子や『剣聖』、『魔導師』のような広い屋敷ではないが、それでもでかい家だ。

 中に入ると綺麗な玄関が出迎えてくれた。


「よし! じゃあ早速パンケーキ作ろうか」


(まじかよ俺作ったことないぞ!?)


 セツナとレンゲに目で訴えかけるが、「頑張って」というように笑顔で手を振っている。


「まずは小麦粉を……あ、そうだ。ライン君もアレス君も手伝ってね?」


「はーい!」


「うん、手伝うよ」


 もはや隠す気がないレンゲには何も言うまい。それからはボウルに卵とミルクを入れ、風魔法で混ぜる。そこに小麦粉と蜂蜜を加え、なめらかになるまで混ぜた。


「ライン君達って料理上手いんだね。セツナも上手いけど、レンゲは……」


(チッ、なんでこんな難しいんだよ!?)


 アレス、セツナ、レンゲは上手にかき混ぜているのに対し、ラインだけはもうめちゃくちゃ。ボウルに入っている量よりも飛び散った量の方が遥かに多い。

 それをみかねたセツナがラインに近づく。


「レンゲのフリしてるんだから、レンゲに恥かかせないでよ?」


「分かってるって。仕方ないな」


「レンゲは大丈……えぇ!? 凄く上手になってる!?」


 酷い調理をしていたラインが突然上手にかき混ぜるため、エリシアは目を見開いて驚いた。


(《料理の才(りょうりのさい)》を使ったからな)


 なんでも料理が上手くなるという『権能』を自らに授けたことで、酷すぎた調理を挽回することができた。


「次は焼こうか。鉄板に入れて」


 ――それからは順調だった。五人とも綺麗に焼き上げることができ、ついに両面が綺麗な色になった。


「あとは仕上げに……これでよし!」


 エリシアが全てのパンケーキに赤い果実を乗せることで完成した。


「すごい! 美味しそう!」


 目をキラキラさせてパンケーキを見るレンゲは既にラインのフリをしていることを忘れているようだ。ニコニコで席に着いている。


「あ、あはは……ライン君そんなに食べたかったんだ」


 少し引いた目で見られているが、それで心にくるのはレンゲのフリをしているラインの方だ。

 こちらは頑張って明るい子を演じているのだから妹にも俺を演じて欲しい。

 そんなことを思いながらも全員が席に着いた。


「「「「「美味!!」」」」」


◆◇◆◇


「は、ハハッ、何とかバレなかったな」


「でも兄さんに変なイメージついちゃったかもね」


 パンケーキを食べ、正体がバレずに屋敷に帰って来れた四人はソファーにぐったり倒れる。まだ身体は元に戻る気配もない。


「お疲れ様でした。こちら紅茶です」

 

「ありがとう……」


 セレナが注いでくれた紅茶を一口飲み、同じくソファーでくつろいでいるエルフィーネに尋ねる。


「いつになったら元に戻るんだ?」


「確か〜飲んでから一日経つと戻るはずですよ〜。昨日の晩御飯でしたのであと数時間ですかね〜」


 エリシアの家に遊びに行き、帰ってきた今でもまだ昼過ぎだ。まだまだこの状態で過ごさないといけないのかと四人はため息をつく。


「う、うわぁぁぁ!!」


「なんだ今の声!?」


 突然、大声が二階から響いてきたのだ。その声に驚いた一行は階段を登って声がしたと思われる図書室のドアを開ける。そこには――


「……誰?」


 図書室の中には白銀の髪と瞳を持つ美青年が立っていたのだ。顔が整いすぎていてライン達は声が出なくなってしまう。


「あーライン君! なんで私が男の子になってるんだい!? 君も女の子になってるし!」


 それは、男になった『知恵の神』アステナだった。レンゲのフリをしているラインに飛び込みそう言うと、エルフィーネが両手を合わせた。


「ごめんなさ〜い。昨日の晩御飯に性別反転の薬を入れちゃって〜。セレナが」


「え!? わ、(わたくし)に罪をなすりつけないでくださいよ!? やったのはエルフィーネでしょ!」


 セレナに肩をポコポコ叩かれ、エルフィーネは笑いながら彼女に謝る。


「ああ、性別反転の薬か。それなら戻せるよ」


「え!?」


「何驚いているんだい? 私は『知恵の神』だよ? この世界にあるものは大体把握している。ましてや性別を変えるような特殊な薬は治す魔法を作っているよ」


 引きこもりだし外が苦手で激しい動きもできない。そんな女性が『知恵の神』だということをすっかり忘れていた。彼女のことをここまで頼もしいと思ったのは初めてだ。


「じゃあ行くよ。ほら」


 アステナがライン、アレス、セツナ、レンゲの頭を次々と触れていき、最後に彼女自身の身体を触れる。すると、虹色の光が彼らを包んだ。


「な、なんだこれ……」


 ――光が消滅すると、彼らの性別は元に戻った。


「戻った! わーい!」


「やっと戻った。アレスの真似をするのはもう懲り懲り」


「僕とセツナはあんまりお互いの真似してないよ。元々が似てるし」


 アレスがそういうと、セツナは腕を組んで「まあそっか」と小さく答えた。


「解決しましたし、居間に戻りましょうか」


 メイド二人に続き、図書室を出る。みんなで談笑をしながらゆっくり歩いていると、ラインの脳内に疑問が走った。


(そういえば、なんでアステナは女の子になってた俺をラインだって分かったんだ?)


 ラインからすれば分かっていないが、彼女が彼に気づいた理由はただ一つだろう。それは――

読んでくれてありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
ガッツリ、コメディ回ですね。 でも、これ……ラインの被害だけが甚大過ぎませんか? (・∀・) アステナが気付いたのは、愛のなせる業でしょう。 (´ε`)(´ε`)
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